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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第34話 紅蓮社の正体

 翌日の朝、薩摩郡の民宿で朝食を取っていた荒木たちだったが、杉浦は新聞を開くなり食事の手を止めた。箸を置き、新聞記事に釘付けとなっている。ふと横を見ると、小川と栗山も同じ状態であった。

 荒木と池山がそんな三人に気付き、顔を見合わせて首を傾げた。広沢は全く気にせず食事に集中している。


「三人ともどうかしたんですか?」


 そうたずねた荒木に、杉浦が面倒そうに電視機を指差し、また視線を新聞に移す。荒木が電視機に視線を移すと、朝の報道番組が流れており、何やら関係図のようなものを使って説明している。その右上に書かれている文字に荒木も「えっ?」と声を漏らした。


『紅蓮社、大燕の工作企業である事が判明』


「紅蓮社って確か、今の世界経済の悪化の原因を作った瑞穂の投資会社ですよね。それが大燕の工作企業ってどういう事なんでしょうね?」


 池山が視線を報道番組に固定したままたずねた。すると、最初に新聞を読み終えた栗山が、新聞を折り畳んで机に置いた。


「池山は『紅天団』って覚えてる? 新聞に工作資金を渡して『雛祭り騒乱』っていう内乱を引き起こした工作組織なんだけど」


 池山からしたら『雛祭り騒乱』が起きたのは小学校一年の頃。そういう出来事があったのはもちろん知っているが、内容までは覚えていない。


 『小学校一年生だった』の部分に杉浦が過剰に反応して新聞から顔を覗かせた。


「嘘だろ? 小一なのかよ。俺、高校卒業してこの世界入った年なんだけど……」


 それはそれでと広沢と小川が笑った。荒木、栗山、池山は必至に笑いを堪えている。


「もちろんそういう事件があったって事は知ってるよ。だってそれが原因で『大金』って国が無くなっちゃったんだから。だけど、報道でも報じないし、学校でも大金って国が崩壊したっていうのは習うけど、詳細って教わらないよね」


 そう荒木が言うと、池山だけじゃなく広沢、小川も頷いた。それを聞き、杉浦が新聞を畳んで机に置いた。


「そうか。学校ではそんな感じなのか。大金って国はさ、その紅天団って組織使って、あちこちに工作資金ばら撒いてたんだよ。それでうちだけじゃなく、ブリタニス、ゴール、ペヨーテでも内乱が起きたんだよ」


 それが明るみになって、逆に大金で大規模反乱が起こり、今の十の国に分裂してしまったんだと杉浦は説明した。


「大金の残党が建てたのが今の大燕政府ですからね。崩壊前からあいつらはやってる事が何も変わって無いって事なんですね。自国の民より瑞穂への嫌がらせっていう」


 栗山は呆れ口調で言った。杉浦も小さくため息をつく。


「紅天団の一件もそうだったんだけど、嫌がらせの影響がでかすぎるんだよ。今回それでどれだけのお金が世界中から消えたと思ってるんだか」


 そう言って杉浦が憤ると、荒木が恐る恐ると言う感じで手を挙げた。


「あの、なんでそれを報道は報じないんです? それとなんで学校も教えてくれないんですか? あと、うちらに嫌がらせをする目的って何なんですか?」


 「そこからか」と杉浦は呟き、栗山の顔を見た。栗山がこほんと咳払いをする。


「一個目の質問は簡単ですよ。多くの報道が紅天団から工作資金を貰ってたからです。報じようとしたらそこは避けて通れませんからね。でも国内では産業日報だけ貰って無かったらしいですね。影響力が小さいって思われてて」


 産業日報といえば、猪熊の日競新聞の親会社。猪熊と吉田の顔を思い出し、荒木は思わず苦笑いした。


「二つ目は、大学行ってた人ならわかるんですけどね。実は紅天団から工作資金を受け取っていた教授ってもの凄い多いんですよ。そういう人が教育委員会の委員ですから、当然教えるなって圧力かけますよね。それと、大学教授って潜在的に共産主義者が多いんですよ」


 栗山の説明の最後の部分は杉浦も知らなかったようで、そうなのかと聞き返した。


「そりゃあ官僚と一緒で国内生産になんら寄与しない人ですもん。全員平等が至上って人、多いですよ。共産主義こそ人類の行きつく先なんて本気で言ってる人もいます」


 「狂ってる」と言って小川が笑い出した。「頭の良い人の考える事はよくわからん」と広沢も笑い出した。


「いや、共産主義が全て悪いわけじゃないんですよ。共産主義の本来の姿って究極の福祉国家ですからね。ただ、問題はどうやって平等になるように配分できるかと、そのお金に対象者以外が手を付けずにいられるかって話で。少なくともここの部分が解消できないうちは人類には早すぎる経済学なんですよ」


 その栗山の解説に池山と荒木が理解を越えて固まってしまった。それを見た杉浦がパンと手を叩く。


「お前ら税金と一緒に保険料って取られてるだろ。あれがな、共産主義の第一歩なんだよ。本来、弱者救済なんて資本主義には必要無いんだよ。だって資本主義ってのは金持ちと貧乏人を作る経済学なんだから」


 お金を儲けるっていうのは究極的にはそういう事だと杉浦は説明した。そこまでは理解したようで荒木と池山が頷く。


「金持ちは大病でも金で治せる、貧乏人は少しの病気で死ぬ。だけど、それじゃあ命の重さが違いすぎるだろ。そこで保険料ってのを徴収して、貧乏人にも医療が受けられるようにしてるんだよ」


 そういう事なのかと荒木と池山がにこやかな表情を向け合った。


「で、三つ目の質問の答えだ。共産主義者にとって憎むべき相手は誰かという事だよ。ここまで理解したんならわかるはずだ」


 「どうだ?」と杉浦が池山と荒木の顔を見る。

 先にパンと手を叩いたのは荒木だった。


「お金を持ってる人! そうか、だから経済強国である瑞穂やブリタニス、ゴール、ペヨーテって国に破壊工作を仕掛けているのか!」


 栗山と杉浦は同時に頷いた。


「ようは俺たち資本主義国家からしたら、共産主義国家ってのは永遠の『疫病神』って事なんだよ」

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