第27話 攻めて、攻めて、攻めまくれ
後半戦開始の笛が吹き鳴らされた。
南府球団の先鋒の打ち出しで後半戦が開始。
荒木がそれを追いかけてヘラルト選手の位置へ。ヘラルト選手が、その前に小早川選手へ球を渡す。
すると荒木はそのまま相手の後衛の所へ竜を走らせた。
そんな荒木をヘラルト選手が警戒している。簡単にはやらせない、ヘラルト選手から、そんな強い意志を感じる。
ホルネルが抜けた事で、かなり栗山にかかる負担が大きくなっている。だが、元々見付球団は守備に定評のある球団。南府の選手たちも、そこから先になかなか攻め入れないでいる。
すると、若松の守備で球が零れた。それを栗山が拾い池山へ。
池山の竜はそこまで脚が早いわけではない。だが、栗山の竜杖の制御が上手く、池山のすぐ近くに球が転ぶ。それを池山は思い切り反対側にいる飯田へ打ち出した。
恐らく竜杖の制御という点においては、池山は見付球団で最も下手くそな選手。そんな池山の打ち出した球は、確かに飯田の進行方向には飛んでいる。だが、両軍の選手が口を揃えて「どこに打ってるんだよ!」と罵倒するような誰もいない場所へ飛んで行った。
そこに猛然と竜を走らせる飯田と高橋選手。荒木と違い飯田は竜杖で打つ際に竜の速度を緩めないといけないが、それでも圧倒的な速さを誇る。その速さは、代表の高木に勝るとも劣らない。
先に球に追いついた飯田は、そのまま高橋選手を引き連れ、敵陣深く突き進んで行った。
敵の後衛のさらに先へ竜を走らせる飯田。そうなると守備線が飯田に変わってしまい、後衛の二人も荒木に張り付いた守備というわけにはいかなくなる。
ヘラルト選手が荒木の守備にまわり、後衛の一人が飯田の守備に向かう。
だが荒木は動かない。
後衛が飯田に追いつく寸前で、荒木は猛然と篭に向かって竜を走らせた。
飯田がその先に球を打ち出す。
若干球の勢いが足らないと荒木は感じた。それを見て少し竜の進路を左に取る。その時点で荒木の右後方にいたヘラルト選手には、もう荒木を守備する術が無くなってしまった。最早どう進路を取っても荒木には追いつけない。
荒木が竜杖を振り抜く。
相手の守衛も代表の選手から何度も荒木の打ち込みの話は聞いている。この選手の打ち込みは方向が読めないという事を。
ギリギリまで見極めた。打球に向かって竜杖を向ける。だが届かなかった。
前半開始早々に一点をもぎ取られ、南府球団の選手たちは失点に恐怖するようになったらしい。そこから中盤の選手たちは非常に慎重に球を運ぶようになった。
だが、そんな得点の匂いのしない攻撃が栗山に通じるわけが無く。あっさりと球を奪われ、飯田に渡され、荒木が決めて二点目。
そこからはもう南府球団は攻守ともに機能しなくなってしまった。先ほどの得点の場面を再現しているかのような攻撃で、あっさり荒木が三点目を決める。
高橋選手が選手たちに落ち着いて行こうと声をかけた事で、南府球団の選手たちは少しだけ組織を建て直す事ができた。だがそれも若松、広沢の守備に攻撃が跳ね返されると、そこからの守備はボロボロ。ヘラルト選手が必死に荒木を止めようとするが、どうにもならず四点目。
そこで南府球団の監督は最後の選手交代を行った。
昨年まで主将をしていた山本という後衛選手を投入。山本選手は、前回、前々回と世界大会で瑞穂代表を務めた選手である。前回大会では、若松と二人で守備の要であった。だが年齢的な問題で、今季はここぞというところでしか使われなくなってしまっていた。その山本選手と、快速の山崎選手という二人で荒木を守備する事になった。
監督としては、ここで老練な山本選手を入れて、なんとか守備を建て直そうという意図だったろう。
同時に見付球団は栗山と小川を交代させた。
確かに山本選手が後衛に入ってくれた事でヘラルト選手が守備に専念では無くなり、かなり立て直しはできたと見える。そのせいか、入ったばかりの小川がかなり手を焼いている印象を受ける。
だが、残念ながら『手を焼く』止まり。飯田がヘラルト選手からあっさり球を奪ってしまうと、選手たちは一斉に守備に戻った。
飯田が池山に渡し、池山が大きく打ち出して荒木がそれに竜を走らせる。
山本選手は技術や戦術で守備をする質の選手で、老獪にも守備線を上げて反則を誘おうとした。ところが、荒木は助走を付けるために少し後ろに位置しており、思ったような効果が無い。単に山本選手たちの初動が遅れただけだった。
荒木は無人の野を駆けるような状況で五点目を叩き込んだ。
観客席は後半になってから総立ちの状態。荒木が得点を決めるたびに大歓声が沸き起こる。
試合再開後、またもあっさりと球を奪い攻撃に転ずる見付球団。今度は山本選手は荒木を力で押さえつけようとした。常に荒木と篭の間に竜を位置取り、荒木が少しでも竜を動かそうとすると竜を体当たりさせて移動の邪魔をする。ところがこれも無意味だった。
いざ球が荒木のところに打ち込まれると、その速さであっさりと守備を逃げ出し、少し大回りをして球に追いついてしまった。山崎選手がそれを追いかけているのだが、追いつこうとするので精一杯。
結局六点目を叩き込まれてしまったのだった。
万策が尽きてしまった南府球団としては、もはや早く試合が終わってくれる事を祈るしかない。残り三分と余剰時間数分が、南府球団の選手たちには異常な長さに感じただろう。
後半だけで六点も取っているというに、まだ見付球団は点を取りに来ている。
もう南府球団の選手は完全に戦意を喪失してしまっている。だが、見付球団の選手は疲れなど一切感じていないという雰囲気。
小川から球を受けた飯田が攻め上がって行き、そこに小早川選手が守備に入る。だが飯田はお構いなしで攻め上がって行く。
飯田が池山に打ち出そうとした球を小早川選手が竜杖で防いだところで、やっと試合が終了した。
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