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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第14話 後半開始

 一点を取られてから、マラジョはまるで止まっていた内燃機関が動き出したかのようにガラッと動きが変わった。残りの時間は決して多くは無かったが、まるで瑞穂には後衛などいないと言わんばかりに二点をもぎ取られてしまった。



 一対二。

 この絶望的な現状に、中休憩で選手たちの顔は青ざめてしまっていた。

 前半の目的は相手に点を取らせずに苛つかせる事だったはず。それが終了間際に二点も取られ、すっきりした状態で中休憩に入られてしまった。


 大沢も途中で方針を変更した事を悔いている。見ていた感じで、速攻で一点を取れば、そこから慎重になるだろうと考えていた。だが実際には逆で、マラジョは慎重になるどころか強引に点を取りに来た。


 空気が重い。

 その空気に耐え兼ね、新井が椅子から立ち上がった。


「監督。なんだよ、その顔は。相手はこっちの守備に苛々していた。反則もしてきた。それでこっちは点を取った。予定通りじゃねえのかよ! 想定よりほんの少し状況が悪いってだけだろ!」


 そう言って大沢を煽ると、新井に便乗するように松永も大沢を煽り始めた。


「確かに、俺もこんな大沢さん初めてみたわ。いつも自信たっぷりで威圧的な姿を見てきたから、正直がっかりだわ」


 大沢がゆらりと立ち上がる。

 松永の胸倉を掴み「もう一遍言ってみろ」と低く唸るような声ですごんだ。


「それでこそ大沢監督だよ。さっさと後半の指示をしてくれよ。みんな待ってるんだからさ」


 松永が大沢を睨みかえす。

 ふんと鼻から息を吐き出し、大沢は松永から手を離した。


「荒木。出番だ。思ったような環境を作ってやれず、すまない。それと高橋、お前も高木に代わってくれ。わかってると思うが、後半はとにかく高木と荒木に球を集めろ。ここからは殴り合いだ。一発貰っても二発殴れ。良いな!」


 大沢が檄を飛ばすと、全員が一斉に立ち上がって「おお!」と叫んだ。


 控室から出る時、西崎が島田の服をちょんと引っ張った。


「これ、また組事務所って陰口叩かれそうですね」


 西崎の囁きに、島田は豪快に笑い出した。



 竜に跨り竜杖を手にして、荒木がゆっくりと競技場に入っていく。

 球場に選手の交代が告げられる。

 電光掲示板に荒木の顔写真が表示されると、観客席から地鳴りのような大歓声が沸き起こった。

 何か衝撃波のようなものが飛んできて、竜が怯んで暴れ出す。それを荒木は口笛を吹いてゆっくりと宥めた。


 マラジョの選手たちも同様に競技場にやってきた。

 瑞穂には何人ものマラジョ出身の選手がいるというに、瑞穂では高い評価を受けている幕府球団のクロマルチすら代表に入れていない。



 笛が吹かれ、相手の先鋒の打ち出しで試合開始となった。


 攻め上がっていく相手選手を横目に、荒木は真っ直ぐ後衛の所まで上がって行く。相手の後衛が、何だこいつという顔で荒木を見る。だがそんな視線を気にもとめず、いつものように竜を横向きにしてじっと後方の戦況を見つめた。


 瑞穂の選手たちはマラジョの選手の技術に付いて行くだけで手一杯。守備もまともにやらせてもらえないでいる。

 それでもさすがと言うか、秋山は前半よりも明らかにマラジョの動きに付いていっている。島田も岡田も、前半に立て続けに二失点を喫した時に比べるとかなり落ち着いて守備ができている。


 原も高木も守備に入っており、ただ荒木だけが遥か前方でポツンとしているという状況。その状況に後衛の一人が守備を外れて攻撃に向かってしまった。

 それを高木は見逃さなかった。守備を止めて一気に前方へ竜を走らせる。


 岡田もよく見ていた。秋山が守備して零れた球を拾い、大きく前方へと打ち出す。

 恐らくはマラジョの選手は苦し紛れに競技場の外に出す気だろうと考えたと見える。自陣に全く戻ろうとすらしない。

 ところがその球に高木が追いついた。後衛の一人が慌てて高木の守備に付こうとする。だが高木はその前に荒木の先に球を打ち出した。


 荒木が追う。一人残っていた後衛が追いかけるが、その速度に全くついて来れない。先に球に追いついた荒木が少し前に打ち出し、さらに竜を走らせて竜杖を振り抜いた。

 荒木の動きから左に打って来ると感じた守衛は予想の通りに反応。その反応は非常に早かった。だが球は逆の方に飛んで行ったのだった。


 審判の笛が吹かれた瞬間、球場が大歓声に包まれた。「荒木、荒木」と観客が声援を送る。荒木はその声援に竜杖を掲げて答えた。



 前半の、それもかなり早い段階で追いつかれ、マラジョの選手たちがかなり困惑している。中盤の選手と先鋒の選手が相談をし始め、後衛の二人が言い合いを始めた。


 こうなってくると連携にも狂いが生じる。

 岡田の守備で零れた球を原が拾い、それを高木にまわす。

 そこからはまるで先ほどの得点の場面を再生しているかのように、高木が荒木に球を打ち出す。今度は先ほどと異なり後衛が二人。だが荒木は二人を置き去りにして篭に球を叩き込んだ。


 先ほどの事があり、守衛はギリギリまで球を見極めた。だが、とにかく打球が早い。何とか反応はしたものの、竜杖に当てるのが精一杯で、球はほんの少しだけ軌道を変え、篭に飛び込んで行ったのだった。

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