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【完結】竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
最終章 飛翔 ~代表時代(後編)~

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第8話 荒れる会見

 月が替わり、二次予選に向けて選手の発表がされた。


 守衛は北府の石嶺、太宰府の伊東。

 後衛は函館の島田、台北の新井、太宰府の秋山、稲沢の彦野。

 中盤は南府の高橋、幕府の川相、西府の岡田、幕府の原、小田原の高木、北府の松永。

 先鋒は函館の西崎、見付の荒木、台北の山内。

 予備選手は稲沢の鹿島、見付の栗山、西府の八木、南府の小早川


 主要選手に大きな変更は無かったが、それなりに選手の入れ替えは発生している。

 まず最年長の落合が外れ、代わりに松永が入った。それと北別府が外れ、山内が入った。同じ幕府球団だが篠塚に代わって川相が入っている。さらに補欠選手は完全に一新。


 発表後の記者会見で監督の大沢は、一次予選の結果を見て自分たちのやろうとしている方向は間違っていないと考えると述べた。

 そこで経験は豊富ながら構想からは少し外れている落合を外した。篠塚は職業球技戦の最終戦で手首を骨折しており、代わりに川相を呼ぶ事にした。北別府は良い選手なのだが、どうやら今の構想には合わないらしく、思っているような結果が出なかった。そこで合いそうな山内を呼んだと説明。

 最後に予備に名が入っている選手は初戦までに入れ替える可能性のある選手だと述べた。



「ちっ、ついに代表から名前が消えちまったか。まあ、今の代表は『速さ、速さ、速さ』だからな。年長者はしんどいよ。正直なとこ言えば、付いていくだけでやっとだったんだよな」


 球団事務所の一室で代表発表を聞いていた若松が、あまり悔しそうでない口調で言った。


「わかるわ。見てて思うけど、今の代表は早いよな。竜も速いし、展開も早いし、何もかもが早いんだよ。代表の人たちはあれに頭を付いていかせてるんだろ。そう考えたら凄えよな」


 杉浦は能天気に笑うのだが、若松は何やら言いたげな顔で杉浦を見ている。


「ですけど、これで代表の経験の多い選手が抜けて、一番経験があるのが高橋って事になったんですよね。大丈夫なんですかね? 経験がものを言う場面ってのも、こっから先出てくるかもしれんのに」


 尾花の懸念は、荒木と栗山も感じた事だったようで、二人とも少し不安そうな顔をしている。


「前の仰木監督もそう考えて、村田さん、落合、掛布って呼んだんだろうけど、結局そのうち二人はほとんど活躍の場が無いまま離脱しちまったもんな。それに原や岡田は、代表という経験ならもうそれなりだろ」


 どうとでもなると若松が笑う。

 代表経験者が言うのだからそういうものだろうと、皆はそれで納得した。


「ところで、ホルネルはどうなんだよ。ポンティフィシオもこの時期に一度入れ替えってあるんだろ?」


 ここまでホルネルは見付球団に所属し、最近ではある程度瑞穂語が聞き取れるようになっている。今年にはいってからは通訳無しで居酒屋に付いて来て、一緒に盛り上がっている。

 ただ、聞き取れはするのだが、じゃあ話せといわれれば、それはそれでなかなか難しいのだそうだ。


「イチオ、ヨビのコウホ、ラシイ。ダケド、アマリ、キタイ、ナイナイ」


 それは残念だと皆が言い合っていたすぐ後の事であった、ホルネルの携帯電話に何やら連絡が入った。

 ポンティフィシオ語で話しているので何を話しているのかは全然わからない。だが、電話を切ったホルネルが両拳を握りしめた。


「エヴィヴァ!! ボク、ダイヒョウ、ハイッタよ!」


 奇声を発しながら飛び跳ねるホルネル。見付の選手たちも自分の事のように一緒になって大喜び。



 そんな、どこかお祭り騒ぎの会議室に係員がやってきて、会見の順番が来たと言って荒木と栗山を連れて行った。


 以前荒木の会見が大荒れになった事がある。そこから見付球団では会見の際には必ず広報の田口部長か営業の相馬部長が同席する事になっている。


 会見場に入った荒木たちは、明らかに報道の人数が多い事に眉をひそめた。

 席に座って記者たちを見渡すと、競技関係の記者ではない記者が大量に含まれている事に気付く。


 会見は競技系の新聞記者の質問から始まった。意気込みはやら、本戦出場はどうかなど。それに荒木と栗山は無難な答えを返していく。


 そこで一人の記者が手を挙げた。


 その人物を見た田口はすぐに職員に何かを指示。小声ではあったのだが、荒木にはその指示の内容は聞こえていた。


「あいつは出禁のはずだろ。なんで入り込んでいるんだ! さっさと摘まみ出せ!」


 男性職員はすぐにその記者のところに行き、出禁のはずと言って摘まみ出そうとした。

 ところが、その記者――堀内は、構わず質問を投げかけた。


「荒木! 久野との仲はどうなってるんだ!」


 そこから記者たちが一斉にわあわあと騒ぎ出してしまった。

 堀内を追い出そうとした職員が、記者たちの抗議に怯んで堀内から手を離してしまう。すると職員が記者たちに逆に摘み出されてしまい、会見場は完全に秩序が崩壊。記者たちが大騒ぎするだけの状況となり、栗山と荒木は会見を切り上げて退出。

 ところが、記者たちが集音機片手に荒木を追ってきてしまった。


 田口はとっさに隣の部屋に荒木と栗山と一緒に逃げ込み、鍵をかけて立て籠もった。その部屋から電話で広報部に連絡。事務所内に全館放送で記者が暴れていると流して貰った。


 若松たちがそれを聞きつけて慌てて会見場へ向かうと、男性職員と記者たちが入り乱れて揉めていたのだった。さらに記者たちの中にも記者同士で揉めている者がおり、かなり混沌とした状況となっている。


 若松たちが近寄ろうとすると、法務部の市川がそれを制した。


「今この状況を撮影していますので、選手の方は近寄らないでください」

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

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