44話 実家の安心感は異常
「おぉー、ここが鷺宮村ねー……特にないね」
「まぁさっきも言ったけど、特産品もないし、守護者記念館的な施設があるわけでもないしね」
軽めのハイキングから戻り、車で約15分。僕らの生まれ育った場所、鷺宮村に到着した。ちなみに運転手は僕だ。
精霊国での自動車の免許取得可能年齢は15歳からとなっている。ただし、15歳で取得するには、少し面倒な手順が必要だ。
まず、試験を受けるためには、両親または存命している大人の親族の立ち会い、そして、親族以外の社会的に見て信頼の置ける大人も1名立ち会わなければならない。
教習所へ通う事は義務付けられてはいないけど、通わずいきなり試験に挑む場合、合格に必要な点数は筆記・実技共に98点と、かなり厳しく設定されているらしい。実質間違えられる箇所は一箇所づつだ。なので、普通の人は教習所で充分学んで認可証をもらってから本試験に挑む。
僕も、最初は教習所に通おうと思っていたのだけど。村から1番近いとこでも車で飛ばして往復1時間はかかり、家族で免許を持っているのは仕事柄長期間家にいられない父さんだけだった。
ので。あまり父さんに負担をかけさせたくなかったのもあって、とりあえず試しで試験を受けてみたんだけど……一発合格してしまった。まあ、父さんのお古の教科書やネットで調べたりして、知識は頭に叩き込んで置いたけど。
ちなみに、今日乗って来た車はネイ先生に借りたものだ。ネイ先生は連休中、用事があって学園都市から出れないらしい……残念。
「優輝〜よく無事で帰って来たな〜寂しくなかったか〜おーよしよしよしよし!!」
家の玄関を開けるなり、僕がただいまの声を上げるより早く父さんが飛び出してハグして頭ナデナデしてきた。
「ちょっやめてよ父さん! というか、寂しくなかったかはこっちの台詞だし、ちょくちょく電話してたでしょ!」
「優輝よ、親父殿は直接会うのはひと月ぶりなんだ。多少大目に見てやってくれ」
「わかってるけどさ! 友達連れてくるって言ってたんだから出会い頭は自重してよ、もうっ!」
「ふむ……2人は以前お会いしたね。改めて自己紹介しよう。私の名前は水城 鷲王、瑞希と優輝の父だ」
僕に抱きついたままアキヒロに顔を向け、そう挨拶する父さん。
「鷲王さんが騒がしくてごめんなさいね。私も改めまして。水城 美奈です、2人の友達になってくれてありがとうね」
後から普通に出てきた母さんが、父さんに続いて自己紹介する……母さんがアキ達に見えない位置で父さんをつねっているけど、父さんは顔色1つ変えず僕をナデナデし続ける……何この状況。
「いえいえ、どうしても友達になりたいと思って無理矢理迫った感じなんで、ありがとうはこっちの言葉ですっ」
「わっ私も! いえ……私みたいな底辺候補者が素敵な水城さん達とお友達になれたなんて、いまだに信じられないんですけど。だからそのっ……本当に不束者ですがっよ、よろしゅくお願いしましゅっ!! ……うー……」
緊張して台詞を噛んだヒロを見るの、半月ぶりくらいかな。可愛い。
「ふふっ。ええ、2人をよろしくね、アキさんヒロさん」
噛んだことには触れず、微笑んでそう返す母さん。声には出さないけど、心でありがとうと述べておく。
「それで、後ろの2人は……メイドさんの方は話には聞いていたけれど。そちらの男の子は?」
「……男……だと……」
何故か絶望顔でそう呟く父さん。
「友達3人来るって伝えてたでしょ? 彼が雅だよ」
「どーもです」
「いや、「雅」という名だから、てっきり女の子かと思っていたのだが」
「……雅が男の名前で何か悪い? それを言ったら、僕らの瑞希も優輝も、男女どちらにも使われてる気がするけど」
「いや、それはそうかもだが……すいません」
「……ふふっ、別に怒ってないよ。現在はね」
「ああ、うん、そうか。それはなによりだ……」
うん。ちょっと意地悪言って父さんのテンション下げたかっただけで、本当に怒ってはいない。
「ねー瑞希。もしかして優輝、自分の名前にコンプレックスでもあるのん?」
「ふむ。昔、名前で少々揉めた事があったな。優輝が言った通り、本当に今は怒ってはいないが」
「名前、ですか……確かに「ゆうき」って、男の子に多い感じの名前ですしね」
「あーなるなる。んもぅ優輝ったら変なとこ気にするねぇ。こんな可愛い子が男の子のはずがないでしょうに」
「うむ」
「だよね」
姉さんはともかく……アキヒロの小声(聞こえてるけど)が心にチクチク刺さって痛い。父さんのテンションだけを下げるつもりが、自分のテンションも下がってしまった……はぁ……
「ども、はじめまして。同じクラスで、守護者を目指している間崎 雅です! 水城さんと友達で、咲様に会いたいのでついて来ました!」
僕と父さんとの微妙な雰囲気を気にせず、雅が自己紹介をする。
「マミヤったらどストレートだねぇ」
「ん? どういう意味だ?」
「いやまぁマミヤらしい真っ直ぐな自己紹介だけどさ。2人をダシに使ってこの村に来たみたいなこと、2人の両親に対してよくそのまま伝えられるなぁってね」
「んー??」
「わかんないなら気にしないで良いよー」
「そうか? なら気にしないけどよ」
うーん……雅、大物。
「ふむ、なるほどな。なかなか面白い男子だな、気に入った。優輝に対して色目を使っていないのが特に良い」
雅の発言に、父さんの機嫌が悪くならないかちょっと不安だったけど。逆にそれが良かったらしい。
「それにしても、当然と言えば当然ですけど。鷲王さんと美奈さん、瑞希さんと優輝さんによく似ていますね」
唐突に、ヒロがそんな事を言い出した。
「ほう、そうかい?」
「は、はい。髪の色とか顔立ちは、お二人のいいとこ取りな感じでしょうか。瞳の色は、瑞希さんはお母さん、優輝さんはお父さん似ですね。性格的には、瑞希さんはお父さん似、優輝さんはお母さん似かなって思いました」
『ふむ……』
僕ら家族4人、顔を見合わせて確認する。今までたいして気にしてなかったけど……確かに、ヒロが挙げた通りな気がする。
ヒロ、わずかな時間でよく見てるなあ。さすがの観察眼だ。
「やはり君は良い目を持っているな。うむ、瑞希に優輝! 本当に良い友を得られたようだな!」
「ふふっ。私も、3人共気に入ったわ。2人共々、私達ともよろしくね」
ヒロの台詞は、父さん母さん的にクリティカルヒットだったらしい。かなりの上機嫌で、家族にしか見せないような笑顔と声でそう答えた。
「はいっ」
「よっよろしくお願いしますっ」
「はい、こちらこそっす」
そんなこんなで家族に友達を紹介し、自室に荷物を置いて……うーん……
「……やっぱり自分の部屋は落ち着くなー……ひとねむりしたい……」
ひと月ぶりの我が家と自室に安心し、少しゆっくりしたい気分になった。
けど、時間は現在午後4時近くだ。今日中に咲さんに雅を紹介だけでもしたいし、夕飯の仕込みの手伝いもしたい……時間は有限だ。
「というわけで」
「ということで!」
「ここが、守護者珠洲野守様のご自宅! ありがてぇ……!」
家でゆっくりせずすぐに動き、今は雅の台詞通り、咲さんの家の前まで来ていた。
ちなみに、一緒に来たのは雅とアキだ。
姉さんは僕と同じ気持ちらしく、久々の我が家なのでゆっくりしたい、と断られた。
ヒロは、母さんが手作りマドレーヌ出してきたので、お茶しながら母さんと雑談している。
父さんは、まだ慣れていない男性だとヒロが緊張するだろうから変なチョッカイ出さないでね、と釘を刺したら、姉さんと静海と一緒に引きこもった。
「雅、一応もう一度言っておくけど。咲さん、変にかしこまられたり崇められたりするの嫌がるから、拝んだり祈ったりとかしないでね?」
「ああ、わかってるよ」
「くすっ、それはなによりです。優輝さんも、気遣いありがとうね」
「いえ、別にたいしたで事は……こんにちは咲さん、ただいまです」
「へ?」
「ん? ……うおっ珠洲野守様!?」
いつの間にか、咲さんが真横にいた。内心ビクッとしたけど、なんとか表には出さずに返答した。
咲さんには、学園で出来た友達を紹介したいと事前に連絡してはいたけど……驚かせようと外で待ち伏せしていたらしい。さすがはネイさんの母親、お茶目可愛い。
「あっおひ。はじめましてっ! 優輝の親友っ海老江 茜葵でーす!」
アキは入学日に出会っているから、ついお久しぶりと言いそうになったようだけど、雅には内緒だったからとどまったようだ。
猪突猛進気味なとこもあるけど、空気の読める良い子だよね。アキ好き。
「お、俺もはじめましてです! 優輝の友達で間崎 雅でっ守護者に憧れて目指していて! ずっと憧れてました!」
逆に雅は、珍しく緊張した様子で自己紹介した。アキが言い直したのにも気付かなかったらしい。まあ、雅なら普段でも気付かなかったかな。
「はい、よろしくお願いします。二人共元気いっぱいで良い子ですね。頑張ってね」
あえて具体的には言わず、全てを肯定するかのように、母性のこもった声と微笑みでただ励ます咲さん……やっぱり素敵。僕の理想だ。
「す、少しの時間でいいんで、戦闘のご指導願えませんか! えーと、良ければその後夕飯とか一緒にどうすか!?」
「雅、緊張してるのはわかるけど。なんか後半の部分だけ聞いたら、口説いてるようにも見えるよ」
「え、そうか? あーまぁ、ある意味口説いてるし、間違いじゃないか」
「あらあら。こんなナリだけど、私お婆さんですよ?」
「はぁ。守護者だから、身体は若いっすよね」
「確かにそうだけれど……くすっ、面白い子ね」
もう雅ったら、相変わらずストレートに思ったこと言うなあ……咲さんが満更でもなさそうに少し頬を赤らめてるのを見れたから、ちょっと面白いけど。
「むぅ……」
おや。何故かアキが少し不機嫌そう? あれ、もしかしてアキ……
「咲様っもう夕方ですけど、指導してくれる時間とかあります?」
アキが急かすように話題を修正する。
「ええ、少しの時間なら構いませんよ。ただ、この後首都へ行かないといけないから、夕餉は無理ね」
「っしゃ。よろしくお願いします!」
ガッツポーズをしてからお辞儀をする。良かったね、雅。
それにしても。また首都かあ。
「咲さん、少し前にも首都に行ってましたけど。最近忙しいんですか?」
「そうね……半月ほど前から、魔獣が少し増えてきていてね。10年以内に封印が解ける予想ですから、増える予想はしていましたけど。思ったより活性化しだしたのが早いから、警戒レベルを早めに上げる予定なんですよ」
「そうですか……」
魔神が復活する、か。
咲さん曰く、今の咲さんと同レベルの強さらしい……魔獣は討伐したことあるけど、当然比較にならないほどの強さだろう。魔神とまともに戦うなら、最低でも最上級精霊剣でないと、だよね。
「お、俺、頑張って守護者になります!」
「あたしもがんばりますよー!」
「ええ、期待させていただきますね」
二人は元気良くそう宣言する。
「精霊神剣に選ばれるかどうかはともかく。みんな良い精霊剣と巡り会えると良いね」
「ああ、そうだな。まずは会わない事にはなぁ」
「だねぇ」
現在確認されている神話級精霊剣は、計6本。
『金剛』『極光』『暁闇』
『鋼鉄』『粉砕』『重圧』
だ。
この内『金剛』は咲さんが契約中。
『極光』はユーナ、『暁闇』はアスターという守護者が契約者だけど、現在魔神封印中。
残り3本のうち所在が判明しているのは、国が管理している『鋼鉄』と『粉砕』。
『重圧』のみ、現在行方不明中で鋭意捜索中。
咲さんの話によると、魔神大戦当時、「エリス」という名の守護者候補が契約に挑んで持ち出して以来、エリス共々行方が分からないらしい。
現在に至るまで国内で有力情報は得られていないので、最近は海外にまで捜査の手を伸ばしているらしい。
(僕や姉さん、学園で出来た友達の中から、新たな守護者は果たして生まれるか否か……)
現在所在が分かっている『鋼鉄』と『粉砕』には、二年生の時に触れ合える機会がある。精霊神剣に気に入られるように、自己鍛錬をもっと頑張らないとね。
書いてると、キャラが勝手にしゃべって予定より長文になったりして困る時がよくあります。




