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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: ショ糖無糖(旧:お花)
第六章 溟海大龍帝国 インテリオール
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 76 海の地震

とうとうインテリオールに旅立つ一行達。お菓子を詰め込んだり途中でしりとりしたりと、新たな出会いが訪れるお話!

「全員、荷物は持った!?」


「持ってます。」


「持ってるねぇ。」


「あとおやつ!」


「それは貴女だけで良いです。」


「僕は一応持ってる。」


緑珠は黄色の髪飾りで一つくくりにし、白いブラウスの上に、青いベストを着て茶色のチノパンに大きなベルトをして腰に刀を差している。要するに何時もの格好だ。


「えっと。次に行く国は人魚が治める東の国、『ディーネ・インテリオール公国』。此処は国交を絶っている為、内情が把握出来ないのだったわよね。」


「そうですね。何だか厄介そうな国っぽいです……。」


「ま、何はともあれ行かなくちゃね。」


三人が話していると、全快した華幻が姿を見せる。


「御三方。お気を付けて。帰られるのを楽しみに待っていますから!」


「……お前が言えた口じゃないだろう。」


イブキがこの場にいる全員の気持ちを代弁すると、華幻は苦笑いをする。


「あはは……それもそうだね。でもさ、お兄ちゃんが渡してくれた匕首あいくちがあるから!」


華幻は白鞘の短刀を胸元で持ちながら言った。


「本当に危険な時に使うんだぞ、それは。」


「……イブキって、包丁としてあれ使ってなかったっけ?」


「時と場合です。」


じゃあ、と緑珠は華幻へ手を振って言った。


「言ってくるわね。華幻ちゃん。危なかったら直ぐに助けを呼ぶのよ。」


「飛んで帰ってくるからね。」


扉を開けて人が消えていくのを少しだけ寂しそうに、華幻は見つめる。イブキが下駄を履いて、振り返った。


「華幻。おいで。」


「……どうしたの?お兄ちゃん。何か私に優しくない?変な物でも食べた?」


「失礼な。ほら、おいで。良い物あげるから。」


華幻はとたとたとイブキに近付くと、イブキは飴玉を何個か差し出した。


「はいこれ。甘い物食べたくなったらこれ舐めとけ。」


「良いの?やったぁ!」


「あと台所に曲奇餅クッキー置いてある。」


「お兄ちゃんつよーい!」


イブキは最後に華幻を一瞥すると、よしよしと頭を撫でる。


「ん。じゃあ行ってきます。」


「はい。皆さん、行ってらっしゃい!」


緑珠が良かったわね、と言わんばかりの笑顔で華幻に手を振る。


それに真理とイブキが何か言っているのが聞こえる。華幻はからからと鳴る扉を閉めた。


「……お兄ちゃんに頭撫でられちゃった。えへへ、嬉しいな。」


あのね、と彼女は誰も居なくなった屋敷の中で、ぽつりと呟く。


「知ってたんだよ。お兄ちゃんが何かで苦しんでたこと。でも私には無理で、それで……。」


本当は色々、家族が居た頃にしてみたかった。次期当主が自分を棄てていた、その時に。でも後ろを向いても始まらないし。


それに、兄を救ってくれたのが、一族として仕えるべき主たる姫君だったのならば。


「うん。曲奇餅美味しい!」


台所にあった曲奇餅を、華幻は食んだ。美味しい。


それで、結局私が言いたかったことは──


「……今の生活が大好きだよ。お兄ちゃんも緑珠様も真理さんも大好き。……さて、子供達の為に勉強でもしようかな!」


さて、先ずは怪我をした時の無事を話して、止血方法を教えたのを上手く使ってくれて有難うと話していかなくてはならない。


「やることがいっぱいだね!」


屋敷の中で、人が居るような温かみの屋敷の中で、華幻は微笑んだ。


さて、場面は戻って。緑珠は先陣を切って歩いていた、のだが。


「……退屈だわ。」


「退屈なのは良いことですよ。平和なんですから。」


イブキの言葉に緑珠は頷き岩肌を進みながらも、何だか釈然としないようで。


「そうは言ってもねぇ。退屈は退屈なのよ。」


「ま、最近の旅路は色々あり過ぎたからじゃないかなぁ……退屈に感じるんじゃない?」


「あー!それ分かるー!」


と、岩肌を登りきったあと、また三人は無言になる。少し遠くに海が見える。緑珠は耐えきれなくなった様に言った。


「……無言、辛いわよ。」


「えぇ……何話すんですか、逆に。」


緑珠は少し唸ると、一言。


「しりとりしましょ。」


「良いよ。僕は賛成かな。」


「別に良いですけど、それって言葉の途中に『ん』入るの無しですか。アリですか。」


イブキの質問に、緑珠は適当に返した。


「どっちでも良くないかしら。じゃあ言葉の途中に『ん』が付くのが良い方向で進みましょう。それじゃあ、しりと、り。」


次にイブキが答える。


「林檎。」


次に真理。


「胡麻。」


そして緑珠。


「魔法。」


「瓜。」


「理科。」


「牡蠣。」


「北。」


「田圃。 」


「牡丹餅。」


「地殻。」


「何か、声一つ多くない?」


「気のせいじゃないですか?」


「え、いやでもどうなんだろう……。」


「気の所為でござる!」


三人は聞きなれない声に慌てて振り返った。


「……。」


「……。」


「……。」


「にーんにーん!」


緑珠と真理はイブキの背後に隠れると、イブキは『神鳳冷艶鋸』を繰り出した。にたにた笑っている少年が、一人。


「なななななな、何者ですか!」


「にーんにーんにーん!」


「い、イブキ、この子やばい子じゃ……!」


「特に頭とかやばそう……!」


緑珠と真理はイブキの足の傍から九字を切っている紫髪の少年を見詰めている。


「にーん!」


「……何者です、か?」


珍しく狼狽えているイブキに、少年は答えた。


「にーん!拙者は『エルフィア』様に仕えている忍びでござる!にーんにーん!」


「……エルフィアだと?」


その言葉に真理は、イブキの足元からすくりと立ち上がった。


「知ってるんですか、エルフィアっていう人。」


ゆるりと神器を下ろしたイブキに、真理が真剣そうに言った。


「ああ……僕が珍しく迷惑をかけていない魔法使いだ……。」


「此奴神妙な顔して何言ってるんだろう……。」


吐き捨てるようにしてイブキは言うと、緑珠はイブキの陰に隠れながらも立ち上がる。


「エルフィア様が来るだろうって。だから見ておけって言っていたのだが……。」


にぱっ、と少年は微笑んだ。


「しりとりにつられて出て来てしまったでござる!許してぴょんぴょん!」


思いっきり茶目っ気があるポーズをされる、のだが。


「緑珠様、あれ殺っといた方が良いですよ。」


「私もそれ思ったわ。」


「エルフィアってそんなやばいやつじゃないんだけどなぁ。あれはダメだよ。殺ろう。」


三人で顔を寄せあっている場所に、少年は顔を寄せて言った。


「でもでも、お姉ちゃん方はインテリオールに行くんでしょ?」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


距離の近さに緑珠は逆匍匐をする。イブキも真理も飛び上がった。


「な、何でこんなに気配を感じないんです……!?」


「忍者だから!にーんにーん!」


「いや、にんにんとか切実に止めて欲しいのだけど……。」


というかそもそも、と緑珠はおずおずと少年へ手を突き出した。


「……貴方、名前は……?」


これはこれは、と見とれるほどの美しい所作で、少年は膝をついて緑珠へと膝まづいた。


「申し遅れた。望月才蔵もちづき さいぞうでござる!以後お見知りおきを!緑珠様!」


「……なまえ、いったっけ……?」


イブキの事で麻痺していた。自分の言っていないことを当てられると、これ程の恐怖が訪れるということを……。


「エルフィア様に教えて頂きました!エルフィア様は占いがお得意なのでござる!」


元気いっぱいに、また才蔵はにかっ、と笑う。


「インテリオール公国の周辺はご存知で?拙者が案内するでござるよ?」


「……うぅ。これは信用すべきか……。」


尻餅をついたままの緑珠に、真理が手を差し伸べた。そしてそのまま彼は言う。


「まぁ……全身からエルフィアのところの魔法の匂いがしてるからね……嘘は言ってないと思うよ。」


そもそも、と才蔵はきょとんと首を傾げて言った。


「現在ディーネ・インテリオール公国は入れないでござるよ?」


「出たわよ入れない系……。理由は?」


ざく、ざく、と歩道された街道に出た一行に、才蔵は嬉嬉として答えた。


「インテリオールは人魚の国でござる。インテリオールの手前にある国、ファステーラが人魚の乱獲を危惧して入国禁止になっているのでござる。」


まぁ、としみじみとしながら才蔵は続けた。


「……ぶっちゃけ人魚の乱獲というよりかは、恋路でござるが……。」


「それ、どういう意味ですか?」


不思議に問うたイブキに、才蔵はまたにかっ、と答える。


「教えないでござる。一応秘密の話ござる。言ったとバレたらしばかれる……。」


「その割には結構口軽くない?」


と、真理が言った直後だった。


ぐらり、ぐらりと、地が揺れる。木々が揺れ、石が飛び、鳥がはためく。真理と才蔵は揺れが収まるまでその場に固まる。


「わぁ!凄い!地面が揺れてる!」


「本当ですね。こんな事ってあるんだ……。」


だが、月面出身の二人は割かしはしゃいでいる。知らないのだろう。この現象を。


「……えっと。今のは『地震』って言うんだよ、二人とも。」


緑珠はきょとん、と首を傾げて言った。


「ジシン……?何それ?でも今のは楽しかったわ!また起こらないかしら!」


お姫様とは呑気な物だ。これは危険性というものを教えてやらねばならない。


「地が震える、と書いて『地震』。今みたいに小さいのもあれば、地震によって津波が引き起こされることもある。」


「ツナミ、って何ですか?」


おっと。その説明も必要だな。才蔵は真理の影に隠れて林檎を食べている。


「津波は、様々な地殻の影響によって、海洋に生じる大規模な波の伝播現象のこと。」


「……えっと、要するに海が動くんですか?陸の方に?」


これはこれは、物分りが良い。真理は深く頷いた。


「そうだよ。」


「え……!じゃあ地震って凄く危ないものじゃない!月面には無かったものだから、ついはしゃいでしまったわ、御免なさい……。」


しょんぼりしている緑珠に、真理は優しく言った。


「良いよ。知らなかったものね。これから地上の現象を色々知っていくと良い。」


足元で林檎を食べ終わった才蔵に、真理は振り返って問うた。


「ねぇ才蔵君。此処の地域は地震が起こりやすいのかな?」


「起こりやすいもんなんて無いでござる。最近は小規模の地震が毎日毎日……。」


「……毎日、だって?」


んぐ、と音を立てて林檎を食べると、適当に口元を拭いて才蔵は立ち上がった。


「毎日何回も有るでござる。最初は皆怯えていたのでござるが、最近は専らで怯えることも無くなったでござる。」


それに、と才蔵は付け加えて言った。









次回予告!

地震によって引き起こされるものとは?そして、才蔵の主のエルフィアとは?謎が明かされていくお話!

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