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45話 海老江 茜葵の告白

後半少しシリアス入ります。

 珠洲野守家の家屋に併設されている小さな道場に、咲さんに連れられて入っていく雅とアキを見送る。この道場には、僕らが高校入学するまで毎日のように通って鍛錬していた……んー。


「なんだろこの感じ……ノスタルジー感、かな」


 入学してからまだ一ヶ月なのに、なんだか懐かしさを感じる。僕が学園に慣れてきたからだろうか。僕も少し、鍛錬したくなってきた、けど……


(あー、ダメだ。ひと月ぶりの我が家での料理を早く始めたい!)


 今は、趣味への欲求の方が強かった。



 ということで。すぐに家へ戻った。


「ただいまー」

「あれ、早いわね……ああ、なるほどね」


 母さんが不思議そうに僕の顔を見て、すぐに納得顔になる。僕の表情から理由を察したらしい。


「おふぁへひははぃへふぅ」

『飲み込んでから話しなさい……ぷっ』


 僕と母さんの台詞が見事にシンクロして、思わず吹き出す。ていうか吹き出したタイミングまで同じでさらにおかしく感じた。


「ふぁい……っん、こくこく」


 そんな状況でもヒロは、マイペースにお茶を含んでマドレーヌを飲み込む。飲食中のヒロはやっぱり神経図太いなあ。可愛い。


 ちなみに、多分ヒロは「お帰りなさいです」と言ったのだと思う。


「お帰りなさいです、優輝さん」


 口を空にしてから言い直すヒロ。当たってた、ちょっと嬉しい。


「ヒロはすっかり馴染んでるね。母さんのマドレーヌ、美味しいよね」

「はいとっても!」

「ふふっ、ありがとう。けど……聞いていた以上によく食べるわね、ヒロさん」

「美味しいのでー」


 ヒロの飾り気のない単純な感想に、ほっこり嬉しくなり、自然と頬が緩む。母さんもほっこり笑顔なので、多分、僕もあんな表情なのだろう。


「けど優輝、どうしようか。ヒロさんへと焼いておいた分、ほとんど食べさせちゃったのだけど。一応、冷凍庫にアイスボックスはあるけれど」

「んー。そろそろ夕飯の仕込み始めたかったんだけど」

「そうね。うどん生地を寝かせる時間を考えると、そろそろ始めたいわね。というかかなり食べさせちゃったけど、ヒロさんまだ食べられる?」

「マドレーヌ美味しかったですし、優輝さんのお母さんの手料理なら間違いなく美味しいので! 全然大丈夫です!」

「そ、そうなの?」

「ヒロならほんとに大丈夫だよ」

「まあ、優輝がそう言うなら良いけど」


 納得出来ないと言った顔でそう言う母さん。相変わらずの謎ヒロ理論だけど、実際ペロリと平らげてしまうのを何度も見ているから、それ以外に言えない。





「守護者ユーナのおうどんセット、おまちどうさまー」

「お待ち遠様にございます」

『わー』


 山菜鶏うどんと狐寿司を乗せたトレーを、それぞれの前に置いていく。ヒロだけ3倍量だ。


 ちなみに、母さんはすでにみんなと一緒に席に着いている。

 母さんは昔の怪我の影響で、あまり力仕事が出来ない。ので、うどん汁や具の調理は一緒にやったけど、うどんコネやゆでは主に僕が、配膳は僕と、あと静海が手伝ってくれた。


 姉さんと父さん? 姉さんはいつもは配膳は手伝ってくれてたけど、今日は静海に指示をしてすぐ席に着いてしまった。

 父さんは料理のセンスが壊滅的だし、家にいない事も多いので、いる時はいつもテーブルで待っている。まあ、テーブル拭くくらいはしてくれるけど。


「みんな、席に着いたな。ではいただきます」

『いただきます』


 父さんが食事の音頭を取り、夕食開始となった。





「お店でもないのにうどんの麺から手作りするとは思わなかったわー」

「まあ、今回は急遽決めた献立で、乾麺がなかったからなんだけどね」

「とっても美味しかったです!」

「そう言えば雅、咲さんに指導してもらってどうだった?」

「感動した!」

「そういう事じゃなくてね」


 食事を終えて、食休みがてらみんなで他愛ない内容の雑談をして。


「水城家のお風呂の時間だあー!」

水城家うちを強調した意味ある?」

「私にとって水城ズは特別な存在だからある!」

「う、うん、そっか。ありがと」


 雅とアキが戻って来たのは午後6時頃。夕飯完成まで後約一時間程かかるので先にお風呂入ってもらおうとしたら、二人共咲さんの家でシャワーを借りたらしく、食後で良いと断られていた。


「てなわけで。優輝〜実家なんだしあたしと一緒に入ろ〜?」


 ここで来たか……アキはなかなか諦めないね。それ自体は好ましく思うけど。


「私と入るから入らせないぞ?」

「……ちっ」

「ほう。舌打ちとはいい度胸だ」


 なんかアキと姉さんの口喧嘩(じゃれ合い)が始まりそうだったから、話題を変える。


「姉さんと入るかどうかはともかく。家族以外とは入らないようにって家訓であるからダメ」

「家訓なんですね……本当に過保護ですね」


 さすがのヒロも、ちょっと呆れ顔になっている。さすがに苦しい言い訳か。


「うむ! では優輝、一緒に入るぞ!」

『え』


 唐突な父さんの台詞に、友達3人が固まる。


「父さん、さもいつも一緒に入ってる風に言わないで」

「鷲王さんおふざけは程々にして下さい。

    し め あ げ ま す よ ?」

「はは、ご冗談が過ぎますね最低のクズ親父殿」

「優輝以外もう少々歯に絹着せてくれませんかね、さすがに泣きそうです」


 母さんと姉さんからの酷い言われように、悲しみに肩を落とす父さん。


「父さんの事は置いといて」

「優輝!?」


 ちょっと可哀想に思うけど、友達に誤解されたくないので今は放置する。というか誤解を招く事言い出した父さんが悪い。


「話し合っても拉致が明かない気がするから、勝手に決めさせてもらうよ。最初にアキヒロ、次が姉さん母さん、父さんと雅、最後に僕と静海の組み合わせでお願い」

『えー』


 僕の独断に、当然不満の声が上がる。姉さんとアキだ。


「入らない方が良い?」

「むー、優輝と入りたかっただけなのにー」

「うむ」

「……入らないんだね?」

「入ります」

「うむ」


 という事が入浴前にあった。申し訳なく感じるけど、秘密は明かせないから仕方ない。





「ふー……家のお風呂は落ち着くー……」


 アキヒロ組が入ってから、僕の番まで待つ事約1時間半。最後に1人で入るので、気遣いも警戒もしなくて良いから、かなり気が抜ける。

 そう、1人だ。静海は精霊剣だから、基本入浴の必要はないらしい。学生寮の部屋でも、たまにシャワーを浴びる程度だ。


 じゃあ僕と一緒に入る事になっている静海は、今何をしているのかと言うと。


カタッ


「……ん、来たかな」


 浴室のガラス戸の向こうで物音がする。それに続いて、脱衣所と廊下を隔てる扉がゆっくり開くような気配。一拍置いて、バッと布が翻る音がわずかに聞こえ、


『んにゅ? ってうわビックリしたあああ!!』

『ここより先は、現在通行禁止にございます』


 アキの驚きの声と、静海の冷静な声が聞こえてきた。


『静海さん監視してたのね! っていうかどこいたの!? 私が開けた時脱衣所に誰もいなかったよ!?』

『茜葵様の気配を感知した場合、天井に張り付き、脱衣所完全侵入後、静かに背後に降り立つように。と、優輝様より指示されておりました』

『むぅ……全部お見通しだったって事ね』

「全部かどうかはわからないけど。最初に入ったアキは、最後に何しに来たのかな?」


 扉越しにそう尋ねてみる。


『……最初に入ったから、少し体が冷めちゃったのよ。だから寝る前にも入らせてもらおっかなーとか?』

「僕が入ってるから今はダメ」

『と優輝様は仰られていますので。立入禁止にございます』

『え〜いーじゃん二人共ケチケチっ。ちょっとだけっちょっとだけだからっ!』

「あんまりワガママ言うと、ビリビリするよ?」

『ひっ退かぬ、媚びる、省みぬ!』

「友達やめよっかなー」

『部屋に戻ってるねー』

「はーい」


 さすがアキ、引き際はわきまえている。だから好き。





「優輝と静海さん来たところで。パジャマよしっ軽めのお菓子と飲み物よしっ男子なしっ!」

「私は重めのお菓子でも構わないよ」


 アキの希望で、雅は姉さんの部屋で寝る事になったので、ここーー僕の部屋には今、僕と姉さんと静海、そしてアキヒロがいる。


 それにしても、男子なし、ね……言いたい事が言えないこんな状況……はぁ……


「というわけで!」

「ということで?」


 いつもアキがしている返しをしてみる。するとアキは、上機嫌でにんまり笑い、


「パジャマパーティーの開始です……」


何故か静かに開催宣言する。


「どうしたのアキちゃん、いきなりテンション下げて」

「んまぁその、ね……ちょっと真面目な話したいのよ。いいかな?」


 いつになく真剣な顔で、そう切り出す。


「ん、かまわないよ」

「同じくだよ」

「好きにするといい」

「瑞希様優輝様に異議がない以上、わたくしに異論はありません」

「んふふ、ありがとー。さっきのお風呂でのお詫びもかねて、あたしのとっておきの秘密を話したげる」


 時折見せる、どこか寂しそうな笑顔でアキがそう言う。


「この事は、双子の子と友達になれて、実家にお泊まりさせてくれるくらいの親友になれたら、話したかったんだけどね。だから、昔からの親友のヒロにも……ううん、家族にも話した事ないんだけど」


 今の僕らの関係と状況にピンポイントだった。そんな、かなり限定された状況に現在なってる訳だけど、アキは何を話すつもりなんだろ。


「実はあたしの名前、最初はあかねだったんだよね 」


 ん? どういう意味だろ。


「改名したの? というか、最初って?」

「最初も最初、生まれた時だよ。あ、お母さんのお腹にいる時には付けられてたらしいから、正確には生まれる前からだけどね」

「ふむ……なるほど」


 姉さんが意味深に頷く。この顔は……アキが何を話そうとしているのかを察したようだ。


「姉さん」

「うむ、わかった」


 でも、アキに最後まで話させたいから、それ以上は言わせない。


「でね。あたしには、妹がいたんだよ……いるはずだったんだよ。その子も、生まれる前に名付けられててね。その子の名前が、あおい


 茜と葵。アキの名前に使われている字だ……うん、僕にも話が見えてきた。


「あたし……私達、双子だったんだよね。それでそれで、えっと、それで……でも、葵は、妹は、その。あたしが物心つく前には、もうどこにもいなくて」

『…………』


 ……予想以上に重い話だった。雅がいたらシリアスブレイクしてた恐れがあるから、そういう意味でも席を外してもらって正解だったかも。


「私達、どうも水城ズと同じで、一卵性だったみたいなのよ。だからなんていうか。両親から、茜葵は本来茜って名前で、葵っていう双子の妹がいるはずだったって話される前から、言いようのない寂しさっていうか、いるはずの人が側にいない喪失感っていうかを、ずっと感じてて。だからね、その……あたしが双子と友達になりたかった理由が、それなんだ」


 ……そういえば、アキが寂しそうな顔をしている時は、決まって僕ら双子を羨むような事を言っていた気がする。なるほど、今の話がその理由なんだ。


 多分アキは、仲の良い双子――僕らの様子を側で見て、自分に言い聞かせたかったんじゃないだろうか。もし、葵が隣にいたら、僕らのような仲の良過ぎる姉妹になれていたんだろうな、とか。


(……。アキに、何か言ってあげたいな)


 親友として、アキにどんな言葉を送れば良いだろうか。

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