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あなたへ~山川と詩音  作者: 遥風 悠
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美樹ちゃんの誕生日③

 ピン・・・ポーン。インターホンを鳴らした美樹ちゃんと詩音の前に現われたのは、スーツ姿でビシッと決めた山川だった。髪の毛も整髪料でバシッと分けて、水で濡らした様に艶々(つやつや)していた。詩音ですら一瞬、誰?と構えてしまうくらいの変わり様だった。

「お帰りなさいませ。詩音様と、本日お誕生日の美樹様で宜しいですか。」

「はい・・・・・・」

ぽかんと山川を見上げながらも、2人の瞳は期待と戸惑いに輝き、口元には自然と笑みが滲み始めた。執事山川のお仕事開始である。

 家中の電気を消し、カーテンを閉め切った。真っ暗な空間は既に作ってある。光源は山川の持つ懐中電灯だけ。子供にとってはこれだけでワクワクが止まらなくなる。好奇心と冒険心と、ちょっとの恐怖心が混ぜ合わさると、いい思い出が切ると昔、誰かに教わった・・・ような気がする。

「お席にご案内しますので、足下にお気を付け下さい。」

そう促した山川の声が耳に届いたかは定かでないが、背後のキャッキャした声を訊いていると、山川の顔まで暗闇の中でにやけてしまうのだった。

 2人を会場に案内すると美樹ちゃんと詩音から歓声が上がった。「わぁ~」と「おぉ~」の違いは気になったものの、サプライズは成功してくれたようだ。山川がそこら中にセッティングしたのは、クリスマス用の装飾電球だった。細い電気コードに豆電球がたくさんついているあれだ。店の倉庫から引っ張り出して持ち帰り、詩音が学校に行っている間にささっとセッティングしたのだった。

 その後は明かりを点けてハッピーバースデーの歌でお祝い。本日の詩音さん、お歌が上手でした。もう一度電気を消して、美樹ちゃんにローソクの火を吹き消してもらった。パチパチパチと拍手をしながら部屋を明るくする。同時に小道具へと手を伸ばした山川。どうしたって淋しく訊こえてしまう3人だけの拍手を励まし盛り上げるように、2人の背後からクラッカーを2発打ち鳴らした。ビクッと可愛らしく驚く2人の頭にカラフルな紙くずが降り注いだ。『おめでとうございます』と深々と頭を下げる山川はすぐに襲撃を受け、残りのクラッカーは全て強奪されてしまった。

 一通り騒ぎ終わった所で、山川がフライドチキンを運んできた。香りだけでどこのお店で買ってきたのかバレてしまうが、味は間違いないはずだ。飲み物はお茶も用意したが、一杯目はグレープジュースにした。100円均一ショップで購入したプラスチックのワイングラスに注いでやる。乾杯の音がコツっと鈍い音がしたのはしまったと思ったが、そんなことを気にすることなく盛り上がってくれて何よりだった。チキンも好評。両手で持ってちょっとずつ食べる美樹ちゃんと、片手で大口開ける詩音の対比も想定の範囲内である。

 フルーツポンチはさらに盛り上がった。尤もその理由はナタデココだったのだが、それでも山川の狙い通りにはしゃいでくれた。毎日のようにテレビで取り上げられていたナタデココ。2人共名前は知っていたものの、食べたことはなかったようだ。それがまさかこのタイミングでお目にかかれるとは思っていなかったようだ。山川だって偶然、たまたま手に入っただけだ。

「こちらがナタデココ入りのフルーツポンチでございます。」

そう前置きして器をテーブルに並べた際の美樹ちゃんと詩音の顔は忘れない。何とおっしゃいましたと言わんばかりに執事の顔を見上げた。その後、宝石でも探すみたいにスプーンですくい上げ、その透明で四角い物体を見定め、コリコリした食感を楽しんでいた。確かに食感は独特だが、無味でおいしい物ではない。いずれブームも落ち着いて、結果的には在庫が余ってなんていう正論かつ冷めた感想は、今日は山川独りで十分だった。

 ケーキは大きめにカットして、板チョコはもちろん美樹ちゃんの方に乗っけた。けれども即座に半分コにしようねとシェアしていた。微笑ましい光景に、執事は不要だなと自覚する。本当に仲が良いのだろう。こういう友達に巡り合えたことは幸運という他ない。願わくば、ずっと大人になっても、お(ばあ)になっても。その後は2人でビーズ遊びに勤しんでいた。そして夕刻過ぎ、美樹ちゃんママが迎えに来てお開きとなった。どうにかこうにか、詩音の期待には応えられただろうか。




 サッカーでは辛い時期もあったが、小・中学校では山川のポジションはフォワードだった。バリバリのストライカー。何を差し置いても自分が点を取ることが全てだった。何ならチームの勝敗よりも、自分が活躍したかどうかが重要だった。とにかく俺にボールを回せ、俺にシュートを打たせろ、と。『点取り屋』を自負していたし、そう呼ばれることに快感と満足感と優越感を覚えていた。そんな自分が、アシストする喜びを知った。御膳立てという言葉を知った。自分が点を取って味方に囲まれるよりも、ゴールを決めたチームメイトを迎えに走る方が気持ち良くなった。ナイスシュートも悪くないが、ナイスパスの響きに取りつかれてしまった。その原因は、サッカー周辺の憎しみが薄らいだこともあるが、本当の理由は自分でもよく分かっていない。大人になって丸くなって牙が無くなっただけかもしれない。俺の場合、20年弱かかったんだな。情けないやら恥ずかしいやら、誇らしいやら。

                               【美樹ちゃんの誕生日】 終

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