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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~
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第10話 組合せ抽選会

「ごちゃごちゃうるせえ! てめえら、ここは竜杖球の会見の場なんだよ! 恋愛がどのとか、俺が知るわけねえだろうが! くだらねえ事ばっか言ってやがるとつまみ出すぞ!」


 会見場で大沢監督が激怒した。


 二次予選に挑む前の定例会見という事で大沢は会見場に現れたのだが、途中から荒木と史菜の熱愛報道の話を立て続けてにたずねられた。

 見付球団での会見の事は大沢も耳にしている。そのため、最初からかなり機嫌が悪かった。そこで空気を読んで打ち切れば良かったのに、それができない脳に欠陥を持っているのが記者というものである。


 大沢は怒りで立ち上がり、座っていた簡易椅子を持ち上げて投げようとする。それを連盟の職員が必死に引き留めた。

 大沢は椅子を投げる事は諦めたが、机を蹴って、勝手に会見場を出て行ってしまったのだった。



「……はあ。失敗したな。判断を誤った。あの久野ってのは、荒木を貶めるために報道の用意した餌罠だったんだな」


 自分の部屋に荒木と原を呼び出して、大沢はそう愚痴った。


「俺は報道されている限りの話しか知らないんですけど、荒木と久野って娘の話は、どこまで本当の事なんですか?」


 原がそうたずねると、大沢が荒木の顔をじろりと見た。


「小学校から高校までずっと同じ学校でした。中学時代から友人で、高校時代には少しだけ深い仲に。でも恋人というわけでは無かったです。あくまで友だちで。で、高校卒業から最近まで疎遠になっていました」


 わざわざそこで『最近まで』と言った事で、最近何かあったらしいと大沢も原も察した。


「世の中ってのは狭いんだな。で、最近までってのはいつなの?」


 原の口調はどこか尋問するような口調であった。眉間に皺を寄せて荒木の表情が叱られた子のような顔になる。


「今年の一月です。大沢さんが監督で来てすぐくらいです。二人だけで会見がしたいって言われて」


 そこで大沢は拳を座っていた椅子の肘置きに叩きつけた。


「くそっ。前回といい今回と言い、機が露骨なんだよ! 俺たちの足を引っ張ろうっていう魂胆が見え見えなんだよ! くそっ、腹立つ!」


 激怒している大沢とは対照的に原は極めて冷静だった。


「俺も同感ですね。まるで俺たちに国際大会で良い成績を残されたら困ると言わんばかりです。もしかして、曜日球技の連盟の差し金とか? 自分たちに竜杖球が取って代わられるのを恐れて」


 原の発言に大沢は急に冷静になり、片方の眉を下げてじっと考え込んだ。

 毎回の事ながら、こういう話になると荒木は頭が全く付いていかなくなり、口数が無くなってしまう。


「可能性が無くは無い。だが、俺は報道の奴らが勝手にやってる事だと思うな。竜杖球が話題になると、それ用の番組を用意したり、紙面を割いたりと、何かと編成に変更が生じるだろうからな」


 大沢は不安そうな顔をする荒木の目の前でパンと手を叩いた。それに荒木がびくりとして背筋を正す。


「指令の変更だ。もう久野には会うな。これは監督命令だ。正式な会見も許可しない。団体会見もだ。お前は二次予選を突破するのに極めて重要な駒なんだ。潰されてたまるか」


 大沢の真剣な眼差しに、荒木は頷きで返答した。そんな二人を原が心配そうな眼差しで見ている。



 翌週、国際竜杖球連盟の一室で太平洋、瓢箪大陸地区の二次予選の抽選会が行われた。


 本戦出場枠は四枠。

 予選は二組に別れ、上位二か国が出場となる。


 まずは二次予選から参戦する六か国が振り分けられた。

 会場からはくじが引かれる度に歓声が起こっている。

 次に瑞穂たち、一次予選を勝ち抜いた四か国の振り分けとなった。


 最初に引かれたのはダトゥ、次に引かれたのがタワンティン。この二か国が別の組に別れた事で、瑞穂は最後までどちらの組になるかわからなかった。


 次に引かれたのが瑞穂だった。

 組み分けのくじが引かれると、またも会場から歓声があがる。

 最終的に、瑞穂の対戦相手は、マラジョ連邦、アマテ、アナング、タワンティン連邦の四か国と決まった。



「一枠はまあ、マラジョで決まりだろ。問題はもう一枠にうちらが入れるかどうかだな。とは言え、アマテを押しのけて本戦出場するって未来が思い描けないなあ」


 大会議室に集まって選手全員で組合せ抽選を見守っていたのだが、決まった瞬間に高橋がそう述べた。


「日程にもよりますよね。うちら初戦ってどこになるんでしょうね。初っ端からマラジョやったら、ちとキツイっすよね。そこで気合いを挫かれてまいそうで」


 いつも比較的冷静な岡田がそう言うと、最前列に座っていた楽天家の新井が椅子から立ち上がって振り返った。


「何言ってんだよ岡田。初戦だったら好運だろ。こっちはもう何戦もしてるんだぞ。その点向こうは急ごしらえだ。マラジョに勝てないまでも引き分けられたら、もの凄い弾みがつくじゃんよ」


 その時点では全て仮定の話として話をしていた。

 だがそんな新井の後ろの画面に日程が表示され、皆の顔が凍り付く。


 仮面に初戦の対戦相手はマラジョ連邦、場所は瑞穂と表示されている。


「おい、岡田。言霊ってのがあって、言うと本当になるって昔から言うだろ。こういう時はな、思っても口にするんじゃないよ」


 そう原に指摘され、岡田がかなりバツの悪そうな顔をする。

 そんな原に新井は言った。


「原よ、お前主将なんだからそんな言い方するんじゃねえよ。さっき俺が言っただろ。こっちは準備万端、相手は急ごしらえだって。マラジョとは絶対に二回対戦しないといけないんだよ。その一回がそんなに優位に戦えるんだぞ。超好運じゃねえか」


 その新井の指摘に、選手たちが頷いた。

 原も大きく頷く。


「確かにそうですね。新井さんの言う通りでした。初戦で良い結果を出して、勢いで初の本戦出場をもぎ取りましょう!」

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