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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第27話 過熱報道

 瑞穂の報道たちが預かり知らぬところで大事件が発生した。

 その時点でもう報道たちは気に入らなかった。

 さらにその事が発覚したのが外国の報道からというのが、報道の怒りに拍車をかけた。

 怒り狂った報道たちは、まず外務大臣の今井の下へ詰めかけた。



 ――今井は木曾内閣の発足時からずっと外務大臣を務めている。

 現在の木曾内閣はすでに三期目、発足から九年目となっている。

 その間、何度か大臣の顔ぶれが変わっているのだが、その中で五人だけ変わっていない大臣がいる。治部大臣の中原、大蔵大臣の樋口、兵部大臣の根井、内大臣の摂津、そして外務大臣の今井。

 この五人の内、摂津を除く四人は元から木曾が総理大臣を目指すにあたって集めた同志である。


 中原の治部省、根井の兵部省はこれまで全く大きな問題は起きていない。

 樋口の大蔵省は何かと問題を起こしてはいるものの、かろうじて樋口が省庁を押さえつけている。

 一方で今井の外務省は、内閣発足からここまで何度も大きな問題を起こしている。


 何年か前、岡部という競竜の調教師がゴール帝国に遠征をした際、娘が拉致され暴行を受けるという前代未聞の事件が起きた。

 その報を受けた今井は直接ゴールに乗り込んで抗議してやると息巻いた。首相の木曾も同様の意向であった。

 そこで事務次官の松殿まつどのに手筈を整えるように命じた。

 ところが松殿はその指示を無視。激怒した今井は松殿を呼び出し、なぜ手筈を早急に整えないのかと指摘。

 すると松殿は悪びれる風も無く言い放った。


「かようにお急ぎなのであれば、『早急』ではなく具体的な期限を言ってもらわないと。我々では緊急性の判断が付きかねますので」


 結局はゴール政府を無暗に刺激したくないという省庁の意向で実現しなかった。

 その後、ペヨーテ、ブリタニスでも同様の事があり、瑞穂国民の中で弱腰外交が木曾内閣に対する不信の種となり続けた。


 半年以上経って、天皇陛下と内務省の策謀によってゴール皇帝が謝罪のために緊急来瑞する事となり、ゴールの宮殿にて謝罪の儀が行われる事となった。

 しかもこの間、ゴールは内務省主導で動いており、瑞穂の外務省は完全に蚊帳の外。今井外相が挨拶に行く事すらできなかった。

 結局は内務省が外務省の不始末を尻ぬぐいしたという印象を、国民から持たれる事になってしまった。

 最近では、影で『害務省』などと揶揄され、外務省は不要という暴論まで起きている――



 報道に囲まれた今井外相は、現在事実確認を急いでいるところで、現時点での発言はできないと記者を牽制。

 次に報道は竜杖球連盟を取り囲んだ。


 会長はどこだ、会見を開けと本部の受付で大騒ぎし、このままでは業務に支障が出ると言われ、渋々武田会長が会見を開く事になった。

 だが武田会長ものらりくらりと論点ずらしの答弁を繰り返し、埒が明かない。


 その会見の中で一人の記者が大声で叫んだ。


「荒木なんだろ! また荒木が問題を起こしたんだろ! さっさと球界追放しないからこういう事になるんだよ!」


 そこから会見会場はなぜ荒木を追放できないのかという質問がやたらと投げかけられる事になった。


「これは誰か一個人がどうという事ではなく、ククルカン大使館が邦人を傷つけようとした問題であり、外務省が毅然とした態度でククルカン政府に抗議すべき案件である」


 そう言って武田は報道を牽制。

 だが、この時点で一部の報道は荒木が諸悪の根源だというあらすじを書いてしまっている。それ以降も、荒木がこの件にどの程度関わっているのかという質問が頻繁に飛んだ。


「荒木選手はこの件の被害者だ。少なくとも私はそう報告を受けている。私も客観的に判断し、荒木選手に何か落ち度があったようには全く思えない」


 その武田の答弁に、記者は荒木一人を特別扱いしていると指摘。


「先ほども申し上げたが、我々もあらゆる方面から情報を集め、総合的に判断して今回の件において当方には何ら落ち度が無かったと判断した。これ以上は名誉棄損を検討せざるを得なくなる」


 すると先ほど荒木だろうと叫んだ記者がまた大声を張り上げた。

 見ると腕の腕章には『競報』と書かれている。


「こっちは荒木が大使に怪我を負わせたという情報を得ているんだよ! 何が客観的に判断してだ! いい加減な事を言うな!」


 そうだそうだという記者の声が一斉にあがる。


「怪我を負わせたという報告は受けていません。大使が大人げなく殴りつけてきたのを振り払ったという報告なら、ブリタニス大使館を始め複数から得ていますが。状況からするに正当防衛以外の何物でもないと考えます」


 武田の回答が記者の間ではどうにも不満だったらしく、記者たちはその後、竜杖球職業球技協会の本部に詰めかけた。

 だが、どれだけ喚いても会長の渡辺は取材には応じてくれなかった。



 翌日、瑞穂の新聞は一斉にこの事を報じた。

 事件発生から三日後、海外の報道の翌日の事である。

 当然のように各紙は荒木の名を前面に出し、ククルカン大使館で乱暴狼藉を働いたというような内容の記事を掲載。


 それを受けてククルカン政府が正式に瑞穂政府に対し抗議を申し入れてきた。

 さらにククルカン竜杖球連盟が国際竜杖球連盟に出場資格取消を申請してきたのだった。


 その日の午後、今井外相は省庁からの見解をそのまま報道に向かって発信。

 それは『大使に招かれた仰木、掛布、荒木の三人が血迷って大使に乱暴を働いた』という内容であった。それに対し省庁経由でククルカン政府に正式に謝罪を申し入れたと述べ、これから関係改善に努めていく方向だと述べたのだった。



 国際竜杖球連盟は混乱した。

 国際的には、ククルカン大使が大使館に一市民である相手選手を呼びつけ銃口を突き付けたと報じられている。

 ククルカン大使の行動は、国際的に判断すれば何かしら制裁を科されてもやむを得ないくらいの大問題であり、責められるべきはククルカン政府であるはず。なのに瑞穂政府は全面的に自分たちが悪かったと認めて謝罪している。

 表に出ていない何かがまだあるのではないか?

 瑞穂には何か後ろめたい事があるのではないか?

 そういう疑念が沸いてしまったのだった。


 国際竜杖球連盟の会長はブリタニス人のダニエル・ウィルミントン。

 ウィルミントンは自国の報道が正しいと思いながらも、両国から代表を呼び報告を命じた。



 そんな混迷を極めた状況だったのだが、ある番組がきっかけとなって瑞穂国内の世論は大きく変わった。

 それは瑞穂球技放送の番組で、今年の春から始まった非常に視聴率の高い番組。番組の総合司会は人気放送員の久野史菜。


 史菜は番組の製作にも積極的に関わっていると番組の中でも言っている。なるべく多くの競技に光を当てたいんだと言って。

 その番組の中で、今回の騒動を時系列を追って解説していくという試みが行われた。

 同席していた松木という解説員は、そもそもこの段階で荒木選手が相手の選手に怪我を負わせた事から事は始まったと解説。それによって試合はぶち壊しになり、球場で暴動が発生し、ククルカン大使館が激怒する事態になったんだと。


 すると、それまで「そうなんですね」と言って相槌を打っていた史菜が、松木に何気ない一言を放った。


「松木さんはその時の映像って直接ご覧にはなられました? 荒木選手が相手選手に怪我をさせた時の映像です」


 松木は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし首を横に振った。見たいとは思っているが、報道に流れないから見れずにいると述べた。


「あの日、私は情報収取の一環で竜杖球放送局の流した中継放送を見ていました。私には荒木選手が故意であれを行ったようには見えなかったんですよね。もしそうだとしたら、今の解説って根底が崩れてきたりはしませんか?」


 松木はこの史菜の発言に対し、「もうしそうならそうなる」と言いながらも、「多くの報道が報じている事だから撮影された際の角度の問題でそう見えるだけ」と言い訳をした。


 番組は肯定も否定もしなかったが、この番組を見た視聴者の間に、『なんでその時の映像が流れないのだろう?』という疑問を植え付ける事になったのだった。

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