102話 アイドル研究部部長のロールさん
「さてと。それじゃ、ロールにしてくるわ」
説明が始まる直前、そう言って副会長さんが退出する。
「ロール?」
なんだろ……髪型かな? どっちにしても意味不明だけど。
「彼女の事は気にしないで下さい、後でわかりますので、では始めます」
僕の疑問には答えず話を進める。意外と強引……まあ、生徒会を率いる会長として、多少の強引さは必要なのかも。
「まず最初に、会長候補者の発表を兼ねたポスターの張り出しがあります」
「政治家の選挙ポスターみたいな感じ、ですか?」
「概ねその認識で間違いないです」
掲示板に二週間程、推薦された生徒の顔写真ポスターが張り出されるらしい。
(つまりは、二週間晒し者にされるという事だね……はあ)
それと同時に、ホームルームにて全校生徒に候補生の性格や評判、実績等が載せられた人物紹介のプリントが配られるらしい。
「次に、応援期間に入ります。これが、生徒会役員選出会で1番盛り上がる所ですね」
ポスターが張り出されてから一週間後に、生徒による会長候補生の応援期間に入るらしい。
「応援期間中、推しの会長候補生を決定した生徒には所定の場所に集まってもらい、数人の代表者を決めていただきます。代表者はアイドル研究部の指導の下、放課後に推しのアピール演説や、ポスターを貼り付けた立看板を設置した改造キャリーカートで校内を練り歩く事が許可されます」
えーと……要するに、街頭演説と選挙カー的なのかな。
あ、アイドル研究部といえば、寧花祭でユニーク賞を取ってた気がする。料理部と服飾部のとこ以外あまり気にしてなかったから、うろ覚えだけど。
「とまぁこのように、学園アイドル候補生への注目度アップの機会が設けられています」
ついに会長自らアイドルって言っちゃった。
ちなみに、その応援期間は通称「スクールアイドル応援合戦」と呼ばれているらしい。一応、某アニメとは一切関係ない。
「応援合戦期間中の放課後には、いくつか飲食の屋台を呼んでいますし、アイドル研究部によるアイドルグッズの物販もあります。なので、小規模で長期間のお祭りを開催すると言って良いでしょう。要するに、応援合戦にあまり興味のない生徒さんも何かしら楽しめるようになっています」
「まってくださいグッズてなんですか」
色々ツッコミ所があるけど……1番はそれだ。
「定番は、缶バッチ・Tシャツ・タオル・ブロマイド、ですな!」
「そうじゃなくてですね」
三峰先輩が答えたのはともかく。聞きたいのはそこじゃない。
「肖像権というか……販売となると、本人の許可必要ですよね? そんな話、一度も来てないんですが」
「優輝」
姉さんに声をかけられた。何故ここで姉さん……いやまあ、姉さんが入ってきたから予想は付いたけど。
「私が許可した」
「だよねー、じゃなくて。勝手にしないでよ……」
さすがに、よく知らない人に勝手に僕グッズが渡ると思うと、物凄くモヤモヤする。渡った後に何に使われるかわかんないのだし。
「大丈夫だ、生写真の許可は出していない。アニメ調にディフォルメされたイラストのみ許可している」
「む……それもあんまり良くないけど、実写よりはまあ……あー……」
……寧花祭の時に、漫研部長さんに模写されまくったのを思い出した。多分、あの時描いてたのを元にしてるんだろうなー……そう言う意味では、僕自身が許可を出したとも言えなくもない。営利目的では許可してないけど。
「アイ研の物販は盛り上がる要素の一つなので、是非許可して欲しいのですが。出来れば生写真も――」
「イラストのみでお願いします」
「ですね」
「ふっふふ! わたくしはどちらも構わないですわよ! 撮られて恥ずかしい容姿はしておりませんもの!」
加藤さんのみ実写許可していた。自分に自信満々だなあ。可愛い。
「そうですか、わかりました。こればかりは仕方ないですね」
割とあっさり引き下がる会長さん。ありがたい。
「話の続きをしましょう。応援合戦最終日に、候補者自身によるアピールタイムがあります。選出会でみなさんが動かなければならないのは、実質ここのみですね」
「実質、ですか?」
「はい。応援期間中のアピール演説は、候補者自らが行なっても構わないですし、カートでの練り歩きへの同行も自由です。ですが、最後のアピールタイムだけは、何か一言だけでも候補者本人が述べなければならないので」
「なるほど……」
んー……最低でも生徒会入りはしなくちゃだから、気の利いた一言は必要だけど。会長にギリギリ選ばれないアピールとなると、逆に難易度高いような……
「アピールタイムに必ず本人が出なければならない理由は、何でしょうか?」
僕が考え込んでいると、蒼月さんが手を挙げて質問していた。
「生徒会長に推薦される生徒は、候補者の人柄の良さと容姿、教師からの信頼、そして生徒からの人気度……支持率を総合して選出しているのですが。応援合戦で持ち上げられた結果、模範的だと判断された候補生でも傲岸不遜に振る舞い出したりするケースがあるんです。それが外面に表出しやすいのが、最終日の本人によるアピールタイムですね」
「ふむ。つまりアピールタイムとは、篩でもある訳か」
「その通りです」
「一応、厳選に厳選を重ねて選出しているのでぇ、そんな生徒が出るのは、数年に1人程度ですけどね〜」
それまでまったりほうじ茶を啜りながら静観していたネイ先生が、そう補足する。
「生徒会長には、チヤホヤされても天狗にならない程度の真面目さも求められます〜。どんな状況でも普段通りに冷静に行動出来る優輝さんならぁ、何も問題はないと思いますよ〜」
「あ、ありがとうございます」
ネイ先生ったら、また持ち上げて……悪い気はしないけど、気恥ずかしい気持ちの方が勝る。
それと。現生徒会メンバーの前でおだてたのは、ワザとだろうなあ。現に会長さんなんか、
「ほぅ……」
と感心したような顔とため息をついてこちらを見てるし。「あの珠州野守先生がここまで高評価するとは」とか考えてると思われる。
ネイ先生は、普段のゆるふわ言動からは想像しにくいけれど、結構シビアな評価を下すタイプだ。僕も最近で言うなら、自室での「飯屋峰君への過剰防衛による殺人未遂」の時には、厳しい評価を頂いたし。
三年生で生徒会長をしている纐纈先輩なら、ネイ先生があからさまに高評価する生徒なんて、せいぜい指折り数えられる程度しか知らないんじゃないかな。僕もそうだし。
なんにしても。現会長さんが好印象を感じたと言う事は、僕を推すと可能性が高まったと言う事で、つまりは。
(むー……生徒会長への道に、さらに近付いちゃったような……)
選出会、どうなる事やら。会長就任回避は厳しいのかなー……でも諦めたらそこで会長就任ですよ、だし……
ガラッ
「お待たせー!」
頭を悩ませ中、唐突に生徒会室をノックもなしに開けた、誰かの一声。弾んでいるような声色だ。
(……凄い可愛い)
声の方に振り返り、思わず数秒黙り込む。そこにいたのが、TVのトップアイドルレベルの美少女だったからだ。
(断りもなく入室したから、副会長さんかと思ったんだけど……誰?)
制服着てるし、普通に学園生なんだろうけど……これだけの超絶美少女だし、遅れて来た会長候補生かな? それか、現生徒会役員……
(……あ、太眉)
彼女の特徴的な眉を見て、誰だか気付いた。
「ほう、こうも変わるものか。馬子にも衣装と言うヤツだな。認めよう、正直侮っていた」
「ふっふっふ、褒め言葉として受け取らせていただきまーす!」
「素晴らしいメイク技術ですわ!」
「……(こくり)」
「わーい☆ ありがとねっ!」
姉さんと蒼月さんが、訳知り顔で太眉美少女を褒める……メイク凄い。
「……どちら様ですの?」
加藤さんだけはまだわからないようで、疑問顔で太眉美少女に尋ねる。僕もまあ、気付いたのは数秒観察してからだけど。主に太眉で。
「じゃ、改めて自己紹介しまーす! アイドル研究部部長にして生徒会副会長、女部田 真貴! アイドルモードの時は、ロールって呼んでねっ!」
あー、副部長さん、件のアイドル研究部の、しかも部長さんなんだ。
「……副会長さん、ですの? え、本当に!?」
衝撃の事実に驚愕する加藤さん。いい反応するなあ。
「あっは☆ いいねいいね、そういう反応大好き!」
この反応を期待していたのか、満足気に笑う副会長さん。とても可愛い。
「……他の皆さんの反応からして、本当に女部田副会長さんのようですわね……見た目といい雰囲気といい、完全に別人レベルですので、わたくし的にはいまだ半信半疑ですけれど……」
「まぁね、アイ研部長だからねっ!」
メイクの本気度とキャラ付け、それにアイドルグッズを製作していることからして、アイドル研究部はかなり真面目に全力で、アイドルとファン・オタク両方の研究をしているようだ。寧花祭で賞を取るのも納得だ。
ちなみに、アイドルモードと言っているけれど、化粧をして髪を下ろしている以外は、特に着飾ったりはしていない。
(同じ制服姿なのに、こうも変わるんだなー……化粧凄い、というか、副会長さんのアイドルへの情熱が凄い)
……会長候補生としての意気込みに、純粋に感心していた。




