表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
256/281

第13話 マラジョ戦

 あと数十分でマラジョとの一戦が始まる。


 皇都の国立競技場の控室では選手たちが気合いをみなぎらせている。

 ある者は膝を上下に震わせ、ある者は竜杖を強く抱きかかえている。またある者は完全に瞼を閉じてただただ呼吸を整えている。


 そんな選手たちに大沢監督は先発選手の発表をした。


 守衛は石嶺、後衛は秋山、島田、中盤は岡田、原、高橋、先鋒は西崎。


 名前を呼ばれた選手が大沢を見て力強く頷く。

 控室の空気は高まる緊張で張りつめている。


「勝つ! 引き分けじゃ駄目だ。勝ちに行くんだ。前半はとにかく点を取られるな。マラジョの奴らは堪え性が無い。点が取れなければ苛々し始める。だから徹底的に相手を苛々させるんだ。そうするとあいつらは反則を犯してくる。それにちゃんと抗議していけ」


 勝負は後半。そこで勝負を決める為のお膳立てを、前半ではして欲しい。そう選手たちは理解した。


「聞いた通りだ! 勝ちに行くぞ!」


「「おお」」


 原が檄を飛ばすと、全員立ち上がって竜杖を握りしめた。



 国際大会恒例の試合前の開会式、その前に二次予選の開幕式が行われた。

 最初に国際竜杖球連盟の会長ダニエル・ウィルミントンの開会の挨拶が録画映像で流される。その後、中央に国際竜杖球連盟の連盟旗が掲げられた。連盟旗は緑地に白で『IDPC』の文字が抜かれ、文字を挟むように上下に竜杖球の杖が描かれている意匠。


 『IDPC』は国際竜杖球連盟を現わすブリタニス語の単語の頭文字を並べたもの。『I』はインターナショナルで国際、『DP』はダイナソーポロで竜杖球、『C』はコンフェデレーションで連盟。

 こういう略称は瑞穂竜杖球連盟にもあり『MDPF』となっている。最初の『M』は瑞穂、最後の『F』はフェデレーションで連盟の意味。


 瑞穂語では同じ連盟なのに『F』と『C』と単語が異なっている。何が違うのかというと、『F』は組織的な意味合いが強く、『C』は会合的な意味合いが強くなるのだそうだ。

 以前、栗山がそう説明してくれたのだが、残念ながら荒木の頭では理解はできなかった。


 二次予選の開幕式が終わると、今度は試合前の開会式となった。

 この段階で、早くもマラジョの選手たちは急に落ち着きが無くなり、よくわからないが何やらぶうぶうと文句をたれ始めた。連盟の武田会長が挨拶しているというに、ああでもないこうでもないと雑談に興じてしまっている。


「うちの小三の娘でももっと落ち着きがあるぞ」


 マラジョの選手たちを横目に、そう新井が悪態をついた。


 両国の国家の斉唱と共に国旗が掲揚される。

 先に『水地に金の丸い稲紋』瑞穂皇国の国旗、次いで『青と緑地に黄金の天球儀』マラジョ連邦の国旗が掲揚された。

 自国の国歌が流され、国旗が掲揚されているというに、マラジョの選手たちは全く興味無しという感じで隣の選手と何やら喋って大笑いしている。


 式が終わり、一旦、選手たちが控室に戻り、球場内は暫しの休憩となった。


 その後、場内に選手入場を知らせる放送が流される。

 選手紹介と共にまず瑞穂の選手が竜に跨って競技場に入場。次いで、マラジョの選手たちが入場。


 審判が笛を吹き、試合は開始されたというに、先鋒の西崎から見ても、どうにもマラジョの選手たちは試合に集中していないように見える。

 それでも監督の指示がある。点はやれない、その一心で選手たちは慎重に球を打った。


 次第に瑞穂の選手たちが感付いた。監督の大沢も感付いた。

 マラジョの選手たちがこちらを完全に舐めきっているという事に。


 途中で球が競技場を出て試合が少しだけ中断した際、大沢は近くに来た高橋を呼んだ。何やらゴニョゴニョと言うと、高橋も不敵な笑みを浮かべ何度も頷いて競技場に戻って行った。


 遊びながら攻め込んで来る選手を岡田が必死に守備をする。さらに秋山と島田が篭の前をがっちり固めて、それ以上攻め入らせないという意志を相手にぶつける。


 それに相手の先鋒が苛々し始め、ついには島田の竜を竜杖で叩いてしまった。

 マラジョの先鋒に注意の黄札が提示される。その判定が不服らしく、審判に詰め寄るマラジョの選手たち。審判が次の札を準備しようとするのを見て、マラジョの選手たちは渋々守備位置に戻って行った。


 審判が試合再開の笛を吹いた瞬間に秋山は球を大きく岡田に向かって打ち出した。

 球が岡田を越えて前方に転がる。それに岡田が追いつき、左翼の高橋に大きく打ち出した。その球も高橋の頭上を越え、大きく前方に転がる。

 競技場から零れ出そうになる球に高橋は追いつき、一度前に打って体制を整えて、中央前方に大きく打ち出した。


 ここまでマラジョの選手は球に全く触れていない。秋山が球を打ってから、恐らく一分も経っていないだろう。もう球はマラジョの篭の前まで飛んでいる。

 そこに西崎が猛然と竜を走らせる。焦った後衛二人がそれを追う。だが西崎の方が早く追いつき、前に球を打ち出した。


 これまで西崎も練習で荒木の竜術を見て何とか技術を盗んでやろうと努力してきた。その結果がここで生きた。マラジョの後衛二人に追いつかれる事無く、西崎は球に追いつき、その竜の速度のままに竜杖を球に叩きつける。


 弾丸のような速さで球が篭に飛んで行く。だが、そこはマラジョは世界一の称号に何度も輝いた国。守衛の反応速度が驚くほど早い。

 西崎の打った球に守衛が竜杖を伸ばす。その竜杖の上の部分に球がかする。かすった分、球の軌道が上に逸れる。

 だが球は篭の上の梁に当たり、篭の中に飛び込んで行ったのだった。

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ