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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第21話 栞からの告白

「あの、荒木さん。私、荒木さんと真剣に、その、将来を見据えたお付き合いがしたいって思ってるんですけど、駄目でしょうか?」


 三度目となる栞とのお出かけ、その別れ際に栞はそう言ってきた。栞がかなり引っ込み思案な性格だという事は荒木も薄々察してはいる。そんな栞がこんな事を言ってくるのだから、余程勇気を振り絞ったのだろう。


 荒木はそれに対し回答をせず、予定外に車を走らせた。車は駅を離れ、安部川の河川敷へ。


 夜空に輝く星々が川面に映って、非常に幻想的な光景を作り出している。

 冬の星空に三連の星が瞬いている。


 荒木が車を降りると、栞も車を降りた。


「うわあ、綺麗!」


 素直に栞は感想を口にした。風が吹き、栞の髪をさらさらとなびかせる。


「俺ね、実は高校の時、好きになった娘がいるんだ。未だにその娘の事が好きなんだ」


 川面をじっと見つめて荒木が言う。

 隣に立った栞が荒木の顔色をうかがった。


「それって、噂になってる久野史菜さんっていう放送員?」


 史菜の名を出され一瞬ドキッとしたが、報道で報じられているのだから、知っていても不思議じゃないとすぐに思い直した。


「史菜は、幼馴染なんだよ。小学校から高校までずっと一緒で。だけど、俺の知ってる史菜はもういないんだ」


 荒木の言った意味が理解できず、栞が首を傾げる。


「それってどういう?」


 川面を見ていた荒木が星空を仰ぎ見る。


「報道に入ってから史菜は変わった。昔は純朴な奴だったんだよ。だけど久々に会ったら別人のようだった。何度か会って、やはり違うなって。もう俺の知ってる史菜じゃないって思った」


 という事は荒木の中に史菜以外の女性がいる。自分の入る隙は無いんだと感じ、栞は心臓をきゅっと掴まれたような気分に陥った。


「俺さ、結構好みなんだよ。栞ちゃんの事。もしも、もしも栞ちゃんの方が先に知り合ってたら、きっと栞ちゃんを選んでたと思うよ」


 栞の顔を見ずに、照れ臭そうに荒木が言った。その態度に思わず栞も照れてしまう。


「俺さ、妥協で竜杖球の選手になったんだ。本当は競竜の騎手になりたかったのに、担任教師のせいでなれなくてね。そっちの夢は叶えられなかったけど、初恋の方は、ここまで続いたんなら成就させたいって思うんだよ」


 栞が静かにしているので、もしかして泣かれちゃったかもと思い、ちらりと視線を送る。すると栞は顔を真っ赤に染めて、両手で口元を隠していた。


「素敵です! とても素敵です。私を選んでもらえないのは残念ですけど、その話は凄い素敵です!」


 ほんとうに良い娘だなと、荒木は感じた。もし美香と再開できずに、この娘と会っていたら、間違いなく自分はこの娘を選んでいただろう。そう思うほどには心が動かされていた。


「で、その方は今どちらに? 一緒に住んでらっしゃるとか?」


 栞からしたら何気ない質問だった。きっと照れて頭でも掻きながら答えてくれるんだろう、そう思っていた。だが荒木の表情は全くそんな感じでは無く、むしろ落ち込んだ風。

 もしかして、相手の女性は難病にかかっているとか?

 もしくは亡くなってしまったとか?

 マズい事を聞いたと栞は感じていた。


「行方不明になっちゃったんだ。本当に突然だったんだ。しかも失踪に近い状態で。実はその娘、今話題の北国の犯罪の被害者でね。まさかって思って心配してるんだよ」


 思ってもみなかった話に、栞は驚きで口が開いたままになってしまっている。

 「どこにいるのやら」と弱々しく呟いた荒木の横顔を見て、栞の中に、ふとよこしまな考えが浮かんだ。でも、もしかしたら人助けになるかもと考えて、栞は抵抗する邪な自分を納得させた。


「ねえ、荒木さん。もしもですよ、もしも私がその方を探し出せたら、ずっと友だちでいてくれますか?」


 犯罪行為に巻き込まれているのだとしたら、祖父である雪柳会の相談役に頼めば、何かしら助けになってくれるかもしれない。そう栞は説いた。


「ありがとう。もう俺の頭じゃ何が起きてるのかよくわからないんだよ。俺はさ、やくざがどうのとか、銀行がどうのとか、政治がどうとか、報道がどうとか、そんなのどうでもいいんだよ。美香ちゃんが一緒にいてくれたらそれで」


 銀行?

 政治?

 報道?

 荒木が何を言っているのか、栞にはよくわからなかった。ただ、なにやらその美香という娘が良からぬ事に巻き込まれているという事だけは理解した。


「私、一人の女性として、そういうの許せませんから!」


 まずは理解できている事を教えて欲しいと言おうとして、栞は可愛くくしゃみをした。


「ごめん、ごめん、ここ寒かったよね。話は車に戻ってから聞いてよ」


 そう言って荒木は栞の肩に手を置いた。


 車に戻った荒木は、すぐに内燃を動かし暖房を入れた。底冷えした車内に暖かな風が流れる。


「えっと、最初に言っておくけど、俺の出来の悪い脳で理解できた範疇だからね」

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