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43話 実家に帰らせていただきます(連休なので)

「さて。豚角煮の続きをやりますか!」


 雑談してトマジュー飲んで、だいぶ気分が良くなった。調味液と食材を鍋に入れ、軽く煮立ったら、弱火にして鍋底が焦げ付かないように時折チェック、と。


 コトコト、コトコト……おいしくなーれ。ふふふ。





 調理再開して30分程経過した時。


ピポピポピポピポーン!


 インターホンがリズミカルに連打された。普通なら迷惑行為と咎められても仕方ないけど。


「……噂をすればで本当に来るとはね」

「うむ。この巫山戯た行動は、ヤツだな」


 豚の角煮調理中の今は、こんな鳴らし方をする人物に心当たりがある。


「優輝ーー豚角煮ただいまーーーー!!!!」


 ちょっとおかしな、元気の良過ぎる声が家中に響く。予想通り、豚の角煮が大好きな友人が帰宅したようだ。


「んっはあぁぁ〜やっぱり豚角じゃあっしゃあああっっ!!」

「まあ、エリスなら換気扇からの匂いで当てるよね」

「相変わらず犬のような臭覚だな」


 顔を見せるなりすごい気合いの入った叫びとガッツポーズを披露する。まだ食べてもらう前だけど、ここまで喜んでるのを見れただけでも、作ってよかったと思えるね。


 彼女の名前はエリス。僕の親友の1人だ。


「もしかしてもしかしてっあたしのために作ってくれたのかなかなぁ!? んふ〜優輝大大大好き〜〜!!!!」

「あ、ありがと」


 ……公然と僕を好きと言ってくれる人は、姉さんを含めて数人いるけど。ここまで好意を振りまくのはエリスくらいかな。


「別に今回は、エリスのために作り始めたわけじゃないよ。まあ魔神強襲があったから、来るだろうとは思ったけどね」

「んもーイケズだなぁ、そこは嘘でも「もちろんエリスのためだよ」って言うとこでしょ!」

「嘘はダメだよ。あーあと、噂話をしてたんだよね」

「噂? あたしの?」

「うむ、豚角煮の話だな」

「それだとアタシが豚角煮みたいじゃんっ! 否定はしないけど」

「しないのか……ふ」

「……何よその可哀想な娘を見るよな目は」

「哀れな敗北者を見る目だ」

「OK表へ出なケッチャコをーー」

「ふふふっ」


 相変わらず、エリスは元気可愛いなあ……うん……元気可愛い。


「学生時代のヒロと、ヒロの好物を豚角煮にした時の話をしてたんだよ。それで、せっかくだから豚角煮作りたくなってね。でまあ、豚角煮といえばエリスだし、噂したら来るかもねって」

「ほむ……」


 思い出話にはあまり関心を示さず、視線はすでに鍋をロックオンしていた。

 まあ、大好物の豚角煮を目の前にしてるし仕方ないか、学生時代の話はエリスとは直接的には関係ないしね。豚角煮でお腹が満たされれば、もっと関心を向けるだろうけど。


「そんなじっと見つめてても、まだ煮えないからね。というかどっちにしても、煮込み終える時間的に夕飯には少し早いから、まだまだ食べられないよ?」

「じっじゃあ先行味見だけでもっじゅるっ」

「……味見の時にご飯は出さないよ?」

「うー、それはつらぁい……我慢するしかないかなー、空腹は最高のなんとかだし、でもなー」


 こちらをチラチラ見ながらソワソワウズウズするエリス。可愛い。


「静海にクッキー焼いてもらうから、それで我慢しなさい」

「ちぇー、はーい」


 けどまあ、それだけじゃあ辛いだろうし。


「せっかくだから、煮込み中の雑談に付き合ってよ」

「恋人としての付き合いもOKだよ?」

「ここ数日は、主に学生時代の思い出話をしてるんだけど。それでいいかな?」

「むぅー優輝のイケズぅー……でも好きっ」


 アキみたいな口調で姉さんみたいな事を言うエリス…………うん、まあ。好いてくれるのは嬉しいんだけど。僕には恋人いるから、反応に困る。


「それは優輝がか? 優輝の料理がか?」

「もちろんりょっ。両方!」

「今言い直したよね?」

「うむ、言い直したな」

「ソンナコトナイヨー」


 わざとらしい棒読みでそう言うエリス。まあ、言い間違えたのも言い直したのもわざとだろうけど。


「そいで、学生時代の思い出話ってどんなの?」


 露骨に話題を元に戻すエリス。


「んっと。さっき静海と出会った時の話をしてたから……」

「うむ、確認しながらの方が鮮明に思い出せるだろう」

「優輝様、どうぞ」

「ありがと」


 姉さんがそう言うと、静海が日記を同時に持って来た。ツーカーって感じだ。


「あぁなるなる、当時の日記見て思い出しながらお話してたのね」

「そうだよ。えー次のイベント的なのは……やっぱり、5月の連休かな」





       ――――――――――





 精霊国には、5月の真ん中にグリーンウィークという大型連休がある。


 祝日が一週に固まった事から、いっそまるまる一週間休日にしようということで始まったらしいけど、いつから言い始めたのか、名前の意味は何なのかとかの名称の起源は曖昧らしい。

 4月から始まった新年度の疲労抜きに、新緑が芽生え始めるこの時期に大自然を満喫し、心身ともにリフレッシュしてもらうため。

 精霊は自然の力だから、新緑が芽生え木々の生命力が活発になるこの時期に、精霊、もとい大自然に感謝をするため。

 などなど、諸説ある。


 まあ由来や名称はともかく、大型連休だ。観光地に泊まりがけで遊びに行く人もいれば、実家に帰省する人もいる。


 で。僕らは、後者の方だった。まあそれ自体は予定通りなんだけど。


「グリーンウィークなんだし、やっぱり新緑を満喫しないとだよね」

「相変わらず、優輝は緑が好きだな。私も、優輝の瞳の色と似ているから緑は好きな色だが」

「でも姉さんって、水色というか、ライトブルー系の方が好きだよね」

「うむ。まあ、私の瞳の色に近い色はな」


 木々に囲まれた山道を、雑談しながらゆっくり歩く僕達。まっすぐ家には行かず、比較的実家の近くの新緑が楽しめる観光スポットに立ち寄ってから村に行く事にした。

 理由としては、先程姉さんが言っていた通り、緑が好きだから。それと。


「うーん。この季節のハイキングは、緑が美味くてやっぱいいな!」

「んーと。それを言うなら、空気が美味しい、じゃないかな」

「あーそうだな、そうとも言うよな」

「道草を齧っているでもなし、そうとしか言わないが」


 雅が天然発言をして、僕と姉さんがツッコみ、


「道草を齧る、かぁ……美味しい山野草この道に生えてるん? おっなんかあれセリっぽい!」

「アキちゃん、それドクゼリだよ」

「おぉう有毒植物じゃん。ていうかパッと見でよく判別出来るねぇ、手にすら取ってないのに」

「匂いでわかるよ」

「……ヒロの嗅覚、犬並みなんじゃ?」

「かもねぇ。まぁ食材限定な気はするけど」


 アキが食べられそうな野草を探し、ヒロが即判定していた。


 今回の僕らの帰郷に、アキとヒロ、雅が付いてきていた。それぞれの理由としては、


「親友の実家にはお泊まりしないと!」

「お、同じくですっ……あと、水城さんズのお母さんの手料理に興味があります!」

「守護者の咲様が住んでる村だよな? 俺も同行させてくれないか!?」


とのこと。


 でまあ。せっかく僕の地元に学園で出来た友達を連れて行くので、家に直行しないで寄り道したかった、というのが1番の理由だ。


 ちなみに他の友達は、みんなそれぞれの実家に一時帰宅するらしい。ちょっと残念。





「んふーこのチーズケーキ美味しいよー」

「うむ、私もここのは嫌いじゃないな……酸味が絶妙だ。優輝の作るヤツの次くらいには良い」

「テラス席空いててラッキーだったね」

「自然を眺めながらのティータイムも、なかなかオツだねぇ。うまうま」

「ミックスサンドも美味いぞ」


 で。気軽に寄れるちょっとしたハイキングコースを進んで滝を眺め、今は近くの山小屋系喫茶店「山度逸サンドイツ」で小休憩中だ。

 僕と3人はチーズケーキとドリンクのセットで、雅だけスイーツ系ではなく、ハムレタス・タマゴサラダ・ツナタマネギのミックスサンドセットを頼んでる……ああ言うの頼むのって、男の子って感じだよねー…………少しだけ複雑な気分。あーチーズケーキ美味しー……


「そう言えばちょっと気になってたんだけど。水城ズの実家のある鷺宮村って、守護者の咲様が普段暮らしてる事が有名になってるけど。それ以外に有名な何かってある?」

「んー。もう少し具体的に質問してくれると助かるかな」

「そだねぇ。ユーナ様以外の過去の偉人とか、有名な芸能人とか。後は……特産品とか」

「有名人……は、特には思いつかないなあ。特産品は……」


 少し悩む。TVで紹介されたりで、それなりに名の知れてる(多分)食べ物はいくつかあるにはあるけど……正確には村のっていうより、この地方一帯のって感じだし……となると、原材料の……


「コムギ……?」

「何故疑問形?」

「うどんとかおまんじゅうとか、小麦粉食品でまぁまぁ有名なのがこの地方にあるから……でも、地方であって村特有ではないか。小麦の生産量は全国的に見ても比較的多かったような? あーでも結局それも、村のって言うよりこの地方のって感じだなあ……ということは」

「ということで?」

「守護者関連以外では、特にないかも」

「ふみゅふみゅ」

「あえて言うなら、魔獣の発生率が全国1位なことだな」

「それもやっぱり、守護者関連だしね」

「んまぁ、魔神の封印地に最も近い村だし、そこは仕方ないねぇ」

「そう考えると、水城さんズの村の人って、逞しいですよねーむぐむぐ」

「んー、まあそうだね」


 鷺宮村は、守護者ユーナを輩出した村で、村から北上すること約90キロ程進んだ場所に、魔神の封印地がある。

 そこから半径約25キロ前後には、魔神に使役されていた魔物が隠れ潜んでいるようで、昔から魔獣化した動物が週一くらいで発見されている。


 魔獣は魔神の指示がない場合、人間の多い場所や、守護者の咲さんのような、存在力の大きな人物のいる方向へ進んで行くらしく、半径30キロ以内に監視役以外で人の集落を作ることは、守護者や守護者有力候補者が在住する以外の理由では認められていない。

 ので、いまだに30キロ圏内の大半は、魔神大戦当時のまま荒れ果てた場所が多い。少なくとも、魔獣がいつ襲って来るかわからないところに住居は構えられない。


「それで? アキは何が食べたいの?」

「むぅ……質問の意図に気付いてらっしゃいましたかー、さすゆう」

「意図? 鷺宮村の人たちがどれだけ屈強か聞きたかったんじゃないのか?」

「あーそうそうそれ聞きたかったんだよー、なんだマミヤも単なる天然じゃなかったのねん」

「マミヤ、コイツは村の名物料理が食いたくて遠回しに聞いていただけだ」

「ちょっ瑞希ったらバラさないでよ〜! なんかスベったみたいでハズいからぁ!」

「うん? 別にいいんじゃないか? 俺も優輝の料理食いたいし。あ、料理はアキも好きだったよな、ならアキのが食いたい」

「のがって。雅、相変わらず恥ずかしげもなく良くそんな事言えるね」

「『お前が言うな』です」

「えっ? …………そですね」


 僕もたまに、同じような指摘受けてました……恥ずい。


「え、えっと……おうどんセット!」

「へ?」

「山菜鶏うどんに狐寿司を一個付けたのが、郷土料理みたいなものだから。それを作るよ」

「まあそれも、守護者ユーナの好物だからな。結局は守護者関連ではあるな」

「ほむ、ユーナ様の」

「それがユーナ様の好物だったって情報も、咲さんはうちの家族にしか教えていないらしいし。正確には郷土料理じゃないんだけどね」

「ユーナ様って、身を呈して魔神の1人を封印した守護者の事だよな? 守護者の好物ってなんか力が付きそうでいいな! 是非食わせてくれ!」

「私も食べたいです!」

「2人とも、そんなに目を輝かせても、まだ僕のうちにすら着いてないんだから。すぐには出せないよ?」

『えー』


 僕以外の全員が文句の声を漏らす。何故か姉さんも。


「しょうがないなあ。じゃ、そろそろ出ようか」

「うむ、そうだな」

「よっしゃ、次は鷺宮村かー! 俺、生咲様に会えたら握手とサインもらうんだ!」

「いよいよ水城ズの実家かー! なんかワクワクするねぃヒロ?」

「そうだねーアキちゃん……え、なんで私にふったの?」

「んにゅ? べつに―?」

「も、もうっアキちゃんったら……」

「?」


 純粋なまなざしで楽みにしている雅に、ニヤニヤ含み笑いのアキ、楽しそうながらほんのり頬を赤らめ微笑むヒロ。雅とアキはわかりやすいけど、ヒロはこれどういう感情の表情だろ?


 そんなこんなで、今度こそ実家の方に向かうことになった。





 ちなみに、山道入口の駐車場に止めてある車では、静海がお留守番をしていた。


「瑞希様より賜わったわたくしの戦闘メイド服を、山道で不要に汚してしまう恐れがありましたので」


らしい。







登場人物紹介


秋広あきひろ エリス


容姿:金髪セミロング 左サイドテール 可愛い

身長:140cm

性格:明

好物:優輝の豚の角煮

嫌い:食べられないもの

趣味:地方の穴場な美味しい料理店探し

属性:地


 元気可愛い中学生ぐらいの金髪赤眼の少女(見た目年齢)。

 優輝が大好き優輝の料理も大好き食べるの大好き。特に優輝の作る豚の角煮が超好き。

 低身長だが、意外とバストはある。巨という程ではないが。

金曜中に投稿する予定でしたが、少し遅れてしまいました。申し訳ありません。

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