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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~

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第44話 運命の一戦

 今回を入れて世界大会の地区予選は残り二試合。

 現在首位のマラジョはここまで四勝三分で勝ち点十五。二位の瑞穂は四勝一敗一分で勝ち点十三。三位がアマテで二勝一敗三分で勝ち点九。


 つまり、このアマテとの直接対決で引き分け以上の結果を残す事ができれば、史上初の本大会出場が決まる。最近になって竜杖球の事を報じ始めた報道によって、この事は全員が承知している。

 普段であれば、そんな重要な試合と思えば、ガチガチに緊張するのだろう。だが、浮かれた荒木がはしゃいだ事で、全員そんな緊張は消しとんでしまっている。


 ただし、マラジョの引き分け三のうち、二つがアマテに対するもの。つまり単純に実力だけを見れば、瑞穂からしたら圧倒的な格上という事になる。



 アマテは度々食糧危機が発生している関係で、今ではそれなりに工業と農業の均衡の取れた国となっている。

 ただ、治安という面で言えば非常に悪いと言わざるを得ない。これは北のペヨーテもそうなのだが、麻薬の密売組織が警察と癒着してしまい、経済を蝕んでしまっている。首都のテノチティトランを歩いていると、まるで「ちょっとそこでお茶でも飲まないか?」という軽い感じで麻薬をやらないかと誘われる。


 そんな恐ろしい面のある国ではあるのだが、選手たちは街に行き、出産祝いだと言って荒木の息子の玩具を探している。何とも不思議な状況であった。



 試合前、控室で大沢監督から先発選手の発表が行われた。

 守衛は伊東、後衛は秋山、彦野、中盤は川相、高橋、原、先鋒は西崎。


「勝てば文句無しの本戦出場だ! だが、相手は強い。前回はたまたまこちらに風が来たというだけに過ぎん。気を引き締めて行け! 特に荒木! 子供ができて舞い上がる気持ちはわからんでも無いが、ちょっとは自重せい!」


 大沢がそう言って窘めると、選手たちが全員笑い出してしまった。お道化ながらも反省した顔をする荒木。それを見て大沢がふんと鼻を鳴らした。


「絶対勝つぞ!」


 原の檄に、選手たちが「おお!」といつも以上の掛け声をあげた。



 瑞穂が勝てば本戦出場という事は、アマテからしたら負けたら本戦出場の道が閉ざされるという事になる。そのため、アマテは最初から全力であった。


 これまでの感じから、恐らく前半に例の『ヤガー』は出てこない。だから前半で試合を決めてしまいたい。そこでアマテは、普段だと後半からしか出さないカンセコという選手を先発で投入。


 そのカンセコ選手が試合開始して早々に得点を決めた。


 審判の試合開始の笛でカンセコ選手は球を後方に下げると、真っ直ぐ篭に向かって竜を進ませた。球を受けた中盤の選手は、それをすぐに右翼の前方へ。さらにその右翼の選手が少しだけ攻め込んで、カンセコ選手の前方へ球を打ちだした。


 それに追いついたカンセコ選手は、秋山、彦野の守備をもろともせずに、少し距離のあるところで強引に竜杖を振り抜く。伊東も反応はしたのだが、竜杖に当たった球が篭の梁に当たって篭に入ってしまったのだった。


 瑞穂もなんとか点を返そうと攻め上がったのだが、後衛に阻まれてしまい、そこから速攻を食らって、二失点目を喫してしまった。


 こうなると意識が完全に守備にまわってしまうのが瑞穂の選手たちの悪い癖。そこから残りの時間をただただ殻に閉じこもるようにして過ごしてしまった。

 結局、先鋒の西崎に球がまわったのはわずかに二回。少し絶望感の漂う状態で中休憩に入った。



「さすがはペヨーテの職業球技戦で最高峰選手賞を受賞するだけの事はあるよ。カンセコは存在感みたいなのが他の選手とは全然違う」


 そう川相が荒木に感想を漏らした。


「前回は出て無かったよね。何で前回使わなかったんだろうね」


 その荒木の疑問に監督の大沢が答えた。


「あくまで噂だぞ。代表に呼ばれる時に一次予選の国相手には出場しないって約束をしていたらしい。だけど本戦出場が怪しくなっちまってるだろ。今、報道から戦犯扱いを受けてるらしいぞ」


 海外の超大物選手には良くある事らしい。しかも、自国の球団ではなく、海外の球団に所属する選手だと、連盟よりも圧倒的に発言力が強く、そういう事になりがちなのだとか。


「前回とは全く違う相手だと思って当たらないと、逆転は難しいかもしれないな。西崎は荒木と代わってくれ。それと原、高木と代わってくれ。主将は秋山にお願いする」


 少し気落ち気味の選手たちを、大沢はその表情を一人一人確認していった。最後に守衛の伊東で視線を止める。


「カンセコが止められないなら、そこまでで止めろ。ここまでお前たちがやってきた事を思い出せ。速さ、速さ、そして速さだ!」


 原が立ち上がり、それに合わせて全員が立ち上がる。

 原が檄を飛ばし、それに選手たちは「おお!」という気合で答えた。



 客席に向けて選手の交代が発表される。高木の名で少し湧いた観客席が、荒木の名が告げられると、どっと沸きたった。もちろん歓迎だけの歓声ではない。「ブウブウ」と非難の歓声もかなり多く混じっている。後者の方が圧倒的に多いかもしれない。


 そんな雰囲気の中、荒木は竜に跨り競技場に乗り込んだ。



 荒木の打ち出しで後半戦は開始。

 球を受けた川相が高橋に球を送る。


 球を受けた高橋は最初から全速で攻め込んで行った。だが、敵の中盤選手の守備で途中で潰されてしまった。敵の中盤選手が、それを一旦中央の選手に渡す。

 中央の選手がそれを受け、反対側に球を打ち出そうとした。ところが反対側に誰もいない。高木を追いかけて自陣深くに戻ってしまっていて、まだ攻め上がって来れていなかった。


 ゆっくり攻め上がって行こうとしたところを後方から球を奪われた。敵陣深くにいたはずの高木が、球を奪いに追いかけてきたのだった。

 奪った球を高木は川相に渡す。川相はそれを即座に高橋へ。もう一度先ほどと同様に高橋が攻め込んで行く。

 今度は奪われる前に荒木へと打ち出した。


 荒木が追う。後衛二人が徐々に後れを取る。

 振り下ろした竜杖から放たれた打球は、弾丸のような速さで篭に突き刺さったのだった。

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