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「また会いましたね、ナナリアお姉さま」
「ええ。あなたが来ると考えていたわ、ビリリアントさん」
ナナリアが馬車から降り立つと従妹の彼女が待っていた。
そのことをあらかじめ想定していたから、今日のナナリアは狼狽えることなく返答することができた。
あの夜から三日が経過し、現在。
何かしらの証拠がなければ調査の許可を出すことができないと陛下からは告げられた。
特に調査への強制力を持たせたいのであればなおさらだという。
無論、ナナリアもそのことは承知であった。
だからナナリアは証拠を見つけてきた。短期的に音声を記録できる魔法具を用いて。
あの夜から、たったの二日で。
オストリーとレジスタンスへ証拠を見つけるための捜査協力を要請。
いずれもすぐに肯定の返事が返ってきた。
レジスタンスからナナリアと別れた後にビリリアントの協力のもと作成したという侯爵領の地図を借りた。
それを使って大体のあたりをつけ、ナナリア自身が捜査に向かった。
見つけたのは、夜半リウイーア侯爵領から荷物を運び出す馬車。
中身が例の暴発した魔法具と同じものであるとオストリーの探知魔法によって発覚した。
今日までの残りの一日は国の治安機関から強制調査許可証を得るために要した時間である。
現在時刻は正午を過ぎた頃。
陽が照っているのに少し肌寒いのは、季節が秋に向かっている証拠なのだろう。
もうすぐ収穫の時期がやってくる。川沿いには麦穂が揺らめき、山間部の畑には秋野菜が実をつややかせる。
昔、その昔。両親が生きている時に各領地を連れて歩かせてもらったことを思いだした。
綺麗だったと想うこの心は、かつての懐旧が成すからなのだろうか。
あるいはと延びる思考を振り払うと、ナナリアは遠くに見える屋敷を視界に捉えた。
これからのことに集中しなければ。
「さっそくではありますが、準備はよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
ビリリアントからの問いかけに余裕の笑みで返答する。
大丈夫、自分は強くなった。
ともすれば恐怖に縮こまってしまいそうな心を王妃教育で育てた対人力で覆い隠す。笑うことには存外上手くになっていたようだ。
屋敷についてからの流れを共有・確認した後、ナナリアはビリリアントと馬車に乗りこむ。
幼い頃あれだけ遊んでいたのに、彼女と同じ馬車に乗るのはこれが初めてだ。叔父の目があったから彼女を外に連れだすことができなかった。
いずれ二人で出かけるようになることはあるのだろうか。ないのだろうと、すぐに結論が出る。ナナリアは次期王妃、対しビリリアントは、ともすれば反政府組織の一員とも言えるから。
片隅で思考を回しながらも馬車は進む。
領都の門をくぐり、屋敷の前へ。王宮からのそれに物珍しいのか、あちらこちらから視線を受けていた。
動きが止まったことを確認し、外へ出る。
「今日の来客はないと主人より伺っていますが?」
警戒態勢の強気で尋ねてきた門番は、ナナリアがいた頃の人とは違うようだった。
ナナリアの顔も知らないのだろう。後ろに続いているビリリアントにも反応を示さないことから、最近雇われた人なのかもしれない。
改めて屋敷の全貌を視界に収めた。
見上げるほどには大きな造形物。どことなく古ぼけて見える。かつてのような手入れがなされていないからなのか、あるいは別の要因があるのか。
声を発すため、息を吸いこんだ。
屋敷に踏み入るためのひとつ目を、ナナリアは実行する。




