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20:死をも恐れぬ愛※ラーダイン視点

 ――早く、早く追いつかなくては間に合わない。


 僕は今までになく焦っていた。こんなことは生まれて初めてかも知れない。

 刻々と過ぎゆく時の中、限界までスピードを出させているはずなのに馬の走りがゆっくりに感じられてしまう。外にも聞こえてしまいそうなほど心臓が早鐘を打っていた。


 夕日が暮れ、静かな夜がやって来る。

 紫紺に染まる空を見上げながら思い出すのは、愛しい人の凜とした瞳だった。


 ……ああ、無事でいてくれているだろうか。

 寒い野外で眠るのは辛いだろう。寄り添ってか細い体を温めてあげたいと思っても、どこにいるかもわからない。

 せめて王国兵の者たちが彼女を気遣ってくれていればいいが。そんなことを考えながら僕はぎゅっと唇を噛み締めた。


「ラーダイン様、アイシャ様の傍にあれないのがお辛いのはわかります。でも、焦っても何も変わりません。それにまだアイシャ様は戦場に着いていないはずです。大丈夫ですよ、きっと」


 ちょうどその時、僕の前方で馬を操る桃色髪の少女が僕を振り返り、笑顔を見せた。

 僕の心でも読んだのだろうかと疑いたくなるタイミングの良さに驚く。しかし当の彼女の顔色も青白く、僕と同じくらいにアイシャのことを心配しているのだろうと思えた。


 リリーはアイシャが気を許していた数少ない一人だ。

 いや、その言い方は正しくない。常に無視され陰で笑われていた『無能な王太女』としてではなく、リリーがアイシャ個人を見つめていたからこそ、アイシャ自身に認められたに違いない。


 リリーの性格はまっすぐで優しく、笑いかけられると心が和らぐ。

 その胸に多大なる不安を抱いていてもこうなのだから、普段はもっと明るい女性なのだろう。


「……君は、アイシャの侍女になって長いのかい」


「まだ三年ちょっとです。ラーダイン様と比べたらまだまだでしょう。でも、誰よりも一番近くで仕えさせていただいていますから、ラーダイン様よりアイシャ様をお慕いしていると思いますよ?」


「それはどうかな。君がアイシャの稀少な友人なのは認めるけど、僕のアイシャへの愛は尋常じゃないよ?」


 そう言って、僕も僅かに口角を吊り上げた。

 僕はアイシャを何よりも愛していると自信を持って言える。それこそ、彼女のためなら命を捨てても構わないと、心からそう思うくらいには。


 アイシャに婚約破棄されてわかった。僕はアイシャなしじゃもう生きていけないんだってことに。

 これは醜い依存なのだろうか。でもそれでも関係ない。アイシャのいない世界は色が失せて見える。彼女がいるから輝いているんだ。


 リリーも僕のそんな気持ちを理解してくれたのか、こくりと頷いた。


「ふふっ、そうですね。アイシャ様とラーダイン様ほどお互いを好き合っていらっしゃる方なんて、見たことないです」


「――それなら嬉しいな」


 アイシャも、自分の身の危険を冒してまで僕を逃がそうとしたんだ。

 死をも恐れぬ愛。それはまるで子供の頃の寝物語で聞かされる英雄譚のようだと僕は思った。


「ですからお二人とも、絶対の絶対に幸せになってくださいね。リリーはアイシャ様の花嫁姿を見るのをずっと楽しみにしてますから」


「そうだね。きちんと全員で帰ることができれば結婚式を挙げよう。君は特等席でそれを見守っていてくれよ」


「もちろんです。たとえ断られても、最前列で見に行きます!」



 こんな時だというのに、僕たちはなんて呑気な会話をしているんだろう。

 でも焦っているだけよりこの方がずっといい。前を向いて未来の話をしたら、すっかり心が晴れた気がした。


 絶対にアイシャを連れ帰って、再び手を取り合って……今度こそ一緒になろう。

 その願いを叶えるため、僕らは今も彼女の元へと向かって進み続ける。

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