表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
268/281

第25話 試合前の騒動

 翌日、史菜と荒木の密会写真が週刊女性社会に掲載された。二人仲良く大宿に入っていく写真付きで。


 以前報じられた時の写真は朝霧高原で牛乳の氷菓を仲良く舐めている写真であった。今回の写真はその後で駿府の大宿に行ったところの写真。同じ日の写真なのだが、こうして別々に報じられると史菜との関係がずっと続いているように感じてしまう。

 また一つ報道の汚いやり口を知って荒木は憤った。


 「こんなものに心を動かされるな」と八重樫が声をかけてくれたのだが、それは無理というものだろう。

 現在進行形で球団事務所は報道に取り囲まれているし、荒木の実家にも報道が来てしまっている。もちろん球場にも報道は詰めかけていて、観戦に来たお客様を捕まえては、この報道をどう思うかと聞きまくっている。そのせいで、球場の受付や当日券の販売所にお客様が苦情を入れまくっている。


 施設部の滝部長からその報告を受けた営業部の相馬部長は、すぐに浜松の保安会社へ連絡。白群色の法被を着て球場の外を警備して回ってもらった。

 何人もの報道関係者が映写機ごと警備員に摘み出され、時には乱闘になりながら、何とかお客様から報道を遠ざけた。



「有名人が一人いると、球場に活気が生まれるな」


 秦が外の喧噪を皮肉って笑った。


「これで絶対に優勝をもぎ取らないといけなくなっちまったな。このまま二位で終わったら、今日の夜からどんな酷い特集を組まれる事やら」


 尾花が冷静に言うと、高野、伊東、栗山が頷いた。


「勝ち点同じで、得失点差はたかだか二点じゃん。何とかなるだろ。北府球団より二点多く点取れば良いだけなんだから」


 そう広沢が指摘すると、杉浦が「アホか」と笑い出した。


「お前は算数ができないのか、広沢。得失点差も同じなら得点の多い方が優勝なんだよ。うちは失点も得点も少ないから、三点以上北府球団より多く取る必要があるんだよ」


 つまりは北府球団以上の大勝をするしかない。


「でもですよ杉浦さん。北府が大勝したのって今日の南府相手ですよね。可能性は十分にあるんじゃないですかね」


 小川の指摘に、若松と関根監督が頷いた。


「その通りだ小川。うちと北府球団の状況はほぼ互角と考えて良いと俺も思ってる。じゃあ先発を発表するぞ」


 そう言って関根は折り畳まれた紙を取り出した。

 守衛は八重樫、後衛は若松と広沢、中盤は栗山、飯田、ホルネル、先鋒は尾花。


「失点を少なくする事も重要だが、それより得点が重要だ。得点にこだわっていけ! いいな!」


 関根の檄に、選手たちが立ち上がって「おお!」と叫ぶ。

 気合十分。


 そんな控室に、球団の職員が血相を変えて駆けこんで来た。


「すみません。試合開始が遅れると思います。今、連盟にも話をして、太宰府の方も試合を遅らせてもらうように言っていますので、しばしお待ちください」


 焦って報告する職員に若松が竜杖を向けた。


「何だその報告は! こっちは試合前で気合いが乗ってるんだ! せめて何が起こってるかくらい言えよ!」


 あまりの迫力に、球団の職員は腰を抜かしそうになった。


「す、すみません。報道が、観客席に入り込んでしまって、無理やり取材しようとして観客と揉めているんです。どうやら暴れに来た暴漢もいるみたいで、暴動みたいになってしまっていて」


 すると杉浦がつかつかと前に進み出て、球団職員の肩をむんずと掴む。


「俺を放送席に連れて行け」


 そう言って杉浦は控室の扉をバンと勢いよく閉めた。



 それからしばらくし、控室に杉浦の大声が響き渡った。


「見付の杉浦だ! 皆、俺の話を聞いてくれ!」


 控室の選手たちが一斉に「うるせえ!」と言って耳を塞いだ。

 若松も苦笑している。


 だがそれまでざわざわと聞こえていた外の声が急に静かになった。


「みんなが大人しくしてくれねえとさ! 試合が始められねえんだと! 観戦の邪魔するような奴はさっさと警備員さんに突き出して、竜杖球を始めようや! なあ、みんな!」


 「おお!」という大歓声が控室にまで轟いて来た。



 それからほどなくして球団の職員がやってきて、二十分遅れで試合が開始できそうと知らせてきた。

 同時に杉浦も控室に戻って来た。


「ごくろうさん」


 そう言って皆が杉浦の背をパンと叩いた。


「営業妨害で警察に突き出す方向らしいぞ。どうやら保安会社に捕まった奴らの中に警察が追ってる奴がいたらしくてな。組織的な妨害行為の可能性があるんだと」


 その杉浦の報告に、若松が「どういう事だ?」と目を細めてたずねた。


「俺も詳しい事まではわからないんだが、観客席で最初に揉めてたの、福田ふくでの漁師さんらしいんだよ。ほら、浜崎さんっていう特別市の主催者の。その人が記者と揉めてて、それが徐々に収拾がつかなくなっていったみたいだぞ」


 保安会社の人が球団の職員に報告してきたのだそうだ。


「もしかして、その相手の記者って堀内って名前だったりしますか?」


 そう荒木がたずねると、皆が一斉に荒木の顔を見た。


「ああ、そうそう。確かそんな名前だったよ」


 「知り合いなのか?」と若松がたずねる。


「俺を社会的に抹殺してやるって言って中傷記事を書きまくってる奴です。以前、双葉ちゃんを写真に撮りまくった挙句、美香ちゃんをその写真機で殴りつけた」


 その説明で、若松もどの人物かわかったらしい。大声で「あいつか!」と叫んだ。


「そんな奴が警察に捕まったんだ。荒木、これで竜杖球に集中できるよな」


 荒木は鋭い視線で若松を見て、大きく頷いた。

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ