ラプラスの魔物 千年怪奇譚 70 星霧国の惜別
滅茶苦茶緑珠が艶っぽい声を出したりイブキがえげつない悲鳴をあげたり姫と一緒に人形を返しに行ったりとノルテ編最終話!
「あっ、あ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真理はとんでもない悲鳴で目を覚ました。この声はあの変態の声だ。
というか彼奴は何時も冷静なのに悲鳴を出す時はとことん出すな、と思いながら声のした緑珠の部屋の方へと向かう。
「う、あ、ちゃ、ちゃちゃちゃちゃ、ちゃんり……お、おはおはよう、ございま、す。」
「大丈夫か?歪った遊戯みたいな音声だけど?」
「いやいやいやいやいやそんな訳な」
「完全に歪ったな。」
寝台から飛び出してへたりこんでいるイブキ。緑珠は煩そうに身体をあげた。
「なによぉ……朝からうるさいわねぇ……。」
「えっ、えっ、ぼ、ぼくっ、き、昨日貴女が泣いてる声がきこえてっ、あ、もしかして、もしかっ、」
「不貞行為はしていないから安心しな。」
瓶に入っていたぬるい水を真理は飲み干すと、慌てふためいているイブキへと言った。
「はぁ……何時になく真理が頼もしく見えます……。」
「僕は何時だって頼もしーだろー?」
「ま、毒飲まされても生きてますからね。」
イブキは落ち着き払って言い返すと、真理は真顔で言った。
「それ以上生意気言ったら『神様・マジカルパワー』で不貞行為あったことにするからね?」
「え、不貞行為があったことにされるのは困りますけど、その『神様・マジカルパワー』とかいうの滅茶苦茶気になります。」
いや、でも、とイブキはぽそりと呟いた。
「泣哭性愛の僕からしてみれば、本当に不貞行為を起こしかねない状況でしたし……もっとしっかりしなければ……。」
「でもまぁ、良い時間に起こしてくれたわね。姫と一緒に人形を返さなくてはならないし。」
呟いた緑珠に、どきまぎしているイブキ。朝から悪戯心で溢れた緑珠が、寝台を下りてイブキへと近付く。
「な、なんでしょう……?」
緑珠はイブキの耳元で、艶っぽく言葉を紡いだ。
「……慰めてくれて有難う。大好きよ。」
「ひぎぃっ……。」
全ての悲鳴を煮込んだ声を出したイブキは、座ったまま失神している。
「あ、死んだ。」
緑珠はつーんつーん、とイブキを弄るがピクリともしない。
「朝ごはん行こっか、緑珠。」
「そうなのだけれどね、イブキが死んでしまっているから……。」
放心状態のイブキをちょいちょいっ、と緑珠は啄く。
「がはっ……。」
「あ、生き返った。」
イブキはゆっくりと顔を上げて、緑珠へと言った。
「僕、今天国に逝ってました。」
「大丈夫?ちゃんと現世に戻って来た?」
生き返ったイブキに、真理は嘲笑うように言った。
「まぁ君が逝くところは地獄だけどね。」
「煩いですよ、真理。」
イブキが立ち上がったのと同時に、モアが眠そうに部屋を眺めている。
彼女は枕投げ大戦のあと、適当な部屋を見繕って勝手に泊まっていた。それを宰相は予期していたらしく、部屋に置き手紙まであったそうな。
「おっはー。朝から元気な奴らだな。」
「おはよう、モア。元気なのはイブキよ。」
「おはよう御座います、モアさん……。」
「おはようね、モア。」
一通りの挨拶をモアは浴びると、食堂の方を親指で指した。
「ほら、朝飯食おうぜ。オレもうお腹空いたわ……。」
眠そうに頭を掻いたモアに、緑珠は続く。
「そうね。私もお腹が空いたわ!さぁ、皆でご飯を頂きましょう!」
「ふぅ……お腹いっぱいになった……。」
緑珠はそんな言葉を呟きながら部屋で水浅葱の部屋着を脱ぐと、何時ものあの蒼いベストに変える。
茶色のズボンにひらりとした燕尾を纏い、深い茶色のベルトに蒼い、そして緑の玉が飾られている苗刀を差したら──
「よし、出来上がりっと……一人で着替えるのにも段々慣れて来たわね……。」
まだばらばらの黒髪を部屋に散らしながら、廊下を出ようとした瞬間だった。
「緑珠?居るか?」
目の前のドアがノックの音で揺れる。ぶつかりそうになった緑珠だったが、ドアノブを掴んでドアを開けた。
「あら、モアじゃない。どうしたの?」
緑珠の髪がまだばらばらになっているのを見て、モアは櫛を前にかざした。
「髪、やらせてくれないか?私、結構得意なんだぜ?」
「それは別に構わないけど……ほら、部屋に入って入って。」
一瞬呆気に取られた緑珠だったが、直ぐに微笑んで部屋に入れる。化粧台の前に緑珠は座った。
「何時もポニーテールだよな。ちょっとアレンジしても良いか?」
「構わないわよ。偶には違う髪型も良いわね。」
モアは緑珠の髪を取って、櫛で黒髪を解き始めた。何とも言えない侘しさと悲しさが部屋の中に充満する。
「……モア、また来るからね。また会いましょう。」
「何だよぉ、オレなんにも言ってねーぞ?」
横の髪を三つ編みにするモア。緑珠は苦く微笑んだ。
「だって……あんまりにも悲しそうな顔をするものだから、ね?」
緑珠の言葉を聞くと、モアは一瞬だけ手を止めたが、また髪を梳き続ける。
「……ま、悲しくないって言ったら嘘だけどな。寂しいよ。そりゃな。」
でもさ、とモアの赤い瞳に相応しい、太陽のような笑顔が鏡越しで見える。
「また会えるんだし。手紙でもやり取りしよう。マグノーリエ邸宛に送るよ。」
「モアが元気になってくれて良かったわ。」
何本かの三つ編みを飾る様に側頭部に当てると、それを混ぜて一気に一つに髪を結った。
「お前さぁ……髪切ったら?滅茶苦茶長くて、くくんの大変なんだけど……いじんのは楽しいけどさぁ……。」
悪戦苦闘しつつも綺麗にきっちり結ばれた髪を緑珠は見ると、くすくすと笑った。
「日栄人は髪を切ってはいけないのよ。髪は命だから。」
「髪が命……?」
モアの呟きを緑珠は肯定した。
「そうよ。髪は命。日栄人は二十歳から成長しないの。それで、ある程度寿命が過ぎたら……勿論死ぬわよね?」
「それは……まぁ、そうだな……。」
緑珠の言葉を有り得ないと言ったふうにモアは受け取る。しかし彼女はそのまま続けた。
「だけど、日栄人は特別。ある程度寿命が来て、死ぬ年齢になったら……髪の先が銀髪になっていくの。その銀髪になった髪を切ったらまた寿命が伸びる。まぁ、限界はあるけどね。」
「へー……変わった性質を持ってるんだなー……。」
初めて聞いた人種に、初めて聞いた特異性。モアは呆然としていた。その瞬間、こんこん、と扉が叩かれる。そして、向こうから声が聞こえる。
「緑珠様。御髪の方が如何なさいましょうか。」
「あぁ。イブキ。入って入って。綺麗にしてもらったのよ。」
ガチャリ、というドアノブが捻られる音がする。それに続いてイブキの声も聞こえた。
「失礼致します。……おや、これはこれは……。」
イブキはモアへと感心を込めて微笑みながら言った。
「緑珠様の御髪を三つ編みにするのは大変だったでしょう?」
「おう!ま、楽しかったけどな!」
モアが櫛やらを片付けている傍で、イブキは緑珠へと問うた。
「御準備の方は宜しいですか?」
「あ、待って。まだお菓子を入れてないの。」
「お菓子なんて居らないでしょう……。」
イブキの肩が竦められたのを横目に、緑珠は鞄の中を漁っていた。のだが。
「あっ……そうだ、彪川にお菓子を全部あげちゃったから無くなっちゃったんだわ……。」
しょんぼりとしている緑珠に、イブキは一つ提案を投げかける。
「……国を出る時に、飴でも買いますか?」
「良いの!?」
先程まで真っ暗だった顔色が、一気に光り輝く笑みに変わる。イブキはその顔を眩しく感じながらも、
「構わないですよ。」
「やったやった!イブキ大好き!」
「……そ、それはどうも。」
何とか平静を取り繕うにも目の前の主の気分が兎に角高い。ぶっちゃけ可愛い。
「ほら、煩悩の塊と緑珠とモア。そろそろ約束の時間だよ。」
「僕を煩悩の塊と言わないで下さい。」
扉に手をかけた真理は、むすっとしているイブキへと吐き捨てるように言った。
「君の緑珠に纏わる煩悩は除夜の鐘百年分鳴らしても消えないよ。」
「煩い、です。」
そのやり取りを聞いて、緑珠とモアはくすくすと笑う。
「それじゃ、行きましょうか。姫と一緒に人形を返しに行かなくちゃ。」
全員荷物を持って迎賓館から出ると、イブキが閂を閉めた時と同時に、緑珠は空を見上げた。
「……綺麗な空ね。」
「そうだな。出発するには充分な天気だ。」
緑珠は迎賓館を一瞥すると、目の前の道をただ歩いていく。この先に城があるのだ。
「城門でロジエ姫と会う約束になっているのだけれど……あっ、」
木漏れ日が溢れる道をずっと歩いた先、城門が見えた彼女は小さく声を上げると、一人の男性と共に立っている頭巾を被った少女が居る。
「お早う御座います。ロジエ姫。」
その声にロジエは顔を上げた。しかし、頭巾がズレて上手く緑珠の顔を覗けない。
「お早う御座いますなのだわ。緑珠姫。お手伝い頂いて本当に有難うなのだわ。」
いえいえ、と緑珠は言った。返す相手は件の嫉妬魔、『フローレンス・リンテージ』だ。
「お早う、姫。」
「はい。宰相殿もお早う御座います。」
微笑んだ緑珠に、差し出された紙。赤い蝋で封がされている。
「ほら、持って行け。調印書だ。」
疑問を彼女が差し出す前に、ルカはとてつもなく気まずそうに言った。
「……王は昨日、電子遊戯をして寝不足なのだ。」
「ふふっ……本当にお変わりないのですね、あの王様は。」
緑珠は今まであった王との話を思いめぐらすと、調印書を受け取って宰相へとお礼を言った。
「有難う御座いました。それと、数々の非礼をお詫び申し上げます。」
「いや、気にしていない。……さぁ、早く人形を返しに行け。」
でないと名残惜しくなってしまうから、という言葉をルカは飲み込んだ。
そんなことなど露ほども知らない緑珠は能天気にロジエへとしゃがみ込んだ。
「それでは参りましょう、ロジエ姫。」
「はい、なのだわ!それではお兄様、行ってまいりますなのだわ!」
行ってらっしゃい、という言葉を顔に表しながら、ルカは優しく手を振った。
そして先導を歩く緑珠とロジエを見ながら、イブキへと告げる。
「あの姫をくれぐれも頼んだぞ。どうせまた危なっかしい事をするだろうからな。」
「……言われなくても分かっていますよ、宰相殿下。」
肩を竦めて彼は笑うと、ルカは苦々しく続けた。
「全く……羨ましい限りだ。何が、とは言わないが。」
その何が、が何を指すかを明確に把握しているイブキは優越感が篭った笑いを宰相へと向ける。
「僕はその羨望を見に受けてあの方のお傍に居る時が、一番楽しいんです。皆に愛されているあの御方が真に頼るのは、僕達だけなんですから。」
次に会うのはあの御方の戴冠式でしょう、それでは、とイブキが走り去っていくのを見ながら、宰相はその場をあとにした。
「フローレンスとは顔を合わせたことが無いから、多分バレないとは思うけど……。」
それなりに鈍感な緑珠は、難しい顔をしながら人形の心配をしていた。
「バレたらややこしいもんねぇ。緑珠は色々あるから。」
便乗するように呟いた真理に、不思議そうに首を傾げるロジエ。
「フローレンスというお方は、そんなに酷い方なのかしら?」
緑珠は慌てて自身の言葉を否定した。
「あぁ、いえ。そうでは無いのです、ロジエ姫。私が彼女と少し気が合わないだけなので……気にしないで下さいね。」
「……ほら、着いたぞ。」
人形を返すこと、即ち別れが近付いてきている事を何となく悟っているモアは、消え入りそうな声で『リンテージ商会』と書かれた看板の前で言った。
「有難う、モア。ええっと、イブキ。こういう時は……。」
「ごめん下さい、って言えば良いんですよ。呼出鈴があるでしょう。」
それを聞いた緑珠は一つ咳払いをして釦を押すと、
「ごほん。ごめん下さい、フローレンス・リンテージ様は居るかしら?」
敬語という概念が完全に消失している緑珠に、呼出鈴の向こう側の人間は答えた。
『え?フローレンスお嬢様?いらっしゃいますよ。どちらの商会の方ですか?』
言葉に詰まってしまう。モアが緑珠の肩に手を置いて、呼出鈴に言った。
「あー、私だ私。モア・アルシャリアだ。フローレンスに用がある。出せ。」
「な、何て粗野な……。」
緑珠がモアの物言いに震えるのを、モアは苦笑しながら見ていた。
『も、モア様!?直ぐにいらっしゃいます、暫しお待ちを!フローレンス様、何やら──』
何よ?と不機嫌そうな声が向こうから聞こえる。足音が呼出鈴を掠めると、
『何?私、今新作の案出しで忙しいんだけど。』
「御託は良いからさっさと出ろ。工房を消し炭にされたいのか。」
チッ、という盛大な舌打ちのあと、傍にあった扉が開くとふりふりの服に覆われた、金髪緑眼の少女が現れる。心底煩わしそうに緑珠達を一瞥すると、
「……何?」
フローレンスの苛立った言葉に、ロジエは人形を差し出した。
「これ、貴女のだわ?」
「……ちょ、何でアンタがこの人形持ってるワケ?今回の騒動で無くなったと思ってたのに……。」
イブキが誤魔化す様に『好青年の笑み』を浮かべてフローレンスへと言った。
「偶々、売りに出されているのをこのお嬢さんがお母様に頼んで買って貰っていたんですよ。其処でモアさんが見たことのある人形だ、と言ったので。貴女の物だと分かったんです。」
妙に説得力あるような無いような説明をされて、フローレンスはロジエから人形を抱いた。
「……この人形はね、私が初めて買って貰ったお人形でね。このお洋服も初めて作ったお洋服だったの。」
愛おしそうにフローレンスは人形を抱くと、目の前の五人に礼を言う。
「ありがと、アンタ達に感謝するわ。お礼と言っちゃなんだけど……。」
フローレンスはぴょいぴょいっ、と五人に適当なお菓子を投げる。
「これあげる。私、汚れるからお菓子食べないの。それじゃ、忙しいからこれで。」
一方的な会話が終わると、ロジエは『リンテージ商会』の看板をただ眺めていた。
「……確かに、あの御方はお口がお悪う御座いましたわ。でも……。」
涙が零れるのを防ぐように、頭巾を深く被るとロジエは続ける。
「……でも、でも、あのお人形さんも、あの服達も……あんな大切にして貰っているのだから、きっと楽しいのだわ……。」
一生懸命ごしごしと涙を拭うと、ロジエは緑珠へと叫んだ。
「私、頑張ってお人形さんを作ってみたいのだわ!お洋服だって!」
これがロジエの強さだと、これがロジエの最強の武器が炸裂した。
「『何だって出来る』!魔法の呪文ですわ!」
それでもやっぱり悲しくて、それでとやっぱりやり切れなくて、ロジエの目には涙の膜が張っている。緑珠はロジエの頭を撫でた。
「良く頑張りました、ロジエ姫。」
「わ、わたくし、やっぱりあのお人形さんがほしく、て、ひくっ、でも!」
一つの山を超えたロジエの顔は、何処か晴れ晴れしていて。
「やっぱり、人の物はちゃんと人に返さなくちゃ、ですわね!」
皆様をお見送りしますわ!と元気になったロジエに、思い出したように呟く真理。
「……あ。城兵の制服、どうしよ。」
「うわぁ……すっかり忘れてましたね。」
「どうしましょ……。」
「あー……その件だけどよぉ、」
モアが頭を掻きながら、脳裏を過ぎる宰相のことを言った。
「それオレ言ったんだわ。そしたら『変える』だとよ。心配しなくて良いみてぇだぜ。」
「ほんと!?それは助かったわ!」
きゃっ、きゃっ、とはしゃいでいると関所が見える。もう、それは、もう。
「……やぁね。親友が居る国には行きたくないわ。」
それをちらりと見遣った緑珠は、モアへと言った。
「それは何でだ?」
答えはもう、分かりきっている。緑珠は涙を拭いながら微笑んだ。
「別れ際が寂しくなってしまうから、ね。」
緑珠はロジエへとしゃがむと、小指を差し出す。
「『お姫様は何時も笑顔で』。私もこのお約束、守りたいです。指切りげんまん、して頂けますか?」
「えぇ!それはもう、喜んで!人に愛される為には何時だって笑顔で!お約束ですわよ、緑珠姫!」
えぇ、と短く緑珠は答えると指切りげんまんを済ませた。それを見計らって、モアが一つの箱を差し出す。
「ドレスだ。持ってけ。絶対似合うから。」
「……有難う。」
「何だよ。お前が一番泣きそうな顔してんじゃねぇか。」
少しだけ涙声が混じったモアの声。
「えへへ、そうねぇ。」
これが今生の別れでは無いと分かっているのに、それでも別れるのは寂しい。
「それじゃ、行くわね。お手紙出すから待ってて。」
「それではモアさん、ロジエ姫。また何時か。」
「それじゃあね、モア、ロジエ姫。また今度ね。」
一通りの挨拶を終えると、緑珠はモアとロジエの顔が見えないところまで走った。そして大声で叫ぶ。
「モアーっ!ロジエ姫ーっ!『またね』!」
「……そうだな。……『またね』。緑珠。」
「はい、『またね』、ですわ!」
もう其処からは振り返らなかった。辛かったから。涙が出そうだったから。城門をくぐり抜けると扉が閉まって、遠くの二つの人影が完全に見えなくなる。
「……終わった、わね。」
「あぁいや、そうでも無いですよ。」
雰囲気ぶち壊しのイブキの発言に、雰囲気ぶち壊しの音。
「……何、この音?」
「あれですね。」
向こうから彪川が走って来るのが見える。どうやら城門辺りで見張っていたらしい。
「皇子!地獄にお戻り下さい!」
「嫌です。というかそれはお戻りでは無く単純に『死』です。」
話が何となく長くなることを悟った緑珠は、真理と共に蒲公英を弄っている。
「何でですか!何でもありますよ地獄には!」
「地獄に何があっても緑珠様が居なければ意味が無いです。」
「ねぇちゃんりー、たんぽぽってたんぽぽよねー。」
「たんぽぽはたんぽっぽぽっぽだよ?」
「えー?たんぽぽっぽぽぽっぽめっぽぽでしょー?」
外野が意味の分からない言語を発しながらも、彪川とイブキの言い合いは続く。
「なーんででーすーかー!王もお喜びになりますよ!」
「ならないでしょ。」
吐き捨てるようにイブキは言うと、彪川は泣きつく。
「そんな呆れた目で見ないで下さい!」
「蒲公英ってぇー、何処でも食べれるらしいわよー、根は珈琲とかー、天麩羅とかー、じゃあさー、そのまま食べたら滅茶苦茶美味しいのでは……?」
「いや、かなり青臭いだけだと思うけどなぁ……。」
「んー?そっかぁー……。」
意味の分からない会話はまだまだ続く。
「お願いします!来て下さい!」
「やぁですよぉ、滑土下座してくれるんだったら良いですけど。」
「何その動な土下座……。」
最早、蒲公英にさえも愛想を尽かし始めた緑珠を待たせまいと、イブキは二通の手紙を懐から出した。
「まぁこれ読んで下さい。一通は貴方宛で、もう一通は王宛です。今読んで下さい。それでは。」
さっ、と身を翻してその場を去るイブキ。
「あれ、お話終わったのかしら?」
「終わったので参りましょう。」
国が段々遠くなる程に、遠ざかる彪川の悲鳴。真理が恐る恐る問うた。
「……何書いたの、あれ。」
「『これ以上僕達にしつこくして来たら嫌いになります 伊吹 華幻』って書いてあります。」
「……か、華幻ちゃんも待ってる事だし早く家に帰りましょう!」
「そうですね。」
緑珠の踊ったような足取りと、彪川の悲鳴が比例するように、青い空に広がっていた。
次回予告!
ノルテから帰った緑珠達!しかし、何時ものマグノーリエ本邸では無く、起こったのは惨劇。そして、その惨劇に壊れてしまうモノが現れる……!




