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あなたへ~山川と詩音  作者: 遥風 悠
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敵は増えるもの、味方と幸せは増やすもの①

【敵は増えるもの、味方と幸せは増やすもの】


 久々に仕事の話をしようかと思う。とある日のブロック会議。近隣の店舗の代表者が集まり全体ミーティングを行う。取組み商品の確認や売れ筋情報の共有。他にも成功事例のプレゼンテーションや種々の注意喚起等々。そんな会議の中で今回、会社としてのひとつの指針が示された。『コンビニエンスストアを競合店とみなす。自店の脅威として対策するように』。

 小売業に携わる者であれば(そうでなくても)、近々のコンビニの勢いはひしひしと感じていた。それは山川とて同じ。商圏内でもコンビニの新店舗が2店、3店とオープンしていた。通勤ルートを少し変更すれば新しいコンビニができているし、詩音の通学路にも1つ完成したという。積み木で家を作るみたいにポンポンと。場所によってはほとんど隣同士とか、道路を1本挟んで向かい合わせという、山川の常識では考えられない距離で並んでいることもある。そんな簡単に経営が成り立つのか。売上げが作れるのか。利益を出せるのか。不安と共に奇怪さ奇妙さ、気持ち悪さを嗅ぎ取る山川だった。

 では、競合店とみなすとは、具体的にどういう事なのだろうか。一言で言うと、売上に悪影響をもたらす可能性があるということ。何を当たり前のことをと思わっれるかもしれないが、これまでは全くと言っていい程に影響はなかった。他店舗からも売り上げが落ちたという報告を訊いたことはなかった。肉や野菜や魚を売っているわけではない。菓子やカップラーメンや牛乳があっても定価だし、種類も少ない。弁当とおにぎりだけでは致命傷にはなりえない。朝早くから夜遅くまで、お店によっては24時間営業しているみたいだが、人の眠る時間に店を開けてどうなるのか。深夜帯には雑誌などが納品されているみたいだが、漫画、週刊誌は大いに売って頂いて結構。それは本屋さんの問題だ。安さが全てとは言わないが、100円以下のハンバーガーが話題をかっさらう時代だ。営業時間が長くとも、定価販売には限界がある。薄利多売が小売業の基本である・・・ほんの数年前までは強く確信を持てていたし、今でもその思いに変わりはない。会社としてもそれが正解だった。近くにコンビニができたと言っても、スーパーマーケットに脅威を与える存在ではなかった。


 「なぁ、詩音。試合の帰りにコンビニによったらどんな物を買うんだ?」

「そうだな~・・・飲み物は買うよ。ジュースとかスポーツドリンクとか『新発売』って書いてあるやつ。あとお腹が空いている時は菓子パンを買うかな。」

山川よりもずっとコンビニに通い慣れている詩音の話は参考になった。

「お菓子なんかはどうだ?」

「良さそうな物があれば買うけど、食べながら帰るのにはちょっと邪魔かな。だから小っちゃい駄菓子みたいな物を探すよ。」

「なるほどなるほどなるほど・・・・・・他には何か買ったりするか。詩音の友達とかは?」

「男の子は時々、漫画を買っているよ。毎週出てる大きい本。」

「ふむふむふむふむ・・・少年誌と。」

「えへへ・・・インタビューを受けているみたいで照れ臭いな。」

「今度さ、会社でコンビニの商品を買って勉強会をするんだ。まぁ、試食会かな。偉そうに点数なんかつけるかも。」

「いいな~、なんか楽しそう。私も食べたいな。」

「余ったら貰ってくるけれど、あんまり期待しないでな。」

「うん。」


 『コンビニ勉強会』に参加したのは店長と、山川らの一般商品部、そして総菜部。やはり飲み物や菓子、カップラーメンなどを扱う一般商品部としてはコンビニの品揃えや価格帯はすこぶる気になる所。コンビニの大々的な特売やチラシ広告はあまり訊いたことがないし、値下げ販売もまずない。おそらく、安売りはコンビニの苦手分野だ。価格に柔軟性がない。その分、山川らはどこか気持ちが楽だった。対して山川達一般商品部よりも神経質になっていたのが総菜部だった。コンビニの主力商品は弁当であり、おにぎり。加えてパスタがあってサンドイッチがあって、サラダがあって総菜、おつまみの様なものもある。真正面から衝突する。知らん振り、知らん顔はできない状況になっていた。

 2人1組のグループで幾つかのコンビニに分散し、商品を購入した。要は、近隣のコンビニの主力商品を各チームで買い漁ってきたわけだ。

「さて、何から始めようか。」

食堂に再集合し、進行役の店長が開始の合図を発すると、いの一番に手を挙げたのは総菜部のリーダーだった。

「おにぎり、お弁当からお願いしたいです。」

彼女は1番の危機感と緊張感をもってこの勉強会に挑んでいた。未来への不安、解決策の見えぬ課題に対して駒を動かすことさえできない歯痒さ。一本の、一本でいいから光が欲しかった。この積極的かつ意欲的な要望が断られるはずもなく、すぐに食堂の電子レンジ3台がフル稼働を始めた。お弁当は温め、おにぎりはそのまま。購入したコンビニごとに並べられ、割り箸も添えられた。いざ、実食。

 チェーンによって幾らか評価の分かれる所はあったが、概ね、否定的な意見は出なかった。特に最近瞬く間に店舗数を伸ばしているチェーンの商品は、すこぶる評価が高かった。弁当に難癖をつけようと思えば5でも10でも出てくるが、悪くなかった。正直に、予想していたよりもずっとおいしかった。もっとはっきりとした粗が見えると考えていたが、そんなことはなかった。できたてではない、できたてではないが、温めたてでしっかりと美味いのだ。そしておにぎり。これに関してはとにかく種類が豊富。1店舗当たり10種は超えていよう。スーパーではせいぜい3、4種類。この点に関しては完敗だ。コンビニとスーパーではおにぎりの立ち位置が違う。おにぎりが総菜売り場の隅に置かれるスーパーに対して、入店した客の正面奥に2列、3列でアピールするコンビニ。おにぎりはコンビニにで買うものというこれからの風潮は止められまいと予感させられてしまうのだった。

「困りましたね、期待していたよりもずっとおいしいです。もっと悪い点というか、弱点みたいなものが暴けるかと思っていましたが、侮れませんね。」

総菜鵜のリーダーも認めざるをえない出来栄えだった。山川とて同感。他の参加者も同様だろう。

 ―けれど、使われ方として正面からぶつかるのは我々ではなく―

 続いてパン。多くのコンビニはスーパーで扱うメーカーと同じパンをスーパーよりも高い値段で売っていたのだが、いわゆるPBプレイベートブランドのパンを売っているコンビニもあることを初めて知った面々。加えてこれが高評価。驚いた山川、思わずパッケージ裏面の製造元を確認してしまった。

 お菓子屋飲み物などは価格も種類もスーパーに軍配が上がったし、その他の一般的な商材も、コンビニの坪数で品数を揃えるには限界がある。コンビニエンスストアとは24時間いつでも開いていて、家のすぐ近くにあって、必要最低限の物が何でも揃う、その冠が示す通り便利なお店・・・・・・確かに外見(そとみ)はその通りだろう。けれどもそれだけではない。中身こそが成長の礎で、使われ方や勝負できる商品、売れるアイテムに絞り込んだ専門店なのだ。何の専門店か。それは生活必需品の専門店である。この考えに至ったことは大きい。これを頭の片隅に置いて置かないと必要以上にコンビニを恐れることになり、且つコンビニの得意分野、強い部分にわざわざ足を踏み入れることになりかねないのだ。


 勉強会後、店長と喫煙所へ向かう山川。食後の一服、と。

「山川さんはどう思う、コンビニはこれから無視できない存在になると思うか?」

「コンビニによって弁当の味の差が大きいと感じました。質の高いものを作れるコンビニが数を伸ばしてくると思います。そういった店舗、チェーンは強豪となりうるでしょうが、使われ方はまるで違う気がしまう。まずはコンビニ同士の争いかと―仮に家の隣にコンビニができたとしても、売上げの5パーセントも影響はないと・・・思いたいですね。」

「割と強気じゃないか。頼もしいな。」

「影響が出ないよう、尽力致します。」

笑いの後に少し間が空き、互いに煙草に集中した。

「使われ方・・・その通りだと思う。さっと目当ての物を手にとって、パパっと生産して、さっさと買い物を済ませたい人にはコンビニの方が使い易いだろうな。」

「そうですね。時短というのも利便性、使われ方のひとつだと思います。面積の小さいコンビニにならではの強みですね。」

「山椒は小粒でもなんとやら・・・か。」

「ピリリくらいで済んでくれればいいですね。」

「全くだ。」

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