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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第46話 身中の虫

 大沢監督と渡辺会長からそこまで言われても連盟は動かなかった。

 正確に言うと武田会長は指示をした。だがその命令は下まで届かなかった。


 その結果、大沢と渡辺が危惧したように、国際竜杖球連盟は瑞穂竜杖球連盟に対し、引き続きの調査と報告を命じて来た。つまり、アウラクの連盟が納得するような報告書を提出しろと命じてきたのだった。

 ようは瑞穂がありもしない罪をちゃんと作りあげてアウラクに謝罪しろと国際竜杖球連盟は言ってきたという事になる。


 これに対し、瑞穂竜杖球連盟の内部ではどのような失態を捏造するのが良いのかと真剣に話し合った。そしてそれを会長の武田に報告書という形で提出した。

 ただ、その報告に来た人物は何かが間違っていると感じていたのだろう。このままだとこれが国際竜杖球連盟に提出される事になってしまうという感じで報告してきたのだった。


 その報告書を読んだ武田は目を疑った。

 連盟による審判の買収と、瑞穂の選手たちがアウラクの選手たちへの嫌がらせを繰り返したという事が、資料を添えて、さも本当かのように書かれていたのだった。

 さらに連合警察の調査報告書まで添付されており、どこの新聞社か知らないが、こういった汚職が明るみになったという新聞記事まで添付されている。


 報告に来た人物によると、今手にしているのは複写で、本物は来週にでも国際竜杖球連盟に提出されるだろうという事であった。

 当然、こんなものはすぐに差し止めしないといけない。だが武田がそれを命じても、何だかんだと言い逃れされているうちに提出されてしまうだろう。

 武田はすぐにこの件を渡辺に相談した。


 瑞穂竜杖球連盟の社屋は皇都にあり、瑞穂竜杖球職業球技協会の社屋は幕府にある。

 渡辺は報告を受けるとすぐに何人かの職員を引き連れて皇都に乗り込んだ。


 かつて渡辺も瑞穂竜杖球連盟の会長を務めていた。

 就任した時点でかなり若く、その後も結構長くやっていた。それだけに連盟内部にまだ何人か渡辺の息のかかった者がいる。そういった者を呼び出し、何が発生しているのかを聞いていった。


 こうしてとある事が判明した。

 渡辺が会長を武田に譲ってから、反渡辺派だった者たちが、省庁から官僚を次々に天下りさせていたらしい。

 その天下り官僚たちが、省庁からの意向で嘘でも良いから非を認めてとにかく謝罪しろと指示を出していた。さらにすでに賠償金まで用意させていた。

 当然、正規の連盟同士の謝罪である。生半可な額ではない。

 その資金を捻出するために、学生への普及計画や練習場の整備計画の大半が中止にされていた。


 天下りたちの親玉の名を聞いた渡辺は机を激しく叩いて激怒した。


 男の名は『藤田広守』。

 かつて渡辺に連盟と協会、二つの組織を統べるのは独裁だと非難した人物である。自身も外務省からの天下り官僚で、国際部の部長兼連盟役員を務めている。

 話を聞けば、武田もこの藤田に国際竜杖球連盟に抗議せよと指示を下したらしい。

 さらには先日のククルカン大使館の一件、これに仰木たちを向かわせろと命じたのも、この藤田らしい。

まさかと思い、アルゴンキン遠征後のごたごたについても調べさせたら、荒木追放を声高に叫んだのもこの藤田であった。


 渡辺から報告を受けた武田は酷く動揺した。

 元々武田は藤田とは旧知の仲で、武田が雷雲会という競竜の会派の本社で部長をやっていた頃からの知り合いであった。自分が連盟の会長に推薦されたのは、そういった旧知の仲からだとずっと思っていた。

 だが、渡辺はそれを完全否定。


「あの男は、連盟を官僚の再就職先にするためにやってきたんだよ。武田さんを引っ張り込んだのは、武田さんを弾避けにして好き放題する為だ。その責任感のある性格を奴に利用されたんだよ。旧知である自分には文句が言えないだろう事も織り込み済みでね」


 渡辺の指摘に武田は拳を握りしめた。


「追い出してやる。私は就任からこれまで批判にさらされ続けたんだ。それが全てあいつのせいとわかった以上は、もはやあいつとの仲はこれまでだ」


 両拳を握り締め、歯を食いしばる武田に、渡辺は短く「どうやって?」とたずねた。

 その一言に武田は即座に口を開いた。


「まずは人事部長を更迭する。天下りを特別扱いしない人物に挿げ替える。その後で公文書偽造で警察に動いてもらう。ここにこうして警察からの偽文書があるのだから、動かざるを得ないはずだ。それと、私の実家に協力を仰ぐ。政治家と新聞を動かしてもらう。他に何か考えられる手はあるか?」


 ぎろりと睨むような目で即座に対処を口にする武田に、渡辺は驚いて目を丸くした。

 そんな能があるなら、もっと前からそれを出せよと喉まで出かけた。


「私も後押しするよ。強く抵抗されて揉めるようなら教えてくれ。私も色々と手を回すから。それと私が交渉した大沢さんな。一回飲みに行けばお互い色々と理解できるだろうから、差しで飲みに行くと良いよ」


 知っての通り口は非常に悪いが、恐らく良い戦友になってくれるはずだと渡辺は笑った。



 数日後、天下り官僚の一人、人事部長米良が更迭となった。理由は収賄。連盟に天下る際、連盟では許可されていない付け届けを要求していた事が発覚した。


 さらにそこから数日後、瑞穂竜杖球連盟の本部に連合警察が捜査に入った。

 その中でかなり多くの書類が証拠書類として差し押さえされる事になった。それと同時に国際部の職員の多くが公文書偽造罪で逮捕される事になった。逮捕されたのは全員治部省と外務省からの天下り職員であった。


 その翌日、武田と渡辺は二人並んで記者会見を開いた。

 元官僚の不祥事という事で、彼らのお仲間の新聞関係だけだと変に切り取りされる恐れがあると危惧され、緊急で竜杖球の放送局が生中継する事になった。


 まず連盟の総務部長がここまで一連の事実を報告。その後、武田が極めて遺憾な事態だと声を荒げた。


「瑞穂を、この皇国を切り売りして己が保身を図ろうとか、官僚という存在はどれだけ偉いんだ。もしかしたら省庁の中でも今回のように文書の偽造が日常茶飯事に行われているのではないかという疑念さえ抱いてしまう」


 荒ぶる武田の隣で渡辺は、ざわつく記者たちを蔑んだ目で見ていた。

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