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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第15話 最高峰の選手

 後半始まって早々に同点に追いつかれ、さらに逆転を許した。マラジョからしたら、まさかの展開であったろう。


 監督も選手たちも、瑞穂にテエウェルチェが『ヤガー』と称した選手がいるという情報は当然得ている。ただ、そうは言っても所詮は瑞穂の選手、大袈裟に言っているのだろうくらいに思っていただろう。

 だがどうやらそうでは無いらしい。この段階で選手たちは気が付いた。


 テエウェルチェもそうであったが、こういった突発の事態への修正能力が高いというのは、強豪国の特徴であろう。選手たちはすぐさま守備位置を調整し始めた。

 後衛の選手二人は荒木に張り付き、さらに高木にも中盤の選手が一人張り付いた。原と岡田に一人の選手、島田に先鋒が張り付き、中盤の選手が一人自由な位置にいる。


 この守備位置を見て、大沢は舌打ちをした。

 鍵であるは荒木の得点力、攻撃の起点である高木、守備の要の秋山、大沢が考えている瑞穂の中心選手を、このわずかな時間で把握されてしまったらしい。



 そこからはマラジョが一方的に押し込む展開で試合は進んだ。

 とにかく荒木の所まで球が来ない。それどころか高木も満足に球に近づけない。

 ただ、一方のマラジョ側もなかなか点が入らず、時間だけが過ぎ去っていく。


 そこでマラジョは三人目の選手交代をしてきた。先鋒のロマーリオ・クレメンチという選手を投入してきたのだった。


 当たり前の話ではあるのだが、恐竜に乗る竜杖球の強豪国というのは、総じて恐竜の速さを競わせる『競竜』の盛んな国。ブリタニス、ゴール、ペヨーテの職業球技戦が世界の最高峰とされている。

 マラジョでも職業球技戦は行われており、その質は三か国に勝るとも劣らないものがあるのだが、残念ながら給料が安い。そこでマラジョの選手たちはその三か国に積極的に移籍をしている。


 その最高峰の一国、ゴールの職業球技戦で二年連続で得点王に輝いているのが、このクレメンチ選手。世界最高峰の選手が目の前で見れるとあって、皇都国立競技場は大興奮となっている。


 さすがは世界最高峰。投入されて数分でいきなり同点弾を叩き込まれてしまった。

 クレメンチ選手の動きを見た瑞穂の選手たちは全員が同じ事を思っただろう。

 『まるで荒木みたい』


 大沢も同様に選手の交代を行った。岡田に代えて川相を投入。

 その川相には大沢から二つの指示が出されている。一つは『とにかく高木に球を出せ』、もう一つは『速攻』であった。


 実は川相は後半から大沢の隣の席に座っていた。もちろん目的は自分を試合に出せという主張のため。

 荒木が二点を取って試合が硬直してから、川相は「そこで攻め上がれよ」とか、「今じゃないよ」とかなり興奮気味に声を張り上げていた。どうやらその判断力を買われたらしく、大沢からお前なら「どうする?」と何度もたずねられている。



 クレメンチ選手が入ってからというもの、マラジョはとにかく積極的に攻撃を仕掛けてきている。前のめりといっても過言では無い。

 クレメンチ選手に対し、秋山が必死に守備をする。だが秋山一人ではどうにもならず、島田と二人掛かりでやっと妨害ができるという状況だった。


 瑞穂でも快速自慢の二人の後衛がここまでしてもちゃんとは止められない。これが最高峰の選手なのかと川相も舌を巻いた。

 だが、同時にこうも思った。

 『荒木ならそもそも後衛は付いて行けない』


 零れた球を拾った川相が前方に視線を移す。敵は中盤と先鋒の四人が攻撃に参加しており、自陣には後衛二人と守衛しか残っていない。

 今が好機!

 自陣に戻って来ていた高木の前方に向かって川相は球を打ち出した。


 球を受け取った高木が、その自慢の快速で切り込んでいく。だがそこで相手選手二人に追いつかれてしまった。まだ荒木に渡すにはかなり距離がある。

 そこに後ろから川相が竜を全速で走らせて来た。一旦川相の先に球を打ち出し、高木は再度前進。


 川相も球を受けて、すぐに高木の前方に打ち出そうとした。ところがクレメンチ選手の体当たりを受けてしまい、打球がかなり右に逸れてしまう。

 だが高木はそれに追いつき、大きく前方へと球を打ち出した。


 後衛二人の横から荒木が竜を追う。

 徐々に二人の後衛が下がっていく。


 球に追いついた荒木は、一度前に打ち出して、そこに向かって竜を走らせた。

 体を捻って竜杖を振り抜く。

 だが打った感覚が伝わらない。しまった、空振りか?

 そう思った荒木であったが、飛んで行く球が視界に入った。


 打球が速い。だがその場所なら竜杖で弾き出せる。相手の守衛が余裕の態度で竜杖を構える。

 ところが、目の前で球ががくんと落ちた。慌てて竜杖を下げたのだが、球は無常にも篭に吸い込まれていったのだった。



 再度の勝ち越しに球場に詰めかけた観客は大興奮となっている。

 相手は世界一の国、絶対に勝てない、初戦はどれだけ失点せずに負けられるかが鍵、事前に報道はそんな事を言っていた。


 悠々と自陣に帰る荒木にマラジョの選手たちが言葉を失っている。荒木を見るその目には若干の恐怖心が潜んでいる。


「イ、インクリーヴェウ……」


 それがどういう意味なのかはよくわからないが、相手の中盤の選手が荒木を見てそう言った。


 荒木が竜杖を天に掲げると、観客席がどっと沸きたつ。その歓声が衝撃波のように選手と竜を襲う。驚いて竜が暴れだす。それを宥めて、選手たちは試合の再開を待った。

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