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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第17話 六花会一斉摘発

 マラジョ戦から一夜が明け、荒木たち選手は優雅に新聞を読みながら朝食を食べていた。

 すると突然、少し離れた席で朝食を取っていた大沢監督が「ん!」と声を発した。皆が視線を大沢に向ける。

 新聞を手にしたまま、勢いよくガタンと席を立つ大沢。視線を新聞から放し、周囲をきょろきょろし始める。

 何事かと思いながらも、皆、食事を続けている。すると、大沢は新聞を持って真っ直ぐ荒木の下へやってきた。


「荒木、これを見ろ! 例の件が記事になってるぞ!」


 一緒に食事を取っていた川相、彦野、鹿島が首を傾げ新聞を覗き込む。だが大沢はそれを払いのけ、お前たちには関係無いという仕草をした。


 大沢の持っていた新聞は瑞穂政経日報。その中の三面記事が開かれている。


 『苫小牧の暗黒社会摘発の第一歩になるか』


 記事の表題にはそう書かれていた。

 それだけを見てすぐに大沢の顔を見ると、いいから記事の内容を読めと怒られてしまった。



 ――室蘭の反社会組織『六花会』、そこに所属する伊庭祐也が逮捕された。逮捕と同時に警察が伊庭の家を家宅捜索。様々な犯罪の証拠が押収された。


 室蘭郡警内に六花会の協力者がいるという情報が入っていて、連合警察は郡警にわからないように秘密裡に伊庭逮捕の手筈を取った。現在も郡警の調査は続いているという。


 伊庭の逮捕によって、六花会は郡警内の協力者が裏切ったと感じたのであろう。何人か連続で警察官が遺体で発見された。それらを調査した結果、六花会の組員が多数犯行に関わっている事が判明。一斉摘発が行われる運びとなった。組長の榎本拓哉も逮捕拘禁されている。


 公表された内容はまだ一連の事件のほんの一端でしかなく、現在も捜査及び事情聴取は続いている。

 引き続き続報を待ちたい――



「俺が聞いたのは、伊庭っていうのが逮捕されたという話と、とんでもなくデカい事件ヤマという事だけだがな。『一端』って書いてあるだけでこれだ。期待して良いかもしれんな」


 大沢が微笑んだ。

 だが荒木だけじゃなく、その場にいた彦野たちの顔が引きつっている。いつも威圧感たっぷりな人物が微笑むとここまで不気味なんだ、口には出さなかったが荒木たちはそう感じていた。



 代表戦が終われば、月の残りは見付に帰って瑞穂戦となる。

 残念ながら荒木と栗山は代表戦で参戦できなかったが、開幕戦は北府遠征であった。


 早々に東国優勝を決めた見付球団と、最後の最後までもつれた北府球団では試合勘のようなものに大きな差があった。前半、見付球団はどうにも動きが鈍く防戦一方。一方の北府球団は本拠地開催という事もあり、とにかく積極的に攻め込んでくる。

 見付球団は前半だけで二失点を喫してしまった。


 後半、選手交代が功を奏したのか、徐々に見付球団に勢いが戻ってきた。だが荒木と栗山の不在が大きいのか、ホルネルと飯田が奮闘しているのだが、なかなか点が入らない。

 結局後半は両球団合わせて尾花の一点だけ。見付球団は黒星発進となってしまったのだった。

 こうして二戦目、本拠地三ヶ野台総合運動場で太宰府球団を迎える事となった。



 試合を数日後に控えた日の事だった。荒木の携帯電話に一本の電話が入った。画面に表示されている名前は『日競の猪熊』。浜松の大宿への呼び出しであった。


 案内されるがままに大宿に向かうと、いつもの小さな会議室に通された。

 そこで待っていたのは日競の吉田と猪熊、そして宿の若女将のあやめ。


「美香ちゃんは元気にしてますか? 荒木さんと一緒に暮らすんだって寮を出て行く時に言ってたそうですけど」


 あやめはまだ三十代前半。荒木と美香の甘い話を聞いて元気でも貰おうなんて思って聞いたのだろう。

 だが、荒木の顔が急に曇った。


「美香ちゃんって寮を出ちゃったんですか? 実は、代表に選ばれたくらいから音信不通になってるんですよ」


 それを聞いた猪熊と吉田は驚いて顔を見合わせた。


「最後に会うたんはいつ頃の話なんですか? それと最後に連絡が取れたんは?」


 かなり焦った顔で吉田がたずねる。


「最後に会ったのは九月の頭くらいです。一緒に住む部屋を探してて。最後に連絡が取れたのは九月の中頃です。そこから……」


 ぱらぱらと手帳を見た吉田が、後退した額に手を置いた。「マズい事になったかもしれん」と猪熊に向けて呟く。


「以前、美香ちゃんを暴行した記者が写真機を置いてったんを覚えてますか? あの中の記憶媒体、あれを解析して、その記者が誰なんかわかったんですわ。週刊女性社会の堀内いう記者です」


 その名前に荒木の顔が青ざめた。「じゃあ、俺のせいで美香ちゃんが」そう呟いて俯いてしまった。


「実は今、その堀内いうの警察が調べとるらしいんですよ。張本いう昔の教え子が六花会に入ってたらしく、それに指示して麻理恵いう芸子の殺害を指示したんやないかって。実は今日来てもろたんは、その事を話そう思うたからなんです」


 だが、こうなってくると美香が堀内に誘拐され、監禁されているという可能性が出てくる。「そうやないと良えんやけど」と吉田は呟いた。


「ですけど、吉田さん。美香ちゃんって自発的に寮を出たんですよね。なら、事件に巻き込まれたんじゃないんじゃないですかね。ちょっと言いづらいですけど、荒木選手の前から姿を消したかったんじゃないでしょうか。何か事情があって」


 猪熊の推測に、「なるほど」と言ってあやめが賛同。少し考え吉田も頷いた。


「そういう事なら猪熊、記者としての技術を磨く機会やと思て、美香ちゃんの居場所を突き止めてくれ。僕は事件の全容解明のために本社に戻って情報をかき集めるから」

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