101話 生徒会選出会説明会
夕飯は、もやしとわかめの中華風スープ、青梗菜とツナのおひたし、麻婆茄子に、エリスのリクエストのエビチャーハンだ。
「……いつものと味付け違うんだね」
「あの時の味を再現してみたかったからね」
「ふみゅ、なる。でもまぁなんてゆーか、うーん……懐かしい味? って感じ! 嫌いじゃないわ!」
よし、不評じゃなくて何よりだ。実は「いつもより美味しくない」と言われないかと内心ちょっとドキドキしてたりしたんだよね。
「そう言えば。寧花祭終了まで話したんだったか」
「ふふっそうでしたね」
「優輝的に、次の印象深い思い出は、やはり生徒会役員選出会と言う名のスクールアイドル決定戦か?」
「…………そうかもね」
まあ確かに、印象深くてよく覚えてはいるのだけれど……姉さんのわざとらしい言い方に、一気に話したくなくなって来た。何故なら実際、栄陽学園の生徒会役員選出会は、アイドル総選挙のようなお祭り騒ぎだったからだ。
「優輝さんが複雑そうな顔になるなんて。是非聴きたい!」
「うむ、私も改めて、当時の優輝の心境を聞きたいな」
「同じくですわ」
「……了解」
という訳で、やっぱり話す事になった。
――――――――――
寧花祭も終わり、ここ一週間は特に大きなイベントもなく、まったり過ごしていた。
ちなみにアキは、武闘祭後のように腑抜け状態だったけど、日曜日朝くらいにようやくいつものテンションに戻っていた。
で、寧花祭終了一週間後の闇曜日。今日は全校集会があり、寧花祭の出し物で優秀な業績を残したクラス・部活の発表と賞状が送られるイベントがある。
(……お。服飾部は寧花賞かあ)
各賞の受賞は、秘密裏にお客として紛れ込んでいた審査員による採点と、生徒と来場者に配られた人気投票用紙の数と感想の内容によって決まる。
アイデア賞、ユーモア賞、ユニーク賞等色々あるのだけど、寧花賞は最も華やかだった出し物に与えられるらしい。ドレスの展示販売だったし、確かに一際華やかだったし、納得の受賞だ。
各賞は各出し物につき、1つの賞しか授与されない。そして残すは、最優秀賞のみ。大繁盛だったから、何らかの賞は取れておかしくない、と思っていたのだけど……まだ僕ら料理部は賞を貰っていない。
も、もしかして……
「ふふ」
前の席で腕を組んで座っている姉さんが、不敵な笑みを漏らす。姉さんがこういう笑い声を出した時は、だいたい僕にとって好ましい何かが起きる直前。
僕の予想通り、
『最優秀賞を発表致します! 審査員点と投票数共にブッチギリの1位! 料理部出店「ライブキッチン・アルストロメリア」でぇす!!』
「ふははははは!」
「うわびっくりした」
嬉しさよりも先に、姉さんの高笑いに驚いた。
『最優秀賞を受賞した料理部の代表者は、壇上へお願い致します!』
それを気にせず司会進行を続ける司会者君、大物。
さて。それはそれとして、表彰状と表彰盾の授与だ。料理部の代表者は当然部長――
ぐいっ
「何をしている優輝。早くいかないか」
「へ?」
――姉さんが僕の手を取って席から立たせて引っ張っていく……アレ? 部長なんで席から全く動いてないんですか?
そうして有無を言わさず姉さんに壇上まで引っ張り出され、司会者君も有無を言わさず進行する。
『料理部代表にして時期部長は皆様ご存知! 武闘祭でも大活躍された「無双の雷牙」ことっ水城 優輝さんです!』
「ん゛」
……唐突な二つ名付けでの紹介に、羞恥で思わず変な声が出そうになった。ギリギリマイクに拾われない程度の音に抑えられたけど。
(ああ……これまた、料理部メンバーで僕だけ聞かされてないパターンだ……)
部長が微動だにしないのも、1番喜びの叫びを上げそうなアキ(プルプルしていて今にも騒ぎたそうにしているけど)が大人しいのも、あらかじめ最優秀賞受賞したと知っていたからだろう。
後で部長さんから聞いた話だけど。入賞したチームには前日に、賞状授与の代表者を決めておくよう通知が来るらしい。で、通知を受け取った部長さんに姉さんが、時期部長候補の僕が代表者として出たいと伝えたらしい。
(姉さん、というか、みんなのサプライズ精神には困った物だなあ……まあ、悪い気はしないけどさ……)
僕は心でひとりごちて、精神を落ち着けるよう努める。けれども受賞式は無慈悲に進んでいく。
『最優秀賞、おめでとうございます! サービスの良さ味の良さ店内と店員の華やかさなどなど、多くの点で高評価だったようです! 賞状授与の前に、感想を一言お願いします!』
いきなり知らされて何も言う事考えてないんだけど……はあ。まあ、アドリブで簡単に一言。
『こちらこそありがとうございます、と言いたい気持ちです。みんなに料理を美味しそうに食べて貰えて、とても嬉しかったです』
僕はただ、「僕の料理を食べて喜んでもらいたい」という趣味を、全力で走っただけだ。だから、感謝しかない。
「謙虚だ……」「カワイイ!」「なめたい」「可憐だ」「我が嫁だからな」「笑顔素敵!」「料理美味しかったよー!」「来年も期待!」
僕を褒める様々な声が、至るところから聞こえてきた……照れるより、恥ずい。何も聞かされてなかったから、気構え出来てないからね……うー目立ちたくない早く席に戻りたい、というか寮に帰って料理して気を落ち着けたい。
とまあこんな事があり、学園長先生に賞状と表彰盾を授与され。こうしてようやく解放され――
『さぁて皆様、寧花祭表彰式はこれにて終了ではありますが! 速報でございます!』
――まだなんか続いた。
『武闘祭・寧花祭共に優秀な成績を収め、さらに謙虚で人柄も良い事で学園中に知られている水城 優輝さんはなんと! 教員全員満場一致で、生徒会長に推薦されたようです!!』
……、は?
「……どうしてこうなったのかなー……」
生徒会役員どころか会長に推薦され、困惑して呆然としたまま教室に戻った僕は、そう呟いていた。
「生徒会長なんて……目立ちたくないなー……」
「学園の三大行事の内2つであれだけ目立つ行動しといて、今更そう言われてもねぇ」
「だよなー。それでいて性格も良いしな!」
「有名にもなりますよね! さすが優輝さん!」
「うー。でもでも、強い人と戦いたかっただけだし。みんなに料理食べて貰いたかっただけだし」
「そういうところよ。その精神、栄陽学園生として模範的過ぎて、評価される点しかないわよね。つまり、推薦されたのは必然よ」
「ちゃけばぁ、諦めたらぁ、ラク〜になるよぉ〜?」
「……うーん」
友人達からも、口々に褒められる……むう。嬉しくもあり、気恥ずかしくもあり。
というか自分としては、生真面目さではサチさんの方が上だと思ってるから、生徒の代表というなら彼女こそ相応しいと思うんだけど……自分の先生方からの高評価に、戸惑うばかりである。
「サチでは役不足だろう。この学園での生徒会長は、アイドル的な意味合いも兼ねているからな」
「あー、なるほど……」
……アレ、僕声に出してたっけ? まあ姉さんには、表情で丸分かりか。
「アイドル……偶像視かー……」
「良かったな、優輝。咲殿に近しい立場を体験出来るぞ」
「咲さんの目指した部分は強さであって、そっち方面じゃないんだけど」
「遅かれ早かれ、優輝はそういう立場に立たされるだろう。予行演習だと思えば良い」
「……まあ、どう足掻いても辞退は出来ないんだけどさ。それでもちょっとの愚痴は出ちゃうというか。ていうか、全校集会であんな発表されたら何らかの役員につかされるのは決定じゃない」
通常、生徒会長に推薦された生徒は、掲示板に張り出されて初めて全校生徒の知るところとなるらしいから、今回のような発表はかなり異例らしい。
というか。生徒会役員選出会て、僕は具体的には何をさせられるんだろう……不安しかない。
その日の放課後。ネイ先生に先導され、選出会についての説明を受けに、僕らは生徒会室に向かった。
「そう言えばネイ先生」
「はいはい〜?」
「陣頭に立って僕を推薦したの、先生ですよね」
「優輝ちゃんの魅力を〜、より多くの人に知っていただきたかったので〜。テヘッ☆」
悪びれもなく肯定された。ちょっとウザい、けど可愛い。
さて、それよりも。
「姉さんが役員に推薦されてるのは、ちょっと予想外かも」
「うむ。優輝が生徒会入りすると、優輝を愛でる時間が多少は削られるからな。ゆえにねじ込んだ」
「何やってるのさ姉さん……まあ姉さんの事だし、ギリギリ不正じゃないとこを攻めたんだろうけど」
「はいです〜。瑞希さんはぁ、自分が生徒会に入る事のメリットを〜、先生方や現生徒会メンバーのみなさんに、丁寧にプレゼンしてました〜」
「……推薦とは……」
「ふふ、瑞希さんらしいですわね」
「推薦されるように自身を売り込むのは、アリだと思いますわ。まあ、わたくしのように普段の振る舞いから選ばれるのが理想ですけれど!」
「あ、奇遇……じゃないよね」
生徒会室前まで来た所で、天王寺姉妹と加藤さんと鉢合わせた。と言うより、僕らが来るのを待っていた、かな。
「ここに集まった皆さんがぁ、今年生徒会に推薦されたメンバーです〜」
僕の予想の答えを、ネイ先生が教えてくれた。
「と言いましても〜。瑞希さんと月影さんはぁ、会計と書記への推薦ですが〜」
「あ、そうなんですね」
「流石に生徒会長戦の枠には入れなかったな。まあ、面倒だからそれで良いのだが」
「ん……あまり、目立つ役職ではない、ので……ありがたい、です……」
「あー、そうだね。選ばれたら拒否権ないもんね」
応援合戦での応援対象は、生徒会長へ推薦された生徒のみだけど。生徒会役員は全員推薦式で、選ばれたら余程の事情がない限り、基本拒否は出来ない。
しかも応援合戦対象外の会計と書記は、推薦=決定だ。つまり、2人はすでに生徒会入りしているようなものなのだ。
(しかし、そうなると……僕が生徒会入りしないと、姉さんが好き勝手する恐れがあるような……あー)
何か、姉さんに謀られた感。
「……やるね、姉さん」
「ふ」
……生徒会長選。思ったより頑張らないとダメなようだ。
「ようこそ、おいで下さいました」
生徒会室の扉を開けると、早速現生徒会長の纐纈会長さんが出迎えてくれた。
「やあ、来たね。待ってたよ」
「月影たんキター!」
「ようこそ〜。あ、私お茶入れるね。ほうじ茶しかないけど、いいかな?」
「あ、お構いなく」
他の人、恐らく現生徒会役員の皆さんからも、口々に歓迎の言葉をかけられる。
「とりあえず座って下さい。まずはこちらの自己紹介から始めたいと思います」
「はい。お願いします」
という流れになったので、僕らは近場の椅子に座った。
「さて、私の事はもうすでに知っているかと思いますが。現生徒会会長を務めさせていただいている、三年の纐纈 直人です。よろしくお願いします」
そう言い、相変わらず嫌味の感じない、爽やかな笑みを浮かべる纐纈会長さん。
「副会長をしている、二年の女部田 真貴よ。ちなみに、私も次期生徒会長応援対象だから、貴女達とはライバルになるわね。まぁそれはそれとして、よろしくね」
次に挨拶してくれたのは、現副会長さん。濃い茶色のセミロング髪を短めのポニーテールにしており、太めの眉が印象的だ。
「ふむ、ギリギリ美少女と言った所だな」
「ちょ」
突然姉さんが、かなり失礼な評価を下していた。思った事をつい口走っちゃう癖は、姉さんにもあるのだ。双子だし、やっぱり似た癖はあるものだよね。
ただまあ、僕が零すのはいわゆる恥ずかしい台詞的なヤツだけど、姉さんは逆だ。見下しというか毒というか……要するに、不和を生みかねない類いなのだ。
一応、双子の僕の評価まで下がりかねないと自覚しているのか、毒吐きは小さい頃に比べれば遥かに少なくなったし、言い草もマイルドになったのだけど。今回の発言は……
「あっはははっそうよね! 自分でもそう思うわ!」
……どうやら彼女は、わりとフランクな性格なようだった。ふう……気を悪くされなくて良かった。
「月影たんとはすでに知り合いですが! 自分は漫研副部長兼生徒会書記で三年の、三峰 深夜であります! ロリ体型以外の女性にはあまり興味ござりませぬ故ご安心下され!」
……現書記の人は、随分濃いキャラクターをしていた。公然とロリコン宣言するって、月影ちゃんに取って安心要素皆無じゃ……というか、生徒会役員として問題ないのだろうか。
「付け加えますが! ロリとは決して触れてはならぬ神聖不可侵存在! 一定距離を保ち視聴のみで愛でるモノであります!」
……NOタッチを厳守するタイプらしいし、蒼月さんも月影ちゃんもノーコメントだから、恐らく大丈夫なのだろう。多分。
ちなみにキャラは濃いけど、彼の容姿の方はこれと言った特徴がない。黒髪短髪眼鏡、くらいかな。
「お待たせ〜。ほうじ茶しかなかったけど、良いかな?」
「え、あっはい。ありがとうございます」
さっきと同じようなセリフに一瞬戸惑う。
彼女は僕の戸惑いの声を一切気にせず、ゆっくりマイペースにみんなに湯飲みを配り終えてから、自己紹介する。
「私は長瀞 まひる。マッキーとは幼馴染みの友達で〜す。あと会計やってるの。よろしくね〜」
緑の黒髪のコケシヘアーに丸顔で、見た目も喋りもいかにもおっとり天然系と言った感じだ。マッキーはまあ、副会長さんの事だろう。
現生徒会メンバーの自己紹介が終わり、続けて僕らが手短に自己紹介を済ませた。
「書記と会計は、複数人在籍可能であります。故に、次期生徒会書記は月影たん、会計は長瀞殿と水城 瑞希殿で決定ですな」
「ふむ、そうか。先輩会計殿、よろしく頼む」
「マヒローで良いよ〜。よろしくね〜ミキミキ〜」
「ミキミキか……」
姉さんがなんか可愛らしい渾名を付けられていた。
「あー、噂通りなら、ミュッキーも生徒会入れちゃうかな。もうよろしくで良いよね〜」
「ミュッキー……僕の事ですか?」
「そだよ〜」
僕も微妙な渾名を付けられた。可愛いような、可愛くないような。
「ごめんね、まひるはちょっと捻った渾名付けたがるのよ。どうしても嫌な響きだったりしたら、拒否していいからね」
「えーと……まあ、公の場で渾名呼びされなければ」
「そこは大丈夫、生徒会室以外では気が緩みきってなければ、役職呼びするはずだから」
「ですか。なら良いですよ」
「書記の月影ちゃんは、えっと……シャイタンかな〜」
「……?」
月影ちゃんが、どことなく不思議そうな顔をする。渾名の由来が意味不明だからかな。
「多分、シャイな性格で三峰先輩に「たん」付けされてたから、だと思うわよ」
「そだよ〜。シャイタン、ダメ〜?」
「……。優輝さんと、同じく……」
「わーやったー」
月影ちゃんも、生徒会室のみなら構わないらしい。
「さて、軽く親睦を深められた所で、そろそろ説明を始めましょうか」
雑談のキリの良い所で、纐纈会長さんが話を戻しにかかった。
「あ、あら……わたくしの渾名は?」
加藤さんが長瀞先輩に渾名を付けられず、不満気な顔をしていた。微妙な渾名付けられなくて良かったと思うんだけど……まあ、仲間外れ感を抱くのは仕方ないかもだけど。
「透華様。長瀞先輩は「生徒会入りが確定の方」にだけ、渾名を付けたようですわ」
「ふっふふふ……負けませんわよ、水城 優輝!」
「あ、うん。何すればいいのかまだわからないけど、お互い頑張ろうね」
「その辺りも今から説明しますので、各自メモの用意をお願いします」
加藤さんのやる気に火が付いた所で、纐纈会長さんの生徒会役員選出会の説明が始まった。




