13.空に海
事前に電話していたこともあって、ウーモが家に近づいた時には、夜であるにもかかわらず、ブッフォが工房の大きな扉をしっかりと開けた状態で待ってくれていた。彼が指示する通りに駐車し、車を降りるウーモ。まずはカルダから預かったお土産を渡し「お久しぶりです」と一言伝えるべきなのは頭ではわかっていたのだが、どうしようもなく、言葉を失ってしまった。
なぜなら、そこには空飛ぶ海が以前と同じように、いや、以前よりも美しい姿で佇んでいたからである。
息を飲むウーモ。鼻の奥がツンとするのを感じる。だが、その姿に込み上げてきた涙は聞こえてきた「よっ!」という大声にかき消された。
その声の主は空飛ぶ海のドアを開け、颯爽と中から飛び降りてきた。
「どうだ?完璧だろ?」
ロロである。
そのあまりにもいつもどおりの彼の声の調子に、ウーモはあっさりと返事をしかけたが、それをグッと堪える。彼からはまだ聞いていない言葉があった。
それを気にせず、性懲りも無く近づいて来ようとするロロだったが、そんな彼をブッフォがギロリと睨みつける。体の小さな彼だが、その迫力はロロにすべきことを思い出させるに十分なものであった。ロロはその視線を受けて、石にように体の動きを止める。
そして彼が固まった全身から口だけを動かす。
「その……、ほんとに悪かった。騙したみたいになっちゃって。それに、鍵も盗んじゃったし。二度としないよ。でも、今でもお前があの石を使うべきじゃないって思ってる。まあ、やり方は他にもあったかもしんないけど」
ウーモは彼の謝る気があるのかないのかわからないような、そんな謝罪に思わず吹き出してしまう。すると、ロロは少し拗ねたような顔をみせる。
「人が謝ってるのに笑うなよ!」
「だって、謝ってる人間の態度に見えないんだもの!」
そう言うウーモの言葉に怒りが込もっていないのは誰の目にも明らかで、ブッフォは先ほどの迫力もどこへやら、彼らの他愛もない言い合いを微笑ましく見ている。
そんな会話が一通り済んだところで、ニヤニヤした顔を抑えられないまま、けれど声色だけは真剣に、ウーモは話題を切り替える。
「ロロ、私ね、わかったかもしれない」
「何がだよ?」
「私が空を飛んだ理由」
「お前、理由もわからず飛んでたの?」
心底呆れたように言うロロを無視して、ウーモは話し続ける。ロロはこういう茶化したことを言いながらも、真剣にウーモの言葉を聞いてくれているのを知っているからだ。
「私はただずっと、孤独が嫌だったんだと思う。お父さんがいなくなって、ずっと一人で。もちろんスーはいたんだけど、それって少し違って。きっかけは、空飛ぶ海を守りたいって気持ちだったのは間違いない。でも孤独が嫌だったから、空を飛んで、人を助けて、無理矢理にでも孤独じゃなくなろうとしたの。変よね?私、人と話すのが苦手なのに」
「変じゃないだろ。それに、ずっと言ってるけど、お前は全然話すの苦手じゃないぞ」
やはりロロは、ウーモの話をきちんと聞き、覚えている。
「それで、お父さんもそうだったのかもって思ったわ。孤独が怖くって、私たちを失うのが怖くって、何も変えられずに空を飛んだのかもしれない。私、それを確かめるためにも、母さんから逃げちゃいけないなって思った」
「それも俺がずっと言ってるだろ」
「それはただ単に、家族が好きだからでしょ?」
「いや、俺はちゃんとそこまで考えてたよ」
「嘘つき」
「俺がいつ嘘を……!いや、でもまあ、そうか」
尻すぼみに声を小さくするロロに今度はブッフォが笑い声をあげる。それを聞いて、ウーモが追い討ちをかける。
「ちょっとはブッフォさんを見習ったら?」
「なんでだよ。嘘つきじゃないからって正しいとは限らないぞ?大人ってそういうとこあるだろ」
ウーモは口の減らないロロを睨む。しかし、それも確かに一理あるように思う。
彼女は自分にはまだまだやらなければならないことがたくさんあるように思えた。自分が寂しさを忘れられる場所を作るために。そしてやらなければならないことがあるというのは、自分にできると思えることがあるということでもあった。
「それで、今度……」
そう、ウーモがロロに話し始めた途端、彼らの耳に小さく車のエンジン音が聞こえ、口を噤む。初めは気のせいかと思ったが、その音はどんどんと大きく、はっきりとしたものになってくる。
「誰だよ?こんな時間に。大叔父さん、なんか聞いてる?」
ロロがブッフォに尋ねるも、彼は首を横に振る。
先ほど閉めたばかりの工房のドアを少し開けると、その音が彼らの元に近づいてきているのがはっきりとわかった。音だけでなく、その車のライトがこちらに向かって近づいて徐々に大きくなっているのも見えた。ウーモはその二つのまん丸なライトを持つ車のことを覚えていた。それはブッフォもである。
ようやく声が届くほどのところに近づいてきた時、運転席から顔だけを出した男が、こちらに向かって叫び始めた。
「ブッフォさん!助けてください!」
そこには必死の形相で叫ぶエリオスがいた。
その尋常ではない彼の様子から、ブッフォは彼をすぐ迎え入れるために扉を全開にする。ウーモも彼のために自分が乗ってきた車を隅へと寄せた。そこへ、エリオスが入ってくる。車を停めた彼はドアを力一杯開き、転げ落ちるように降りると、必死の形相でブッフォにしがみついた。
「ブッフォさん、妻の、妻の容体が急に変わったんです。生まれそうだと……!まだ予定まで一月もあるのに……!」
その言葉を聞いて、彼らは後部座席にサリーダがいることに気がつく。彼女は汗だくの真っ白な顔でそこに横になっている。足を置くわずかなスペースで彼女の世話をしている一人の老齢女性も見えた。おそらく彼女が訪ねた祖母だろうとウーモは思う。
「落ち着け!車に乗せて良いわけがないだろ!医者はどうした?」
エリオスの興奮に引っ張られ、ブッフォも少し声が上擦っている。
「こんな日に限って、セルロに行っているんです!今朝見てもらった時はまだ何も問題ないって言って……!あの医者め!早くセルロに行かないと、でも、このままじゃ朝になってしまう……ここには電話があるでしょう?」
エリオスはそう言うが、電話をかけて向こうから最新の車を飛ばしたところで、かかる時間は大きく変わらない。
それでも一縷の望みをかけてここへ来た大の大人の鬼気迫る様子に、ウーモは恐怖から自分の手が震えていることに気が付く。今一番辛い思いをしているのはサリーダたちである。そう頭ではわかっているが震えが止まらず、力づくで抑えようと強く腕を組む。すると、隣にいたロロが彼女の肩にポンと手をのせた。初めはそれが自分を励まそうとしているものだとウーモは思ったが、彼の視線の先にあるものに気づいて、そうではないことがわかった。ロロを見つめると、彼もウーモの目を見て頷いた。
ウーモはブッフォに言う。
「私を、私を空飛ぶ海に乗らせてください。これが最後です。約束します」
ブッフォがウーモを振り返る。そこで、エリオスはようやく、その場にウーモがいることに気がついた。
「ウーモ!まさか……空飛ぶ汽車……!なんということだ、まだ女神は私たちを見捨てていなかった。頼む、どうか妻と子供を助けてくれ……!」
そのまま這いつくばってウーモに近づこうとするエリオスをブッフォは両手で押さえる。そして、ウーモに何かを言おうと口を開け、そして閉じる。
生まれた沈黙にロロが言葉を差し込んだ。
「大叔父さん、俺が見張りでついていくよ。まだ火室に残ってる火があるだろう?セルロまでならあれで足りるはずだ。それに、今のウーモなら、絶対に約束を守るよ」
「だが、誰かが彼女に助けを求めるのは今だけじゃない。毎日どこかで苦しむ人がいる。その度に、彼女が今日だけはと言わない保証がどこにある?」
ブッフォが低い声で言い返す。その言葉の正しさの裏に、今彼らを助ける方法は間違いなく空飛ぶ海を動かすことであるという現実の苦しさが滲み出ていた。
「ブッフォさん!」
ウーモが叫ぶ。
「これ以上、空飛ぶ海で君を苦しませたくないんだ!」
ブッフォがそれに叫び返す。
「苦しむ?」
しかし、ブッフォの思いとは裏腹に、ウーモは不思議そうな顔をする。
「私が本当に苦しかったのは、一人で生きることよ。気付いたの。でも、空飛ぶ海といっしょに過ごした時間はその中で何よりも特別だった。大人たちから比べれば、ちっぽけで短い人生かもしれないけれど、私、空飛ぶ海と一緒に空を飛べて、本当に幸せだったわ。それはお父さんも一緒よ。ブッフォさんのおかげだわ。空飛ぶ海を作ってくれてありがとう」
その言葉にブッフォは息を呑んだ。
彼はずっと後悔していた。自分が空飛ぶ海を作ったことを。
空を飛ぶ種族に生まれながら空を飛べなかった自分の、そのちっぽけな自尊心を守るために生み出したこの金属の塊は、自分の大親友の命を奪ってしまった。
ウーモが自分を優しい人間だと信じてくれているのはわかっていた。けれどそれだって、彼女を救おうとすることで、自分が救われたいがための行動だと感じていた。どれだけ優しい言葉をかけても、どれだけ優しく接していても、自分が彼女の父親を殺したようなものだという思いは彼の中から消えなかった。それだけではない。今、目の前にいるたった十五歳の少女の命すら、それは蝕んだのである。だが、彼の目の前のその少女は、それを恨むどころか、その怪物を生み出してしまった自分に感謝を伝えたのだ。
「すまなかったウーモ」
声を震わせてつぶやいたブッフォのその謝罪は、彼女と彼女の父親の命を蝕んだことに対するものであった。だが、元よりそうは考えていないウーモにとって、それはただ空飛ぶ海の使用を認めなかったことに対するものに聞こえたようで、彼女はブッフォに右手を差し出した。
自分の謝罪が、彼女に違った意味で届いたことをブッフォは気が付く。その彼女の純粋さにブッフォは俯いて笑みをこぼし、そして涙を流す。その涙は彼の乾いた肌にすぐに吸い込まれ、誰かに見られることはなかった。
「ウーモ、もう一度約束してくれ。これで最後だと」
「約束します。これが絶対に最後です」
ウーモは彼の目をまっすぐ見つめ返した。
そうしてブッフォはポケットの中にあった鍵を取り出し、ウーモに渡した。そして、ロロに告げる。
「出発の準備だ。エリオス、君は彼女を中のベッドに連れて行きなさい」
そう指示を出しながら、ブッフォは空飛ぶ海の車輪止めを外しに動く。
一方鍵を手にしたウーモは、水を得た魚のように、空飛ぶ海へと駆け上がる。先ほどロロが開けっぱなしにしたドアから中に入り、運転席へと向かう。
「わあ……!」
今が緊急事態であることはわかっていながら、ウーモはその運転席からの景色に感嘆の声を上げる。もちろん視界はまだ工房の内側である。それでも、それはウーモに子供の頃空飛ぶ海に乗った時の感動を思い出させた。
運転席と、少し隙間を開けて設けられた一人分の小さな座席。座面はどうやら新しく張り替えられているようで、中のクッションが以前よりも柔らかくなっている。前面には速度や空気の温度、現在の高度を示すためのいくつもの計器が横に並び、その手前には陸用と空用の二つのハンドルが運転席に向かって伸びている。足元にも同じようにいくつものペダルが並んでおり、アクセルやブレーキ、タイヤの上げ下げなどはそこで調整される。それぞれから機関部へと続く細い金属製のパイプが伸びており、ブッフォとロロがどれだけ磨いても落ちない錆が、端々に残っている。
ふとウーモが見上げると、頭のすぐ上に、もう天井があった。昔は運転する父親の足の上に立ち上がっても、届かなかった天井だ。
「ただいま」
そう言って、ウーモはほんの少しだけ手を伸ばし、空飛ぶ海の天井を軽く撫でた。
大急ぎで出発の準備をし、一行は空に飛び立った。
久しぶりの運転ではあったものの、体に染みついた能力は全く錆びついておらず、車の何倍もの速さを出しながらも、ウーモの運転する空飛ぶ海は大きな揺れを出さずにセルロへと向かっている。
だが、それでもサリーダの容体を考えると、余裕は一切なかった。先ほどから定期的に彼女の悲痛な叫びが背後から聞こえている。運転に集中し、今現在彼女の出産がどのような状況なのかさっぱり理解できていないウーモですら、残された時間はあまりないことがわかっていた。
「見えた!セルロよ!」
曇りがかった夜の空で、ウーモが遠くに現れたセルロの灯りを捉える。
「医者はどこにいるんだ?」
運転席の横でウーモと同じように窓の外を睨んでいるロロが、後ろのエリオスに向かって叫ぶ。
「タジーナ通りと女神通りの交差点で待つようにと、ブッフォさんが伝えているはずだ」
彼らは事前にウーモたちが空を飛んでいる間に、ブッフォがセルロに電話をかけ、待ち合わせるという作戦を立てていた。
「どこだよ、そこ?」
「大きい病院の近くよ」
ロロの質問にウーモが答える。折返しの日の招待状を渡すために街中を運転したおかげで、ウーモは通りの名前を聞くだけで、それがセルロのどこにあるのかがはっきりとわかった。そして、その交差点であれば、空飛ぶ海が着陸するだけの十分なスペースがあるはずだと、彼らの作戦に感謝する。だが、そこで一つ、ウーモは自分が大きな見落としをしていたことに気が付いてしまった。
「ロロ、まずい……」
ウーモは隣にいるロロにだけ聞こえるように、小さな声で呟く。
「どうした……?」
ロロがウーモに近づき、同じように静かな声で返事をする。
「私、着陸が……」
この二年間彼女は何度も何度も練習と実践を繰り返してきたのだが、着陸だけは一向に上達することがなかった。もちろん、通常時であれば、それは人を怪我させたりするほどのものではなかったが、今彼女の後ろには、今にも子供が産まれそうな妊婦が乗っている。
「どうしよう……。久しぶりの運転だし……」
そう言われ、ロロが少し考え込む様子を見せる。そして「なあなあ」と、そんなウーモの緊張を無視するかのように、軽い調子で彼女に話しかけた。
「今までどのぐらい石使ったんだ?あの青い石」
「今それどころじゃないわ!」
「いいから教えろよ」
「……数えたことないわ!たぶん……季節に一個とか!」
「ふうん」
自分で聞いておきながら、さして興味もなさそうに言うロロ。すると、後ろにいるエリオスが窓の外に灯りで照らされた塔の家を見つけ、サリーダを安心させようと話しかける。
「サリーダ!塔の家が見える!もう目の前だ!」
妻を安心させようとするエリオスの声と、そんな彼に落ち着くように叱るサリーダの祖母の声に、ウーモはドンドンと緊張を増していく。
「大丈夫、絶対できる、大丈夫」
自分で自分に暗示をかけるように何度もつぶやくウーモ。だが、先ほどまではあまり聞こえなかった後ろのエリオスたちの声が、緊張に合わせて大きく聞こえるようになってくる。プレッシャーで自分の体が固くなっているのを感じる。
「サリーダ……?サリーダ!大変だ、血が!」
追い討ちをかけるように、サリーダの状態の急変を告げるエリオスの声。ウーモは自分の手が痛くなるほどにハンドルを握りしめている。
すると、いつの間にか立ち上がり、彼女の背後にいたロロがウーモの肩に手をポンと置き、優しく話しかける。
「ウーモ、そこの交差点の目印教えてくれ」
「大きな、女神像があるところ……」
ロロの不必要な質問にカラカラに乾いた喉で必死に答えるウーモ。
すると、それを聞いてロロはゴホゴホと咳き込みながら「あそこか」と言うと、運転席の窓を開け、そこから身を乗り出す。ウーモは反射的に握りしめていた片手を離し、ロロを掴もうとするも、彼はそれよりも素早く一人闇夜へと真っ逆様に落ちていった。
「ウーモ!真上で待ってろ!」
ロロがそう叫ぶ。
ウーモはたった今彼が開けた窓からの風を嫌い、急いで閉める。そして落ちていった彼を探そうと外に目をむける。そこで初めて、空飛ぶ海がいつもの何倍もの量の煙を上げて、セルロの空を闇夜の中でもわかるほどに海の色に染めていることに気がついた。「嘘でしょ……まさか……!」
最悪の事態が脳裏に浮かぶ。しかし、見つけた彼は悠々と翼を広げ、空飛ぶ海の前方を滑空していた。ひとまず胸を撫で下ろすウーモ。だが、落ち着いている暇はない。すぐさまハンドルを握り直し、タジーナ通りと女神通りの交差点を目指す。
ロロが空飛ぶ海を飛び降りてから、大した時間は経っていないのだが、サリーダとエリオスの必死の声が響き渡るこの車内では、それは永遠にも感じられた。ウーモは自分の手が汗でびっしょりになっていることに気づいた。だが、それを拭くために手をハンドルから離すことすら憚られた。今この手を離すと、もう一度こんなにも強く握れるだろうかと不安になったのだ。
場所はまもなく病院の真上に着く。ウーモは空飛ぶ海の速度を少し落とし、車内に影響のない範囲でゆっくりと旋回を始める。
ロロは無事に医者に出会えただろうか。それよりもまず、彼は無事でいるだろうか。そう思っていると、空飛ぶ海に何か重たいものがぶつかったような激しい音が響いた。それは後方のドアが勢いよく外から蹴り開けられた音だった。
音のした方に目をやるウーモ。すると、そこには大きな翼を携えたアサ族の青年がいた。腕には口髭を蓄えた医者が抱えられている。
その青年は自分で開けたそのドアから空飛ぶ海に飛び乗ると、少し乱暴にその医者をサリーダの方へと投げ、ドアを閉める。
「早く!今にも産まれそうなんだ!」
そう青年に言われ、投げられた医者はワタワタと体勢を整え、サリーダを看始める。
「危ないじゃない、ロロ!」
ウーモがその青年を叱る。
「大丈夫だよ。それより休ませてくれよ。俺の方が死にそうだ」
そう言ってロロは、運転席の横にある床の小さなスペースにその大きな体を丸めて寝転がった。成長した彼の背は今やウーモよりも少し高い。
そのロロを見つめるウーモ。感謝を伝えたいが、それよりも言いたい言葉が突っかかって、上手く口から出てこない。
後ろでは、医者がサリーダにかける声と、それ以上にやかましいエリオスの声、そしてそんな彼を嗜める老女の声が響く。
「なんで、なんでこんなことしたのよ!あなたの……あなたの……」
たっぷりの時間をかけて、ウーモの口からようやく出てきたのは、怒りであった。だがその怒りは彼ではなく自分へのものである。自分のせいで、自分が上手にこの空飛ぶ海を操れないせいで、彼の命を縮めてしまった。そのことを言おうとして、言い切れずに、代わりにウーモは涙を流した。ああ、私を止めようとした人たちは皆こんな思いだったのだろうか、そう思うと、余計に涙が溢れる。
「まあな。でもさ、少しは孤独が紛れたか?」
今し方自分が何をしたのか、その事の重大さがわかっているはずなのに、いつものように軽い調子でそう言うロロ。ウーモはそんな彼の言葉に肩の力が抜けてしまう。服の袖で涙を拭い、嗚咽を抑えるためにゴクリと唾を飲み込んだ。
「 」
そして、ロロに何か言ったのだが、その声は車内に響き渡る大きな大きな赤ん坊の鳴き声にかき消された。
「女の子だ!」
わあと小さく叫ぶエリオスの声が聞こえる。
「へえ、男の子かと思ってた」
ロロが言う。
「どうして?」
ウーモが彼に聞く。
「なんとなく。勘だよ」
すると、今度は医者が誰にも負けない大声で二人に向かって叫んだ。
「おい、そこのどっちかも手伝ってくれないか!もう一人いるんだ!」
それを聞いて、ウーモとロロは顔を見合わせた。




