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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第20話 北国事件の捜査

 ――連邦制を敷いている瑞穂皇国は、中央政府である連合議会の権限が弱い。

 総理大臣は間接選挙、総督は直接選挙によって選ばれる。どちらが民意をより反映しているかは自明の理。連合議会は各国からの供出金によって運営されているのだからなおさら。


 瑞穂の各組織は基本的に『連合』という名に相応しい組織ばかりなのだが、中央集権化が著しい組織が二つある。

 一つは銀行、もう一つは警察。

 銀行は官僚機構である大蔵省、各国の大蔵局とは別組織で、皇国中央銀行を頂点とした完全な中央集権の組織となっている。

 警察も同様で、官僚機構である弾正台だんじょうだい、各国の治安局、各郡の治安部とは別組織で、国家公安委員会を頂点とした完全な中央集権の組織となっている。


 そうは言っても、完全に国家組織から切り離されているというわけではない。

 郡警察と各郡の治安部、連合警察と中央の弾正台は密接なやり取りがあるし、国家公安委員長は総理大臣の任命となっている。


 銀行機構も同様で、各銀行は各国の大蔵局と銀行の本社は、中央の大蔵省と密接にやり取りしており、皇国中央銀行の長である総裁は大蔵省や総理大臣の推薦を受けている。


 そんな両者は大昔から癒着が著しい。

 お金という資産を扱っている以上、常に奪われる危険というものが存在し、その為に誰かの警護を必要としている。その図式が今日まで続いている。

 その為、基本的に銀行による犯罪行為というものは警察は調べない。銀行が亡くなった方の口座を凍結し奪ってしまっても、警察は見てみぬふりをしてきた。仮にそういう訴えがあったとしても、形式的な捜査を行うだけで、被害者には「証拠は何も発見されなかった」として事件そのものを無かった事にしてきた。


 ところが、ここに来てその図式が崩れ始めている。

 原因はいくつもある。

 最近銀行による犯罪行為が横行しすぎていて、警察も無視できなくなってきた。

 最近の銀行の政策の失敗によって倒産件数が急増。貧困層が増え、急激に治安が悪化してきているというのも大きな理由だっただろう。治安が悪化すれば自分たち警察が文句を言われる事になるのだから。

 そのせいで、皇国中央銀行総裁と、国家公安委員長の仲がかなり険悪となっている――



「……あの、荒木さん? 起きてますか?」


 起きてはいる。起きてはいるが、完全に脳の理解を越える話に、荒木の頭脳は止まってしまっている。

 そんな荒木に猪熊は「ようは銀行と警察の仲が凄く悪くなっているんだ」と話を大きく端折った。


「で、それが美香ちゃんの件と、議会解散の話とどう結びついてくるんです?」


 そう荒木が言ってきた事で、とりあえず聞く気はあるという事だけは猪熊も理解はした。

 そこで帳面をもう一枚めくった。



 ――銀行絡み、おまけに六花会という反社まで絡んでいる。室蘭郡警も十勝郡警も、それだけで調査に及び腰であった。少しだけ捜査をしてすぐに、どう考えてもまともな事件じゃないと両郡警は判断。いつものように郡庁の治安部へ自殺で処理したという報告書を提出した。

 いつもならそれで済んでいた。


 ところが今回、連合警察が捜査に動く事になった。

 だが、その前に皇国中央銀行が北国産業銀行の詐欺事件を把握。政治家や報道機関など四方に手を回し揉み消しを図った。その手は連合警察の内部にまで及び、銀行関係だからという事で捜査を打ち切ろうという流れができて始めていた。


 ここで一つ警察が失敗を犯す事になる。三遠郡警が事件をさっさと終わらせてしまおうとして、荒木を容疑者に仕立て上げようとした。


 どうやら連合警察が捜査を歪めようとしているらしい。日競の吉田局長がその話を他方に広めた。産業日報は連日この件の会見を警察に要求。政治家を使って情報を得ようと動いた。さらに荒木を匿った関係で、紅花会という競竜の会派が捜査状況の開示を要求。

 その結果、連合警察はちゃんと捜査をしないわけにはいかなくなってしまったのだった。捜査本部は一回解散となって人員を総入れ替え。再度一連の事件の捜査を行う事になった。


 再稼働した捜査本部は、いとも簡単に北国海洋開発の土方正広社長に行きついた。そして拘禁した土方の口から驚愕の事実がいくつも語られる事になる。

 まず、現役の競竜を盗んで海外に売り飛ばしていたという事。これは以前から疑われていた案件であった。それを土方は白状したという形になった。

 次に、六花会、北国産業銀行と手を組んで大規模な人身売買を行っていたという事。

 さらに、六花会と郡警察が繋がっていて、事件や捜査の情報が漏れてくる。それが自分たちの事業に関わりのある事なら、土方が政治家を使って事件のもみ消しを指示させていた。


 捜査本部は六花会の一斉摘発を行う裏で、北国産業銀行の行員、古屋聖を逮捕。さらに郡警察に監査部を送り徹底的に警察官を調査。土方と関わりのある郡議会、北国議会の議員には特捜部を立てて調査を開始。


 こういった連合警察の一連の動きに、皇国中央銀行が腹を立てた。銀行員は治外法権だったはずだと。だが、抗議してきた皇国中央銀行に対し連合警察は、逮捕したのは銀行員ではなく六花会の関係者だと説明した。


 その三日後、かわら新聞系の女性向け週刊誌『週刊女性社会』に、国家公安委員長の末松の不倫疑惑の記事が掲載された。

 時期が時期である。皇国中央銀行が書くように指示した事は明白だった。


 こういう場合、当然の事ながら掴んでいる情報というものは警察の方が圧倒的に多い。そこで末松委員長は、中央銀行総裁の佐野ではなく、大蔵大臣の樋口を汚職の容疑で逮捕。


 中央銀行と異なり、警察は業務停止が許されない組織である。そのため、その代表である国家公安委員長の権限を停止させる術はそこまで多くは無い。その中の数少ない手段、それが連合議会の解散であった。


 そこで佐野は野党と馴染みの記者たちに働きかけ、連合議会の解散を画策したのだった――



「……あの、荒木さん、付いて来れてますか?」


 苦笑いして荒木は首を傾げた。


「一つ聞いても良いですか? なんで佐野って人は焦ってそんな事したんです? 別に自分の醜聞が出たわけじゃないですよね」


 あえて端折った部分にちゃんと疑問を覚えてくれて、猪熊としては頭の一つも撫でてあげたい気分であったろう。


「佐野って人物ですけどね。総裁になるためにだいぶ国の資産をくすねたようですね。それを議員や同僚にばら撒いていたみたいですよ」


 そろそろ、両者のコップの麦酒は無くなり始めている。時間も良い時間。

 そこで最後に猪熊は荒木に言った。


「この事件はもうすぐ終わります。きっと安達さんたちを陥れた奴らは全員逮捕されるでしょう。だから荒木さん、荒木さんは竜杖球に全力を注いでください。荒木さんが活躍すれば、うちら日競の評判も上がるんですから」

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