表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
266/284

第23話 残り二戦

 瑞穂戦は残り二戦。太宰府遠征と本拠地での南府球団戦を残すのみ。


 現在四戦を終え首位は北府球団。四戦して二勝二分。

 二位が見付球団で、同じく二勝二分。得失点差で二位になっている。

 三位が西府球団で一勝二敗一分。

 四位が南府球団で三敗一分。


 北府球団と見付球団の直接対決は既に終わっており、残りの二戦の結果次第という状況になっている。



 太宰府駅に降り立った見付球団の一行は、大宿に荷物を置き、早速地元の食べ物屋に繰り出した。

 東国戦では遠征の時はどこに行っても宿は民宿なのに、瑞穂戦になったら急に大宿に宿泊できるようになったと皆笑い合っている。その顔には、引き分けたら終わりという緊張感は微塵も感じない。


「今年が駄目なら来年があるさ。来年ならきっともっと俺たちは強くなっているはず」


 広沢がそんな風に豪語する。関根監督も、それを叱りもせず、むしろ「気楽に行こうや」などと言っている。


 来て早々に荒木は太宰府の選手たちに呼び出され、拉麺を食べ、天満宮に行き、水炊きを食べながら一杯やるという充実した一日を過ごした。付いて来た池山、高野、飯田もご満悦。


 肝心の試合の方だが、飯田と尾花の連携が良く、小川、広沢、若松の守備もかなり熟成されてきて、一対〇で前半を折り返した。

 後半荒木と栗山が出場し、さらに二点を追加。一点は返されたものの、四対一で大勝。


 別会場では北府球団の西崎が大暴れし、南府球団に三対〇で勝利。

 見付、北府共に三勝二分、得失点差で北府球団が首位という状況で最終戦を迎える事になったのだった。



「荒木、まだ美香ちゃんは消息不明なのか?」


 見付に帰る高速鉄道の車内で、隣に座った若松がそうたずねた。荒木は答えなかったのだが、その沈みきった表情が答えであっただろう。


「どこに行っちまったんだろうな。うちのもだいぶ心配してるよ。双葉がさ、お姉ちゃんは今度いつ来るの?って聞いてくるんだよ。毎回返答に困るんだよな」


 荒木が窓の外に視線をやり、小さくため息をつく。


「どうしていつも、あの人はふっといなくなってしまうんだろう……」


 心の声が漏れた、そんな感じの呟きであった。もはやかける言葉も見当たらず、若松は新聞を開いた。



 ――新聞はここのところ連日北国の六花会の事件を詳しく報じている。

 国内に人身売買を大っぴらに行う組織があったというだけで国民の関心は高い。それを警察が揉み消そうとしていた、その事は自称優良種である報道にとっては、実に美味しいネタであった。


 そこに地元の有力者である北国海洋開発の社長も絡んでいて、さらに政治家も絡んでいた。こんなに面白い事は無いと、報道は狂喜乱舞している。


 だが、ここに来て、その報道は少し沈静化してきている。原因はとある人物が逮捕されたという情報。


 北国産業銀行の行員、古屋聖。


 多くの報道は報道しない自由を行使したが、日競新聞と系列会社である産業日報は報じた。


 最近ではすっかり若松の読む新聞は産業日報ばかりになっている。この日の新聞には、古屋の上司でもある苫小牧支店長の永井虎太郎も、銀行法違反の疑いで逮捕という記事が掲載されていた。

 連合警察の発表によると、以前から永井は貸付金が回収できなくなると、六花会にその情報を流していたらしい。その六花会との窓口役だったのが古屋聖だという事が判明。

 その情報を元に、六花会はお金になりそうな女性や、簡単に騙せそう、もしくは恐喝に屈しそうな人物を調査していた。

 そして北国海洋開発の土方にもその情報を共有していたらしい。


 北国海洋開発は船を持っており、外国から麻薬を密輸したり、船倉に競争竜や女性を積み込んで売却したりといった事をしていた。北国海洋開発の社員にも何人か逮捕者が出ており、北国のいくつかの行方不明事件について関連を調べている――



「しかし、まさか、あの娘がこの事件の被害者だっただなんてな」


 若松がそう呟くと、荒木はちらりと若松の方を見た。だが目が合うと沈んだ顔で顔を背かれてしまった。


「うちのがな、以前言ってたんだよ。私が美香ちゃんでも逃げ出すかもって」


 「え?」と声を発した荒木を、若松は新聞を畳んでから見た。


「人ってのはな、相手との関係が対等じゃないと理不尽に感じたり、不安に感じたりするもんなんだよ。双葉ですら、柳司ばかり可愛がると不安になって泣くよ。姉弟ですらそうなんだ」


 若松が何の話をしているのかわからず、荒木は返答ができずにいる。


「美香ちゃんからしたらさ、お前に対し圧倒的に恩を感じてるわけじゃんか。でも何も返せない。まあ、夜一緒に過ごしたりはしてるんだろうけど、それで返せているとは、とても思えなかったんだろうな」


 その話で、そう言えば美香が以前同じような事を言っていたのを荒木は思い出した。


「だから美香ちゃん、不安に押しつぶされちゃって……じゃあ、俺はいったいどうすれば良かったんでしょうね」


 訴えかけるような目で荒木が若松を見る。


「さあなあ。俺はお前の行動が間違っていたとは思ってないよ。いや、美香ちゃんだって間違ってるなんて思ってないと思う。ただな……」


 そこまで言って若松は突然鼻を鳴らした。荒木に顔を近づけ、こそっと助言をする。その内容に荒木の顔が真っ赤に染まる。


「そうですね。もし瑞穂戦に優勝できたらそうしますよ」

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ