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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~

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第55話 開会式

 祖母の通夜、そして葬儀を終え、荒木はラインに向かう飛行機に乗っている。

 頭上の荷物棚に入れられた手荷物鞄、その鞄の中には封筒が一通。封筒には祖母の文字で『雅君へ』と書かれている。


 祖母の葬儀の後、祖母の遺品整理が行われた。

 嫁入りの時に持参した着物、洋服、そういった衣類の奥から錆びた柿の種の缶が出てきた。中身は荒木の父や叔母が小さい頃にあげたらしき「肩たたき券」やら、折り紙の勲章、色褪せた写真やら。それらが大事そうに保管してあった。

 それを見て叔母は号泣であった。


 さらにうなぎ菓子の缶も出てきた。そちらは孫たちとの思い出の品。荒木や姉の澪があげた物が多数出てきた。


 祖母にも書斎机があり、その引出しに祖母の財産がお菓子や薬と共にしまわれていた。

 祖母は、ある時から銀行にお金を預ける事をしなくなった。それについて祖母は生前、利子も付かないのに手数料を取られるだけ損だと言っていたらしい。


 書斎の引出しの一つがいわゆる二重底になっており、そこにかなりの額のお金がしまいこまれていた。その二重底の上には手紙が三通。

 一通は父宛て。その内容は、このお金を入院費と葬儀費用に使って欲しいというもの。それを見た親戚たちは、なんとも祖母らしいと言い合った。


 もう一通は姉の澪宛て。その内容はかなり薄く、早く良い人が見つかると良いねというものだったらしい。


 最後の一通は荒木宛であった。澪宛てのものに比べるとかなり長々と書かれていた。その最後の一文に荒木は思わず声をあげて泣いてしまった。


”婆ちゃんは、いつまでも雅君の事を見守ってあげますからね”



 祖母の葬儀が行われた日、ラインの首都フランクフルトでは瑞穂代表が最終調整の練習試合を行っている。

 今大会最弱と目されている瑞穂と、練習試合をしようなどと言ってくれる国は非常に少なかった。勝って当たり前、負けたらそれこそ仲間割れになるかもしれない。しかも、弱い国との対戦は、技術の問題で怪我を負わされやすい。そんな危険を冒してまで、なかなか瑞穂と対戦しようとはなってくれなかったのだった。


 いくつかの国はそれでも申請してくれていた。そのうちの一国はテエウェルチェ。だが、荒木の合流が遅れているという話を聞いて、申請を取り消して来た。バターフとペヨーテも同様であった。


 それでも中央大陸東部の国だけは嫌だと思っていた所に、中央大陸中部の国パルサ首長国が申請してくれた。結果は一対一の同点。パルサの監督は、本戦を前に非常に良い練習になったと笑顔で言ってくれた。



 結局、荒木がラインに到着したのは開会式の朝。着いた早々に着替えて会場であるフランクフルト国際競技場へと向かう事になったのだった。


 何の順番かよくわからないが、一か国ごとに競技場に入場していく。瑞穂はマラジョの後、全体からしたらちょうど真ん中くらい。


 正面上部の掲揚台には、国際竜杖球連盟の旗と、参加国二十四本の旗がはためいている。その中の一つが『水地に金の抱き稲紋』瑞穂皇国の旗。この世界大会決勝の会場に、初めて瑞穂皇国の旗が立ったのだった。


 二十四国全ての選手が入場すると、空砲と共に無数の風船が上空に舞い上がった。

 その後、表彰台に会長のダニエル・ウィルミントンが立ち、ブリタニス語で何やら挨拶を始めた。おそらくその場の多くの選手は、彼が何を喋っているかわかっていないだろう。なんとなく周囲が拍手をするから、ああ挨拶が終わったんだなあと感じたという程度。大きな拍手の中、ウィルミントンは表彰台を降りた。


 最後に前回優勝国のゴール帝国から優勝杯が返還されて開会式は無事終了。



 開会式が終わると、早速、ライン共和国連邦とデカン共和国との開幕戦が行われた。どちらも世界大会出場の常連だけあり、試合内容はかなり見ごたえのあるものであった。結果は二対二の引き分け。

 この一戦を皮切りに、全ての国が四年間、目標としてきた世界大会の本戦が始まったのだった。



 翌日から、フランクフルト、シュトゥットガルト、ケルンの三会場に振り分けられ、二十四か国が次々に試合を行う事になる。瑞穂皇国たち「Group E」の会場は最も遠いケルン。


 どうせだからケルンの町でも散策しようと川相と二人でぶらぶらとしていた。

 選手たちの多くは家族を呼んでいる。荒木の同期では鹿島は奥さんと子供を呼んでいて、三人でケルンの町を散策している。彦野はまだ独身だが、付き合っている女性を呼んでおり、同じく二人で散策している。川相も結婚はしているのだが、荒木同様まだ子供が幼く、連れて来れる状況では無かったらしい。


 ケルンは非常に大きな教会がある事で有名で、まずはそこに行って記念撮影でもしようなんて言い合っていた。大宿からコメーディエン通りを歩き、大聖堂に向かう途中、荒木を呼ぶ声が聞こえた気がした。


 最初は気のせいだと思っていたが、念のため周囲を確認。やはり見知った人は誰もいない。


「チャーオ、アラーキサン!」


 間違いない。確かに誰かが自分を呼んだ。再度キョロキョロと周囲を確認すると、そこに非常に見覚えのある人物が立っていた。


「おお! ホルネルじゃんか! なんだよ、こんなところで」


 ホルネルは妻と子供を連れてケルンを散策の途中だったらしい。気さくに手を振って来た。


「アシタ、ヨロシク、オネガイシマスね」


 ここに来るまでの報道で、現在ホルネルがポンティフィシオ法国の原動力となっているという事を知った。既に来年からはポンティフィシオの強豪球団への移籍が決まっているのだとか。


「ああ、よろしくな。俺たちも簡単には負けてはやらんからな!」


 その荒木の一言に「志が低い」と言って川相が大笑いした。

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