105話 生徒会長選出会・応援期間
その日の就寝前。僕は自室で、アピールタイムで何をするべきかを考え始めた。
静海の淹れてくれたレモンバームティーをいただきながら、まったりとした気持ちで案を思い描く。
(女部田先輩――ロールさんは当然、学園のロックなアイドル歌手としてパフォーマンスするんだろうけど……となると、僕も相手に合わせて、歌が良いのかな……でも、ロールさんと張り合える程歌は上手くないし、全校生徒の前で歌うのは恥ずかしいし……)
「競うな、優輝の持ち味を活かせ」
(……僕の持ち味、となると、剣か料理だけど。訓練棟の舞台上で料理は難しいし、全校生徒の前で料理を一品作るだけじゃあ、アピール力として弱いし。となると剣……)
「すでに優輝の実力は実証済みゆえ、武闘祭と同じような事をしてもアピールとしては弱いな」
「……。姉さん、当たり前のように僕の心の声に的確な返しをしないで」
姉さんは、僕にぴったりくっついて一緒にお茶をしていた。姉さんは、特に所用で数日僕と会えない日が続いた後とかに、こうやってひっついて来る事がある。必須ユウキ酸とやらの補給行為らしい。
それはそれとして。
「姉さん、アピールタイムに関してアイデアがあって、僕に話したくて仕方ないんでしょ?」
「うむ。まだ見せていない優輝の魅力を発揮するアピールについてだ。私に良い考えがある」
「教えて下さい」
……姉さんの言い回しに若干の不安を覚えるけど。まあ、取り敢えず聞いてみよう。
「武闘祭にて、「武」は見せた。ならば「舞」――舞い踊るのはどうだ?」
「舞踊、か……具体的には?」
「うむ…………」
「…………なるほど、良いね」
……普通に良い案だった。姉さんにしては普通過ぎる気がしないでもないけど。
という訳で、姉さんの案を元にして、僕の持ち味を活かした「舞踊」をアピールタイムで披露することにした。
まあ舞踊と言っても、特に何かのダンスを習っていた訳ではない。つまり、僕がやる舞踊は、僕の得意分野。要するに剣――「剣舞」だ。
候補者ポスターが貼り出されてから、一週間後。ついに応援期間に入り、普段とは一味違った賑やかな放課後が始まった。
ちなみに、ポスターが張り出されたのは、先日生徒会室に呼び出された僕ら3人と女部田先輩以外に、二年の男子2、女子2。計8人が、生徒会長候補生だ。
……女子の比率多いね。まあ、今年たまたまそうなっただけらしいけど。女部田先輩曰く、去年は半々だったらしいし。
「本当に出店があるんだね」
「モグモグモグモグモグモグモグモグ」
早速買い食いしているヒロ。明太マヨたこ焼きを美味しそうにほうばっている。生地にも明太が練り込んであるらしい。夢中で食べてて可愛い。
出店は4店。そのうち外部から呼んだ出店は、ヒロが食べてるたこ焼き屋台と、クレープ、ドリンクの3種。
もう1種は、部活による出店――アイドル研究部による、お手製生徒会長候補者グッズの屋台だ。
このあいだのミニライブ時の物販の時も思ったけれど、グッズのクオリティは素人による手作り感はなく、市販品レベルに見える。アイドルグッズには詳しくはないから多分、だけど。
「みてみて優輝! Tシャツ買っちゃった!」
「萌え〜」
アイ研物販を覗いていたアキと雅、パフィンさんとサチさんがこちらにやって来て、購入したグッズを見せてきた。
「うわ」
僕グッズだった。アキの持っていたTシャツの絵柄はアニメ画風の僕で、戦闘着で大剣を構え不敵に微笑んでいた。上下に分かれて、
無双の雷牙 水城優輝
と二つ名も書かれている。恥ずい。
「後ろはこんな感じ! ぎゃんかわ!」
背中側は、前面と同じ構図の三頭身SDキャラで、
僕に斬られてみる?
と台詞が書かれていた。僕はそんなこと言わない。恥ずい。
「こっちはぁ、寧花祭仕様〜」
パフィンさんも僕Tを広げる。言った通り、寧花祭の時に僕が来ていた深緑の着物風メイド服で、アルストロメリアの花束を持って微笑んでいた。こちらには、
料理部部長 水城優輝
と書かれている。まだ正式に部長は引き継いでないんだけど……まあいいか。
背中側はやっぱり前面の服のSDで、手にはミックスベリークレープの乗ったお皿を持ち、
いらっしゃませ アルストロメリアへようこそ!
と台詞が書かれている。こっちは言う、というか実際言った。
「うむ、良きデザインだ。流石は漫研部長と褒めてやりたい所だ」
姉さんがご満悦な笑顔で頷いていた。
ところで。
「……サチさん、ずいぶん買い込んだね……」
「だ、だってだって、可愛いがいっぱいなのだもの」
アイドルグッズの入った大きな紙袋を抱えて、サチさんがニヤケ顔で答える。可愛い、のはともかく。
大量購入したグッズには、当然僕グッズが含まれている訳で。
(僕グッズを大切そうに抱えてご満悦なのが、なんとも……うーん、嬉しいようなやめて欲しいような)
なんにしても、複雑な心境だった。でも、実写でなければって許可しちゃったし、せっかく作ってくれた物を、今から発売禁止には出来ないし……むう。まさか、こんなところで悶々とすることになると。
ちなみに、一緒にアイドルグッズ屋台を見ていた雅は、特に何も手にはしていない。
「雅は買わなかったんだ?」
「まぁなぁ。俺は優輝さん達のファンじゃなくて、友達だからさ。それに、いくら可愛く書かれてても、絵より本人の方が可愛いしな」
「「「「わかる」」」」
雅の歯の浮くような台詞に、僕グッズ購入組が力強く頷いて同意する。なら買わないで僕を見るだけで満足して欲しい。はあ……
さて、それはそれとして。
僕らは今現在、自分の選挙カー……トの近くに集まって、応援の様子を見学していた。僕カートには、僕を応援するために集まった代表生徒が取り囲んで、移動ルート等の再確認をしていた。
「みんな、待たせたわね。戦利品よ」
「待ってました!」
「いやっほーう!」
「これで一週間は戦い抜ける!」
自分用にしては多すぎる気はしてたけど。どうやらサチさん、僕応援団のために僕グッズの買い出しをしてあげたらしい。大きな紙袋を、先頭に立ってルート確認を読み上げていた女子に渡す。そう、女子だ。
応援団の団員は、立候補した中から問題行動を起こさないだろう人物を厳選している。今集まっている団員は、女子5人、男子5人。団員数は10名が上限なので、これで全員だ。
「やっぱり、優輝は男女に人気よねぇ」
「優輝だからな」
「美味しいスイーツも作ってくれるし〜。ユキさんマジ天使」
「お料理得意で、大剣を軽々と振り回す圧倒的強さ! 男子にとっても女子にとっても、優輝さんは憧れの的です!」
「真面目で気遣いが出来て、強くて可愛くて格好良い。非の打ち所がないわね!」
「もう優輝さんが会長で決まりだよな!」
「「「「「デス!!!!!」」」」」
「やめて大声で褒めるのやめて恥ずい恥ずい」
友達と応援団の皆さんから一斉に褒めて、羞恥心で軽くパニくりかけた。
「これからの放課後一週間、校内を練り歩き優輝を褒め称えるのだ。慣れろ」
「いやいや、選挙カーと同じで名前連呼するだけで、褒め称えはしないでしょ。ていうか、しないでね」
「えー……」
サチさんが不満そうな声を漏らす……そう、女子5人の内の1人は、サチさんだ。というかリーダーらしい。
ちなみに、アキヒロも立候補したらしいけど、騒がしくし過ぎそうとのことで落選したらしい。
「やめてね」
「や、やらないわよ?」
「目を逸らして言われても説得力ないからね」
「くっ……仕方ないわね。みんな、注意事項の追加よ」
どうやらやるつもりだったらしい。様子を見に来て正解だった。
ポスター張り出し以降、会長候補者は他の会長候補者や応援団への応援活動時の接触は、基本禁止。あと、現生徒会役員とも。なので、候補者の1人の蒼月さんとは、ここ一週間挨拶程度の会話しかしていない。
さらに言うと、月影ちゃんは蒼月さんの応援団員の1人らしいから、月影ちゃんとも同じ感じだ。
なので、最近月影ちゃん分が足りない。ビタチョコケーキ食べてる月影ちゃんが見たい。欲求不満。
それはそれとして。
「さて。どうしよっか」
「うむ。まあ、遠巻きになら他候補の応援活動を見学しても良いのだから、そうしたら良い」
「まあ、そうだね」
という訳で。僕と姉さんと静海とで、他候補の応援団を探す事にした。
アキヒロパフィ雅は、応援よりも屋台に興味津々なようで、僕応援団の前で僕らとは別行動となったので、今は一緒していない。
「みんなー! 放課後エンジョイしてるかなー!?」
「この拡声器使用並みの生声は……あっちだね」
数分後、部活棟の方角からロールさんの声が聞こえて来た。
候補者は、先程挙げた禁則事項を破らなければ、それ以外では特に行動制限はない。つまり、候補者本人が自身の応援団と一緒に練り歩いても構わないのだ。
「ふむ。街頭演説のようだな」
「姉さん、今変なルビ振ったでしょ」
まあ、言い得て妙だけど。とりあえず、発声源へと向かってみる事にした。
女部田先輩の選挙カート、後ろに設置された簡易お立ち台の上に、ロールさん。その前にバリケードのように立ちファンの接近を制限する、ロールさん応援団の皆さん。
「そんじゃ、本日のプチゲリラライブ! はっじまっるよー☆ 『PRISM DANCE』ミニバージョン!」
言った通り、恒例の(らしい)オープニングナンバーをワンコーラス、続けてのもう一曲もワンコーラスのみ歌ったロールさん。
「今日はここまで! みんな、滾ってくれたかなー!? そいじゃ、また明日ー!」
僕らが来た直後は、応援団以外のファンと思われる生徒はまばらだったけど、一曲目が終わる頃には、この間の音楽室でのミニライブ以上の人が集まっていた。
んー……なんていうか。
「ロールさんの歌って、普通以上に人を惹き付ける何かがあるよね……」
「のようだな」
姉さんも僕も、普段は積極的にロック系の曲は聴かないのだけれど。ロールさんの歌い方なのかアイドル精神なのか、他のロック曲よりもいつの間にか聴き入ってしまっているのだ。
それに、ロールさんがよく言っている「滾る」って程ではないけど、聴き終わった後はちょっと元気になってるというか、気分がスッキリ晴れ晴れしているのだ。
うーん……なんか、とっても不思議な感覚。
ロールさんがプチゲリラライブの締めに、「今日は」「また明日」と言っていた通り、彼女は毎日、自分の応援団に飛び入り参加して2曲ワンコーラス歌っては去りを繰り返していた。
「女部田先輩、強敵ね」
「でも、優輝さんはジャンル的にロック系アイドル、というか歌手って感じじゃないですし」
「天王寺姉妹も、予想以上に注目を集めているようです」
「加藤家トリオは……まぁ、ある意味目立っていますね」
とか相談しているサチさんwith僕応援団。
蒼月さんは月影ちゃんと一緒にお揃いの自作衣装を着て、応援団の三歩後ろあたりをしずしず歩いていた。毎日違う衣装を着ているので、服飾部の宣伝も兼ねているようだ。なかなか強か。
加藤さんグループは相談の通り、応援団に他の生徒を付けず、いつものトリオで選挙カートの横にいる。
そう、横にいる。屋台の近くにカートを置いて、さらにテーブル付き折り畳みサンパラソルを組み立て、優雅にハーブティーを嗜んでいる。本人は真面目なんだろうけど、正直何がしたいかわからない。
まあ、自分が立ち上げた部活――ハーブティー愛好家の宣伝にはなっているかな……ふむ。
「僕は料理部時期部長だし、手作りのお菓子を配布しようか?」
「それは既に、ロールちゃん先輩が近い事をしているな」
「え?」
「正確には、アイ研の物販での販売だが。「ロールちゃんの手作りロールケーキ」という商品がある」
ギャグかな? とも思ったけど。姉さん情報によると、ロールさん――女部田先輩の趣味の1つが、お菓子作りらしい。
何にしても、料理部の得意分野については先手を打たれていた。さすがに、今からライブで料理する許可は得られないし……となると……うん。
「座して待とうか」
「ふむ、アピールタイムのみで十分と」
「ん、そんな感じ」
アピールタイム時は、訓練棟で全校生徒を集めた前でアピールするのだ。応援期間で遅れは取ったけど、十分巻き返しは可能だと思っている。
何故なら、「僕」が披露するのは、最も自信のある「剣」だからだ。剣なら自信がある、負ける気がしない。
(まあ、ロールさんも新曲披露するらしいし。やっぱり、1番の強敵はロールさんになるんだろうなー……)
何にしても、お互い最も自信のあるジャンル――持ち味を活かした手段での、真剣勝負だ。これなら、ロールさんに対して無作法とはならないだろう。




