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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第58話 竜水球開幕!

 幕府戦は白熱した展開となった。

 本拠地で敗れ、そこから観客動員数の減りに頭を悩ませている幕府球団としては、何とか首位に返り咲きたいという思いがある。

 対する見付球団は、開幕五戦全球団に勝利というのは球団創設以来初の快挙である。このままの勢いを持続させ、是非東国優勝に繋げたい。


 前半から攻守が激しく入れ替わる展開であった。

 先制したのは幕府球団。絶対的な点取り屋になりつつある槇原選手が、原選手からの絶妙な球出しを受けて得点に結びつけた。

 だが一方の見付球団も負けてはいない。栗山、ホルネルと繋げて、そこから一気に飯田を走らせ、敵陣深くに攻め込んだところで飯田が球を尾花に渡す。それを受けてきっちりと決めて試合を振り出しに戻す。


 さらにそこから幕府球団が点を決め、再度見付球団が点を決めたところで前半が終了。


 後半からは尾花に代わって伊東が投入された。

 多くの観客は荒木の投入を望んだのだろうが、そこは関根監督も竜の疲労の蓄積の方を心配した。

 ところが、その伊東がなかなか最後を決めきれない。

 結局、後半は両軍ともに一点づつを入れただけで引き分けで終わってしまった。



 続く小田原遠征では、荒木が暴れ回って勝利。

 こうして見付球団はがっちりと首位に君臨した状態で六月を迎えた。



 六月はまず代表のアウラク遠征から始まった。

 だが、もう瑞穂代表は二次予選進出が決まっている。当然のように主軸の選手は出場機会を得られない。守衛はこれまでの石嶺から伊東に代わり、後衛も秋山が降ろされ彦野が出場、中盤はこれまでも六人がまんべんなく使われていたが、篠塚から岡田に代わり、先鋒は西崎から北別府に変わった。

 それでも特に危なげなく、かなり一方的な展開で瑞穂代表が勝利。


 前回、前半だけでアウラク代表が試合放棄した事が国際竜杖球連盟で問題視された。しかも事もあろうにアウラクの連盟は審判の買収を行っていた事が発覚。そのせいで実は没収試合という話が出ていた。

 だが大沢監督が、つまらぬ場外乱闘ではなく正々堂々と試合がやりたいと発言した事で、瑞穂の連盟は開催の方向で国際竜杖球連盟に提案。何とか試合はやれる事になった。


 ただし、国際竜杖球連盟としてもお咎め無しというわけにはいかない。アウラク代表は向こう十年は全て参考試合とされ、自国開催も認めないというかなり厳しめの処罰が下された。

 そのせいで今回もアウラクではなくダトゥで試合は行われている。



 代表戦の二日後、競技や球技の放送局は、朝から竜杖球の話題一色であった。だが、残念ながら翌日の竜杖球の試合の事ではない。

 この日、ついに紆余曲折を経て、女子竜杖球『竜水球』が開幕となったのだった。


 ただ、景気が悪化しているせいで球場が完成しない球団が結構出ている。その一方で、どの球団も選手は集めてしまっている。

 竜杖球職業球技協会の渡辺会長は、そんな女子選手たちの生活を考慮し、今年からの開催を決断。


 開催できるかどうかわからないという話が出た事で、選手たちの中では引退して就職や結婚を選ぶ者も多く、当初予定よりも選手がかなり減ってしまったらしい。その報告も渡辺は聞いており、竜水球の熱をこれ以上冷ましてはならないと言って各方面を説得したと会見で述べた。


 ただし、完成している球場が少ないという事で、竜杖球職業球技協会で球場を借り上げて、各球団はそこに向かってもらう事になったのだそうだ。



 見付球団の支配球団である浜松球団。

 その本拠地となる『浜名湖水上公園』と名付けられた球場は、散々工事が遅れていると言われながらも、なんとか完成した。

 見付球団を支援してくれている雪柳会は土建会社も運営している。その雪柳会のおかげで、かろうじて球場が完成したと言うのが正直なところであった。



 男子竜杖球の職業球技戦の開幕は非常に派手なものだった。今回も同様に派手な催しが行われるのではと報道は期待していた。

 あの時は夜、各国の国立競技場で中継が組まれ、花火が上がり、完全なお祭り騒ぎであった。今回も同様にといういう声はあがったらしい。

 だが、どうしても一つ大きな問題が発生してしまった。それは芝生の上で行われる竜杖球と異なり、竜水球は水上。夜間開催はあまりにも危険という指摘がなされた。


 それでも女子選手を彩りたいという事で、風船、しゃぼん玉、紙吹雪が大量に用意され、それらを球場に舞わせる事で派手さを演出。キラキラと舞う紙吹雪は、陽光に照らされて昼間の競技場を幻想的な空間に変えた。そして、あの時と同様、花火が打ち上げられた。


 浜名湖水上公園の巨大な画面には西府の堺湊にできた国立水上競技場の開幕式の様子が映し出されている。


 竜に跨ってゆっくりと選手たちが入場してきたのだが、全員竜から降りて、一列に整列している。

 あの時同様、国際竜杖球連盟会長と瑞穂竜杖球連盟会長の武田会長、皇太弟殿下、妃殿下が参列し、選手たちと握手を交わしている。


 浜名湖水上公園にも、国際竜杖球連盟、瑞穂竜杖球連盟、瑞穂竜杖球職業球技協会の旗が掲げられ、その三枚の中央に、止級の竜に女神が跨った竜水球の公式旗の四枚が掲げられている。その四枚の旗の両脇には、対戦する浜松球団と多賀城球団の球団旗。


 選手たちが竜に跨り、一斉に守備位置へ向かって行く。


 ――ご来場の皆様! 大変お待たせいたしました! まもなく竜水球の職業球技戦、開幕戦が開始となります!


 球場内に案内放送が流れると、観客たちは総立ちとなって拍手を送った。

 その大歓声の中、女性審判の笛が吹かれ、全会場で一斉に試合が開始となったのだった。

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