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64話 みんなの夏休みの予定は

「おまた〜」

「せしましたー」


 サチさんと雅が来てからタッチの差で、第一陣のヒロパフィンさんが戻って来た。


「おかえり。それじゃ月影ちゃん、蒼月さん、行こ?」


 そう言って立ち上がると、


「……(こくり)」

「ふへへ……そうですわね、行きましょうか」


 僕に続いて、2人も席を立つ……ちなみに、僕が月影ちゃん可愛いのループから抜け出した後も、蒼月さんはビデオを回し続けていたりする。今の僕の誘いを受けて、ようやく仕舞った。


「……蒼月さんはアブナイ人モードですし、月影さんはほんのり頬が赤いですし、優輝さんはなんか、妙に上機嫌みたいですし……幸子さん、何があったんですか?」

「具体的には私も……私が来たときには、蒼月さんはすでにアレで、優輝さんは、なんか……月影ちゃんを可愛い可愛いって褒めちぎってたわ」

「……ほんとに何があったんです?」

「えっと……」


くんっ


(うん?)


 月影ちゃんとの約束を話して良いものか迷っていると、スカートが一瞬、軽く引っ張られるような感覚。で、すぐ近くには月影ちゃん……ふむ。


「……秘密」


 意を汲んで、話さない事にした。笑顔でウインクし、短くそう告げる。


「えーなんなんです? 気になります!」

「気になります〜」

「まあ、何か話すにしても、戻ってからね」

「ですわね」

「……溶ける、ので……お先にどうぞ……」

『はーい』


 そう口々に言い残してから、僕らもかき氷を取りに行った。


「……感謝、です……」


 ……少し離れてから、月影ちゃんに小声でそう告げられた。どうやら言わなくて正解だったらしい。月影ちゃんシャイ可愛い。





 受け取り待ちの列は長かったように感じたけど、人のはけが良いのか、思ったよりは待たされなかった。さすがに戻った時には、最初に戻ったパフィンさんは半分くらい食べ終えていたけど。


 ヒロ? 雫残さず食べ尽くして、頭を抱えていた。もうなくなってしまったのを嘆いている……のではなく、例の頭痛に襲われているらしい。アキによると、毎年の事らしい。可愛い。


 さて。1人食べ終えてるけど、それぞれの選んだかき氷の味を、取りに行った順に挙げてみる。


 ヒロのは、確か……なんか餡蜜に乗っているようなフルーツが沢山乗ってた気がする。それを大盛り。

 パフィンさんは、ヒロと同じのを普通盛り、だったはず。半分以上食べ終えてるから確証はないけど。


 姉さんのは、なんか爽やかな緑色だ。キウイフルーツ味らしい。

 アキのは、かき氷の定番、イチゴ味練乳がけ。ただし、凍らせてスライスしたイチゴの果肉も乗っていて、かなり豪華だ。


 僕は、メロン味。ちなみにこれも、アキのと同じく果肉も乗っている……トマト味があってちょっと迷ったけど、アキが微妙な顔をする気がしたのでやめた。他にも理由はあるけど。

 蒼月さんのは、オレンジ色だ。正確には、みかん味らしい。冷凍みかんが沢山乗っている。

 月影ちゃんは写真サンプルを見て、甘そうなのばかりだと思ったようで、


「……甘さ控えめな物、を……お任せでお願い、します……」


と言って、メニュー外のを注文していた。


 その結果出てきたのは、ミルクココア色のシロップにチョコソースとチェリーが乗った、チョコレートパフェのようなかき氷だった。一見かなり甘そうだけど、


「ん……とても、美味……」


らしい。うっとり瞳で食べる月影ちゃんを見て、僕の中でストゥルガノフ氏への対抗心がさらに上がった。


 雅は、練乳なしに果肉なしのイチゴ味。実にシンプルだ。

 サチさんは、濃い緑色で粒餡と白玉団子の乗った、抹茶小豆味。


 とまあこのように、見事に全員違うものを頼んでいた。唯一アキと雅がちょっと被ってるかな。


 というか、学食でこれだけのかき氷バリエーションがあるのは、はっきり言って異常だと思う。料理長さんの、守護者候補生に対するサービス精神の本気度を見た。


「かき氷一覧に、トマト味があった訳だが」

「あったねぇ……あれはないわー」


 姉さんの一言に、アキが予想通りの反応を返す。


「そうかな? 冷やしトマトって美味しいし、意外とアリなんじゃないかなぁ。というか、優輝さんが頼まなかったのが意外です」


 頭痛から復活していたヒロがそう言う。まあ、学食ここでなければ頼んでたかもだけど。


「うん、まあ、ちょっと迷ったけどね……けどまあ、見え見えのアピールに引っかかって勘違いされても困るしね」

「アピール、ですか?」

『あー……』


 アピールと聞いて、納得したような声を漏らしたのは、ヒロとサチさんとパフィンさん。未だピンと来ていないのは、蒼月さんと雅くらいかな。


「見てた感じ、アレだけ誰も頼んでなさそだったし、今回限定になるかもねぇ」

「今夏中に優輝が一度も注文しなければ、そうなるだろうな」

「僕に贔屓しないで下さいって言ったのに、これだもの。味は多少気にはなるけど、絶対に頼まないよ」


 それに、うっかり注文してしまったら、メンドクサイ事態になる気がする。いろんな意味で。


「贔屓……はー、なるほど」


 そこまで聞いて、蒼月さんも気付いたらしい。

 雅は……頭痛で頭を抱えていた。まあ雅は、もっと詳しく説明しないと伝わらないだろうけど。





 かき氷を口に運びつつ、おしゃべりをする。内容は主に、夏休みの予定に関してだ。


「あたしとヒロは、まずは家に帰ってからだね」

「グリーンウィークに鷺宮村に泊まったので、さすがに夏休みには顔を出しなさいって。私もアキちゃんも、家族からメール来ちゃいました」

「私達も、一度帰郷しますわ」

「ん……(こくり)」


 アキヒロテンノーズは、明日には寮を出て故郷くにに帰るらしい。うん、家族との交流は大事にしないとね。


「俺は親からは、自由にやりなって言われてるからな。夏休み中は部活か自己鍛錬してっから、水城さん家に行く時はみんなに合わせるぜ」

「アタシんちの親も、マミ〜ヤと同じで自由に生きろって言うんよね〜。まあ2人きりでラブラブしたいからだろけど〜」


 ようするに、2人の両親の教育方針は放任主義らしい……雅とパフィンさんとでニュアンスが似てるようで違う気がするけど。まあなんにしても、両親とは不仲ではないようで良かった。


「てなわけでぇ、しばらくひとりスイーツ食べ歩きツアーしてるからぁ、ミズキッチ行く前の日には、誰か連絡よろ〜」

「それ自体に口を挟む気はないけど……適度に鍛錬もしなさいよ? 1日サボったら、取り戻すのに3日はかかるんだからね?」

「りょ〜」

「……返事にいまいちやる気が感じられないのだけど。大丈夫かしら」

「だいじょぶじょぶ〜。お友達に……さっちゃんに、見放されたくないし〜」

「そ、そう……なら良いけど」


 嬉しさを隠しきれてない顔でそう呟くサチさん。可愛い。


「そう言うさっちゃんは、まずは何するん〜?」

「今回は、関係各所にはさっきまでに伝え終えたわ。だから最初から、瑞希と優輝に同行するわ。すでにお泊りセットも準備万端よ」


 サチさんが、満足げな顔でそう言った……さっきからの会話で、気付いている人は気付いているだろうけど。みんな鷺宮村に、というか、水城家うちにお泊りすること前提で話をしている。


 まあサチさんは、前にうちにお泊まりしたいと言っていたから予測は出来たけど。まさか、天王寺姉妹含めて、全員うちに泊まる来る気マンマンだとは思わなかった。


 泊めてあげたい気持ちはあるのだけど、ひとつ問題がある。

 水城家の家屋はそれ程広くないので、一度に快適に泊まれる人数には限度がある。前回の人数でちょうどくらいかな。


 前回のお泊り組ならわかりそうなものだけど、すでにいつから泊まるかの話を始めている……仕方ないので、こちらから話を切り出す。


「あのさ。鷺宮村に滞在する事自体は別に構わないけど、泊まる場所は決まってるの? うちの家じゃあ、全員は厳しいよ?」

「ふっふー! しーんぱーいないからねー♪」


 どこかで聞いたような歌謡曲の歌詞のフレーズでそう言うアキ。


「咲様の家の道場に寝泊まらせてもらうから問題ナシ!」


 勢い任せで進めているのかと思いきや、ちゃんと考えていたようだ。


「ああ、確かにあの広さなら十分だね。ところで、いつの間に許可を?」

「今から!!」


 やっぱり、夏場のアキのテンション高いね……じゃなくて。やっぱり勢い任せかな?


「というか、咲さんの家電いえでんの番号教えてもらってたんだ?」

「んにゃ、知らないっ! という事で優輝! まかせたっ!!」

「えー……まあ咲さんなら、問題ないって言うだろうけどさ」


 これ以上ないくらい勢い任せだった。夏場のアキは、いつも以上に勢いでなんとかなると踏んで動いてる節があるなあ……まあ頼られるのは嬉しいし、元気可愛いから良いけど。



『はい、構いませんよ』

「許可を得られたよー」

「でかした!!」


 その場ですぐケータイでコールしてみると、運良く咲さんは家にいて、予想通りあっさり許可を得られた。


 という事で。今後、みんなが一堂に会して鷺宮村に滞在する場合は、咲さんの家に併設されている武術道場に寝泊まりさせてもらうことになった。まあそれ自体は良い。


 ただ咲さんは、強さはともかく、性格が大らかすぎるというか子供に甘いというかなので、なんとなく不安感がある。連休中の例もあるしね。


 というわけで。釘を打っておく。


「先に言って置くけど。魔獣討伐に参加したいなら、前回同様ネイ先生に許可を得ないとだからね? つまり、ネイ先生と連絡つかなかった場合はーー」


 と話し始めると。


「それなら問題ないですよ〜、私も同行しますから〜。里帰り兼、みなさんの保護者やりま〜す」

「ネイ先生ん」


 いつのまにか、静海が静かに佇んでいた場所に、ネイ先生が立っていた。静海は寮に帰ったらしい。


「というかですね。私もみなさんと一緒に、ワイワイ楽しくおしゃべりしなが里帰りしたいんです〜。だから、私に送り迎えさせてもらえると嬉しいなぁ〜って、そう思います〜」

『お願いしまーす』


 ネイ先生のオネダリに、みんなは満場一致でそう返す。


 ふーむ。そういえば、漫画やラノベだと担任教師は、ただの置物扱いか妙に仲が良いかのどちらかな気がするけど。ネイ先生は、後者だよね。


「ふふっ。みんな、ネイ先生の事大好きだよね。僕もネイ先生大好きだから、嬉しいな」

『…………』


 あれ、反応が薄い? まさかみんな、ネイ先生のノリに合わせてあげてるだけで、僕が思ってるより……なんてことは、な、ないよね?


「みんなー、今思ってる事一斉に言ってみよーかー」


 僕がちょっと不安に思っていると、唐突にアキがそんな事を言い出し、みんなはそれに頷いている。な、何が始まるんです?


「はい、いっせーのっ」

「「『そんな恥ずかしい台詞よくさらっと言えるな』ますね」るわね」

「ええっ!? ……あー……」


 そう言われると、そうだったかも……うー、またやっちゃったー……


 ちなみに多分だけど、月影ちゃんとネイ先生以外の全員が言ったと思う、


「ん……概ね同意、です……」

「ふふふ〜、さすが優輝ち……さん、愛されてますね〜。私もみなさんのこと、大好きですよ〜。それに、みんな本当に仲良しさんで、先生とっても嬉しいです〜」


と考えていたら、2人も追撃してきた……な、なんか、かなり気恥ずかしくなって来た……


 その時の気恥ずかしさが原因か、それ以降の雑談の内容がうろ覚えだったりする。

 まあネイ先生がいたし、問題ないだろうけど……一応後で、姉さんに詳細を尋ねよう。

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