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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 77 魔女と王子

地震によって引き起こされるものとは?そして、才蔵の主のエルフィアとは?謎が明かされていくお話!

「地震が起これば起こるほど海から富が取れるのでござるよ。」


「富?それは何かの比喩表現かしら?」


緑珠は才蔵の目線が合うほどまでに屈み、彼の話を聞く。


「比喩表現では無いでござる。ファステーラ国のアジリィラは港町でござる。港の男衆が地震後に網を引いたところ、金銀財宝が数多に引っかかったのでござるよ。何回も。それに、アジリィラだけでは無いのでござるよ。」


緑珠は顔を顰める。意味が分からない。一度ならありそうな話だ。しかし、何回もとなると怪奇が怪奇を呼ぶものだ。


「変、ですねぇ。それは。あ、それじゃあ、」


とイブキは閃いた様に才蔵へと問う。


「近くの海が荒れてて、昔はよく難破船が出たとか……。」


しかし、才蔵はふるふると首を振った。


「それも有り得ないでござる。ファステーラは天然の漁港と潮の流れの緩やかさから発展した国でござる。だから余計変なのでござるよ。海底火山も疑われたのでござるが……。」


「カイテイカザン?海に火山があるの?」


緑珠は初めて聞く単語に興味津々だ。それもそうだろう。海も無かったのだから。こくん、と才蔵は頷いて続ける。


「それも疑われたのでござるが、津波も引き起こされていないし……海底火山の噴火が引き起こす津波は、規模が大きいことで有名なのでござる。」


ざく、ざく、と道を歩いて行くと、道の向こう側に海が見える。そして、もっと歩いて行くと、


「わぁっ……!」


「凄いですね、白い街だ……。」


「何回見てもファステーラの港町は綺麗だね……。」


低い場所にある為なのか、周りにある森と相まって白い建物がよく目立つ。


突き出たようにある崖には建物が並び、青い海には中に浮いている程に見える船が揺蕩っていた。


「凄いわね……これ……綺麗だわ!磯の匂いがするもの!これが海ね!」


「海を見たことが無かったのでござるか?」


緑珠の発言に、才蔵は疑問を転がした。


「えぇ。無かったのよ。塩水の水溜まりっていうことは知ってたけど、こんな綺麗な物だとは……。」


「拙者も五歳の頃までは海を見たことが無かったのでござる。初めて見た時は驚いたなぁ……。」


「サイゾウ。」


凛、とした鈴を鳴らす声が、しみじみと感慨に耽っている才蔵を呼んだ。その声に少年は走り出した。


「エルフィア様!」


エルフィア、と呼んだその先には、白い女優帽を被り、金髪ショートを靡かせ、碧眼の白いワンピースを着た女性が居た。ふんわりとした日傘を差している。


「お迎えは出来たか?」


「はい出来ました!褒めて下さいエルフィア様!」


「それは後だ。今は客人をもてなさねばならん。」


エルフィアという女性は緑珠の前に出ると、恭しく頭を下げた。


「初めまして。緑珠姫。貴女の噂はかねてより耳に入っています。」


「え。あ、いや、私はもう姫なんて呼ばれる立場では……。」


エルフィアは顔を上げると、少しだけ苦く微笑んだ。


「私が好きに呼んでいるのです。お気になさらずに。……奥は光遷院の当主殿ですね。」


「僕はもう当主と呼ばれる者ではありませんよ。エルフィア様。」


「構わぬのですよ。私が好きに呼んでいるだけなのですから。」


肩を竦めて笑うイブキの後に、エルフィアは真理を眺めていた。


「……また、迷惑をかけたそうだな。真理。」


「えへへ……そうなるのかな。」


なんの悪びれもなく言う真理を一瞥して、エルフィアは説明を始めた。


「私が貴方達を待っていたのは他でもない、この地震の事だ。」


「えぇ、才蔵から聞きました。確か毎日頻繁に起こっているとか……。」


緑珠が言葉を零すと、エルフィアは一瞬止まる。そしてまた歩き始めた。


「……今一瞬揺れたな。」


魔女の一言に、緑珠とイブキは顔を見合わせる。


「え?揺れた?イブキ?」


「計り兼ねますね……。」


「えー?揺れたでござるよ?」


才蔵がエルフィアの周りをぴょんぴょんと跳ねながら言った。


「多分二人はさっきが初めての地震だったからじゃないかな。慣れてきたら大体分かるよ。」


「そうなのかしら……。」


真理の言葉に緑珠は首を傾げながらも、エルフィアが一つ合図を送るだけで関所が開く。


「わぁ……凄いんですね、エルフィア様って。門が顔パスで開けられちゃうって凄いわ……。」


大きな門が開いていくのをエルフィアは眺めながら答えた。


「私はこの土地に昔から住んでいるのです。ファステーラは本当に小さな国で、一応国王も居ますが、果たす役割は小さいんです。」


ですが、とエルフィアは続ける。


「海は自然。神が宿りしモノ。人を治めるのは国王が行い、私は海を治める……。」


「そろそろ言ってあげたら?巷の通り名って奴をさ?」


真理が完全に開かれた、向こう側に海の見える関門の前で、エルフィアに言った。そして、彼女はクスクスと笑う。


「……ふふふ。ファステーラでは、私は……『海の大魔女』と呼ばれているんです。以後お見知り置きを。」









「エルフィア様!あのねー!」


「エルフィア様!コレ見て下さい!」


街に入ると、老若男女問わずエルフィアの周りに人だかりが出来る。


「エルフィア様って人気者なのね。」


「そうでござるよ。」


「あら、才蔵。見ないと思っていたら……。」


夕焼けみたいな目を閉じてにっこりと微笑むと、才蔵は緑珠の手を引いて言った。


「エルフィア様はお時間がかかりそうだし、皆様にはこっちを見てもらうでござる!」


路地を抜けて抜けて、潮騒の香りが鼻を撫でる。白い街に黒い影を残して一行はとある場所へと駆けた。そして、路地を出る少し前で止まる。


「ほらほら、そおっと見るでござる。」


「ん……?」


一行はひょこっ、と路地から顔を突き出すと、その視線の先には金髪で、青と紫が混じった瞳をしている少女が居る。しかし、声が低い。まだ十五歳程だ。背も低い。


「才蔵、あの子は誰なんですか?」


イブキが声をかけると、才蔵は答えた。


「あぁ!このファステーラの王子様でござるよ!」


「……王子?ですか?」


いや、何処からどう見ても女なのだが。緑珠がそれを聞いて、かちんこちんに固まっているのを他所に、イブキは振り返って真理へと問うた。


「……本当なんですか?あれどう見ても……。」


「いや、本当だよ。まじで男の子。声を良く聞いてなよ。」


緑珠とイブキは耳を澄ませて王子?の声を聞く。女顔にも程がある。だが、声だけは低い。


「おらお前ら!働け働け!今日の達成度ノルマはこれだけだぞ!」


「……何か、本当に王子様?」


あっ、でも、と王子は付け加える。


「て、適度に休めよ!今日中にこれだけ分終わらせれば良いんだしな!甘い物もあるぞ、あ、ほら、えっと、なんだ、ほら!」


「……何か、良い王子様ですね。」


一人高い台に登って、叫んでいる王子様。漁師の一人が野次を飛ばした。


「わーってますよ。うっさいです。」


「なっなっなっ、お前このボクに向かって煩いだと!不敬だぞ!お前だけ魚十匹追加だ!」


「……何か、やる事が小さいわね……。」


あっ、でも、と王子はまた付け加える。


「適当に休めよな!その分給金増やすからな!」


わたわたとしている。そして、聞こえるような大声で王子は叫んだ。


「ファステーラは小さい国なんだ!お前達が居ないと国はもたない!風邪引くなよ!引いたら直ぐに休んで治せ!あと家族は大事にしろよ!じゃあな!ボクはもう行くからな!あと!」


「もう帰れ!」


野次の後に、わっはっは!と漁師の中から声が上がると、王子もそれにつられて笑って帰って行った。


「…………。」


元気よく駆けていく王子の後ろ姿を、緑珠は見ていた。この海と同じの服を着て、その背中には暖かい物でいっぱいだ。……あんな頃、自分は、


「緑珠様?」


「ははははい!?何でしょう?」


くるん、と一周まわって見事に顔をぶつけた緑珠とイブキは声をも出さずに座り込んだ。


「いたい……いしあたま……。」


「それ緑珠様じゃないですか……。」


「両方石頭なんじゃないのかな?」


「多分そうでござるね。」


真理と才蔵の話を他所に、緑珠は顔を上げた。その顔を見てイブキはツボる。というか真理と才蔵も笑う。


「っ……ふふふ……。」


「わ、笑わないでよ!は、恥ずかしいんだからね!」


「……いや、いやいや、笑ってないよ緑珠。」


「真理も絶対笑ってるー!もう何でなの!」


頬を膨らませて怒っているのだが、子猫がじゃれているようにしか見えない。


「え、いやいやいやいやいや、笑ってませんよ緑珠様。」


「貴方が多弁の時はアテにならないのー!」


緑珠はぺちぺちとイブキの額にデコピンなり頬を抓ったりしている。


「何よ。そんな変な顔をしてた?」


「ん?変な顔してたよ。」


少しだけ、緑珠は真顔になる。が、真理は付け加えた。


「……怖い気持ち、晴れた?」


「…………ふふ。まぁ感謝しておいてあげる!」


何時もの気前を取り戻した緑珠に、才蔵は葡萄を差し出した。


「はい!ファステーラの主要な産物の一つ、葡萄でござる!良ければどうぞ!」


「わぁ、良いの?頂きます!」


「種無しでござるよ。皮も食べれるでござる。」


それを聞いて緑珠は一気に二つ食べる。


「んーっ!美味しい!」


「ファステーラは漁業中心でござる。その次に洋酒ワインの葡萄、そして食用葡萄でござる。」


「詳しいんですね。この地のこと。」


イブキが才蔵を褒めると、また目を細めて、屈託なく笑う。


「拙者は……御稜威の忍びの里の出身なのでござるが、この地の事がとても気に入って……ちゃんと勉強したでござる!」


「サイゾウ!此処に居たのか!黙って行くなとあれほど……!」


心配そうに寄ってきたエルフィアの手には、花や食べ物が溢れている。


「申し訳ない。御三方に王子の姿を見てもらおうと思って……。」


安堵のため息をエルフィアはつくと、才蔵の頭を撫でて言った。


「なら言ってから行きなさい。全くもう……申し訳ありません、才蔵が勝手に……。」


エルフィアが申し訳なさそうに緑珠へと言うと、彼女は慌てて手を振った。


「あぁいえいえ!お気になさらずに!王子様も見れたことですし、ね?」


「……なるほど。漁港か。」


真理の一言で漁港を見ると、その奥には断崖絶壁が見える。


そしてその上に、屋敷か城か、あまり変わらない大きさの建物が建っていた。それをエルフィアは指さした。


「彼処です。彼処がファステーラの王城。十八歳になった王子は、両陛下のお仕事を傍で見ながら頑張っていらっしゃるのです。」


「……じゅう、はち?」


女顔の為かどうしても幼く見えてしまうようで。緑珠の思考はまた固まる。


「随分と幼く見えるんですね。」


緑珠の気持ちを代弁したイブキの言葉に、エルフィアは深く頷いた。


「そうなんです。王子はそれを深く憂いておられて……女顔なのも気にしておられる上に、剣が出来ないというのです。変わりに刺繍レースを作るのが抜群に上手くて……。」


「……そう、なのね。」


緑珠は駆けて行った残像をまだ見ているかのような視線を消して、エルフィアに向かって言った。


「謁見してみたいわね。あの子と話がしてみたい。」


「なら、明日会いに行くと良いでしょう。」


エルフィアの淡々とした言葉に緑珠は振り返る。


「え?謁見するには、面倒な手続きがいるのでは──」


「要りませんよ。特には。手荷物検査があるだけです。このファステーラは小国ですから。」


緑珠の顔の憂いに、エルフィアは深く頷いた。


「……確かに、不安になる気持ちは分かります。幾らこの国が小国だとしても、謁見をするのに手荷物検査では心許ない。……だから、私が要るのです。」


エルフィアの発言に一行は首を傾げた。が、また彼女は微笑む。


「日が沈んでまいりました。今日は……いや、インテリオール公国の滞在期間は、我が家にお泊まりなさい。」








次回予告!

エルフィアの秘密道具が明かされたり、緑珠とイブキが思いをやり取りしたり新しいものを見たりするお話!

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