26話 高級海老
現代パートが少し長めかもです。
「優輝だからな、魅力的で当然だ」
「ん、ありがと」
「確かに、優輝さんは魅力に溢れていますね……ふへへ」
「ありがと……その笑い方でなければもっと嬉しかったんだけど」
「これが私の魅力の一部ですので」
「物は言いようとは言うけど。残念な部分は魅力と言っていいのかな……」
「ふむ、まあいいんじゃあないか」
興味無さげにそう言う姉さん。もう、また適当に相槌打って、しょうがないなぁ。
「さて、ご馳走様だ。静海、美味かったぞ」
「うん、ベーコンの焼き加減なんかは絶妙だったね。僕らの好みでとても良かったよ」
「ご馳走様でした」
「お粗末様です、皆様。有難きお言葉、感謝の極みです」
僕らの感謝の言葉に、静海は美しい洗練されたカーテシーをしてそう返す。昔僕もあのお辞儀やった事あるけど、いつ見ても静海のは綺麗だなぁ。
「そういえば、2人は今日何をするつもりだ? 私は優輝とイチャイチャしたい」
「僕は姉さんとイチャつく予定はないです」
「私は、昨日も言いましたが、新作衣装に関して少々行き詰まりを感じていまして。なので、しばらく気分転換でもしましょうかー……と思っていたのですが。優輝さんとのイチャイチャ、良いですね。是非観察させて下さい」
「だからないです。僕は買い物に出るからね」
「ならば買い物先でイチャイチャだ」
「だから……ついてくるの? 珍しい」
「暇だからな」
姉さんは普段、意外と忙しく動き回って回って寝る間も惜しんで限界が来たら帰って寝る、て事を割とよくしている。静海と一緒に。
集中力が持続する限り止まりたくないらしい。まあ精霊神剣の力を使えば極論寝ないでも良いしね。
ちなみに、姉さんが主に忙しく動いている理由の大半は、趣味に関してだ。つまりは僕に関する良かれと思った何かだ。姉さん好き。
それはそれとして。姉さんがすぐにやりたい趣味もなく暇を持て余しているなんて珍しい。
「姉さんが来たいなら、別に構わないけど」
「うむ、イチャイチャ買い物デートだ」
「素敵ですね!」
「だから……ま、いいや」
イチャイチャの語感がなんかちょっと恥ずかっただけで、姉さんと買い物は普通に嬉しいし。
「せっかくだから、みんなで一緒に行こっか。当然静海もね」
「優輝様が望まれるのでしたら」
というわけで、家にいた全員で一緒に買い物に出る事になった。
今日は複数人で出たので、いつも利用しているスーパーではなく、たまに利用する隣町の複合商業施設の大型スーパーに来た……美少女軍団だからか、1人メイド服を来ているからか、いつも以上に視線を感じるけどまあ気にしない。慣れてるし。
「あ、伊勢海老だ」
鮮魚コーナーの水槽に高級海老の代名詞がいた。
「なかなか良いサイズですね」
「精が付きそうです」
「ふむ……そういえば食べた事あったかな」
んー……ちょっと値段高いけど、たまになら良いかな……高級海老、か。
「伊勢海老といえば。アキヒロにエビフライご馳走様した時の話なんだけど……」
――――――――――
「そういや優輝、瑞希は?」
「もぐもぐ」
朝食時、モグモグしている最中にアキにそう聞かれた。とりあえず口に物入ってるから飲み込んで……
「んっく……姉さんは今学園にいないよ。用事で首都の方に行ったはず」
「へー、首都」
「もぐもぐもぐ」
「何をしてるのかは僕も知らないけど、昼には帰ってくるはずだよ。僕が料理作るからね」
「ふみゅ。つまりは優輝、半日は姉から解放されてるわけね」
「別に縛られてるつもりはないけど、まあそうだね」
「お昼の食材買いに出るんでしょ? あたし達も行くつもりだったからさ、一緒に行こうよ!」
「ん、そうだね。そうしよっか」
「やたっ! 優輝とデートだ〜!」
「もぐもぐもぐもぐ……♪」
スーパーで一緒に買い物ってデートなんだろうか、とか思ったけど、アキが嬉しそうだからいっか。
それと、ヒロがひたすら幸せそうにもぐもぐしているのがやっぱり可愛い。
そんな訳で。アキヒロと一緒に、学園都市の食料品店に行くことになった。
ちなみに他の友達は、荷解きやその手伝い、昨日に引き続き行われている部活見学に行くなど、予定が合わなかったので来れなかった。
4人分の食材の買い出しだけだし、大人数で来る必要はないからいいけど。ちょっとだけ寂しいかな。
「食材の目利きに関しては任せて下さい!」
自信満々にそう言うヒロを先頭に、スーパーに入る僕ら。道中、ナンパらしき男子何組かに声をかけられたけど、その都度ヒロが、
「食材を買いに行くので邪魔しないで下さい」
「アッハイ」
と真顔でキッパリ断っていた。普段の男性恐怖症気味が嘘のようにキリッとしていた。本当に食べるの好きなんだなぁ。
ちなみに僕らは、制服で外出している。
外出する際は外出届を出す訳だけど、届出用紙に外出時の服装を書き込む欄がある。
制服or私服を選択するのだけど、私服を選んだ場合、服の種類やカラーを細かく書き込まなければならない。
トラブル時に対処がしやすくなるからとか、色々理由があるらしいけど……書き込むのは少し面倒だし、まだ荷解きが完全に終わっていないのにオシャレな私服だけを引っ張り出すのも面倒だし。なので、制服で出る事にした。
「あ、龍海老だ」
エビフライ用の海老を買いに鮮魚コーナーに着いたら、高級海老が売っていた。
龍の名が付いている通り、食用にされている海老の中で最大級だ。
「おおっこれが龍海老の実物! テレビで見るよりおっきく感じるね〜……ていうかゴツい」
「確か、戦国時代の甲冑っぽいから甲冑海老って呼ぶ地方もあるとか」
「ふみゅふみゅ……しかしこれ、生きてるからって言うのもあるかもだけど、とても美味しそうには見えないね〜。最初に食べた人は偉大だ!」
「だね」
そんな感じで雑談していた訳だけど……さっきまで意気揚々としていたヒロが静かだ。どうしたんだろ?
「……(じいぃぃ〜〜)」
……よく見たら、目を爛々と輝かせながら龍海老を見ていた。それはもう穴が開きそうな位に一心に。
「……じゅる」
ていうかヨダレを垂らしていた。美少女のだらしない顔に、龍海老まで引いているかのように静止していた。
「ヒロ〜、優輝が若干引いちゃってるよ〜」
「はっ⁉︎」
アキの台詞に我に帰り、慌てて手の甲でヨダレを拭う……けど、目は龍海老を見つめたままだ。
(ふーむ……龍海老も、海老ではあるよね)
エビフライ用の海老を買いに来た訳だけど……これでも作れなくは……いやでも、こんな高級食材をフライに……いいかも……でも高いし……か、買えなくはないけど……そもそも龍海老は調理したことない……けど知識としては知ってるし……美味しい海老、最高の……食べてもらう、笑顔、美味しい、最高のエビフライで、ステキなランチを
「ちょっちょっと優輝、どしたの? なんか目がグルグルしてない?」
「最高の海老で、最高のエビフライを――」
龍海老に手を伸ば
「って買う気⁉︎ 1万近いよ⁉︎」
「で、でも、絶対美味しいし、エビフライだし」
「はい絶対美味しいです」
「あ〜もうっ! ヒロはともかく優輝まで……ぷっ。あはははは‼︎」
「……アキ?」
「アキちゃん?」
突然笑い出したアキに驚く。ていうか僕、今何してたんだっけ? 確か、エビフライ用の海老を……
「……あぅ」
くだらない事で変に悩んで正気を失いかけちゃっていたようだ。物凄く恥ずかしい。
「あ〜もうっ顔真っ赤にしちゃてコイツ! 可愛すぎかっ!」
ぎゅ〜っ
「ちょっ、いきなり抱きつかないでってば!」
というか、ここスーパーの一角な訳で。普通に目立っていた。周りの視線が暖かなものだったからまだ良かったけど、普通に羞恥プレイだ。
「とりあえず取り乱してごめん、それから離れて恥ずい」
「え〜いいじゃんイケズ〜……とまぁ悪ふざけはこのくらいにして」
そう言い、あっさり離れるアキ。
「優輝、変に気を使いすぎないでよ。確かに龍海老使ったら超美味しいエビフライを作れるかもだけどさ。あたし今日は、普段優輝が作ってるエビフライが食べたいよ」
「……そうなの?」
「うんそーなのっ! それに、普段の優輝のレシピ、教えてもらいたいしねっ」
「……そっか」
うん。アキの言う通り、変に気を使いすぎるとこだった。気を使う場面も適切な時と場所があるものだよね……反省、反省。
「さっそうと決まったら、普通の海老を買おう! ほらヒロ、出番だよ〜」
「え……でも龍海老」
「ってまだ見てたのね……今回は諦めなさい。財布的にも」
「うぅ……わ、わかった」
「……ふふっ、ヒロはほんと、可愛いね」
渋々龍海老から離れるヒロがなんか可笑しくて、つい笑ってしまった。
「と、突然なんですか? よくわからないんですけど……あっえっと、エビフライ用の海老でしたねっ」
恥ずかしさを誤魔化すように他の海老の品定めをし出したヒロの姿に、僕とアキは顔を合わせて微笑み合った。
龍海老=伊勢海老のことだと思って下さい。
伊勢海老の別名が龍蝦らしいので、精霊国での伊勢海老の呼び名を龍海老にしました。