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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第49話 一次予選突破!

 四月に月が替わり、どの球団も開幕戦に向けて宣伝が盛んとなっている。

 その前日に行われるククルカン遠征に向けて、瑞穂代表一行は航空機に乗って一旦ペヨーテに向かっている。


 ククルカンといえば初戦の相手であり、大使館に呼び出され銃口を向けて来たとんでもない国。全員その事は脳内に刻み込まれており、何かあれば容赦なく逮捕してくるかもしれないと連盟の職員が言ってきたような状況である。


 だが、連盟の武田会長も無策というわけではない。

 ここまで四戦してまともだったのはスンダ遠征だけ。特に酷かったのがこのククルカン戦。

 そこで武田は、このペヨーテの連盟に連絡し、連盟職員の立ち合いを要請。

 ペヨーテもここまで瑞穂がどのような目に会ってきたかは聞き知っている。いくらなんでも問題があると感じたペヨーテの連盟は職員を帯同してくれた。



 ――ペヨーテは以前、今は無き大金人民共和国の工作を受けていた。

 大金は『紅天団』という工作機関を政府が運営していて、世界中の国々で反社会組織に資金提供。破壊活動や反社会的活動を支援していた。


 ペヨーテでも麻薬密売組織と連携され、その資金で警察が買収を受けた。

 だが競竜の国際競争を機にその事が露呈。そこからペヨーテは瑞穂と連携を密にしてくれている。


 一方の紅天団の存在が明るみになった大金人民共和国は、各国から危険国家指定を受ける事になった。その結果国家主席がクーデターにより暗殺され、各地で軍閥が武装蜂起。激しい内戦に突入している。


 大金政府の残党は現在は国号を大燕人民共和国と変え、薊陽周辺を支配。

 元々共産党の支配力の強かった地域は、大楚、大秦、大漢として独立。

 反乱軍の勢力が強かった地域は大遼、大斉、呉越、巴蜀として独立した。

 更に自治区という名の植民地は、ボルジギン・ウルス、ウイグル可汗国、ボツェンポ法国として独立。


 現在も独立した国同士の小競り合いは続いており、共産主義国と反乱勢力とで毎日どこかが戦場となっている。

 さらに、アウラク、アオテアロア、ノブゴロドといった国々が共産政府に武器供与をしており、ボルジギン、ウイグル、ボツェンポにもパルサやデカンが武器供与している。大遼たちも独自に武器を調達しており、日々おびただしい市民が犠牲になっている。

 そんな状況なのだが、どの国も工作員との区別が付かないと難民の受け入れを拒否している――



 ククルカンの連盟は最初から瑞穂の選手の誰かを逮捕しようと企んでいた。

 特に前回の試合で主軸選手に怪我を負わせた荒木。あの選手だけは潰したいと、宿泊所が嫌がらせを繰り返してきた。恐らくは、怒らせて揉め事を引き起こそうとしたのだろう。


 それに気が付いた大沢監督は、荒木を常にペヨーテの連盟の職員と一緒に行動させた。

 それでもお構いなしに荒木に嫌がらせを仕掛けて来るククルカンの連盟に、荒木では無くペヨーテの連盟の職員が激怒。

 ペヨーテの連盟本部に連絡し国際竜杖球連盟に抗議するという事態に発展。


 国際竜杖球連盟から不戦敗を言い渡されたククルカンの連盟が、関与を否定して抗議。

 国際竜杖球連盟はそれを聞き入れず、瑞穂の連盟に不戦勝を受け入れるかという打診をした。

 ところが瑞穂の連盟は試合開催を望んできた。


 もちろん外務省からの外圧というものもあった。

 実はそれ以外にも理由があった。

 一つは職業球技戦の開幕戦が近いという事で、試合を行って気運を盛り上げておきたいという理由。

 もう一つは勝てば一次予選突破が決まる為、できれば不戦勝じゃなく、ちゃんと試合をして勝って予選突破を盛り上げたいという理由。


 最終的に試合は行うという事にはなったが、このまま試合を行ったらどのような事になるかわかったものでは無いと判断された。

 国際竜杖球連盟はペヨーテの連盟の職員を立ち合わせ、さらに派遣する連盟の職員も増員。万全の体制で試合は行われる事になった。 


 試合は瑞穂で行われた時もそうだったのだが、ククルカンの選手が反則行為で自滅。

 ククルカンの選手は抗議したのだが、審判はその抗議を無視。


 結局、五対〇で瑞穂は完勝。

 荒木の出場は無く、西崎が三得点、北別府が二得点という状況であった。強いて言えば、彦野が初出場した事が特筆すべき事柄だった。



 色々と問題山積ではあったものの、結果的には五戦五勝という完璧な成績で、瑞穂代表は残り三試合を残して二次予選出場が決定。

 試合後、宿泊所に帰った選手たちを待っていたのは、豪勢な食事と酒であった。どうやら、元々連盟から勝ったら祝賀会を開いてあげて欲しいと資金を持たされていたらしい。

 ただ、アオテアロアでの苦い思いがあるのだろう。皆、火の通りの甘い料理には手を出さなかった。



 翌日、瑞穂代表たちは銃口を向けられる事無くククルカンを脱出。

 一旦ペヨーテで飛行機を降り、ペヨーテの連盟へ顔を出して御礼を述べてから、瑞穂へ帰国。

 帰りの飛行機の中は完全に祝賀気分一色だった。


 小田原の空港に降り立った選手たちは、そのまま空港内の大広間に案内された。

 大広間には記者会見の準備がされており、すでに記者たちが待っていた。選手たちが案内されるがままに椅子に座っていく。


 恐らく選手たちは祝賀の緩んだ雰囲気だろうと記者たちは思っていたはずである。

 荒木たちが祝賀会場に入った時点では記者たちはにこやかな顔をしていた。

 だが、最後に大沢が入室すると、突然会場の雰囲気がぴりぴりし始める。不機嫌そうな顔でどっかと座った大沢に、記者たちはまともに質問ができなくなってしまったのだった。

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