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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第43話 大沢の宣言

 部屋から出てきた荒木を、落合はすぐに大沢監督の下へ連れて行った。

 落合がここまでの事を報告すると、大沢の目は荒木に向けられた。


「まさか、あの久野とかいう放送員とお前が同じ学校の出だったとはなあ。かなり人気者なんだろ、あの女。世の中ってなあ狭いんだな」


 実は小学校から高校までずっと一緒の学校だったと言うと、大沢は「もはや幼馴染」と二人の仲を評した。


「で、二人きりで何の話をしたんだ? 言えないような事ならそう言えば良い」


 そう大沢は言ったのだが、残念ながら荒木もどんな会話をしたのかちゃんとは覚えていない。


「ずっと番組制作の会議で俺の擁護をしてくれていたんだって言われました。私は味方だって。番組の台本を無視して擁護する事だってあるし、それが嫌だというなら下ろして欲しいとも言ってるって」


 そういう話であれば、間違いなくそれ以上の話があったはず。大沢と落合はすぐにそう察したが、荒木が言わないため黙っていた。


「荒木、口元に拭き残しの口紅が付いてるぞ」


 そう落合が指摘しただけであった。

 荒木が焦って袖でごしごしと口元を拭う。


「まあいい。放送員に味方がいるってのは良い事だ。しかもそれが人気の女性放送員となれば、非常に頼もしいというものじゃないか」


 大沢がそう言ってくれた事で、荒木はほっと一安心した。

 そこでやっと大沢は落合と荒木が立ちっぱなしである事に気付き、席に座るように促した。


「だが、そうなると恐らく向こうは必ずそこを突破口にしてくるだろう。何かしら情報が欲しくなれば、久野に枕を持たせてお前に近づかせるだろう。まあ多少ならそれも良いだろう。味方だと公言する者の発言力が増すのは悪い事じゃない」


 大沢がそう言うと、落合も大いに賛同した。

 荒木は緊張した面持ちでじっと大沢の話を聞いている。


「ただし、これからは会う時は必ず俺か落合に事前に言え。恥ずかしいとは思う。だが、これも勝つための戦略なんだ。そう割り切って考えてくれ」


 「いいな?」と大沢は念を押した。



 こうして大沢監督の初戦であるアウラク戦の日を迎える事になった。

 他の多くの選手は薩摩郡で合宿中であり、恐らくは全員が何かしらの形でこの試合を観戦する事であろう。


 控室に集まった選手たちの目は昨年末のスンダ遠征の時とは明らかに違っている。どこか眼光が鋭く、まるで熟練の格闘家のような雰囲気を醸し出している。手にした竜杖も、まるで剣術の得物のように感じてしまう。

 その異様な雰囲気に連盟の職員が完全に気圧されている。


「おし! お前ら良い面をしているぞ! アウラクは格下ではあるが、悪い意味で中央大陸東部の影響を受けた国だ。卑怯、卑劣、そういった事に躊躇が無い奴らだ。だからこちらも規定内ギリギリを攻めて行け!」


 突然とんでもない事を言い出した大沢を、連盟の職員がちょっと待ってくれと言って引き留めた。

 連盟の職員は競技者精神を忘れるべきではないと指摘するのだが、大沢がそれを鼻で笑う。


「あんたは、相手が真剣で斬りつけてきているのに、怪我をさせたら可哀そうだからと素手で太刀打ちしろというのか? 卑怯だと言っても相手は問答無用で斬りつけてきているんだぞ。競技者精神? そういうのはな、それを重んじる相手にしか通じねえんだよ」


 その大沢の発言に、連盟の職員は冗談じゃないと言い放った。そんな事をしたら試合が荒れてククルカン戦の二の舞だと。


「結構な事じゃねえか。揉める事なんぞ俺たちはもう恐れちゃいねえよ。全ての相手に上品さで対応しようとするから下衆な奴らがつけあがるんだ。審判がおかしければちゃんと抗議する。それが当たり前の行為なんだよ!」


 そう言ってのける大沢に連盟の職員は首を横に振り、狂ってると呟いた。

 選手たちに賛同を求めようとしたが、選手たちは全員覚悟のできた顔をしていた。


「これからは世界基準でやっていくんだ。悪い意味でな。俺たちは戦う集団なんだ。良心、道徳心の欠如した奴らには堂々とやり返す。そうする事でしか俺たちの身は守れないんだよ」


 その大沢の啖呵に、選手たちもこくこくと頷いている。

 その一同の態度に連盟の職員もそれ以上は何も言えなくなってしまった。


 その後、先発選手の発表がされた。

 守衛が石嶺、後衛が秋山と島田、中盤が篠塚、落合、高木、先鋒が西崎。


 とりあえず初戦なので、知っている北国の三選手を中心で行かせてもらう事にしたと大沢は説明。


「改めてもう一度だけ言っておく。俺たちは戦う集団だ! 戦う集団は勝たねばならん! 勝つ事、それが至上命題だ! 相手の反則にはしっかりと抗議せよ! 審判がうるさいと感じるくらいしつこくだ!」


 そうする事で審判は徐々に相手の選手たちが卑怯な行為を繰り返しているんだという気分になる。

 これまでの瑞穂は逆であった。

 敵の反則行為にはダンマリ。一方の敵はこちらの些細な反則行為を針小棒大に報告。そのせいで審判は行儀の良いこちらが悪者だと感じてしまって、圧倒的に不利な裁定を受けていた。


 我らを守ろうとしなかった連盟の意向はもう受け付けない。その意志を大沢ははっきりと示した。


「よし! 行ってこい! 戦ってこい!」


 大沢の檄に選手たちが一斉立ち上がり大声で「おう!」と答えた。

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