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【完結】ラプラスの魔物 千年怪奇譚   作者: お花
第五章 永久星霧大帝国 ノルテ
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ラプラスの魔物 千年怪奇譚 68 猟奇の枕

迎賓館でまたもや凄いことを仕出かしたりモアが飛び入り参加したり最早それとは言いがたくなったりと楽しいお話!

宵闇の中でモアが言った。舞踏会は終わり、辺りには身がしみる静けさが残っている。


緑珠達一行は王の計らいにより迎賓館に泊まるが、モアはそれを一蹴した。


「荷物はまた送らせる。迎賓館に泊まる趣味はオレにはねぇからな。精々三人で楽しんでな。」


モアは馬車に乗り込む前、とてつもなく寂しそうに緑珠へと言った。


「……お前、明日には帰っちまうもんな。」


「モア……。」


街灯の光がモアの顔に当たらなくなる。今は、どんな表情をしているのだろうか。推測するに……いや、推測なんてしたくない。


「お前らの旅に、オレは着いていけねぇからな。オレは商会を継がなきゃなんねぇし。それに、足でまといだしな。」


顎に光が当たると、何かの雫が光る。水晶の形をした、雫の何かが。モアは乗ろうとしていた馬車を降りると、バレないように涙を拭って、笑った。


「でもさ!この国が一番滞在期間が長かったんじゃないか?」


だって、とモアは付け加える。


「人身売買だろ?時を戻したり、舞踏会をしたりした!」


「……そうね。御稜威は一週間程度だったし、ザフラもそれくらいだった。日栄に引き摺り込まれたりして、大変だったけれど……。」


緑珠は儚げな笑顔を浮かべて、モアへと返した。


「この国が一番長くて、とっても楽しかったわ。今も昔も、ずっと変わらず。勿論、前までの国が悪かった訳じゃあ無いわ。」


けれどね、と緑珠は続ける。


「この国が、私は大好きだから。居城が戦争になった時もこの国が救いだった。」


「……そっか。」


モアは何時も通りにニカッと笑いながら、馬車へと乗る。そして、最後にこう言った。


「それじゃあな!緑珠、伊吹、真理!良い夢を!最後までこの国を楽しんで!」


緑珠は闇に融けゆく馬車を眺めると、静かにため息をついた。


「……ふぅ。……本当に、色々あったわね。これが一年経ってないっていうのが史上最大の驚きだわ。」


迎賓館に足を進めながら、緑珠はぽつりぽつりと呟く。


「真逆、地上に来てお友達が出来るとは……。」


「緑珠様、国に居た頃は御友人がいらっしゃいませんでしたものね。」


「煩い!ぼっちとか言うな!」


「其処までは言ってないと思うよ?」


ぷう、と頬を膨らませて反論する緑珠を、真理はくすくす笑いながら言った。


「ま、まぁ?本当に友達は居なかったけど?ほ、ほ、本当に……友達、居なかったけど……。」


彼女はその場で暗い表情を作る。


「周りが変人しか居なかったし。」


「それは貴女が変人だか」


聞き捨てならないと言ったふうに、緑珠はイブキの頬をつねった。


「何よ。私が変人とでも言いたいの?」


「めっひょうもありまひぇん。」


「ふふふ……よく分かってるじゃない。」


緑珠はイブキの頬から手を離すと、迎賓館の大きな門の横の扉のかんぬきを抜こうとする、が。


「……開かないのだけれど。」


「はいはい、開けますよ。これ引き戸の種類タイプですね。鍵あります?」


緑珠は鍵を差し出すと、幾らかのぱちぱち、という音のあと引き戸が完全に開いた。


かんぬきを開けるだけだから鍵は要らないと思ってたのに……。こんなところで使うなんて……。」


「引き戸の錠前は見たことが無かったのかい?」


「無かったわ。……そもそも、引き戸なんて無かったし。」


若干膨れている緑珠にイブキは扉を開けて先を譲った。


「ありましたよ。通用口の所は引き戸でした。」


青と白の迎賓館は目の前だ。緑珠は小さな階段をふらりとしながらも上がって行く。


「通用口、ねぇ……行ったら駄目って言われてたし、見たことないのも当然かもね……。」


今更城のアレこれを言われても動じない。……だって動じていたらキリが無いもの。


「今度こそ、よし!開いたわ!」


開いた扉を押しながら、緑珠は言った。


「宰相様がね、部屋業ルームサービスを付けようか、と言ったのだけれど……何かあんまり落ち着かないし、無しにして貰ったわ。だから……。」


明るい迎賓館の室内を前に、緑珠は大きく手を広げた。


「わっしょい出来るわよ!」


「わっしょい出来るって何ですか。」


「分かってないわね、イブキ。」


緑珠は指で疑問と呆れを浮かべたイブキに思いっ切り宣言した。


「枕投げが出来るということよ!」


「……えー……。」


イブキが吹っ切れない声を出す。緑珠は腰に手を当てて不服そうに呟く。


「何よ。私と枕投げするのがそんなに嫌なの?」


「いや、嫌じゃないです。嫌じゃないですけど……。」


真理はにこにこしながら開けっ放しだった玄関の扉を閉める。


「物とか壊しちゃ怒られるじゃないですか。よしんば場所が確保出来たとしても、ほら、僕達が枕投げをしたら……。」


一拍置いて、一言。


「殺し合いになっちゃいますよ。僕、血塗れの枕なんて投げたくないです。」


腰に手を当てて、不服そうな表情をしていた緑珠が真顔になる。納得してくれたのか、とイブキが安心したのも束の間。


「総員!即座に着替えよ!刻限は九時!大広間に集合!真理は大広間全体に結界を貼り、物がぶつかっても大丈夫な様に!」


「了解だよ!緑珠!」


「うげぇー……やるんですか……。」


ニヤッ、と緑珠は口角を上げて笑う。


「勝者は何しても良いの。」


「乗りました。緑珠様、着替えましょう。」


「乗り気になるの早いな……。」


真理が呟いた事なぞ露知らず、乗り気では無かったイブキが一気に乗り気になる。緑珠はイブキを連れて部屋へと入った。


「ふぅ……楽しかったけれど疲れてしまったわ……。」


髪飾りを取って化粧台ドレッサーの前に置く。固めていた髪は少し濡らした櫛で解きほぐす。


「緑珠様の髪はさらさらしていて良いですね。」


「私、癖毛が良かったなぁ……。」


「癖毛は大変ですよ。雨の日は。」


「まぁ、そうなのだけれどね……。」


ある程度髪の毛を解きほぐすと、イブキは緩く緑珠の髪を縛った。手を万歳にしてドレスを脱ぐと、無機質な腰締コルセットが顕になる。


「貴女はもうちょっと危機感というものを覚えた方が良い。此処で僕に襲われても文句は言えませんよ?」


それに対して緑珠は大したことが無いと言った風に笑う。


「あらあら、それは防衛術に関しては貴方と対等だからそんな事を言ってるの?」


「……夜に襲われたら?」


「その時はその時よ。」


イブキの戯れ言を軽く緑珠は流すと、


「うぅ……殿方は良いわよね。着飾らなくて良いし。服もこんなに凝ってないし……。」


化粧台の前にある髪飾りを眺めながら、苦しい腰締が取られている感覚を味わう。


「まぁ、往々にして舞踏会は値踏みの場ですからね。男は質素で良いんですよ。」


イブキはそんな事を言いながらするすると腰締の髪帯リボンを解いていく。


「それを言ったら女の子って皆可愛いし、それこそ着飾らなくて良いでしょう?女の子はお砂糖で出来ているのよ。これ以上お砂糖成分増やしてどうするの。飽和状態になっちゃうわ。」


「……そうやって着飾った女性を見て、何もかも飲み干すのが楽しみになるんです。」


はぁ、と解けた腰締を緑珠は抑えながら言った。


「……殿方って、難しいわ。」


「人の本能部分は往々にして難しいものですよ。それでは。」


ばたん、と閉じられた扉を、イブキの苦笑と共に緑珠は見ていた。腰締を完全に取ると、半裸の状態に下着を着て、何時もの水浅葱みずあさぎの服を着る。


「あぁーっ!やっぱりこの軽い服が一番!……すっかり庶民生活に馴染んじゃったわねぇ。」


くるん、とその場で回ると、羽帯フリルのある裾がふんわりと広がる。


「よしっ……決闘場所に生きましょう。……あ、でもその前に……。」


添え付きの水鏡に、緑珠は呪文を投げた。


「水鏡、水鏡。全てをありのままに写す水鏡よ。願いを通して。」


『……ん?あ、緑珠じゃないか。どうした?』


水鏡の向こう側に、不思議そうな顔をしたモアが立っていた。


「今から迎賓館で真理の力を借りて殺し合い(まくらなげ)をするの。来ない?」


『先に言ってくれれば良かったのに……。』


「ごめんね、突然の思いつきで……。」


うーん、とモアは唸る。来るかどうか迷っているのだ。


『因みに優勝賞品は?』


「何しても良いのよ。」


『乗った。急行する。』


ニッ、とモアは何時もの赤い外套ジャケットを着て、歯を見せて笑う。それを見た緑珠は水鏡を決して大広間へと向かった。


「ふふふ、これで演者は揃ったわ。……さぁ、決戦と参りましょう。」









「んーっと、それじゃあ規則ルール説明をするね。」


各自、何時もの服装に着替えると、真理が無限生成した白い枕の前に立つ。


「何か本格的にしたかったから、遊戯ゲーム形式したよ。屋敷全体が戦場バトルフィールドね。」


三人の目の前に、緑の体力 表示メーターが現れる。


「因みにそれは三本ある。一本の体力表示メーターは三回枕が当たるまでをありとする。三回当ったら一本減る形式ね。安心して。色々と結界は貼っておいた。」


「モアも来るのだけれど……。」


おずおずと言い出した緑珠に、真理はばちこん、とウインクをした。


「それも任せて。上手くするから。あ、あとね……。」


緑珠のすぐ側に、金環が現れた。


「これが枕供給機。」


「……恐ろしいぐらい本気ですね。」


イブキの言葉に、真理は微笑みながら返した。


「そりゃあ、『勝者は何をしても』良いのだからね。ま、これで規則説明は終わり。」


カチン、と大広間の時計が『9時5分』を指した。さて、と真理はニヤッと笑う。


「これより三十分間、枕大戦争を起こす物とするっ!他にも隠し要素とかあるから探してね!」


緑珠がそれを聞いて、その場を去ろうとした瞬間だった。


「ちょ、枕で死ぬ……!」


先程まで枕投げを渋っていたとは思えない、イブキの豪速球が緑珠目がけてぶちかまされる。


「それが元々で枕投げ始めたんでしょうが。」


ひた、ひた、と近付いてくるイブキをおののき見ながら、緑珠はイブキへと指を指して言い放った。


「わ、私がばらばらなっちゃうわよ!壊れる!貴方そんな性癖無いでしょ!いや、無いと信じてるわ!」


にこっ、と爆弾発言を繰り出す、イブキ。


「あ、大丈夫です。僕リョナもいけるんで。」


「アンタの性癖は聞いてない!」


遠くで余裕をかましている真理が他人事の様に問うた。


「因みに何処までいける?」


「聞かなくて良い!」


「人の形保ってたら余裕ですね。」


「予想外にバイオレンスなんだけど!」


緑珠のツッコミが追いつかない。


「あー……分からんでもないかも……。」


「分からなくて良い!」


「まぁ僕はソフト派なので。ハードはちょっと……流石に拷問で飽きたし……。」


イブキは昔日の日々を思い出しながら、しみじみと呟いた。


「飽きる頻度が違うわよ!というか『りょな』って何!?」


根本的な質問を緑珠はぶつける。それに対して、真理は何処からともなく出された葡萄を食べていた。


「柔らかい言い方をすると、人が痛めつけられている状態に性的興奮を覚える性癖、という感じだね。」


「ヒエッ……。」


目の前の、愉しく笑っている怪物を緑珠は見つめている。そして、奥の神様に問うた。ぶっちゃけ助けて欲しい。


「ええっと……真理もその、りょな、とか言うのが好きなの?」


「違うよ?僕の性癖は他人の性癖を暴くこと!」


「趣味が悪いわね!」


そもそも真理は暴くまでもなく、他人の性癖など分かるのだ。


「さぁ、緑珠様、逃げないと……。」


これ程枕が凶器に見えた事は無い。振り下ろされる瞬間、緑珠は地を蹴って浮遊魔法を繰り出す。


「あっかんべーっ!」


扉を開けて大広間から出ると、イブキは真理を一瞥した。


「……勝負はまた後で、ですね。」


「うげぇ、僕、伊吹君と勝負したくないんだけどなぁ……。」


緑珠の後を追って大広間を出たイブキを見ながら、真理は葡萄を食べ終えて言い放った。


「出て来なよ。勝負はもう始まってるぜ?」







次回予告!

イブキが本来の意味を見失ってたり緑珠が一杯食わせたり顔を真っ赤にしたりぬいぐるみにモアが埋もれたりふわふわなお話!

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