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Fase.1-2 Atonement for Imaginal

あらすじ、大幅修正しました。


前話修正→冒頭に「2030.6.21. 東京」を追加いたしました。

 2021.5.10. 東京




「おはよう」


「あっ、姉ちゃんやっと起きた!」


「やっと起きたのか、カノン。本当に朝に弱いなぁお前は」


 のどかな朝。


 自室の部屋の階段から降りると、家族たちが食卓について私を待ってくれていた。

 机の上には母の作った手料理が並べられ、いくつか既につままれている。

 主に弟のリオに。


「姉ちゃん先に食べちゃってるぞ」


「さきに食べてるのはリオだけでしょ」


 私はリオに文句を言いながら、余っている席に座る。


 家族そろって初めて食事を始める、というのが私たち桧葉(ひば)家の家訓だ。

 私が寝坊しようとも、帰宅に遅れようとも、家族がこうして待ってくれている。


「お母さん、またこれ食べるの?」


 私は目の前に置かれているカレーライスを見ながら文句をたれる。


 ここ最近はカレーばかりだ。

 私自身もカレーが食べたい習慣だったため嬉しい限りだったのだが、さすがに一週間も続くと舌が飽きてしまう。


「あら、そう?」

「じゃあカノンは何が食べたいの?」


 母は不服そうに問う。


「うーん、お寿司、かな」


「おっ、やっぱりカノンは父さんの娘だなぁ。日本食にもちゃんと興味があるんだな」


 父が誇らしげに胸を張った。


「あらあら、ちゃーんとイギリスの料理も好んでくれてますよ。何せ私の娘なんですから」


「僕はインド料理が好きだなぁ!」


「あんたはカレーが気に入ってるだけでしょ」


 父と母の言い争いに首を突っ込んだリオの意見を一蹴する。

 カレーだけがインド料理だと思い込んでいそうだ。


 私たち桧葉家は、日本人の父英介と、母ソフィアとその子供で構成されており、私とリオはハーフである。

 今は父の仕事の都合で日本に住んではいるが、時たまイギリスに移住したりもする。


 父と母は毎回、母国愛で喧嘩をするが、私はどっちも好きだ。


「とりあえず早く食べよう?」


「おいおい、寝坊したカノンがそれを言うのか。カノンのせいでせっかくのソフィアカレーも冷め冷めだぞ」


 ジト目で私を睨む父をよそに、私は大きな音で合掌する。

 それに合わせて、みんなも手を合わせた。父もしぶしぶ手を合わせる。


「「いただきます」」


 これが、私の幸せな生活だ。

 毎日こうして大好きな家族と顔を合わせ、母の美味しい手料理を食べられる。

 平穏な生活。


 誰にも邪魔されたくない、私たちの日常。




「まーたこのニュースだ。物騒だなぁ」


 食事が終わった後、父はソファに寝ころびながらテレビを見ながらそう呟く。


 テレビには『謎の巨大生物が出現してから1年――』と大きくタイトルが打ち出されており、ニュースキャスターたちは神妙な面持ちで話を進めている。


「この東京に出現したあの巨大生物、あれは何だったんでしょうか」


「真っ黒の牛の頭をした人型の巨大生物。全長で30mくらいはあったんじゃないですか?」


「あれは怖かったですねぇ。ネットでは“牛鬼(うしおに)”とも呼ばれているそうですね」


「“牛鬼”……。確か日本の怪談ではポピュラーな話ですよね。最強に怖い話だとか」


「日本の怪談の妖怪にしては、司祭服のようなものを着ていましたね」


「不思議な現象でしたなぁ。未だに原因はわかってないそうですが」


「一部ではゲーム会社が企てたAR企画だとか、CGだとか言われてますけどね」


「いやぁ、ありゃあホンモノでしたよ。この目で見ましたから」


「私も直接見ましたよ。最初はロボットかと思いましたが」


「ロボットなわけないでしょう。現れて数分で消えてしまったんですから」


「――街ごと」


 プツン。


 私は父が持っていたリモコンを取って、テレビを消した。


「お、おい」


 父は困惑顔で私の方を見る。


「お父さんは会社行かなくていいの?」


「今日は休みなんだ」


「また?」


 ここ最近はずっと休みみたいだ。

 一時期は忙しそうにして出勤三昧の毎日で辟易していたが、突然長期休暇に入ったらしい。


「とりあえずニュース見せてくれよ」


 父はぶーぶーと私に甘えてくる。


「いや。私、あの話嫌いだから」


 1年前にここ東京で起こった“牛鬼事件”。

 1年たった今でもニュースや都市伝説番組で引っ張りだこの話題である。


 私はこの話が嫌いだ。

 なぜかはわからない。

 殺人事件や事故のニュースだって日常茶飯事だし、そういう話は平気で見ることができる。

 でも、この事件だけは、なぜか考えたくないのだ。


 考えたら、辿り着けそうな答えに辿り着いてしまいそうで、怖い――。


「ピンポーン」


 父とリモコンの取り合いをしていると、突然インターホンの音がリビングに鳴り響いた。


「カノン、見に行ってくれないか」


 リモコンの奪取を諦めて、即座にソファに寝ころんだ父が言う。

 完全に面倒なだけなのだろう。


「……はぁ」


 しかしこれもいつものこと。


 母とリオは台所にいるため、私しか出る人がいない。

 私は父に文句を言いながらリビングを出て、玄関の前まで行く。


「はい」


 鍵を開け、扉を押して開ける。


 あれ?


 今は朝だから外の光が入ってくるはずなのに、暗い。


 ドアを完全に開ける。


「――――――!」


 私は絶句した。


 そこには――。


 人じゃない人がいた。





「あぁ、めんどくせぇめんどくせぇ……」


 誰もいない街。

 新居のようにピカピカで綺麗なのに、誰一人いない街を歩く。


「文句ばっか言ってないで、早く目的地に行きなよ。久々の任務でしょ」


 耳に付けた通信機から女の子の声が聴こえる。

 任務のための特殊な通信機だ。パートナーとの連携を円滑に行うための機器。


 あぁ、この声がボインな姉ちゃんの声だったら、仕事もはかどるのによぉ……。


「あっ、レイ。あんた今変なこと考えたでしょ」

「私の魅力的なプロポーションのこと考えてたでしょ」


 聴こえてくる声が立て続けに文句を言う。


「まぁほとんど合ってるかなぁ」


 九割合っている。間違っている単語一つが大きな意味を持っているが。


「まったく、パートナーなんだから変なこと考えないでよ。信頼が命なんだから」


「わーってるって……」

「しっかし、ここは変なとこだなぁ。綺麗な街なのに人っ子一人いねぇ」

「それにここら辺、“アレ”の匂いがちょっとするんだよなぁ」


 俺は街の隅々を見渡しながらつぶやく。


 上からの直々の指令で向かうことになった場所。

 めんどくせぇから詳しい場所も聞かずにテレポートで来ちまったが、明らかに不気味だ。

 ニュータウンかっつーくらいゴミもないし家もピンピンしているのに、さっきから誰一人見当たらない。

 普通一人くらいすれ違ってもいいはずなんだが……。


「綺麗……? 何言ってるのレイ。そこは――」


 通信機の声が何かを言おうとした瞬間、異質な感覚が頭をよぎる。


 “アレ”の反応。


 イマジナルの反応だ。


「おっと、もうおでましかぁ」


 先ほどまで僅かに感じ取っていたイマジナルの反応が、突然濃くなった。


「目標まで120m。とある住宅よ」


「おっけーおっけー」


 俺は姿勢を低くし、ちょうどクラウチングスタートのような格好になる。


「んじゃあ頼むぜ、ユシロ」


「はいはい。気を付けてね。“武装付与術式・展開(レーゼ)”」


 俺は足の部分が徐々に熱を帯びているのを感じた瞬間、思いっきり地面を蹴った。

 風を切った。






「……ぁ……ぁぁ……」


 声が出ない。


 身体が震えて動くことが出来ない。


 見たことのないモノが、目の前に立ちはだかっていた。


 朝に来客とは何事かと思ったが、玄関を開けてみればこれだ。


 2m以上はあるであろう身長の女。

 いや、女なのかは定かではないが、ウェディングドレスを着ているから女なのだろう。

 ドレスはボロボロで、泥だらけ。長い髪がドレスのいたるところにまで垂れているため、黒ずんで見える。

 顔は薄汚れたベールがかかっているため、はっきり見えない。

 袖から見えている腕は以上にがりがりで、皮膚もただれているように見えた。


 一言でいうなら、これは普通の人間じゃない。


『ほう……。これを起こしているのはお主か……』


 ウェディングドレスの女が声を発した。

 ガラガラのおばあさんのような声。

 その声が二重にも三重にも聞こえてくる。


 これを起こしている……?

 起こしているのはあなたでは……。


 と文句を言ってやりたいが、恐怖心で身体が動かない。

 父の助けを呼ぼうにも、声も出ないし身体も動かないので、それも叶わない。


『とりあえず、始末しておくかのぉ……』


 ウェディングドレスの女は、がりがりの手を、ゆっくり私の頭に近づける。


 やめて……やめてやめて……。


 なぜか、嫌な予感が頭をよぎる。


 この手のひらに触れてしまったら、死ぬ以上に嫌な目に遭う予感がするのだ。


 しかし身体は動かない。声も出ない。


 がりがりの手が近づいてくる。


 私の頭に少し触れた。


 その瞬間。



 どごぉおおおおん!



 気が付けば、突如現れた男がウェディングドレスの女を蹴り飛ばしていた。


 綺麗な上段蹴りである。


 何が起こっているのだろうか。

 自分の目の前で起こっていることが信じられなかった。


 というか、見えなかった。


 その男がいつそこにいたのか、いつ蹴ったのか、全く見えなかった。


 ウェディングドレスの女は玄関から隣の庭にまで飛ばされ、庭の奥の物置に埋もれている。


「大丈夫か、お嬢ちゃん」


 突如現れた男は、私にそう訊ねた。


 少しぼさついた短髪の黒髪に黒いスーツを着た男。

 着崩しているのか、第二ボタンまで開けた胸からは趣味の悪そうな髑髏のネックレスがちらりと見える。


「……は……はい……」


 突然の出来事に身体が驚いたせいか、声が出るようになった。


「あ、あの……あなたは――」


『はぁ……思ったより早ぅ着いたのぉ……』

『我より先にこいつを手に入れようってのかい』


 ウェディングドレスの女はいつの間にか庭の中央に立っていた。

 見たところ無傷のようだ。


 何を話しているのだろうか?

 私を手に入れる……? さっきは始末がどうとか言ってたのに……。


 私は男の方を見る。


「???」


 何もわかっていなさそうだった。

 

『おや、こいつ目当てで来たんじゃないのかい……』

『まぁいい、お前は必要ない……』


 女は身体をくねくねとくねらせはじめる。

 何かを仕掛けてくるのだろうというとは、何となく察しがついた。


「はっ、お前くらいのやつなら俺の蹴りで一発だ。はやく終わらせてパチンコに行かせてもらうぜ」


 男は手をクイックイッと何かを回すような仕草をした後、構えた。

 柔道だったか空手だったかで見た構えである。


 その構えからは、何かすさまじいような気迫を感じる。

 実際に風が吹いているわけでもないのに、風圧を感じるような気迫。


 こっちからも何か仕掛けるのか――。


 と思った瞬間。


「お姉ちゃんに手を出すなぁああ!」


 リオが目の前に飛び出していた。


 右手には包丁を持っている。

 おそらく父が、長く帰ってこない私を見かねてリオをよこしたのだろう。


 リオは全速力で走りながらウェディングドレスの女の元に向かう。


「お、おい!!!」


 男もたまらず声を出していた。


 対して私は、声を出せなかった。


 なぜだろうか。


 このままだったら弟が死んでしまうことが明白なのに、何も声をかけられない。

 大切な家族なのに。

 愛している家族なのに。

 リオの行動をただ見ているだけだった。


「うわぁああああああ!」


 リオの持つ包丁が、女の腹部を貫いた。


 しかし。


 リオ自身も、女の身体に入り込んでいった。


 ガッシャアアアン!


 リオの身体は、物置に激突していた。

 女の身体をすり抜けたのだ。


 あの女は幽霊なのか……?

 

「ちっ、いくぜユシロ」


 隣にいたスーツ男は、現状に見かねたのだろうか、一歩を踏み出した。


 と、同時に私の隣から消えた。


「え―――――」


 慌ててウェディングドレスの女の方を見ると、男が女の頭に飛び蹴りを入れていた。

 2m以上ある女の頭にである。

 リオが触れず、すり抜けてしまった女にである。


 軽く2m以上飛んだ彼の足の裏は、女の顔面であろう場所にクリーンヒットしていた。

 彼の足は赤く光り、周辺では火花が散っている。


 光っている……いや、燃えてる……?


 女の頭からメキメキメキッという音が聴こえてくる。

 そしてそのまま、女が壁を突き破って、家の中に飛んでいった。


「大丈夫かおい!」


 男は物置の中で倒れているリオのところまで駆け寄り、身体を抱きかかえた。

 頭から血は出ているが、胸は上下に動いている。

 死んではいないようだった。


「あ、あの……あなたは……」

「というか、それは……」


 私は呆然と立ちながら、男の光る足を指さす。

 さっきよりは光が弱くなっているが、相変わらず周囲に火花が散っている。


「あん? これか?」


 男は自身の足を一瞥して、私の質問に答えた。


「イマジナルだよ」


「イマジナル……?」


 聞いたことのない単語。

 何かの漫画のタイトルだろうか。


 男は面倒くさそうに頭をかき、こう続ける。


「頭で考えたことが実際に出来る力だ」

「まぁこの足は厳密には俺の力じゃないがな」


「……??」


 何を言っているのかさっぱり理解できない。

 さっきから訳の分からないことが立て続けに起きていて、混乱しているのかもしれない。


「ぁっ……それよりもさっきの女は……」


「あぁ、さっきの残霊(ざんりょう)か? 大丈夫だよ。もう死んだだろ。この壁の修理はまぁ任せと――――」


 ざんりょう?

 彼の言葉に疑問を抱いたその瞬間。



「きゃぁあああああああ!」



「えっ!?」


 穴の開いた壁の奥から、母の悲鳴が聞こえた。


 まさか、さっきの女が何かしたのだろうか……?


「ちっ……まだ生きてやがったのか」

「ちょっと邪魔するぜ」


 男はめんどくさそうに、穴の空いた壁の中に入っていく。


「ちょ、ちょっと……!」


 私もたまらず、玄関の方から母たちがいたリビングに向かった。







 俺が家の中に入った時には、もう地獄絵図だった。


「……」


 任務に失敗した。


 俺と同時にリビングに着いたあの娘も、呆然としながらリビングの中を見つめている。


 おそらくあの娘の父親であろう男と、母親であろう女は、部屋の中で死んでいた。


 あの残霊の手で串刺しになりながら。

 

 部屋中は彼らの飛び血で真っ赤に染まっていた。

 父親と母親の貫かれた部分から血が、床にぽたぽたと垂れている。


 母親はまだぴくぴくと動いているようだが、父親はもう動いていない。

 母親も、もう時間の問題だろう。


 残霊は彼らをなおも腕に貫いたまま、けたけたと笑っている。


 一般人を死なせてしまった。


 完全に失敗だ。


「うぉおおおおお!」


 俺は残霊に向かって走る。


 これは完全な腹いせだ。


【残霊を狩るときは一般人を死なせてはならない】


 俺の任務の最重要事項だった。


 油断した。


 一発蹴りを食らわせれば終わりだと思っていた。


 残霊は相変わらずけたけたと笑っている。


 俺は“光っていない”足を、そいつに向けて蹴ろうとした――。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」



 突如。


 両親の死を目の当たりにした娘が、大声で叫んだ。


 先ほどまで低いテンションで話していた彼女の声とは思えなかった。


 顔は悲壮にまみれ、涙をボロボロとこぼしている。


 甲高い悲鳴は、街中に響いていそうな勢いだった。


 俺の足もその声に反応してぴたりと止まり、冷静になる。


 危なかった。

 何もイマジナルの準備が整っていなかったのに、熱くなって攻撃するところだった。


 俺は残霊の腰寸前にまで近づけた足を下げる―――。


 いや――――。


 ――――残霊がいない。


 俺は慌てて部屋の中を見渡す。


 この一瞬でどこに……!?


 しかし俺は、いなくなった残霊よりも驚くべき景色を目の当たりにした。


 先ほどまで彼らの飛び血で赤く染まっていた、リビングルーム。


 しかしその部屋の中は、青い光に包まれていた。


「な、なんだ……!?」


 部屋のいたるところから、細やかな青い光の玉が溢れ出ている。


 部屋だけではない。


 父親であろう男からも、母親であろう女からも、青い光が零れ出していた。


 残霊は見当たらない。


 悲鳴を上げていた娘は、リビングの入り口で倒れていた。


「お、おいユシロ! 今何が起きてる!?」


 俺は耳についている通信機に手を当て、大声で質問する。


「こ、これは……」


 ユシロも、唖然としているのが声だけでわかった。


 相変わらず青い光は部屋のあちこちから漏れ出している。


 机、椅子、テレビ、写真、食器、ソファ、電灯、柱、冷蔵庫、棚、本、天井…………。


 そして、そこで倒れている娘の両親からも…………。


 その青い光は、物から出ているだけでなく、その物自体を消しているようにも見えた。


 部屋にあった机や椅子が、青い光と共に消えていく。


 彼女の両親も例外なく、身体の端から消えていた。


「おいユシロ! 何が起きてるか説明しろ!! 今一般人が消えかかってるんだ!!」

「俺が死なせてしまった人間が消えてるんだよ!! 娘の前で!!」


 俺は語気を張り上げてユシロに話しかける。


「……。レイ……」

「この人たちは、人間じゃないよ……」


 ユシロは震えた声で返答する。


 人間じゃない……?

 この両親がか……?


 ユシロには、今俺が見ている景色が見えていない。

 イマジナルの反応と、衛星情報でしか、現場の状況を把握できていないのだ。


 だから彼女の言うことが正しいということは――――


「レイ、外、見える?」


「外……?」


 ユシロに言われるまま、窓の外を見る。


 相変わらず、窓の外も青い光で覆われていた。向かいの家からも、青い光が漏れ出している。

 そしてその光に浸食されるように、家が消えて――――。


 ――――え。


 消えた家から、新たにボロボロになった家が見え始めた。

 壁も剥がれ落ちた、廃墟同然の住宅。

 窓の外に並ぶ住宅すべてが、廃墟同然になっていた。


「な、なんだ……? さっきまで綺麗だった街並みまで……」


「……レイ。さっき、綺麗な街並みって言ってたけど……」


「あぁ……?」


 俺はおそるおそる聞き返す。


「言いづらいんだけど……そこ……」


 ユシロもおそるおそる続けた。


「一年前の“牛鬼事件”で、崩壊した街なんだよ」


「………………!」


 1年前の“牛鬼”事件。


 突如街に巨大な牛の頭をした人型の巨人が現れ、すぐに消えた。

 美しい街並みと共に。


 そうか。

 この街も、その被害にあった街だったのか。


「じゃ、じゃあ……それじゃあ何でこんなことに……!?」


 困惑した俺は聞き返す。

 もはや何が起こっているのかわからない。


 崩壊した街が綺麗になって、それがまたボロボロになっていく……?


 あっ、とユシロが声を発した。


「レイ、そこに誰か生き残ってる人いない……?」


「生き残ってる人……?」


 俺は再度青く光る部屋を見回す。

 両親はもう身体の半分まで消えている。

 部屋の壁も光で消えていき、ボロボロの柱しか残っていなかった。


 さっきの娘は――入口の付近で倒れたままだった。

 

 彼女の身体からは一切青い光が出現していない。


「女の子が生き残っている。死んでしまった人たちの娘だと思うが」


「その子だよ」


 ユシロが即答する。


「何?」


「これはその子のイマジナルだよ」


「……」


 何も言葉が出なかった。

 そんな馬鹿なことがあるわけがない。


「レイがいた綺麗な街も、そこで死んだ両親であろう人も、すべて――」


「――その子の、想像物だ」

三話構成という話だったのですが、過去編が思ったより長くなりそうなので続きます……(泣)。


一応、『現在→過去→現在』という流れは変わりませんので、これからもお付き合いください。


攻殻機動隊、見れる算段がつきそうです!(ゲオ行った)

前回は攻殻機動隊の見たさでこの話を書き始めたと言いましたが、見終わってもしっかりエンディングまで続けたいと思います。まぁ随分と長い物語にはなるのですが、これからもご自愛ください。


誤字脱字・指摘・感想がございましたら遠慮なくお願いします。

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