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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~

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第9話 同期の酒宴

「こうして一緒に代表合宿で肩を並べると、やっと君に追いつけたんだって気がするよ」


 裾野の大宿で顔を合わせた鹿島がそう言って荒木の肩に手を置いた。


 荒木が高校三年の時、東国予選に進出した福田水産高校の初戦の相手である陸奥むつ農大付属高校。陸奥農大付属は予選突破の有力候補であった。その先鋒が鹿島だった。


 二年の時から多くの球団から誘いを受けていた鹿島は、高校卒業後、地元の多賀城球団ではなく稲沢球団に入団。二軍時代は龍虎団で彦野と共に中心選手として活躍。さらに一軍昇格してからも稲沢球団一の点取り屋として大活躍している。


 高校時代は学校の方針で丸坊主だったのだが、その反動なのか二軍時代から髪を伸ばして色を抜いている。その伸びた襟足から最近では『稲沢の獅子丸』なんて応援団からは言われているらしい。

 ただ、鹿島は川相ほどではないが顔が縦に長い。正直髪型があまり合っていないと荒木は感じている。


 荒木、彦野、鹿島の姿を見て川相が駆け寄って来た。


「おお、揃ってるねえ。今晩さっそく呑みに行こうぜ」



 宿泊所から出て裾野駅前の居酒屋に入った四人は、奥の個室を借り、そこで再会を祝した。


 あの広岡先生の説教から、荒木は積極的に大豆を食べるようにしている。この時も真っ先に揚げ出し豆腐を注文し、舌鼓を打っていた。


「今だから言うけど、高校三年のあの日、俺は荒木の高校に負けたなんて思っていなかったんだよ。監督の判断が悪くて勝たせてもらえなかったって考えてたんだ。だから二軍でその事をわからせてやれば良いって思ってたんだよ」


 その結果がどうだったか。鹿島はあえて言わなかったが、荒木も彦野も川相も知っている。

 途中までは襲鷹団の斎藤、槇原と得点王を争っていた。だが、稲沢球団に山本が入ると得点はがくっと減ってしまった。最終的には得点王争いは山本にも抜かれ五位に終わっている。


「俺は何で点が取れないんだって、一軍に上がってから本当に悩んだんだよ。後輩の山本は活躍してるのに、俺は全く活躍できなくてさ。ある時、試合中に近藤監督に言われたんだよ」


 そこで鹿島はすっと荒木を指差した。


「『あの選手、荒木に勝つのは難しいだろう。だけどあれになりきって、二位に付ける事なら、お前ならできるんじゃないか?』って。いやあ、悔しかったね。俺はお前に負けてるなんて思った事、一度も無かったからさ」


 職人選手なんだから結果が全て。川相がそう指摘すると、彦野だけじゃなく鹿島も頷いた。


「そこから俺は山本に色々教わって、徹底的に竜を速く走らせる技術を磨いてきたんだよ。だけどまさかそれが代表選考で有利に働くなんてな。世の中何が功を奏すかわかんないもんだな」


 そんな鹿島を彦野が鼻で笑った。


「いやいや、お前まだ予備選手じゃん。そんな風に言うなら西崎さんか山本さんと入れ替わってみせろよ。なんかを成し遂げたみたいな顔してんじゃねえよ。俺とお前で代表で活躍して、足の遠のいちまったお客さんを呼び戻すんだろ?」


 彦野の指摘に鹿島は吐息を漏らし、麦酒をぐびぐびと喉に流し込んだ。


「最近さ、ほんとに観客席が寂しいんだよな。どこに行っても満員にならないんだよ。多賀城や直江津ももう観客席を絞っちまってるもんな。もう一度、あの球場がお客さんで一杯になってるとこが見たいよ」


 くだを巻くような口調で鹿島は嘆いた。


「確かにな。うちの調布の球場だって、ちょっと前までは超満員が当たり前だったのにな。空席が目立つようになり始めてから、だんだんそれが普通の状況みたいになってるもんな。マズいよなあ」


 川相も首を左右に振り、やるせない気持ちを全面に出す。


「でもさ、聞いた話では見付の三ヶ野台はそこまで観客減って無いらしいじゃん。やっぱ代表で活躍すればお客さんはそれ目当てに来てくれるんだよ」


 そう彦野が言うと、それまで静かに枝豆を食べていた荒木が鞘をお皿にまとめて置いた。


「それまでが少なすぎたんだよ、うちは。他所からお客さんが来てくれるからって、全然何の手も打って来なかったんだもん。最近やっと地元の交流みたいなのをやり始めて、それでやっと来てくれるようになったってだけだよ」


 荒木でもそこまで客が呼べるわけじゃない。それを知り三人は思わず頭を垂れてしまった。


「前から言われているけど、やはり曜日球技にならないと現状は好転しないのかもしれないな。だけど、どうやったら曜日球技ってなれるんだろうな」


 川相が三人に向かって言った。だが、そういう小難しい話は彦野と荒木は付いていくのがやっと。自然と鹿島と川相の二人で会話が続いた。


「可能性は二つだよな。何かの球技が外れるか、枠が増えるか。今の曜日球技は基本的に夜だから、昼間やる枠ができれば、そこに入れるのかも」


 鹿島の意見に川相が頷く。


「平日やってもお客さんは来ないだろうから、実質土曜日曜の二枠だけって事か」


 たった二枠。曜日球技の枠を狙っている球技はいくつもあるというのに。

 あまりにも遠い目標な気がして、川相は思わずこめかみを掻いた。


「だけどさ、もしかしたら今回好機かもしれないぜ。世界大会常連の避球、野球を除くと、二次予選に残ってるのって、蹴球、篭球、送球の三つだけになってるだろ。もしここで俺たちが進んだら、蹴球並みの実力って事になるかもよ」


 そう鹿島は簡単に言うのだが、そんなに簡単な事では無い事はこの場の全員が理解している。


「まあ、あれだ。二次予選の対戦相手次第だな」

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