36話 トマト大好き優輝さん
(はわわあ〜〜☆)
思わず間抜けな歓喜の声を上げそうになってしまった。変な目で見られたくなかったから自重したけど。
その日の夕食が、白米、トマトたっぷりミネストローネ、トマト・レタス・ベーコン・クルトンのシーザーサラダ、チーズ入りハンバーグ角切りトマトとバジルのソースがけフライドポテトとアスパラ添え……と、トマトづくしだったからだ。
あー嬉しい嬉しい嬉し……っと危ない、顔がニヤけそうだ。変顔を晒すと姉さんと友達の反応が怖い。し、しかし……ふふふふふふ……
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「あの……もしかして、優輝さんが言っていた、忘れもしないその日の葛藤って」
「あー、うん。夕食が大好きなトマトづくしで、内心狂喜乱舞してたんだけど。表に出さないように堪えるのに必死だったんだよね」
「もっと、人生に関わる重大な何かだと思っていました……」
「ああ、それなら、着替えの時にバレないかヒヤヒヤしたし、バレてたら人生終了もあり得たね」
「そんな取ってつけたように言われましても、説得力ありませんわ」
「まあ、その日1番の危機は回避出来たからね。日記にも「姉さんが丁度良いモノを用意してくれていて助かった」くらいしか書いてなかったし、葛藤の度合的には2番目かな」
「ふむ、さすが私だ。学生の時も優輝愛に溢れていたわけだ」
「……ある意味羞恥プレイだったから、そこはちょっと我慢が必要だったけどね」
「ふむ。優輝が真の意味で羞恥プレイなんてしていたら、学生の頃の私では理性が持たなかった恐れがあるな」
「わかります!」
2人してなに変なとこ力説してるんだか……というか、
「……何の話してたんだっけ?」
「その日の訓練のお話では?」
「その日の夕飯の、優輝の幸福に満たされた笑顔の話だな」
少なくとも、僕がトマトに満たされている時の話はほとんどしていない。
「確かに、トマト料理を食べている優輝さん、いつもとても素敵なお顔をされていますよねー……それはそれとして」
「うん?」
「私はクラスが違ったので見学出来なかったですし、その日の夕食も、部活で遅くなってご一緒出来ませんでしたから、優輝さんと瑞希さんの組手稽古の様子を聞けなかったんですよね。なので、今更ですが、今教えていただきたいですわ」
「あー……」
うーん。他の人の様子なら、まだ思い出せるけど。
「自分があの時どう動いていたかなんて、よく覚えてないなあ」
「うむ。いつも通りに訓練しただけだからな」
「確かに。いつも通りの事をしただけでしたら、客観視すら難しいですね」
「あえて言うなら、その客観だな」
ふむ。あの時の組手について、別の視点、というか、周りの人――友人達はどう見ていたか、どんな感想を抱いたか。
なんか言われた気はするけど……えーと……
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「優輝可愛い!」
「っ! な、なに突然?」
美味しい夕食に夢中になっていたけど、アキのその一言で我に返った。
「いやなんていうかね。さっきのレベルが違う組手見てから、優輝が別次元の人みたいに見えちゃってたのよね」
「はあ」
僕が可愛いのとその事がどう関係があるのか、意味わからないけど。確かにあの後からみんな、微妙によそよそしいというか、一歩引いた位置にいる感じはしていた……飯屋峰君は逆にさらに踏み込んできて鬱陶しかったけど。
「僕、変な戦い方でもしてたかな」
「優輝、逆だろう」
「そだよー! 凄すぎて無意識に敬遠しちゃったっていうか!」
「無駄の無い動きで攻め続ける瑞希と最小限の動きで避け続ける優輝さん……二人共凄まじかったわ」
「ありがとサチさん。と言っても、綺麗に避けられたのはほとんどなかったし、掠ってあちこち赤くなってて、さっきまでいろんな箇所がヒリヒリと痛かったんだよねえ」
まあ、組手中はアドレナリンドプドプだったからか、痛み出したのは授業後だけど。まあその痛みも傷も、自分で治癒術かけてすでに治ってる。
「大剣持ちが、短剣持ちの密着攻撃をあれだけ避けられる時点で、オカシイのよね……」
「だよなー」
「水城ーズマジ守護者最有力、て感じだね〜」
「んー……」
姉さんはともかく、僕なんてまだまだ……と言おうとしたけど思い留まり、昨日のネイ先生の指摘を思い出す。
謙虚に過ぎれば、嫌味に捉える人もいる。本心を相手に伝える前に、まず自分の実力・魅力を出来るだけ正しく認識する。
以上の事を踏まえた上で、適切な言葉は。
「守護者の咲様に直接鍛えてもらってきたし、実戦経験もあるからね。咲様の名にかけて、無様は晒せないよ」
こんな感じ、で良いかな? これでキチンと伝わったか、ちょっと不安だけど……
「ふみゅ……なるなる」
「それが、優輝さんの強さの理由なのね……参考になったわ」
「さすがだよな。俺が目指す理想の守護者候補だぜ、優輝は」
……よかった。少しクサいかと思ったけど、概ね悪くない反応だ。
せっかくだから、調子に乗ってもう一言。
「一応言っておくけど。今日のはあくまで非殺傷な訓練モードだからね。真面目に本気でやったけど、全力では……ない、かもね……」
と、不敵な感じで言い出した……けど、自意識過剰っぽい言い回しが途中で気恥ずかしくなってきて、最後尻すぼみになっていた。頬が熱い。
なに言ってんだろ僕。自分の魅力を嫌味なく伝えるって、なかなか難しい……
「お〜……カワイイとカッコイイが合わさって、ユキさんの魅力がなんかヤバい」
「俺も、堂々とそう言える位、強くなりたいぜ」
「くすっ、真の強者にのみ許された台詞よね」
何故か高評価だった。あれかな、中二病っぽい感じがカッコよく見えたとか……そう考えたら違う意味で気恥ずかしくなってきた……頭が熱い。
「戦闘中は強くて格好良いのに、トマトフルコースな夕食を幸せそうに食べてるの可愛すぎっ! さらに自分の発言で赤面しちゃってっ! んもー優輝ってば美少女力高すぎっ!」
「うむ、ギャップ萌えというヤツだな。ふふっ」
「もぐもぐ……」
僕の気を知ってか知らずか、アキは男性アイドルに黄色い声を上げる娘みたいに騒ぎ、姉さんは感慨深いとばかりな雰囲気でニヤニヤと、2人共変なテンションで僕を持ち上げる。そんな僕らを見て、他のみんなも親しげな笑顔になっていた。
唯一いつも通りなのはヒロだけかな……食事中だからだけれども。
とはいえまあ、なんにしても。
(組手後からの妙な空気がなくなったから、まあいっか)
食事前までの僕の懸念(トマトづくしで忘れていたけど)がなくなったから、より夕食が美味しく感じられた。
ちなみに瑞希VS優輝は授業終了まで続き、ダメージ蓄積量が多かった優輝の判定負けです。




