104話 女部田 真貴のアイドル理念
ロールちゃんが歌います。
というわけで、次の水曜日。約束通り、女部田先輩――ロールさんのミニライブに訪れていた。
チケットは1人2枚渡されていた。僕姉さん月影ちゃん蒼月さんで8枚、自分含めた友人は9人なので1枚足りないけど、騒がしいのが苦手な月影ちゃんと、パフィンさんが「水曜はスイーツハントの日だから〜」て理由で不参加だから、一応足りた。というか1枚余った。
ので、加藤家トリオの分が1枚足りないから、月影ちゃんからチケットを譲って貰ったらしい。
そんな訳で、ファン以外で計10名がライブ観戦する事になった。
「んーみゅ。女子アイドルのライブ、リアルで見るの初めて! ねっヒロ!」
「そうだねアキちゃん!」
「てことは、男性はあるんだ?」
「偶然ゲリラライブに鉢合わせただけなんですけどね」
「俺はたまにロックフェスとか行くぜ」
「へー、雅はロック好きなんだ」
「まぁな。だから、アイドルライブは俺も初めてなんだよな」
「ライブというのに詳しくないのですけど。ミュージカルをさらに一般大衆向けにしたようなもの、で良いのかしら?」
「その認識で間違いないと思いますわ、透華様」
「へーそーなのかー! 楽しみですねっトーカ様!」
「えぇ、そうですわね」
「ライブなら観覧者がやかましくても、オペラと違ってとがめられませんよ。良かったですねアンズさん」
「むー! アンズじゃないー!」
(怒るとこそこだけなんだ……ていうか萩さんは相変わらず小椋さんをイジるなあ)
ライブが始まるまでそんな感じで雑談していると、軽快な音楽が流れ始め、音楽室のステージ的な段差に主役が駆け込んできた。
「みんなーっ毎月恒例のミニライブに来てくれてありがとーぅ!!」
「おお……マイク使ってないのに凄い声量だね」
ロールさんの出だしの挨拶の声に、軽く驚く。お腹から声が出てるって感じ。戦闘時に発する裂帛の声を思わせ、一種の迫力がある。
そんな彼女の格好は、青と黒を基調としたチェック柄の制服服アイドル衣装だった。
髪にはスミレを模した髪飾りを付けており、素朴な可憐さと気の強さを併せ持つ彼女の容姿にとても似合っている。彼女のイメージフラワーなのだろう。
フリルの付いたミニスカートから伸びたスラリとした健康的な脚にも目が行く。栄陽学園生的にもう少し筋肉付けた方が良い気はするけど。
「「うおー! こちらこそー!」」
ロールさんの挨拶に答えて、観客側主に最前列からも負けない程の声量。彼らの格好は、手にサイリウム、アニメ調にディフォルメされたロールさんと思われる太眉美少女絵のプリントされたTシャツと、いかにもオタ芸をするアイドルオタクといった感じだ。
「あっは☆ 最前列の人は今日も元気だねー! あんまり元気じゃない人もー、アタシの歌を聞いてギンギンになってってねー!」
「「Yeahhhh!」」
「す、凄い熱気ですね」
「だね」
ヒロの呟きにそう返す。寧花祭で受賞しただけあって、学生の部活動レベルではない。プロ顔負けって言っても良いかもしれない。
「んじゃ一曲目! 恒例のオープニングナンバーいっくよー! 『PRISM DANCE』!」
曲名を告げるとそれまでのBGMが止まり、一拍おいてアイドルソングと言うには少し激しめな曲が始まった。これは、ちょっと予想外。
let's get started to party time
テンション上げて行こう
jumpin' out! 閉じこもってないで
私の声を聞いて
周りなんて気にせず
as you want! エナジー解き放て
color that's your only
プリズムのような
あなただけの 輝きを私に見せて
everybody say! hey! hey!
思いをぶちまけて 踊ろう! hey! hey!
dancin' on the prism dance!
歌詞も歌い方も、憂鬱を蹴り飛ばすようなロックなナンバーだった。
3曲歌い終えて小休止兼ファンとのトークタイムに入ったので、感想を交わす。
「どの曲も激しめだな」
「ロック系アイドルだね。ロールさんの話し方からしてポップ系かと思ってた」
「ロック好きとしては、当たりでラッキーって感じだぜ! 女のロックも結構良いな!」
「アタシもー! カワイイ系のも嫌いじゃないけど、あたしはこっちの方が好きだわ!」
「確かに、アキちゃん的にはこういうのの方が性に合ってるよね」
「はー……こういうアイドルのカタチもあるんですね。勉強になりますわ」
「それにしても、アイドルの曲というのは、存外過激なんですわねぇ」
「どうやら、アイドルすべがそうなのではなく、彼女は過激さが売りのアイドルなのでしょう」
「うー! なんかコーフンしたー!」
そういえば。名前の真貴とかけてアイドル名をロールにしたのだろうけど、ロックンロール的な意味合いもあるのかもしれない。
トークタイム後の2曲を含めて、歌詞はラブソング的なものもあったけど、曲調はすべてロックなものだった。
「みんなー! 滾ってくれたかなー?」
「「「「Yeahhhhhhhh!!!!」」」」
「あっは☆ ギンギンだね! アタシはとーぜん生徒会長候補だから、次のライブは再来週の週末だよ! 新曲ひっさげて来るから、震えて待て!」
「神曲ヤッタアアアアアア!!」
「そいじゃ今回のライブはここまで! みんな、来てくれてありがとねー!」
こうして、ロールさんのミニライブは熱狂に包まれたまま解散となった。
ライブ後、音楽室前の廊下に折り畳み長机が置かれてロールさんグッズの販売が行われ、ロールさんは購入者に手渡しや握手などのファンサービスをしていた。
「完売! 完売です! お買い上げありがとー! まった来ってねー☆」
グッズはあっという間に捌け、最後にファンに向けてパチっとウィンクを飛ばしてから、僕らが待つ音楽室に戻ってきた。
「ウオォオレニウィンクキター!!」
「ナニイッテンダフジャケルナ!!」
「ボクニダゾッ!!」
……なんか言い争いが始まってるけど、殴り合いとかにはなってないから気にしない。
「やぁやぁお待たせお待たせ! アタシのライブ、どーだったー?」
「「「熱くなった!!」」ぜ!」
真っ先にアキと雅、それに小椋さんが詰め寄ってら昂る想いをぶつける。
「あっは☆ どーもありがとぅ! 3人共アタシのファンになっちゃったかな?」
「そうかも!」
「気に入ったぞー!」
「ロック系アイドルも良いもんだな!」
「ミニライブは毎月第二水曜日に開催してるから、また聞きに来てねー!」
「「はーい!」」
「おうっ!」
「とってもカッコ良かったです!」
「色々と勉強になりましたわ」
「わたくしの趣味ではありませんけれど、不思議とパワーを貰えたように思いますわね。だからまぁ、たまになら聞きに来てもよろしくてよ?」
3人が下がってから、みんなからも概ね好印象な感想がロールさんに告げられる。
「あははっファン以外の子から面と向かって褒められると、なんか妙に照れるねー!」
そう言って頭をかき、照れ笑いを浮かべるロールさん。可愛い。
「ところでぇ。ミズキーズの感想は?」
上目遣いに、まだ言っていなかった僕らに感想を求めてきた。可愛い。
「かっこ可愛かったです」
「……保留だな」
「ありがとー! ……て保留?」
何故か姉さんだけ、感想を先延ばしにした。何か考え込んでいる時の無表情なので、ふざけてそう返した訳ではないけれど……何を思い付いたのやら。
さて、それはそれとして。
「ロールさん、というか、女部田先輩への感想も良いですか?」
「おぉ!? 何かな何かな?」
「先輩は、自分の歌でみんなを元気付けたいから、学園のアイドル――生徒会長を目指してる、てことですか?」
「……もうそこに気付くかー。なかなか鋭いね」
私生活モードの口調でそう呟く先輩。いきなりの口調の変化に、アイドルモードしか見ていない友人が驚きの表情を見せる。
それを気にせず、女部田先輩は話を続ける。
「私がロールちゃんやってるのは、注目されるのが快感だからってのもあるけど。一番の理由は、それなのよね」
一拍置き、懐かしむような眼差しを上に向ける。
「どうもさ、私の歌、特に生歌を聞いた人って、直後の戦闘訓練で妙に動きが良くなるみたいでさ。ファンレターで、「ロールちゃんの歌のお陰で活躍出来ました、ありがとう」的な文句が頻繁に書かれるようになってさ。なんていうかな。めっっっちゃ、嬉しかったのよね。色々と平凡な私でも、歌でならみんなの力になれるって思ったら、感激しちゃって」
嬉しさを滲ませた声で、しみじみそう言う女部田先輩。その瞳は、綺麗なモノを眺めるようにキラキラ輝いて見えた。可愛い。
「ふ……やはりか」
姉さんが僅かに広角だけを上げて笑い、僕にしか聞こえない声量で呟く。また何か企みを思い付いたようだ……教えてくれない気はするけど、一応後で聞いてみよう。
「でまぁそんな訳で! 生徒会長権限で、寧花祭以外でも訓練棟でのライブを出来るようにして、もっともっと沢山のファンにアタシの歌で漲って欲しいから! どうぞロールちゃんこと女部田 真貴に、清き一票を! 的な事を、アピールライブの時に言いまっす! よろしくぅ☆」
「なるほど……」
「とまぁ、それが一番の理由ね」
話は終わりだと思ったら、まだあるらしい。ていうか、私生活モードになったりアイドルモードになったり忙しい人だ。
「私、成績本当に中の中でさ。もっと正確に言えば中の中の下ぐらい。つまりは、本校の三年生になれるか、かなり微妙なラインなのよね」
栄陽学園本校の生徒数は、一、二年生が200人、三年生が100人と決まっている。
つまり、二年から三年に進級出来るのは、半数。戦闘能力の振るわない残り100人は栄陽学園分校送りになる、というシステムなのだ。
「生徒会長になれれば、成績がギリギリアウトな私でも、特例で本校進級させて貰えるらしいんだよね。ほら、会長は1年間勤めなきゃだからさ」
「先輩意外と狡いですね……」
「使えるものは何でも使わなきゃ。努力である程度は埋められるけど、やっぱり持って生まれた才能の差ってどうしようもないんだからさ、あははっ!」
なんとも返答に困る事を、あっけらかんと言われた。まあ、さっぱりした性格の女部田先輩らしい台詞だけど。
「それに! 分校ってアイドル研究部ないらしいのよ!? あっち行く理由が一つもないわ!」
結局、分校行きを回避したい一番の理由も、アイドル活動したいから、らしい。
うーん。ここまで一貫した理念があると、応援してあげたくなるね……んー……
「あーそうそう。部活とはいえアイドル活動してきた経験から、人を見る目はあるつもりよ」
「え?」
女部田先輩が会長に選ばれるようにどう動こうか、と考え始めた所で、
「手加減したら気付くから。そんなつまんないことしたら、承知しないゾ☆」
釘を刺された。
「でも、それじゃあ先輩が――」
「纐纈会長も言ってたけど、選考会には真剣に向き合うことっ。つまりは真剣勝負ぅ! どんな理由だろうと、手を抜くのは無作法というものっ!」
……アイドルモードで茶化した風に言ったようにも聞こえるけど。その目は驚くほど真っ直ぐで綺麗で、真剣さの程が窺えた。この目を見た後では、相手を思っての事でも、手抜きをしようとは思えなかった。
「……わかりました。じゃあ、お互い全力で」
「全力で当たれるかはともかく、私なりに真剣に当たらせていただきますわ」
「ふっふふ! やるからには全力。当然ですわね!」
「グッド!」
先輩は僕らの返事に、満足気な笑顔で一言そう返した。
「んーみゅ。予想より楽しそうな展開になったねぇ」
「優輝さんを応援するか、ロックなロールさんにするか……うーん、どっちにするか迷うぜ!」
友人達もすでに選考会に思いを馳せて、楽しそうにしていた。
さて。僕は選考会――特にアピールタイム。どんなパフォーマンスをするのが女部田先輩の全力に対して相応しいだろうか。
登場人物紹介
女部田 真貴
アイドルネーム・ロールちゃん
容姿:ギリ美少女ミディアムポニー癖毛焦げ茶髪太眉
ロールちゃん時は髪を下ろしている
身長:153cm
性格:フランク
ロールちゃん時はウザカワ系
好物:プリン
嫌い:ウナギのゼリー寄せ
趣味:アイドル活動 歌 お菓子作り
属性:火
普段は太眉以外はあまり特徴のない、一応ギリギリ美少女と言えるレベルの容姿な女子。化粧でトップアイドルレベルの美少女に変身出来る。
戦闘能力・学業共に、成績は中の中の下程度。一応栄陽学園本校での中レベルなので決して弱くはないのだが、学園でトップレベルの優輝とは天と地くらいの実力差がある。一応得意と言えるのは、火属性の攻性精霊術による中距離からのサポート。
「学園のアイドル」である事を生きがいにしており、アイドルモードの「ロールちゃん」は、栄陽学園本校・分校のアイドルファンには知らない奴はモグリと言われるレベルの人気を誇り、グッズは数分で完売する。
私生活モードの時も一応美少女と言える容姿なので、実は密かに人気がある。
本人曰く、性欲が強い。
久しぶりの登場人物紹介付きです。
ちなみにPRISM DANCEは、FIRE BOMBERのPLANET DANCEのリスペクト曲です。




