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28話 クラスの敵

「あの日の午後、何があったっけ」


 昼食後すぐ、日記を開いた。食事中の雑談でエビフライの日の午後の事が話題に上がったけど、何があったかイマイチ思い出せなかったからだ。


 ちなみに伊勢海老料理は、どれも超を付けたくなるくらい美味しかった。さすが高級食材、満足感がハンパない。


 ただまあ、敢えて言うなら。美味しすぎるからか、頻繁に食べたいとは思えなかった。


「えーと……んー……そっかそっか」

「どうでしたか?」

「夕飯のメニューと、美味しかったってくらいだね」

「ふむ。つまりは特筆すべき事はほとんどなかった、と言うことか」

「だね」


 入学初日から次の日の昼食までの記憶が濃厚だったせいで、午後も何かあったはず、と思い込んでいたようだ。


「そうですか……ふふっ、人の記憶は曖昧なものですからね」

「うむ。どうでも良い事は覚えていなくて当然だ」


 そう言い、みんなで笑い合う……


(人の記憶は曖昧、か。確かにそうだ)


……そこがなんか気になった。ふむ……んー。まあ、今は思い出話を楽しむことを優先しよう。


「まあ、次の日の事は、日記を見なくても思い出せるくらい記憶に残ってるけどね」

「次の日、ですか。入学初の授業以外に、何かあったでしょうか……」

「まあ、あの葛藤は僕にとってだけだったろうけど」

「優輝さんだけの……?」

「ふむ……」





       ――――――――――





 その日はその後、午後に姉さんと一緒に鍛錬をし、荷物をすべて片付け、みんなと一緒に夕食を食べ、姉さんと一緒にお風呂に入っ……てはいない。さすがに恥ずかしいし。

 それはともかく。何事もなく休日は終わった。





 翌朝。今日もいつも通りの時間に目覚めた。


「姉さん、朝だよー。鍛錬行くよー」

「……今日はパスで」

「ん、了解」


 姉さんが朝の鍛錬に付き合うのは隔日な感じだ。特に、父さんと一緒に首都に出かけた翌日は、必ずと言って良い程参加しない。まあつまりはいつもの事だ。





「ご馳走様でした」


 昨日とは違い、色々と余裕を持って朝食を終える。

 今日の朝食は、コンソメスープに、丸パン2つ、大好きなトマトのスライス、コールスローサラダ、ウィンナー3本が乗ったモーニングプレートだった。今日も大変美味しゅうございました。



「今日から授業か〜。初めての授業って、科目にかかわらずなんかワクワクしない?」

「あー、なんかわかるかも」

「俺は早く訓練の時間になって欲しいなあ」

「まだ眠いからどうでも良い」

「アタシもミズ姉さんに同意〜……ふぁ」


 小さく欠伸をするパフィンさん。さっき「目が覚めちゃった」とか言ってたけど、一時的なものだったらしい。


「2人は相変わらずやる気ないわね」

「必要が迫ったら本気出す」

「甘いのくれたら本気出す」

「わ、私は、食べ物くれたら?」

「あ、あなたたちね……というかヒロ、友人の悪い所は真似しない方が良いわよ」

「まぁまぁサチさん。やる気のスイッチを言ってる訳だし、大目に見てやってよ」

「優輝さんは甘いわね……けど、なるほど。そう言う見方も出来るわね」


 朝のホームルームが始まるまでの数分、僕の机の周りに集まり雑談した。

 すっかり仲良くなった僕らは、側から見たら数年来の友人のように映っていたかもしれないけど、実際は合って数日なんだよね……なんか不思議。

 そしてそんな僕らを、クラスの男子達が遠巻きに見ている。この美少女集団に話しかけられる勇者はいないようだ……雅は天然なせいでそういう発想自体が出てこないようだけど。まあ雅は例外だろう。

 飯屋峰君? 彼なら気絶して椅子に縛られている。よく縛られる人だ。

 ちなみに今回の理由は……





 朝一番、教室に入ると、飯屋峰君がヒロに無言で接近し、胸を鷲掴みにして揉みだした。


「ふむ、悪くない」

『………………』


 あまりに予想外の行動に、みんなの思考が一時停止した。


「イヤアァーー‼︎」

「ぼっ⁉︎」


 裂帛の声と共に放たれた拳が飯屋峰君の鳩尾に叩き込まれた!

 ……ちなみに、悲鳴を上げたのも腹パンしたのもヒロだ。無意識に拳を突き出したっぽい。痴漢に対する防衛本能だろうか。


「ぐっ……良い拳だがぱっ」 ぱちんっばぢっ!


 さすがにヒロのパンチだけでは気絶まではしていなかったので、指パッチンして電気を起こし彼に放つ。


「授業開始まで大人しくしてて」


 電撃で体が痺れ硬直した体を後ろに倒れさせる飯屋峰君


「授業開始まで座して待て」


の動きに合わせていつのまにか彼の背後に椅子を持って待ち構えていた姉さんが、椅子に座らせて縄で縛り付けた。


「あわわわわわ……」

「大丈夫だよヒロっ危機は去ったから! ほらっチーズかまぼこでも食べて落ち着こ?」

「えっあっち、チーズかまぼこ、うん、それ好き、ありがとアキちゃん」


 そして真っ赤になってアワアワするヒロを抱きとめてなだめるアキ。なるほど、ヒロは食い気で精神を瞬間的に鎮められる、と。憶えておこう。


「なんというか……流れるような良いコンビネーションだったわね。感心するわ」


 僕と姉さん、アキヒロを交互に見てそう感想を述べるサチさん。


「まあね、双子だしね」

「うむ」

「友達歴長いですから!」


 それに、僕らは当然と言った感じで返す。


「んにしても、ほんとご飯君はマジの残念イケメンだねぇ〜。もったいないな〜……ツンツっいたっ」


 椅子に縛られた飯屋峰君をツンツンしたパフィンさんが小さく悲鳴を上げる。あー。


「まだ帯電してるかもだから、触らない方が良いよ」

「……先に言ってよユキさ〜ん。目ぇ覚めちゃったじゃんか〜」


 涙目でそう訴える。可愛い。


「んお? そいや、ミズ姉さんは平然とした顔でご飯君に触れてたような〜」

「ふ、慣れているからな」

「おぉ〜、さすがミズ姉さ〜ん」


 実際はちょっと違うんだけど、まあ大雑把に言うと間違いではないし。訂正は良いか。





……まあ大体こんな事があった。


 それにしても。僕にちょっかい出してるだけなら良く……はないけど、まだ対処はしやすい。


 けど今回は、ヒロに手を出して来た。嫁達宣言の内の1人だった訳だし、こういう行動に出ることも十分予測出来たはずだから、ちょっと考えが甘かった。


 昨日の僕の失敗も含めて、彼への警戒度数をもっと引き上げて行動しないと……まさか、魔物じゃないのに警戒しなければならない存在が現れるとは。人生色々だなあ。


 初のホームルームが始まる前。そのほんのわずかな時間で、僕はさらに飯屋峰君を嫌いになり、飯屋峰君はクラスの男女全員から敵として認識された。

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