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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第19話 揺れる瑞穂皇国

 太宰府球団戦に勝利し、続く南府戦に向けて南国に向かっていた。その飛行機の機内での事であった。

 機内には電光掲示板が付いていて文字放送が流れている。そこに『緊急速報』の文字が躍った。


『木曾総理は先ほど連合議会の解散を宣言いたしました』


 それに最初に気付いたのは杉浦だった。電光掲示板を指差して「おい、解散だってよ」と隣の若松に声をかけた。その声に気付き、周囲の選手たちが電光掲示板に注視。機内は騒然となってしまった。


「やっぱあれかな? 先日発覚した大蔵大臣の汚職の件かな?」


 若松が真っ先に思い出したのがそれであった。


「まあ、この時期だとそれだろうな。まさかその前の国家公安委員長の不倫報道じゃあないだろう。元々外務大臣の件とか、色々と失点の多い内閣だったからなあ。遅かれ早かれという感じはしてたけどな」


 何か追加の情報が流れるかと期待して電光掲示板を見続けているが、選挙の日付が出ただけで、それ以上の情報は無かった。



 その日の夜、宿泊先の旅館の大広間でわいわい夕飯を食べていると、解散に至った経緯のようなものが報道番組で流された。それによると、総理大臣の口から語られたのは、『外交の度重なる失態』『樋口蔵相の汚職』『末松国家公安委員長の不倫騒動』。その辺りが積もり積もってという事らしい。

 すると、解説者が疑問が残ると言い出した。


”これまでも木曾内閣は何度も倒閣の危機を迎えていました。ですがここまで大臣の首すら変えずに何とか乗り切って来たんです。それが何故この時期に急にという気はしますね”


 それを聞いた尾花がボソッと指摘。


「それを調べて報じるのがお前らの仕事じゃねえのかよ」


 あまりにも辛辣な指摘に八重樫が飯を噴き出してしまった。


「尾花、こういうのは『匂わせ』って言うんだよ。この人たちの仕事は大公園みたいなもんなんだよ。あっさり人気の遊具で遊ばれちまったら、二回目以降来なくなる奴が出るだろ。それと一緒さ。何事も小出し、小出しなんだよ」


 もっととんでもない情報を得ているけど、まだ出す時期じゃない、そう杉浦は説明した。


「ほんとかよ。こいつっていつも匂わせだけの奴じゃん。ほんとは何にも掴んでないのに、自分の妄想だけ垂れ流してるんじゃねえの?」


 そう若松が指摘すると、皆がげらげらと笑い出した。杉浦も「かもしれん」なんて言いながら笑っている。



 杉浦が言った『とんでもない情報』。それが噂として出てくるのは、それからわずか四日後の事であった。


 台北球団戦に勝利し、見付に戻って来て、家に帰ろうとした所、駅で日競の猪熊の出迎えを受けた。 

 もしかしたら美香の消息が掴めたのかもと、猪熊の下へ向かう荒木の足が駆け足になっている。


「申し訳ないんですけど、安達さんの事はまだ。でも少しだけ足取りが掴めましたので希望は捨てないでください。今日は例の情報を整理しておこうと思って来たんです」


 お酒でも入れて話をしましょうと言って、猪熊は個室のある居酒屋へと荒木を連れて行った。


 酒といくつか食べる物を注文し、それらが届けられたところで乾杯。その後、猪熊は鞄からごそごそと新聞記事の糊付けされた帳面を取り出し、ぱらぱらめくって机に置いた。


「まず、安達さんのお父さん、准一さんを殺害した人物が判明いたしました。かつて襲鷹団に所属し、荒木さんに大怪我を負わせた山田亮という選手を覚えていますか? あの男はあの件で球界を追放になり、その後、六花会に所属していたようです」


 まずその内容に荒木は大きな衝撃を受けた。新聞記事があるという事は、かなり信憑性が高いという事だろう。

 美香の父を殺害したのが二軍時代に自分を大怪我させた人物だと知り、沸々と怒りが込み上げてくる。だが同時に大きな違和感も抱いた。


「それ、時期が合わない気がするんですけど。だって美香ちゃんの話では、お父さんが行方不明になったのって、あの試合の前の事ですよ? 山田選手が球界追放になったのってずっと後の話になると思うんですけど」


 そう荒木から指摘を受け、猪熊は手帳を取り出しパラパラとめくった。


「准一さんが亡くなったのは昨年の冬、例のククルカン大使館の件で荒木さんが揉めていた頃のお話ですよ。警察の鑑識結果ですから、ほぼ間違いは無いと思います。その少し前まで釧路で蟹漁の漁船に乗ってたという確認も取れているみたいです」


 その猪熊の話が、荒木にはどうにも納得がいかなかった。そもそも、美香の二度目の借金は父の乗っていた船が行方不明になって、その借金を背負わされたというものだったのに。


「つまり、全て詐欺なんですよ。そうやって家族を分断して、情報が取れないようにして、個別に借金を背負わせていく。そういう詐欺の手口なんですよ」


 そこで猪熊は麦酒に口を付けた。その後で、動揺している荒木にも飲むように促した。その間に猪熊は帳面を何枚かめくっていく。


「この記事を見てください。北国海洋開発の土方正広が逮捕されたという記事です。実はこの男が警察に対し、とある証言をしたんですよ。それによって、今、この国では政治闘争が始まってしまっています。先日の議会解散もその一環なんですよ」

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