第59話 一次予選終了
土曜日に竜水球、日曜日は竜杖球という日程で試合が行われている。
七月に月が替わり、季節は夏真っ盛り。蝉の鳴き声が熱風と共に容赦なく屋外で活動する者に襲い掛かって来る。
竜杖球は各球団開幕から二戦づつを消化し三巡目に入っている。
ここまで全十三戦を戦ってきて、見付球団は十一勝無敗、引き分け二回という驚異的な戦績を収めている。もちろん順位は東国首位。
二位は幕府球団で、こちらは十勝一敗、引き分け二回。こちらもさすがという成績である。
得点王争いは荒木が圧倒的で、二位争いをしている幕府球団の槇原と稲沢球団の鹿島に大きく差を付けている。
竜水球も対戦が一巡した。
ここまで五戦して首位は四勝一敗の幕府球団。
竜水球も浜松球団と幕府球団が東国の首位を争っている。ただ本来であれば幕府球団が圧倒的なはずだった。
ここに至るまで竜水球に関しては様々な不安報道がされており、主軸になるはずだった選手が引退して就職してしまったのだった。特に絶対的な点取り屋であった渡辺という選手の退団が大きかった。さらに中盤の女王と言われていた安藤という選手も退団してしまっている。
竜水球の職業球技戦が始まるという事で、報道もずっとこの二人を中心選手として扱っていた。それだけに、開幕前の二人の退団はかなり報道側も悲観的に報じていた。一度は延期という判断を下した協会がそれを覆して開幕を強行したのも、こういう事があったからであった。
だが、そんな側面があったとしても、渡辺会長の判断は英断だったと言えるかもしれない。ここまでの五戦は予想以上に盛り上がっている。
これまで『夏の競技はやるのも見るのも苦行』と言われ、昼間に行われるのは止級の競竜と水泳くらいなどと言われていた。そのため、職業球技協会もそこまで観客動員数を多く見積もっていなかった。
ところが毎週球場は超満員。冷えた麦酒と焼いた腸詰が飛ぶように売れると球場からも嬉しい悲鳴が聞こえている。
「暑ぃ……俺たちもこの時期だけ止級ってわけにいかねえのかな」
代表の最終戦、アオテアロア戦に向けて裾野で合宿をしている代表選手たちは、休憩時間にそう言い合っていた。
「呂級の竜ってのは、本来寒冷地仕様なんだぜ? 竜だってこの暑さでぐったりしちまってるよ」
練習場の横で水を飲みまくっている竜を指差して篠塚がぼやく。
「お前らはまだ良いよ。竜が走ってくれたら涼しいんだからさ。俺たち守衛はそれすらねえんだぞ。暑苦しい緩衝着を着てなきゃいけないしよう。この時期、汗で蒸れるんだよ」
そう言って石嶺が服をパタパタと仰いでいる。
「俺たちはさ、それでもこの季節に慣れているから良いよ。アオテアロアのやつらは悲惨だよな。真冬から真夏に来るんだもんな。しかもアオテアロアの夏って涼しいらしいじゃん。この蒸し暑さ、たまんないだろうな」
そう高橋が言うと、高木が目を細めた。
「今さ、アオテアロアって二位じゃん。もしこれでアオテアロアが負けてスンダが勝ったら、逆転でスンダが二次予選進出なんだよね。ほんと可哀そう」
恨むだろうなと言う高木に、原が自業自得だと指摘。
「元々日程は決まってたんだからさ、そんな状況にならないように勝ち点をちゃんと積み重ねておけば良かったんだよ。俺たちを恨むのは筋違いってもんだよ」
原がそう言ったところで休憩時間が終わり、練習再開の時間となった。
その二日後、アオテアロア戦が行われた。
アオテアロア側もこの時期の殺人的な瑞穂の蒸し暑さの事は重々承知している。そこで、かなり早くから会場を北国北府の国立競技場にして欲しいという要望を出していた。さらに合宿地も室蘭郡のどこかでと要望していた。
この時期、アオテアロアの首都ファカトゥの平均気温は九度。対して瑞穂の皇都の平均気温は二十八度。さすがにそれは体調を崩してしまうと連盟も考えに考えて、そういう要望を出すに至ったらしい。室蘭であれば、アオテアロアの夏とそこまで気温が変わらないからと。
ただ、やはり真冬から真夏というのは選手も竜も厳しいものがあったらしい。
何人かの中心選手は前日から脱水症状を起こしており、竜も何頭か熱中症で倒れてしまったらしい。
そんなやる前から満身創痍のアオテアロアだったが、それでも前半戦は何とか瑞穂に食らいついていた。
前半終わって二対一。瑞穂が一点勝ち越してはいたが、それでも試合にはなっている。
後半、北別府に代わり西崎が、落合に代わって高木が投入されると、アオテアロアの守備は崩壊してしてしまった。
最終的に五対一で瑞穂が勝利。
ただ問題はそこではない。
最終予選だという事でわざわざアオテアロアから多くの応援団が北府へと駆けつけている。彼らは祈るような思いで場内の掲示板を凝視していた。
最初にマラジョとアウラクの結果が表示された。
続いてククルカンとスンダの結果が表示された。
三対四。
その非情な結果報告に、アオテアロアの応援団たちの多くは、席で泣き崩れてしまった。
選手たちも竜の上で大粒の涙を零している。そんなアオテアロアの選手たちに、瑞穂の選手たちは近寄り声をかけた。
大沢監督もアオテアロアの補欠席へ出向き、労いの言葉をかけ、次は共に二次予選に進もうと励ました。
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