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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第16話 大激戦

 残り時間は五分弱。


 前半戦は二対一だったのに、後半戦はここまで一対三。マラジョの選手たちにとってまさかの展開であったろう。

 一点負け越している。しかも出す予定の無かったクレメンチ選手まで出して負けている。

 この状況にかなり焦りを感じていた。


 試合前はここに勝って弾みをつけて本戦優勝まで一直線だなんて言っていた。ところがそれが三対四で負けている。当初の予定では七対〇くらいで大勝できるはずであった。それがまさかの点の取り合い。

 ここで負ければ、その報は世界中に届けられ、徹底的にこの試合は分析され、弱点を調べ上げられる。

 ここまでの流れからして、ここからの逆転は極めて困難だろう。せめて同点。

 選手たちはそんな事をマラジョ語で言い合っていた。


 試合が再開となると、マラジョの後衛は荒木を横目に一気に防衛線を押し上げてきた。攻め上がる速度は決して早くは無い。だが技術が高く、瑞穂の選手の守備を全く受け付けない。


 ただただ確実に攻め込んで来る。瑞穂の選手たちがマラジョの選手たちの急変に戸惑っている。だがマラジョの選手たちからしたら、これがマラジョの本来の姿なのだ。これまでがいささか侮りすぎた。


 選手が球を打ち出す度に確実に瑞穂の陣地の奥深くへと進んで行く。

 だが問題はここから。これまでもここまでは球を運んで来れている。そこから先、篭まで球が届かない。


 カルロス・カエターノ・ブレットという中盤の選手は、前半戦からマラジョの中心選手として攻撃の起点となっていた。ここまでの三得点は、全てこのブレットという選手が先鋒に打ち出してのものであった。

 そのブレット選手の周りを川相がウロチョロとしていて、クレメンチ選手に球を打ち出せないでいる。


 するとここでクレメンチ選手が大きく横に向かって竜を走らせた。それを秋山と島田が追う。

 それが罠だという事はすぐに川相は気が付いた。原も高木も、各々別の中盤選手を守備している。つまり、目の前のブレット選手を川相が一人で処理しないといけない状況。


 一人無人の野を駆け上がるかの如く竜を進めるブレット選手。かなりまで攻め込まれたところでやっと秋山と島田が気が付いた。だがもう遅い。


 ブレット選手は川相を引き連れたまま攻め上がり、篭に向かって球を打ち込んだ。

 球が真っ直ぐ篭の右側の梁に向かって飛んで行く。

 石嶺も反応はしたし、竜杖を伸ばしたのだが、残念ながら球には当たらず、篭に飛び込んでしまったのだった。



 残り時間、マラジョはなんとか勝ち越しをと強引に攻め込んだのだが、残念ながら秋山の守備に阻まれ、逆に反撃を受け高木に球を渡されてしまった。


 そこで審判が試合終了の笛を吹いた。



 試合が終わると、マラジョの後衛二人はすぐに荒木の元にやってきた。

 だが、残念ながらマラジョの言葉がわからない。それを察し、マラジョの選手も何やら別の言語で言ってきたようなのだが、悲しいかなそれも荒木にはわからなかった。

 するとそこにブレット選手がやってきた。


「アラキ、ダイカツヤク、ね。ミンナ、ビックリシテール」


 まさかの瑞穂語に、荒木の方がびっくりしている。


「あ、ありがとうございます。瑞穂語、上手ですね」


 こういう人にはゆっくり話せば伝わる事が多いというのは、これまで、ヘラルトやホルネルで学んだ事だった。


 実はブレット選手は職人選手になって間もない頃、北府球団に所属した事があるらしい。そのせいで多少だが瑞穂語が話せるのだそうだ。


「アリガート。ツヨカッタ、ホントよ。コレナラ、イッショニ、ライン、イケソウね」


 そう言ってブレット選手は右手を差し伸べて来た。



 試合が終わり、控室に帰った選手たちは何かをやり遂げたという満足顔でぐったりとしていた。


「秋山。終わった後でクレメンチになんか言われてたみたいだけど、何言われてたの?」


 石嶺がそうたずねると、秋山は露骨な苦笑いをした。


「俺にマラジョ語がわかるわけないでしょ。どうせ『しつこいやっちゃな』とか『鬱陶しいねん』とか、そんなんちゃいますかね? それより、荒木も相手選手に囲まれてたようやけど、何言われてたん?」


 荒木は少し気恥ずかしそうな顔をし、ブレットに言われた事をそのまま伝えた。

 するとそれまでぐったりしてた選手たちは急に元気になり、「おお!」と歓声をあげた。


 大盛り上がりの中、岡田が荒木の肩を叩いた。


「後はあれやな。いつぞやのように海外遠征から帰って来た空港で、誰かさんが突然おらんくなるような事が無い事を祈るだけやな。ほんま頼むで」


 ぎゃははと岡田は笑うと、高橋や石嶺たち国際競技大会に出ていない選手たちは大爆笑であった。

だが、西崎、原、高木、彦野、伊東は笑えない冗談だと笑顔を引きつらせた。


「もしそんな事態になったら、今度は連盟本社に全員でカチコミに行くからな。その覚悟を皆ちゃんとしとけよ。島田と西崎はわかってると思うが、俺は行くって言ったら行くからな」


 大沢の宣言で控室はしんと静まり返ってしまった。島田と西崎が顔を強張らせて下を向いており、それが全く冗談で無い事は明らかった。


「おい、荒木。今度は大丈夫なんだろうな?」


 必至の表情で問う岡田に、荒木は苦笑いして首を傾げた。

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