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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第44話 抗議乱発

 前半戦の最初から試合は荒れに荒れた。


 アウラクの選手たちはただただ反則行為を仕掛けて来る。

 それに対し、瑞穂の選手は審判に何度も何度も詰め寄って抗議。時には連盟の大会委員に確認しろと迫ったりもした。


 いつもなら黙って反則行為を受け入れる瑞穂が、明らかに審判を抱き込もうとしていると感じ、アウラクの選手たちは少し焦り出している。



 ――アウラク人民共和国は中央大陸南東に少し瘤のように突き出たアウラク半島の国である。首都は太平洋側の都市ウリク。


 歴史的に北の中央大陸東部からの影響を強く受けており、度々侵略も受けている。

だが、中央大陸東部の国は毎回この地域の支配をすぐに諦めている。


 元々この地域が密林地帯で、大型の猛獣が闊歩している地域というのもある。ただ、そんな理由は些細な事である。それ以外に致命的な理由がある。

 それは、この地域の者たちには道徳心が欠片も無いという事。特に殺人と窃盗に対して一切の躊躇が無い。


 そのせいでどの球技でも彼らが遠征でやって来るとなったら、宿泊地も球場も備品を全て撤収するようにしている。食事の皿ですら紙の物を出す。匙や箸すら使い捨ての物をわざわざ用意する。窃盗ができないように警備員が三倍配置される。

 それですら枕や毛布が無くなったりする。


 彼らは歴史的な背景から、道徳心の無さが自分たちを守っていると本気で信じている。それが競技でももろに出てしまっている。


 『遠征する度に逮捕者が出る国』と影では言われている――



 ただ、そんな反則だらけの国ではあるのだが、決して弱いわけではない。

 良い選手が二人、三人いて、ひたすらその選手に球を集めて攻撃を組み立てている。


 問題はその二人、三人の選手以外の選手。

 守備と言えば竜の脚を折ろうと竜杖を振ってくるし、竜を体当たりさせる時に相手の手綱に竜杖を引っかけて竜牙を折ろうとしてくる。


 いつもならそれで竜が暴れると、選手は球技をそっちのけでまず竜を落ち着かせる。そして、その間に球を奪われて攻撃に転じられる。

 だが、今回はそうではない。

 手綱に竜杖を引っかけてきたら、その場で審判を呼び徹底抗議。少しでも竜杖が竜の脚に当たろうものなら、わざとらしく体勢を崩すような演技をする。すると選手たちが一斉に審判に抗議する。


 最初は抗議を無視していた審判も、何度も連盟の大会委員に確認しろと言われ、渋々試合を中断して確認を入れた。

 大会委員の裁定はアウラクへの注意が妥当というもの。

 そこからも瑞穂代表は何度も何度もしつこく相手の反則行為を申告し続けた。



 試合ははっきり言って一方的で、前半が終わった段階で四対〇という状況であった。


 控室に帰って来た選手たちは、いつもと異なり苛々が少ないと言って笑っている。

 審判もすでにそういう目でアウラクを見ており、申請しなくても笛を吹いてくれるようになった。いつもだったら怪我人が出ても笛を吹いてくれないのに。


「良い感じだったぞ! 抗議もな、重要な事なんだよ。本来やらなきゃいけなかった事を俺たちはやってこなかったんだよ。慎ましい事はこの国では美徳だ。だが海外ではそうじゃない。奴隷根性だって取られるんだよ」


 大沢の説明に選手たちは笑顔で頷いた。

 後半もこの調子で行こうと大沢が檄を飛ばす。

 選手たちも「おお!」と声を張り上げた。


 後半は西崎に代えて北別府、篠塚に代えて岡田が入る事になった。



「これだけ点差が開くと荒木の出番は中々来ないよな。『荒木を出すまでもない』ってなもんだ」


 補欠席で彦野がげらげらと笑って言った。

 すると、それを聞いた高橋が笑い出した。


「という事はさ、彦野はよほど極めつけの切り札なんだろうな。なんせここまで三試合、まだ一回も出番がねえんだもんなあ」


 その高橋の指摘に補欠席は一斉に笑い出した。よく見ると大沢監督も爆笑している。

 彦野は口を尖らせて不貞腐れたが、なんだかそれもおかしくて皆が笑い続けた。


「しかし、アウラクのやつら全然出てきませんね。何やってるんでしょうね。このままだと失格になりますよ」


 原が相手の補欠席を指差す。

 確かに補欠席には誰も無い。竜はいる。だが選手が誰もいないのだ。当然競技場内にも瑞穂の選手しかいない。


 主審が何度も腕時計を確認している。

 競技場の選手たちも竜をとことこと歩かせながら、竜杖で遊んだり、首筋を撫でたりして暇そうにしている。


 すると、瑞穂の補欠席に連盟の大会委員が慌てふためいてやって来た。


「大変です! アウラクの人たちがいません! どうやら勝手に全員宿に帰ってしまったようでして」


 困り顔で大会委員は言うのだが、大沢は全く動じない。無言で腕時計を指差しただけだった。規定があるはずだろうと言いたいらしい。


「そうですね。規定時間までに現れなかったら、その時点で棄権という事にいたします」


 大会委員はぺこりと頭を下げて帰っていった。


「どうしましょうじゃねえんだよ。思い通りにならないからって癇癪起こすような奴らには、それ相応の処分が下されりゃ良いんだ。なんでこっちが配慮してやらにゃならんのだ。馬鹿馬鹿しい」


 極めて不機嫌そうな顔で大会委員が去った場所を大沢は睨み付けた。



 結局、規定時間内にアウラク代表は現れず、試合放棄により瑞穂の勝利となった。

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