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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第38話 反攻開始!

 中休憩で大沢は選手たちを見渡して悩んでいた。

 荒木を使うべきか否か。


 マラジョは当然、前回の事を踏まえて、後半からクレメンチ選手を出してくるだろう。それに応えず温存したら、間違いなく試合後に文句を言ってくるだろう。だが、四点差のついてしまった試合で、荒木を投入する意味が見出せない。

 ここは大人しく敗戦を受け入れるべきではないだろうか。岡田の落竜負傷で、荒木を出す余裕が無かったという言い訳はできるのだから。


「前回は何とかなったけど、今回はブレッドに手も足も出ねえな。それでも何とか荒木で一点でももぎ取って帰りたいよな」


 高橋が西崎と喋っている声が聞こえ、大沢がそちらに顔を向けた。


「このままズルズルいっちまったら、岡田が自分が落竜したせいでって思っちまうかもやけん、何とか荒木には一点でも多く入れてもらいたかとこやね」


 今度は伊東と秋山がそんな事を言い合う声が聞こえ、大沢がそちらに顔を向ける。

 川相は荒木と、ブレッドの印象について話している。


「あのブレッドっていうの技術は凄いけど、結構、速さへの対処が弱いっぽいよ。もしかしたら後半は何とかなるかも」


 すでに選手たちは荒木が入る事が規定事項になっている。

 大沢の腹は決まった。


「ここは大胆に行く。原、高木と交代だ。それと西崎、荒木と交代だ。一に速度、二に速度、速度、速度だ!」


 選手たちは一斉に立ち上がり、「おお!」と雄叫びをあげた。



 後半戦、選手交代の放送が流れた。

 荒木の名が告げられると、観客席が総立ちとなって沸き立った。その大歓声に荒木も竜も怯みそうになる。


 その後、クレメンチ選手の名が告げられると、観客席がもう一段沸き立った。選手たちが歓声に驚いて暴れる竜を宥めて落ち着かせる。


 ある程度落ち着いたのを確認し、審判が試合開始の笛を吹いた。


 荒木が何も見ずに球を後方に打ち出す。それを合図に、両軍が一斉に竜を動かした。


 川相が前に竜を走らせ球に追いつき、それを左翼の高橋へ打ち出す。高橋もその前に動き出しており、受けてすぐに、竜を走らせている川相に戻す。そこに川相は全速で竜を走らせて、右翼の高木へ。

 ここまでブレッドは全く動きに付いて来れていない。


 高木は球を受け取ると、一気に前線に球を打ち出した。誰もいない場所に球が飛んで行く。

 それを敵の後衛二人は、荒木を走らせるつもりだと感じたらしい。だがそうでは無かった。高木がその球に向かって猛然と竜を走らせる。


 敵の中盤選手がどんどん引き離されて行く。球に追いついた高木はそれを一気に中央へと打ち出した。

 流れた場所は完璧。そこに荒木が竜を走らせる。

 後衛の一人が体当たりをしようとする。だが、もうその時点で荒木の竜は一歩前に行っていた。

 逆に弾かれてしまい一人脱落。もう一人の後衛が必死に追うが、どんどん引き離される。


 球に追いつた荒木は体を捻って竜杖を振り抜いた。

 球が篭の右上目がけて飛んで行く。守衛も反応はしたのだが、その竜杖は届かなかった。



 自陣に戻って来たクレメンチ選手が、同じく自陣に戻って来た荒木を睨みつけた。これ以上好きにはさせないといったところだろうか。


 後半に入ってからの川相と高木の連携は素晴らしかった。

 攻め上がりの途中であっさりと高木が球を奪い、それを川相が受けて攻め込んで行く。そこに高橋が加わり、ある程度の所で荒木へ。

 その川相の一連の動きに、ブレッドが付いて来れていない。


 二点目を荒木にもぎ取られたところで、マラジョが動いた。

 川相が先ほどと同様に高木との連携で攻め上がろうとしたところを、反対側から竜の体当たりを受けた。

 いったい誰が?

 川相が振り返ると、そこにいたのはなんとクレメンチ選手だった。業を煮やして無理やり球を奪いに来たのだった。


 零れ球をブレッド選手が拾い攻め込んで行く。そこそこ攻め込んだところでブレット選手が球をクレメンチ選手へ渡す。


 ところが、クレメンチ選手が球を受けた瞬間に秋山に体当たりを受けた。

 零れた球を島田が拾う。ここまでイマイチ連携が噛み合わなかった二人が、ここで息が合った。


 島田がその球を誰もいない前方へ。

 その球に高木が追いつく。その高木の横を川相が通り過ぎていく。高木は川相の先へ球を打ち出し、自身も竜を前へ走らせた。


 球を受けた川相は一旦、高橋へ。高橋がそれをすぐに川相に戻す。そこから川相は一気に前方の高木へ打ち出した。


 球に追いついた高木は、荒木の位置をちらりと確認し、すぐに大きく前方へ打ち出した。


 荒木が竜を走らせようとしたところに後衛の一人が竜を叩こうと竜杖を振ってきた。すでに竜を走らせていた荒木は、それを手にした竜杖で弾き返す。古武術道場で習った、相手の打ち込みにこちらの打ち込みで返す『石火』という技が炸裂。


 弾き返された竜杖がもろに顔面に当たり、後衛の一人が落竜。荒木は構わず竜を走らせ、篭に向けて球を打ち込んだ。


 球は篭に入った。

 だが審判が笛を吹かない。

 副審と何やら話し込んでいる。さらには映像確認をすると言って、競技場から出て行ってしまった。どうやら荒木の振るった竜杖が相手選手に当たったと審判は感じたらしい。

 その間に竜杖が顔に当たり脳震盪を起こして落竜した選手が補欠席に運び込まれて行く。


 しばらくし、戻って来た主審が荒木の得点を認める笛を吹いたのだった。

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