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35話 それぞれのスタイル

 ダンッ‼︎という激しい音と振動を起こしてヒロが力強く踏み込んで飛び上がり、佐藤君に上段から棍を振り下ろす。


「うおこえぇ‼︎」


 ボッという破裂音にも似た風切り音を立てながら迫る棍に本気のビビり声を上げて、長剣を上段に構えつつ少し後ろに下がって避ける佐藤君、いや――


(あれは避けられたというより、ヒロは当てる気がなかった、かな)


 正確に言うなら。初手の全力とも思える飛び上がりからの打ち下ろしは、フェイントだった。


「イヤアッ!」


 打ち下ろして深く屈み込んだ姿勢から一切の力を抜かず、さらに足に力を込めて踏み込み突き出した棍は、彼の上段ガードの姿勢で晒した腹部、鳩尾に吸い込まれるように叩き込まれた。


「め"っ――」


 擬音にするならメゴッて感じの音を立てて壁際近くまで吹っ飛ぶ佐藤君。ピクピク痙攣してるからギリ死んではいないけど、瀕死っぽい。


「そ、そこまで! 鯨井さんの勝ちですっ」


 一瞬呆気にとられた顔をしていたネイ先生だけど、すぐに気を取り直して短く勝敗を告げてから佐藤君へ駆けていき、治癒術をかけはじめた。


 さらに一拍後、状況を理解したクラスの大半が、思わずこう感想を口からこぼしていた。


よっわ!』


 ……うん、まあ。みんなの気持ちは分かる。前3つの組手が制限時間ギリギリまで決着付かなかったのに対して、ヒロと佐藤君の組手は、多分5秒程しか経っていないしね。


 確かに彼は、僕の予想的にも弱かった、けど。


「ふむ。強いな」

「だね」

「私は知ってたもんね!」


 数秒で決着が付いた最大の理由は、やっぱりヒロが彼より数段強かったからだ。多分、事前情報無しなら僕でも苦戦すると思う。


 というか、ネイ先生も一瞬とはいえ唖然としていたから、ヒロの実力をちょっと見誤っていたっぽい。


 その理由はやっぱり。彼女の自信のなさのせいだろう。


「お疲れー! 痴漢が相手の時のヒロはやっぱいつも以上に強いねぇ!」


 組手を終えたヒロが静々とこちらに近寄って来た。って、なんか様子がおかしい?と思っていると、


「…………」


糸が切れたようにペタンとその場に女の子座りで座り込む。


「ふえぇ……怖かったよぉ〜アキちゃあぁ〜ん……」

「あーよしよしっ。んにゅ、エロい視線に耐えて良く頑張ったね、感動した!」


そして、涙目涙声でアキに抱き締められ慰められる。


「あっさり終わったのは、佐藤 真君(巨乳好きのエロいヒト)だったから、ていうのもあるかな」

「ふむ、変態属性に対して特攻か」


 姉さんが、今朝ヒロに一撃で沈められた飯屋峰君の方を見ながらそう言う。確かにそうかも。


(とはいえ。魔神はどうかわかんないけど、魔獣にそんな属性はないし。自己評価の低さは弱点だよね……ヒロ、頑張ってね)


 今この状況でそれを直接言ったらヒロを傷付けてしまうので、僕はアキの腕の中で震えるヒロに対して、心の中で密かにそう激励した。





「おっ、おおお恥ずかしい所をお見せして! も、申し訳ないですー……幸子さんの組手も満足に見れなかったですし……」

「別に気にしないで良いわよ。すぐに終わったし」


 ヒロが落ち着いたのは、サチさんの組手が終わる直前だった。組手を終えてこちらに来たサチさんからもそう慰めの言葉をかけられる。


 サチさんの言う通り、彼女とチェーン君との組手は、最初の30秒程はお互い様子見するようにジリジリ間合いをはかりあっていたけど、焦れたチェーン君が動いてサチさんのカウンターの一太刀が綺麗に決まり、一瞬で勝負が着いた。


「みんなすごいね〜。てゆ〜か、今んとこ負けたんアタシだけだね〜」


 ヒロの1つ前の試合だったパフィンさんが、ゆるゆるな口調で悔しげもなくそう言う。


「あなたね……もうちょっと真面目に出来なかったの?」

「そ〜言われてもな〜。アタシ銃だし、短剣初めてだし。時間ギリまで逃げ……避け続けた事を褒めて欲しい位だし」


 サチさんに説教くさい言い方をされて、ちょっと不貞腐れた感じて返すパフィンさん。

 というか、予想通り銃使いか。でもパフィンさんの動きとか性格を考えると、姉さんと違ってハンドガンタイプではなさそうかな。


「それでも短剣を選んだのはあなたでしょう? それならそれで善戦しようと努めるのが――」

「使った事ない物で善戦出来るわけないじゃん。アタシ勝てる戦いしかしたくな〜い」

「……やる前に諦めてるんじゃないわよ」

「やった事ないことイキナリ出来るわけない〜」


 あー、最初はサチさんだけだったけど、2人とも機嫌悪くなって来てるなあ。サチさんの生真面目な所は彼女の魅力だし僕は好きだけど、今回は悪い方向に進みかけてる。


 うん、良くない流れだ。なので仲介する。

 

「まあまあ2人とも、それくらいにしよ? 今は目の前の組手を見ようよ」

「あっ。そ、そうね、今試合してる2人に失礼だったわ」

「う〜」


 真面目なサチさんは僕の一言にハッとして、羽山さんとホリイさんの組手に意識を向ける。パフィンさんは会話を途中で中断されて不満そうだ。


 さて。2人が一旦落ち着いたし、フォローに入ろう。


「にしても、「勝てる戦いしかしたくない」か。良いセリフだね」

「「えっ」」


 驚きの声を上げる2人。サチさんもパフィンさんも、僕がパフィンさんの不真面目発言を好意的に取るなんて予想外だったのだろう。


 だからこそ、僕は肯定しよう。2人が意固地になって不仲になるのは嫌だしね。


「慣れない武器で勝ち目のないの戦いをするなんて、現実的じゃないしね」

「それは、まぁ確かに……でも」

「パフィンさん、さっきの組手、逃げに徹してたよね」

「お、おぉう、そだけど……」

「自分の得意とする戦い方が出来ないなら、良い選択だったと思うよ」

「「…………」」


 ……ん? 何故か沈黙された。予想と反応が違って内心ちょっとだけ戸惑う。


「優輝さんって……相手の良い所を探し当てるの上手よね」

「よね〜」


 何故か僕が褒められた。

 いやいや、そこは僕の指摘に対して「確かにそうね、少し頭が固くなっていたわ、ごめんなさいね」「ん〜、私も少し不真面目だったかな、て思ってたし。サッちゃんは悪くないよ〜」て感じの会話になるんじゃない? あれ?


「くすっ。優輝さんと友達になれて良かったわ」

「アタシも〜」


 仲良く僕に笑顔を向けてくる。可愛い……のはともかく。なんか解せないけど、何故か仲直り状態みたいだし、まあいっか。


「「……(にこにこ)」」

「ふふふ。優輝は可愛いなあ」


 他の3人も、僕に柔らかな笑顔を向けていた。


「みんなしてなんなのさ」


 なんか気恥ずかしくなって正面を向くと、羽山さんとホリイさんの組手が制限時間になり終了していた。という事は、次は巻さんと雅か。




 巻さんと雅の組手は、治癒術の方が得意らしい巻さんが精霊術主体で戦い、それを雅が迎え撃つ形式で行われ、制限時間までなんなく凌ぎ切った雅の判定勝ちとなった。


「お疲れ様、巻さん、雅」

「あ、どもっす」

「おう、ありがとな。まぁなんか、疲れただけで組手稽古した気がしないんだけどな」

「まあ、魔神はともかく魔獣は精霊術使って来ないしね」

「まあ、良い運動にはなったな」

「お役に立てたようでなによりっす。またお願いするっすねー」


 そう言いながら手をヒラヒラ振り去っていく巻さん。


 ふむ。巻さんとキチンと会話したのは初めてだけど、口調と同じく性格もサバサバした感じかな。僕の周りにはいなかったタイプだけど、嫌いじゃないかも。


 ちなみに、次の飯屋峰君と山本さんの組手は、飯屋峰君の圧勝だった。

 飯屋峰君は長剣と短剣の二刀流で、山本さんはトンファーだった。さすがにヒロのように瞬殺はされなかったけど、山本さんは終始彼に圧倒されて防戦一方だった。


(みんな、なかなか個性的な戦い方で参考になったなあ……まあそれはそれとして)


「ようやくだな」

「だね。お手柔らかにね、姉さん」

「今日の私の獲物は短剣だが……まあ、いつも通りにな」

「うん。ふふっ」


 さて。姉さんとの組手稽古の始まりだ。

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