表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の消えた世界で  作者: 紫京アイラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/37

第三十二話 破られた境界

 激しく鳴り続ける鐘の音の中、俺たちは街の中へと急いでいた。

 そんな俺たちの進行方向とは逆に、正面からは大勢の人々が慌てた様子で走って来ていた。

「急げ!」

「早く逃げるんだ!」

 走る足音が地鳴りのように響き、遠くでは甲高い悲鳴が聞こえている。

 その異様な光景に、泣きわめく子供の声が合わさる。

 

 昨日はあんなに穏やかだった街が、今では混乱に満ちていた。

 あんなに厳重に警戒されていたはずなのに、一体どうして……

 

 途中、俺たちと進行を同じくする傭兵と思われる戦士や兵隊を見かけた。

 その顔はいずれも焦りに満ち、足はまっすぐ街の外へ向かっていた。

 俺たちは、その後を追うように街の門をくぐった。

 

 そして、街の外を見て驚愕した。

 街の外を囲っていた何重もの石の壁があちらこちらで崩れ、魔物の侵攻を許していた。

 人に似た風貌の魔物が、剣や棍棒など様々な武器を構えている。

 そんな魔物が、ざっと見渡すだけでも、百を超えていた。

 さらに石壁の向こうから、それ以上の軍勢が迫りこようとしていた。

 

 こんな数の魔物、一体どこから……

 

 あまりの衝撃に、その場から動けないでいると、突然前方から轟音が鳴り響いた。

 正面の石壁が砕け、破片が空に舞う。

 その破片は隕石のように降り注ぎ、地面を揺らした。

 音のする方へ、視線を向けるとそこには——巨大な魔物が立ちはだかっていた。

 

 周囲の魔物と同じく、人の形を成した魔物。

 その背丈は遠目から見てもあまりにも大きく、成人の十倍はあるように見えた。

 顔は醜く歪み、隆々とした腕は左右で大きさが異なり、歪に膨れ上がっている。

 その手には剣とは似ても似つかぬ、無骨な棒状の物体を握っていた。

 

 その巨人のような魔物が大きく腕を振るうと、強固なはずの石壁はいとも簡単に崩れ去った。

 その崩れた石壁の隙間から、他の魔物が街へ押し寄せているようだった。

 しかし、不思議なことに巨人の魔物はほとんど動かず、腕を振るのみ。

 時折、ギョロっと不気味に動く瞳が、こちらを観察するように見つめていた。

 その得体の知れない様子に、頭の先から足先へ冷たいものが走った。

 思わず足が震える。

 

「カイル! 私たちも行こう!」

 背中から聞こえたセラの声。

 振り向くと、そこには二人の姿があった。

 震えている場合ではない。

 不安そうに杖を握りしめるリディアに視線で合図をした。

 きっと……大丈夫だ。

 

「よし、行くぞ!」

「はい!」

 まずは一番近い魔物の群れを目指す。

 既に戦闘中の戦士たちには、疲労の色が見えていた。

「助けに来たぞ!」

 駆け寄った勢いのまま、目の前の魔物と対峙する。

 右手で剣を握ったとき、小さな痛みが走り剣を左手に持ち替えた。

 魔物へと剣を突き立てるが、力が足りず、咄嗟に右手で押し込んだ。

 魔物は「ぎぃ」と小さな悲鳴を上げ、手足の動きを止めた。

 ……まず一匹。

 

 剣を引き抜こうとすると、奥から別の魔物の剣が振りかかった。

 しかし、ついさっき対峙したガルドの攻撃に比べるとその圧は遥かに小さく、簡単に防げる——はずだった。

 防御のために構えた左腕には、ガルドに破壊された盾。

 とてもじゃないが、剣を受けることができる耐久は残っていなかった。

 無様に割れた盾の隙間から、魔物の顔が見えた。

 まずい。このままでは……

 

守護の聖壁(プロテクト)!」

「——火燕ファイア・スワロウ

 後ろから二人の声。俺の前に光の障壁が展開され、魔物の攻撃を弾いた。

 続いて小さな火花が魔物に衝突したかと思うと、次の瞬間には大きな火柱を上げ、魔物は活動を停止した。

 そして、目の前で燃え上がる炎に怯む魔物たちに、周りの戦士が一斉に切りかかった。

 

「助かったぜ、ありがとうな!」

「あっち加勢するぞ!」

 地に伏せる魔物に見向きもせず、次の戦闘へと走る戦士たち。

「行くよ!」

「はい!」

 それに続き、戦地を駆ける二人の後ろを、俺はただ追いかけた。

 

 二人の活躍もあって、みるみるうちに魔物の群れは、その数を減らしていた。

「だいぶ、減りましたね……」

 他に加勢する場所はないかと、周囲の様子を確認する。

「ねぇ……あっち見てよ」

 セラが何かを見つけたのか、遠くを指差す。

 指の先には、ガルドの姿があった。

 

 遠目で見ても分かるその戦いぶりは凄まじいもので、魔物の群れをあっという間に斬り伏せていく。

 ——たった一人で。

 必死で戦う彼の周りには、他に人はおらず、いるのは魔物だけ。

 致命傷ではないものの、何度も攻撃を受けたのだろう。

 体にはいくつも血の跡が滲んでいるようだった。

 どうしてそこまで……

 

 やがて、ガルドは最後の魔物を倒した。

「うおぉぉぉぉ!」

 彼はふと空を見上げ、雄叫びのような声をあげた。

 その声を合図にするかのように、今まで一歩も動かなかった巨人の魔物は街を背に、ゆっくりと消えていった。

 

 わっと歓声が上がる。

 被害は決して小さくはないが、“生き残った”その重要さを噛み締めるように称え合う人々。

 俺はリディアとセラと共に自然にその輪に加わっていた。

 群がる人々の頭の隙間から、遠くにガルドの姿が見えた。

 彼はこちらに目もくれず、静かに街の方へと歩いて行き、いつの間にか見えなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ