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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第57話 特別市は大盛況

 現在、見付球団は東国首位。数年前には最下位が定位置と蔑まれていたとは思えない順調さである。


 その好調さの原動力が、ここ数年で一軍に上がった若手選手にある事は明白で、特に、荒木、栗山、飯田の三人の活躍は目を見張るものがある。

 当然、毎週選手を使い詰めるというわけにはいかないので、その中の一人、二人は補欠にまわるのだが、それでもその代わりに出場する選手たちも、十分穴埋めができている。


 ここまで六戦して六勝。

 七戦目は本拠地である三ヶ野台総合運動場で二位の幕府球団を迎えての一戦となった。



 相手は屈指の観客動員数を誇る人気球団。できれば景気の悪い状況でも球場をお客様で一杯にしたい。

 恒例となった福田ふくで漁港の特別市はいつもより多くの選手が向かう事になった。


 いつもは杉浦、秦、伊東、荒木、栗山のうちから二、三人がいく程度。だが今回はその五人に若松、広沢、池山、飯田もやってきた。

 広報部長の田口は整理と警備が大変なだけと難色を示していたのだが、それが社長の松園の耳に入り、大切な営業機会を潰すなかれという号令が出た。


 九人もの選手がやってくるとあって、漁港も事前の宣伝に熱が入った。それが三遠郡の放送局の耳にも入り、事前に特集を組んでもらえる事になった。この機に乗じろと、お隣の舞阪漁港も開催に協力してくれる事になった。


 いつもは生シラスが目玉商品と言われて、鮮魚とシラスを買いに来る人が多かった。だが舞阪漁港が加わった事で、シラスの販売量は倍増し、それ以外にアサリ、蟹、鰻、蛸が商品として並ぶ事になった。



「今日は凄えな。まだ選手たちが来てないってのに、いつもの何倍ものお客さんが来てるじゃんか。来月の六社神社祭りもこれくらい来てくれたら、気合いも入るんだけどな」


 実行委員会の副会長となっている浜崎はとんでもない大入りの状況にホクホク顔であった。高校時代の知人たちに何度も声をかけられて朝から対応で大忙し。

 すると実行委員会の会長から、今回、選手たちは漁港には入らないようにして貰った方が良いかもしれないと相談を受ける事になった。

 目の前の状況を見るに、それが無難だろうと浜崎も賛同。


 この特別市を開催してからというもの、浜崎の耳に多くの声が届くようになった。もちろんその内容は千差万別で、良い物もあれば悪いものもある。だが浜崎は、その声は全て良い物と捉えるようにしている。


 例えば、人が多すぎて年寄りには少しせわしないという声を聞いた。そういうお客様のために平日にも規模を縮小した市を定期的に開催する事にした。もちろん、普段のように出店がわんさと出るというわけでは無いのだが、それでも見付球団の旗をちゃんと立てて特別市という雰囲気を味わえるようにしている。


 例えば、便所が少ないという声が聞こえた。その多くが女性の声だという事で、巨大な便所を新たに建ててもらう事にした。さらにその隣には休憩室を建ててもらい、見付市の観光課に連絡して、観光名所を宣伝する事にした。

 そこは特別市以外の時も開いている。さらに食堂もあるとあって、普段から人が来るようになった。


 そうなると、今度は子供たちの遊び場が欲しいという声が聞こえるようになった。漁港の隣は一面の砂浜である。そこを区画整理して、遊具を置き、遊べる場所を作った。


 そして、こういう時の為に催し物会場も用意した。元々はシラス漁の網を干す場所だったのだが、そこを綺麗に舗装し整備した。これまで同様、普段は網を干したり繕ったりするのに使ってもらい、催事の前に綺麗に掃除をする。そこに整理の杭を立てるだけで、簡単に会場に作り替える事ができるという仕組みになっている。


 さらに今年から地元の三遠交通が見付駅から輸送車を特別運送してくれる事にもなった。



 浜崎は人でごった返している催し物会場を見て感慨に浸っていた。

 浜崎が漁師になった時、ここにはくたびれた漁港がぽつんとあるだけであった。漁師は高齢化が進み、船も一艘、また一艘と営業を辞めていくという状況。


 福田漁港は引き網によるシラス漁が盛んなのだが、そのシラスの値段がとにかく安い。燃料費と相殺してしまい、給料もろくに出ないなんて事もざら。

 シラス漁ではシラス以外の魚が入る事も多いのだが、その買取額といったら二束三文。仲買人も、買い取っても売る先が無いとハナから営業を放棄しているような状況であった。

 シラスをちりめんじゃこに加工する工場が、採算が合わないと廃業を検討しているという話も聞こえてきていた。

 いずれはシラスも採算が合わなくなる。このままでは先細りが必死。


 そんな時であった。見付球団から協賛の申し入れがあったのは。


 初回は見付市内の方が来てくれるだけであった。その多くは見付球団の選手よりも、特別市という催しに来てくれた人たち。お目当ては仲買いの売る鮮魚。

 その初回で海鮮丼が話題になり、商店街の出店も話題となった。

 徐々に見付球団の白群色の服を着て来る人が増え、さらにはここで応援服を買って行ってくれる人が増えた。


 気が付けば、整理に毎回業者を雇わないといけない状況になってしまっている。


「ああ、ここにいた! 浜崎さん、見付球団の方々がいらっしゃいましたよ。催しの打ち合わせがしたいって会長が言ってますから、そろそろ会議室に来てください」


 高校の後輩で、同じく漁師をしている岡本に促され、浜崎は人込みをかき分けて漁港へと向かった。

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