表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
218/283

第37話 調査結果

 今年も新年最初の行事、出陣式の日を迎えた。


 着慣れない背広姿で球団事務所へ向かうと、すぐに法務部の市川が新年の挨拶もそこそこに報告があると言って手を引いた。


 

「先日、日競新聞の猪熊という記者が来ました。ここまで判明している事の擦り合わせを行いたいと言って。さすが報道の力ですね。我々が知らない情報が盛りだくさんでしたよ」


 当然ながら、自分たちだけが知っていて日競新聞が把握していない話というものもある。さらにいえば、口外できる話とできない話というものもある。


「うちらが掴んだのは北国産業銀行の話です。この銀行、かなり経営状況が悪い事がわかっています。そこで破綻を回避するために、六花会に口座を開いてもらい、違法で稼いだ金をこの口座に入れてもらっていた事がわかっています」


 かなり高額の口座使用料を支払ってもらっており、投資が焦げ付きそうな企業が出ると、その情報を六花会に手渡し債権回収をしてもらっていた。

 安達荘もその流れで情報を流された可能性が極めて高いだろう。


「安達荘の借金の証文ですが、調査の結果存在しない事がわかりました。借入の実績ならありましたが、それは倒産によって棒引きとなっていました。お話によると家族に三分割をしたという事でしたが、その証文が存在しないんです」


 つまりは偽の証文、もしくは最初からそのようなものは存在しなかった。最初から金をむしり取るための詐欺行為。安達家はその詐欺の被害に遭ったという事だろう。


「ここからは朗報です。うちを支援してくれている雪柳会の他に、紅花会という競竜の首位会派が連合議会議員に働きかけてくれて、この事件の捜査本部に監査が入る事になりました。ただ……連合警察は皇国中央銀行には手が出せませんから、恐らく北国産業銀行そのものには手は入れられないのではないかと」


 ここまでを難しい顔をして聞いている荒木に市川は感想を求めた。

 ところが荒木は真顔で小刻みに首を振るだけ。

 そんな荒木を見る市川の目がじっとりとしたものに変わる。


「……あの、ここまで俺の話理解できました?」


 そうたずねた市川に荒木は乾いた笑い声を返した。

 市川が呆れて吐息を漏らす。


「ちょっと話が難しすぎましたかね。ようはあれです。うちと、連合警察と、日競新聞さんとで、情報を交換しながら捜査を行っていく事になったよって話です」


 やれやれと呟いて、市川は両の掌を上に向けた。



 輸送車が選手たちを乗せ、秋葉神社に向けて走り出した。

 今回、荒木の隣には八重樫が座っている。


「角が長期離脱決定だってよ。去年の終わり頃に落竜した時に腰をやっちまったらしいんだよ。今、復帰に向けて頑張ってるって聞いたよ。だけどそれなりの年齢だからな。復帰できるのかどうか」


 そう言って八重樫が渋い顔をした。


 八重樫は現在見付球団の最年長。一歳下が若松と杉浦。

 荒木が一軍に昇格した当初、見付球団は高齢化が著しいと言われていた。

 実はそれには大きな理由がある。


 そもそも見付球団は金が無い。そのせいで元々良い選手の獲得が難しい。

 大学生の獲得は金額で負けてしまうし、地元の高校生の獲得ですら危うい状況である。

 そんな中で良い高校生を獲得したとして、一軍昇格の時点で金銭獲得されてしまう事がある。

 にも関わらず、逆に金銭獲得はできない。


 さらについ最近まで二軍指導者の福富が選手を悪しざまに報告していて、せっかくの良い選手を飼い殺しにしてしまっていた。

 荒木が昇格した年に福富は解任され、そこから一気に若手が昇格してくる事になった。


 すると、そこまで何とか現役を続行しなきゃと頑張っていた選手がパタパタと引退してしまった。

 大矢、松岡、青木、渡辺、大杉。ここ三年でこれだけの選手が引退している。

 気が付いたら八重樫が最年長になっていたのだった。


「復帰できる事と、席があるか無いかは別問題ですからね。そこが職人選手の難しいところですよね」


 その荒木の言葉に八重樫は無言で賛同した。

 実はこの言葉は、荒木が二軍時代に大怪我を負った時、支笏湖温泉で神部が荒木にかけた言葉である。

 だから怪我をしないようにどうしたら良いかを考えなくてはいけないんだと。


「俺は他の選手と違って動体視力と判断力が必要な守衛だからな。そういった所は加齢で衰えていくから、後どれだけやれる事やら」


 急に八重樫がそんな寂しい事を言い出した。

 そんな八重樫を荒木は無言で見つめていた。


「なんだ、その目は? 俺は別にすぐに辞めるなんて言ってないぞ。ふざけんな! 俺はこの球団が優勝するまで続けるって決めてるんだよ!」


 するとそれを通路を挟んで反対の席で聞いていた秦がクスクスと笑い出した。


「ちょっ。八重樫さん後何十年現役をやるつもりなんですか」


 その指摘に、秦の隣の席の池山が噴き出してしまった。

 すると八重樫は右の拳を握りしめた。


「お前らな! 俺たちがすぐに引退の花道を作ってみせますよくらいの事が言えんのか! 打ち出し下手の秦に、守備下手の荒木に、制御下手の池山が!」


 その八重樫のあまりに的確な選手評に周囲の選手たちが一斉に笑い出した。


 そんな賑やかな雰囲気の中、輸送車は秋葉神社に到着。

 一行は無事祈祷を終え、球団事務所に戻ったのだった。

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ